アーティストは個人事業主になったほうが良い?メリット・デメリットを解説

創業手帳

多くのアーティストは個人事業主として活動している


クリエイティブな才能を発揮して作品を生み出す人を「アーティスト」と呼びます。ミュージシャンを指す言葉として用いられることが多くありますが、実際には芸術家や美術家などに対しても用いられます。
フリーランスとして活動しているアーティストは、のちに個人事業主になることも珍しくありません。

本記事ではアーティストから個人事業主になるメリット・デメリットについてご紹介します。
さらに、個人事業主になるタイミングや確定申告の手引きなどもご紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。

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個人事業主としてアーティスト活動をするには


個人事業主になってアーティスト活動を行う場合、芸能事務所などと契約して活動するケースや、事務所と契約せずにひとりで活動するケースもあります。
ここでは個人事業主としてアーティスト活動をするための契約形態についてご紹介します。

事務所と業務委託契約をする

業務委託契約とは、事務所側が自身では行えない業務を外部の委託者としてアーティストに行ってもらう契約形態です。
アーティストと事務所との間で請負契約または準委任契約を結ぶことになります。
業務委託は、一定の仕事を完成させたり一定の結果を出したりした際に報酬がもらえる契約形態であり、事務所に所属しているわけではありません。
あくまで仕事を受ける場合の契約は業務委託契約となります。

事務所とエージェント契約をする

エージェント契約は、事務所にアーティスト活動における一部業務を代行してもらう契約形態を指します。
営業活動やギャラ交渉など、仕事を獲得するための業務を委託するケースや、仕事先との契約は事務所に任せて、事務所側の取り分を差し引いたギャラを受け取るケースなど、契約内容はアーティストによって異なります。
ただし、全面的に業務を委託する場合でも、仕事を受けるかどうか、仕事をどう進めるかなど、事務所からの指示を受けないのが一般的です。

仕事を選択できる自由度は高い反面、自己責任の割合が大きなものになります。
海外では一般的な契約形態ですが、近年は日本でも多くの事務所がエージェント契約を取り入れています。

事務所とマネジメント契約をする

マネジメント契約とは、アーティストが事務所に在籍し、マネジメント業務を行ってもらう契約形態です。
営業活動からスケジュール管理まで、すべてのマネジメント業務を事務所が担ってくれます。

マネジメント契約を結んだ場合、アーティストは事務所からの指示に従って、テレビや舞台などに出演します。
そのため、業務委託契約やエージェント契約に比べると、仕事を選択できる自由度は低いかもしれません。
また、報酬はアーティストと事務所が一定の割合で分けることになります。

個人で直接営業や取引きをする

アーティストの中には、事務所とは契約を行わず、個人で直接営業や取引きを行っている人もいます。
自分自身を売り込んだり、スケジュール調整を行ったりするなど、アーティスト活動以外にもやることは増えますが、受け取る報酬はすべて自分のものになります。
仕事を選択する自由度が特に高いものの、すべて自己責任となるため注意が必要です。

アーティストが個人事業主になるメリット


ここでは、アーティストが個人事業主になることで得られる3つのメリットをご紹介します。

活動に関する出費が経費になる

個人事業主になるメリットとして、活動に対する出費が経費になる点が挙げられます。アーティストとして活動していると、様々な費用がかかることも少なくありません。
経費として事業収入から差し引きができれば、納税額を軽減することにつながります。
アーティストに含まれる業種が経費にできる費用は、主に以下のとおりです。

業種 経費にできる費用
芸術家・画家 画材代、アトリエの家賃・光熱費など、個展会場の経費、創作に関する書籍購入代など
ミュージシャン・演奏家 楽器・機材にかかる費用、PC代、ソフト代、スタジオ代、衣装代など
ダンサー レッスン費、衣装代、メイク代、小道具・装飾費など
俳優 衣装代、美容費、人件費(業務委託の場合)、事務所の家賃・光熱費、通信費、接待交際費など

青色申告で特別控除が受けられる

個人事業主になり、事前に「青色申告承認申請書」を提出すると特別控除が受けられます。
青色申告の特別控除が適用されると最大65万円が収入から差し引かれるため、納税額の軽減が可能です。なお、最大65万円の控除を受けるための条件は、以下のとおりです。

  • 事業所得または事業的規模の不動産所得がある
  • 事業所得や不動産所得に関する取引きを複式簿記で記帳している
  • 複式簿記で作成した青色申告決算書を添付し、確定申告を行う
  • 期限内に確定申告を行う
  • 現金主義による所得計算の特例は選択しない
  • e-Taxでの確定申告、または仕訳帳と総勘定元帳などの対象帳簿を電子帳簿保存法が定める優良な電子帳簿として保存している

損益通算が行える

アーティスト活動で赤字となってしまった場合でも、別の所得で黒字を出しているなら損益通算が行えます。
損益通算は黒字が出ている所得から赤字分を差し引き、所得税の計算ができる制度です。黒字から赤字が差し引かれるため、所得税の負担を抑えられます。

