「野心系アトツギ」が新たな価値を生み出す社会に 「ベンチャー型承継」の仕掛け人・山野氏に取材

創業手帳

一般社団法人ベンチャー型事業承継の山野千枝代表理事にインタビューしました

(2019/06/06更新)

日本の中小企業の社長の高齢化が深刻化しています。また約7割の企業に、後継者がいないという状況であり、事業承継が日本の大きな問題となっています。創業手帳でも、創業ではなく承継の相談が来るケースが増えています。

社会的に大きなインパクトのある承継問題への新しいソリューションとして、「ベンチャー型承継」という形が注目を浴びています。日本での事業承継の最新情報を、跡継ぎ向けの団体の立ち上げなどで活躍する、一般社団法人ベンチャー型事業承継の山野千枝代表理事に聞きました。

山野 千枝(やまの ちえ)大阪市都市型産業振興センター 広報担当フェロー
大阪産業創造館・大阪イノベーションハブ チーフプロデューサー/元Bplatz 編集長
1969年生まれ、岡山県出身。専門はファミリービジネスの事業承継、広報ブランディング。1991年関西学院大学卒。ベンチャー企業、コンサルティング会社を経て、大阪市経済戦略局の中小企業支援拠点「大阪産業創造館 」の創業メンバーとして2000年より参画。広報主幹、事業部長などを歴任。また2001年の創刊以来、ビジネス情報紙「Bplatz」の編集長として、多くの経営者取材に携わる。関西圏の大学で、親が商売を営む学生を対象に「ガチンコ後継者ゼミ」を主宰し、教鞭をとる。

2016年には、会社の歴史を活用した採用ブランディングや社史制作を手掛ける株式会社千年治商店を設立。また、近畿経済産業局のベンチャーエコシステム構築事業「Next Innovation」では、全国で初めてベンチャー政策の対象に中小企業の若手後継者を定めたアクションプランを提言。「ベンチャー型事業承継」の伝道師として国や自治体と協力し、言葉と定義を日本に定着させるために奮闘中。

「存続力は競争力」をテーマに講演実績も多数。アセアンの経営者を対象に日本の長寿企業文化についての研修などを通して、永続経営の価値を広く伝えている。

「野心系アトツギ」による、熱量を維持する環境づくり

ー後継者不足が日本社会に与える影響について、考えを聞かせてください

山野:日本の競争力を支えてきたのは企業の存続力でもあります。実際に、日本は世界一の長寿企業大国で、その多くは同族経営です。世間的には同族経営といえば、どこか排他的で特権的で、薄暗いイメージで語られますが、起業家と違い、後継者は「会社を預かっている」という気持ちが強く、企業を存続させることが自分たちの使命だと思っている人が多いです。

会社を何とかしてのこしたいと思っているのは誰なのか。
生き残るために、今ある資源をどうにかして価値にしたいと思っているのは誰なのか。

実際に、多くのアトツギ社長が、社会に必要とされる会社であり続けるために、今ある経営資源や自社の強みをベースに多くの新製品や新サービスが生み出してきました。そういう意味では、後継者不足で安易にM&Aに流れるような潮流は、長期的な視点で見たときに日本の競争力を低下させる可能性もあるのではないかと危惧しています。

ーベンチャー型の事業承継とはなんですか?

山野:若手後継者が、先代から受け継ぐ有形・無形の経営資源を活用し、リスクや障壁に果敢に立ち向かいながら、新規事業・業態転換・新市場参入など、新たな領域に挑戦することで、永続的な経営をめざし、社会に新たな価値を生み出すことです。

「ベンチャー」といってもIPOやバイアウトをめざすことではありません。地域に根を張り、企業永続のために、小さな挑戦を重ねることこそがベンチャー型事業承継の定義です。

ー改めて、事業の概要について教えてください

山野:親が事業を営む34歳未満のアトツギ(予備軍含む)を対象に、家業の経営資源を活用した新規事業の開発を支援しています。全国各地の自治体や企業からの依頼を受けて事業開発の講座やイベントを実施するほか、事業化までのフォローアップを目的としたオンラインサロンを運営しています。

あえて「野心系アトツギ」という打ち出しをしているのも特徴です。ゴルフや飲み会などが中心の単なるアトツギの社交界ではありません。健全な危機感と野心を併せ持つアトツギだけ会員になってもらうことで、彼らがお互いに切磋琢磨できる環境をつくっています。

ー新規事業開発を目的としたオンラインサロンでは、どのような取り組みを行なっていますか?

