グロースX 津下本 耕太郎|「自分ごと」としてマーケティングに挑む人材を育成する秘訣

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年12月に行われた取材時点のものです。

グロースXと他のマーケティング支援サービスの大きな違いとは?


マーケティングの重要性が高まっている近年では、多くのマーケティングツールやマーケティングサポートサービスが提供されています。しかし、実際にマーケティングで成果を出すためには、自社の社員が「自分ごと」としてマーケティング業務の試行錯誤を繰り返す意識が最も重要です。

この課題を解決するために、マーケティング人材の育成に取り組むのがグロースXの津下本さんです。

そこで今回の記事では、津下本さんがグロースXを起業するまでの経緯やマーケティング教育をする上で大事にしていることについて、創業手帳の大久保が聞きました。

津下本 耕太郎(つかもと こうたろう)
株式会社グロースX 代表取締役社長
「ゼロイチジャンキーのフリースタイルアントレプレナー」
2004年上智大学理工学部卒業。システムエンジニアからキャリアスタート。
2007年にアライドアーキテクツ株式会社に参画し、SNS支援事業やモニプラなど各種事業を大きく収益化する。2012年より取締役として全社の80%の売上を統括し、2013年IPO(東証マザーズ市場に株式上場)。
2018年独立起業。2019年株式会社シンクロに新規事業、企業向け人材育成SaaSサービスの事業部長として参画。2020年8月に株式会社グロースXを法人化し(法人化時は株式会社コラーニング)、代表取締役社長に就任。
好奇心が溢れ出てしまっている中年の少年。これまで約10の事業立ち上げを経験。43ヵ国旅行者。フットワークは非常に軽く、この事業にコミットするかも即日で決断。
社会に大きく貢献できる事業を、魅力的なお客様、仲間と、常識に囚われずにやれる今回のチャレンジをこよなく愛し、没頭中。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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エンジニアや営業を経て、グロースXを創業

大久保:起業までの経緯を教えてください。

津下本:学生時代は理系科目が得意だったので、大学は理工学部に進学しました。大学のゼミでプログラミングを扱っていたこともあって、就職先として選んだのは製鉄会社のシステムエンジニアの道です。

入社後の業務内容としては、他社から依頼されたプロダクトを受託して作る仕事をしていました。しかし、次第に自分で設計をして、自分ごととして作ったものに対して喜びを感じたいという思いが湧き始めたため、入社3年目でベンチャー企業に移りました。

大久保:転職先でもエンジニアとして働きましたか?

津下本転職先の「アライドアーキテクツ」という会社では営業職を担当させていただきましたが、エンジニア出身の当時27歳の私は名刺交換の仕方もよくわかりませんでした。

それでも、営業やカスタマーサクセス担当として、広告活動をやりながらも自分でテレアポしてイベントを仕掛けてリードを取る、という仕事にやりがいを感じ、数年後には事業を任せてもらうようになりました。

私が担当した仕事の中でも、顧客の課題や可能性を見つけて、それに対してソリューションを提案できた時には大きな喜びを感じました。さらに、色々な人を巻き込んで、大きなチームにすることで、気持ちもドキドキして楽しかったです。

その後、アライドアーキテクツを退職して、私の10年来の付き合いのある西井という人の会社に参画し、1つの事業を立ち上げることになりました。ある程度プロダクトとして再現性が見えてきたところで、会社として切り出し、2020年8月に起業に至りました。

大久保:アライドアーキテクツさんでも、色々やらなければいけなかったからこそ、様々なことが学べたということなんですね。

津下本:セールスをやっていても、お客様に満足してもらえない段階だと、カスタマーサクセスの領域までやらなければいけません。トライバルメディアハウスの池田さんの言葉を引用させていただくと「矢面に立つ時間をどれだけ作るかが大事だ」ということを常々実感しています。

会社が抱える改善点を修正する作業は、外から出ないとテコ入れできないこともありますが、内部から変革できるところもたくさんあります。その中で、一番水漏れしているところを見つけて取り掛かるということを矢面に立って数多く経験できたことは、本当に良かったと思っています。