また、青色申告の個人事業主がアーティスト活動で赤字になった場合、翌年以降3年間にわたって赤字を繰り越すことも可能です。

アーティストが個人事業主になるデメリット


アーティストが個人事業主として活動する場合、以下のデメリットに注意する必要があります。

確定申告や会計・事務処理を行う手間がある

個人事業主になった際、仕事を選択できる自由度の高さから事務所とは契約しなかったり、営業活動のみ事務所に委託したりする人もいるかもしれません。
しかし、自身で確定申告や会計・事務処理などを行わなければならず、手間が増えます。

例えば、確定申告では1年間の経費を計算する必要があります。
日々の帳簿や領収書整理などをまめに行っておけば確定申告時の手間は減りますが、アーティスト活動に集中しているとつい忘れてしまうこともあるかもしれません。
なお、最大65万円の特別控除が受けられる青色申告は、複雑な複式簿記で記帳する必要があります。

本業に集中できない

アーティストとして独立し、個人事業主になった場合、確定申告や会計・事務処理などもすべて自分で行う必要があるため、本業に集中できなくなる場合があります。
確定申告や会計・事務処理に時間がかかれば、アーティストとしての準備や活動に時間を割けなくなってしまうこともあるかもしれません。

独立によって露出制限を受ける可能性もある

事務所と契約を結び、個人事業主として独立した場合、事務所からの圧力によって露出制限を受けてしまう可能性もあります。
特に、大手事務所は各メディアと太いパイプを持っており、露出が減ってしまう場合もあります。
近年は公正取引委員会による監視・取り締まりも強化しているものの、制限はありません。

また、事務所側が特に露出制限を行っていなくても、メディア側の忖度によって露出が減ってしまうケースも考えられます。

アーティストが個人事業主になるタイミング


ここでは、アーティストから個人事業主になるべきタイミングについてご紹介します。

アーティスト活動での収入が一定の金額を超えた場合

アーティスト活動での収入が一定の金額を超えた場合、その時から1カ月以内に開業届を提出してください。ただし、一定の金額は事業への取組み方によって異なります。

例えば、生活費を稼ぐために別の仕事をしており、副業としてアーティスト活動を行う場合は、年間所得が20万円を超えると確定申告が必要となるため、開業届の提出がおすすめです。
また、専業でアーティスト活動を行っている場合は、年間所得48万円を超えたタイミングがおすすめです。専業であれば、所得が48万円以下なら所得税額は0円となります。

アーティスト活動が赤字で収入がない場合

アーティスト活動では収入がなくても出費がかさむことがあるため、赤字になってしまうケースもあります。
赤字で収入がない場合は損益通算や赤字分の繰り越しを行うために、開業届を提出することがおすすめです。
副業としてアーティスト活動を行う場合、本業の給与から赤字分が差し引かれ、確定申告によって源泉徴収されていた所得税の還付も受けられます。

記念日や縁起のいい日を開業日にしたい場合

アーティストとして活動をスタートさせた記念日や初めて個展を開く日など、記念日を開業日に設定したい場合は、その日から1カ月以内に開業届を提出してください。
また、縁起のいい日を開業日に設定したい場合も同様です。開業日には特に規定がなく、縁起のいい日を開業日にすることもできます。

個人事業主になったアーティストのための確定申告手引き


個人事業主になったアーティストは、毎年確定申告を行う必要があります。確定申告は例年2月16日~3月15日までの約1カ月です。
確定申告をスムーズに進めるためには、事前の準備が必要です。ここでは、確定申告を行うためのポイントをご紹介します。

青色申告承認申請書を出しておく

最大65万円の特別控除や3年間の赤字繰り越しなどを利用するためには、確定申告を行う前に青色申告承認申請書を税務署へ提出する必要があります。
開業後に提出することも可能ですが、開業届を提出するタイミングで一緒に提出すると手間がかかりません。
青色申告承認申請書を提出し承認されれば、青色申告で確定申告が行えるようになります。

経費にできる費用を知っておく

確定申告では、日々の取引きを記録した帳簿をもとに年間の収入や経費を計算し、所得税額が決められます。
アーティスト活動を行う上で発生した出費の中には、経費として計上ができないものもあります。
そのため、確定申告をスムーズに行う際には、あらかじめ経費にできる費用を知っておくことも大切です。

例えば、プライベートでの飲食代や交通費、アーティスト活動に関係ない書籍代などは経費にできません。
なお、自宅をオフィス兼事務所としている場合、家賃や水道光熱費、通信費などは家事按分により事業分のみ経費計上することが可能です。

帳簿や領収書の準備を進めておく

1年間の収入と経費を集計する必要がある確定申告では、定期的に帳簿を更新することが大切です。
帳簿は手書きで作成できますが、会計ソフトを活用すると経理作業もスムーズに行えます。

また、経費計上するためには、領収書やレシートの保管も必要です。領収書やレシートは支出を証明してくれる書類になるため、忘れずに領収書を受け取るようにしてください。
受け取った領収書やレシートは、月や勘定科目で分類しておけば、後からまとめて記帳する際にも便利です。

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アーティストは個人事業主になったら経費管理や確定申告の知識も身に付けよう

今回は、アーティストが個人事業主になるメリット・デメリットや、個人事業主になるタイミング、確定申告の手引きについてご紹介してきました。
アーティストは事務所との契約の有無によって、やるべきことが異なります。
事務所と業務委託契約やエージェント契約を結ぶ場合でも、個人事業主であれば経費管理や確定申告に関する知識を身に付けておいてください。

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