山野:オンラインサロンと名付けていますが、オンラインでのコミュニケーションと併せて、オフラインでの取り組みも盛んです。各地で定期的にメンバーが集まり、各自の新規事業の進捗状況を報告し合ったり、ブラッシュアップし合ったりする「壁打ちミートアップ」をアトツギ自らが企画運営しています。

この手のサロンは著名なコンサルタントや大学教授などが主宰するインフルエンサー型が多いのですが、私たちはアトツギ会員が主役になる「非インフルエンサー型」にこだわっています。彼らが自ら機会を創りだす「自走」がコンセプトです。

一方で地域によっては会員がまだ少ないためにオフラインのミートアップが盛んにはできないこともあります。その場合は、東京や大阪の壁打ちに、オンラインで参加してもらっています。先日も大阪の壁打ちミートアップに、姫路、埼玉、熊本、福山、名古屋などからアトツギがオンラインで議論に参加しました。今の時代、地方にいても、情報を取りに行こうと思えばやり方はあります。

とはいえ、34歳未満のアトツギといえば、多くの場合、肩書もなければ権限もない、家業に戻っただけの「ただの若者」です。そんなアトツギが家業で新規事業を始めるのは簡単なことではありません。だいたいのケースで「本業もわかってないのに、何が新規事業だ」と先代(親)が立ちはだかります。古参の社員も協力してくれません。仲間を採用する権限も予算もない。本業もそれなりに忙しい。予算も仲間も時間もない中で、だんだん心が折れていく。これがアトツギリアルあるあるです。

今や必要なナレッジはネットに転がっています。彼らの世代にとって、探せない情報はありません。本を読めば書いてあることを有識者から教えてもらう時代は終わったと思うんです。

彼らに必要なのは、知識や戦術論以上に、その熱量を維持する環境です

このサロンでは、ベンチャー型事業承継の成功事例ともいえる全国のアトツギ社長にメンターとして参加してもらっています。同じような葛藤や障壁がありながらも実績をつくっていた、一歩先行くメンターの体験をシェアしてもらうことで、オンゴーイングで事業化をしているアトツギたちの背中を押してもらっています。

「とりあえずやってみる」の精神で小さな挑戦と失敗を繰り返す

ー山野さんが研修や講演で強く伝えているポイントは何でしょう?

山野:アトツギに向けては、「こうするべきだ」とか、評論家めいたことは言いたくありません。アトツギは会社(家族)の数だけ事情が違います。一般論で第三者が適当なアドバイスすることには抵抗があります。

それ以上に、「なぜあなたは家業を継ぐのか」ということを問いかけています。
彼らも気づいていない、根っこにある使命感とか野心とか、そこを引き出すファシリテーションにはこだわっているかもしれません。

また中小企業支援機関や金融機関に向けて伝えているのは、「34歳未満のアトツギを支援する意味」についてです。家業に戻っただけの若者とはいえ、きわめて高い確率で経営者になっていく人たちなのに、金融機関もメディアも相手にしていない。でも事業承継の最大の醍醐味は、親世代が元気なうちに、本業で利益が出ているうちに、次の20年のメシの種を蒔けることです。

アトツギは家業で本業をやりながら、夜間や週末を使ってでも「とりあえずやってみる」機動力と体力がある世代です。彼らこそベンチャーの卵として応援して欲しいと伝えています。

ー跡継ぎに必要な要素とはなんでしょうか?