大久保:特にその経験をサラリーマン時代にできたというのが良いですね。

津下本:私はここ数年間、社長をやっていますが、お金の重要さや周りからのプレッシャー、そして後ろには誰もいないという感覚を味わいながら仕事しています。これから起業しようとしている方などは特に、早めにこの体験ができるようキャリアに組み込むと良いと思います。

全ての起業家がマーケティングを学ぶべき理由

大久保:起業家は全員マーケティングを学ぶべきですよね。

例えば、プロダクト・サービスづくりから、Webマーケティングによる実践的な内容やプロダクト設計・販売導線の確保といった仕組みづくりなど、幅広い意味でのマーケティングの知識がないと、起業家としても成立しないのではないでしょうか。

津下本近年は「マーケティング=ビジネス」になってきていると思います。

さらに、広告が飽和してきていて、新規顧客の獲得コストが上がっていますよね。であれば、小手先で稼ぐのではなく、LTV(※1)をどう上げていくのかを考えるべきです。そうすると自ずと、マーケティングとしてすべき範囲は広がります。

プロダクトアウト(※2)で作って終わり、というビジネスはあまりないですよね。現代ビジネスにおいて、マーケティングは必須だと思います。

業績が伸びているチームは、マーケティングの知識だけでなく、打席数を増やし、仮説を磨いて改善し続けています。そしてこのPDCAを回すスピードも重要になってくるため、速さが品質を生みます。

大久保:マーケティングの自動化が増えていますが、人間が考えるべきところは、機械化できていないですよね。

※1・・・LTV(ライフタイムバリュー):顧客が企業との関係を維持し、期間内に企業から得るであろう収益の合計を指す指標。

※2・・・プロダクトアウト:「マーケットイン」の対義語。マーケットインは市場の需要や顧客のニーズに基づいて製品やサービスを開発するアプローチだが、プロダクトアウトは企業が自社の製品やアイデアを先行して開発し、それを市場に提供しようとするアプローチ。

単なるマーケティング代行ではなく、人材育成が大切

大久保:津下本さんがやられていることは、その企業にとって必要なマーケティングスキルを教育していくことでしょうか?

津下本事業を成功に導くためには、社内の人間がプロダクトと顧客を見つめながら、売れるために必要なことを高い水準で考えられるようにすることが重要です。この意識の底上げをすることを我々が支援しています。

大久保:最終的には、運用元のマーケティングレベルが底上げされるということですね。

津下本:マーケティングを外部に丸投げしている会社は多いですが、大体上手くいってません。

AIもプロンプトが曖昧だと正しい答えが返ってきません。それは人とAIの垣根の問題ではなく、ディレクション力が必要だと思っています。

大久保:世の中も様々なマーケティングツールが普及して、内政化しやすい流れになっているのではないでしょうか?

津下本:おっしゃる通りです。例えばGoogleはAIの塊だと思っています。広告配信は自動で最適化される度合いが高まってきたので、今ではクリエイティブ勝負になっています。

このように、知らず知らずのうちにAIを活用していることもあるので、何をしたいかを明確にして、それを叶えるツールを知って動かす意識が必要です。

Windowsを作ったビルゲイツが新しいものを作ったのではなく、ありものを組み合わせてOS化したことにも似ていて、どの事業においても今あるものを組み合わせてイノベーションを生むという流れを意識することが大事だと思います。

リスキリングは楽しいことだと知ってほしい

大久保:今話題の「リスキリング」についてはどう思われますか?

津下本:ITが流行り出した時にも、今は変革期だと騒がれていました。そこから10年くらいIT業界にいますが、ずっと変動期にいる感覚です。

そのため、生き残るために「自分のスキルをアップデートしていく」ことが重要だと思っています。

それが「リスキリング」というキーワードで普及してきているように感じます。

学ぶことは本来、楽しいことなので、今世の中でリスキリングが騒がれている一方で、我々はマーケティングという分野で色々なことを楽しみながら学び続けています。

大久保:学ぶことは楽しい、という感覚はすごく良いですよね。

津下本:スキルは磨かないと低減します。

例えば、Web広告におけるリスティングスキルも、プラットフォームがやってくれる部分が大きくなったので、入札の作業スキル自体の価値は落ちてしまいました。こういったことはIT業界では絶えず起きるのでアップデートが必要です。

大久保:単純作業ができるだけでは、価値は薄くなっていきますよね。

津下本:全ての職種に言えるかわかりませんが、頭を使う労働の比率が高い人は成長しますよね。

大久保:一昔前のIT業界ってもっとワイルドで「本を読んで学んでおけ」「ついてこれない人は脱落していけ」という教育方針の企業が多く、勝手に自分で成長してほしいという考え方でしたよね。

津下本:インターネットに接続すれば、多くの情報にアクセスできる時代になり、ただ仕事を与えるだけでも独学で学び人材が育つこともあります。しかし、この方針だと感度の高い上位の人だけが成長しますが、覚えなければならないことも増えているので、どうスキルアップの手をつけて良いのか分からないという大多数の人は、なかなか成長できません。

会社の仕事だとしても、いかに自分ごととして学び、深い思考でやっていく人材を増やす必要があり、そのためのノウハウを我々は持っています。

旅とビジネスの共通点

大久保:津下本さんは50カ国近くも海外旅行に行かれたと伺ってますが、海外と比較して日本の良い点・悪い点がわかったりするのでしょうか?

津下本:旅行に関しては、その時々でゴールがある時もあれば、ない時もあります。ビジネスも同じですが、その場でベストを尽くせば、その後の選択肢が増えるということがあると思います。

また、旅の出発地点と、終着地点を決めておけば、その間で勝手に様々なことが起きてくれるという点が非常に面白いと思っています。同時に、自分の知らない選択肢を大事にするようにしています。

さらに、自分の現在地がわかるというのも旅の良いところです。

日本でしか暮らしていなければ、常識の選択肢も狭まります。海外に行くと、それが当たり前じゃないことを知り、常識を覆される体験もできます。

そのため、外を知りに行っているようで自分のことを知れるのが、旅の醍醐味ですよね。

大久保:予想外のことが起こることを当たり前として受容する。これが旅をする上では重要ですよね。それはスタートアップも同じですね。

津下本ビジネスも同じで、突き詰めて行くと別のやり方が見えてきたりもします。そこに対しての柔軟性を持っていないと、成功確率が落ちますよね。

大久保:最後に起業家へのメッセージをお願いします。

津下本:起業家の中には、苦しい思いをしている人やワクワクしている人もいると思いますが、基本的に楽しむスタンスは大事です。スタートアップは社会の細胞分裂点にいる会社が多いと思っており、これはとても楽しいことです。

困難が転じてチャンスになることも多く、実は楽しいと思えば心持ちが変わってきます。とにかく向き合って、楽しみながら頑張ってください。

大久保写真大久保の感想

マーケ支援の究極は内製化

元々色々な会社のマーケ支援をしている集団が作った、マーケティングを学べるサービスがグロースXです。

今後、マーケティングのスキルは重要になってきます。テクノロジーによってマーケティングの敷居が下がってきます。

昔は現実問題として、マーケティングはコスト、難易度と労力いずれも高い一部の限られた人のものでした。しかしテクノロジーによってマーケティングが民主化されて、誰でも使える武器になりつつあります。とはいえある程度の学習は必要です。

WEBに詳しい会社でなくても自らマーケティングスキルを学んでマーケを自社でもできるようにしていくためには人材育成が不可欠です。その支援をしているのがこの会社となります。

働く人にとってもマーケ知識は汎用性が高く価値を生むための中核になるスキルです。多くの人がよりマーケティングをこうしたツールを通じて使いこなせるようになってくると良いと思います。

また、元々マーケ支援をしていたプロ集団が、内製・人材育成に行き着いた、というのも面白いと思いました。単に案件を支援するのではなく、長期的な人材育成に着目する、というのもビジネスの広げ方として起業家の参考になると思いました。

冊子版の創業手帳では、様々な起業家についてのインタビュー記事を多数掲載。インタビュー記事以外にも、起業に向けて知っておくべき内容が盛りだくさん。無料でお届け致しますので、あわせてご活用ください。
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(取材協力: 株式会社グロースX 代表取締役社長 津下本 耕太郎
(編集: 創業手帳編集部)



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