山野健全な危機感と野心です。今後、ますます時代は不確実化すると思います。誰も未来を読み解けない。親の商売が今のやり方のままで10年後やっていけるかどうか、直視できる危機感があること。そして、親の犠牲になるのではなく、自分がワクワクできるビジネスをしたいと思っていること。自分のやりたいビジネスに「家業を寄せていく」という発想を持てるかだと思います

アトツギは、スクラッチで事業を興したわけではないからか、良くも悪くも謙虚です。だから、家業や自分に無意識にリミッターを設定してしまっている。でも家業を再定義するのは、次の30年を生きるアトツギ自身です。自分が人生を賭してのこすべきは家業の何なのか。多くのベンチャー型事業承継事例の経営者も自問自答を重ねてきた人ばかりです。

ー実際に承継するにあたって、まず何から取り組めば良いですか?

山野:まずは家業の経営資源の棚卸。装置や製品など有形の経営資源にフォーカスしがちですが、多くのベンチャー型事業承継事例では、取引先のネットワークとか信用、ブランド、歴史など、無形の経営資源が活用されているケースが多い。そのうえで、自分の前職のスキルやネットワーク、得意なこと、やりたいことを掛け算していく。自分がやりたいビジネスを実現するために家業の経営資源をどう活用できるかという発想に切り替えてみることが重要。

成熟産業の事業開発は時間がかかります。あえて妄想からスタートするくらいでちょうどいいと思います。

ー創業しようと思っている起業家が事業を承継するようなケースはありますか?

山野:最近では、起業を志す人による小規模M&Aなどの事例も生まれているし、それ自体は否定しません。ただ、廃業した飲食店を居ぬきで借りるような、昔からある事例とたいして変わらないと思うんです。事業承継で最も価値ある資源は、取引先のネットワークや信用、歴史など無形の資源。その製品やサービスの価値について、会社がもつ「ストーリー」で語れるのは、家業の利益で大きくなった自覚と愛着があるアトツギです。ストーリーがあるからブランドになる。これは最強の武器です。

ー後継者に悩む経営者は、どんな準備をするべきですか?

山野:子どもがいる場合は、まずコミュニケーションをとってほしい。同族継承は、会社の関係のみならず、親子でもあるため、デリケートな問題でもあって、親子が遠慮し合っている。親子が向き合わないまま、なんとなく廃業に向かっているケースがとても多い。
事業承継を押し付けるのではなく、子どもに家業の可能性を伝える機会を創ってほしいです。

ー承継する跡継ぎは、どういう準備をするべきですか?

山野:親の商売の業界以外の経験や人脈を蓄積すること。これから業界や業態や業種の線引きはますますなくなります。業界団体や地域だけで繋がっていては生き残っていけない。一見無関係だと思える異分野の業界にアンテナを高く張り、小さな行動を積み重ねられるかだと思います。

多くのベンチャー型事業承継事例の経営者は、家業に戻る前は、まったく違う業界に就職して経験を積んでいました。そこで得たノウハウを家業に持ち込んで、小さな挑戦を20代のうちに起こしています。挑戦といっても些細なことです。終業後の工場で試作品を「作ってみた」とか、「手作りのチラシを作って通販始めてみた」とか、投資も大してかからないちょっとしたことです。そこから10年をかけて100%業態転換をしたという会社はとても多いです。

要するに「とりあえずやってみる」かどうか。私たちが34歳未満のアトツギにこだわっているのは、35歳以上のアトツギがイノベーションを起こせないと言っているわけではありません。失敗が許される若いうちに小さな行動を起こせない人は、その後も起こせないと考えているからです。

うちのオンラインサロンでも、みんな競い合うように、小さな挑戦を始めています。

ー最後に、読者に向けてメッセージをお願いします

山野:事業承継は、税金や相続など手続きの話ばかりではありません。
親の商売をそのまま続ける事業承継と、後継者が家業で新たな領域を開拓するベンチャー型事業承継の二種類があることを若い世代に伝えたい。アトツギはベンチャーの卵です。

この言葉が誰もが知る一般的なものになったら、日本の後継者不在問題が少しは改善するでしょうし、ベンチャー企業も増えると思います。

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(取材協力:一般社団法人ベンチャー型事業承継 山野千枝代表理事
(編集:創業手帳編集部)

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