イルグルム 岩田 進|データとテクノロジーで売り手と買い手の幸せを作る企業になる

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年05月に行われた取材時点のものです。

SNSやWeb3.0などの「ITトレンド」は波に乗るのではなく、本質を掴むことが大切


バックパッカー、飲食店経営を経て、システムエンジニアに転向した岩田さん。インターネット黎明期からIT業界に身を置き、20年以上も形を変えながら、新しい価値を生み出し続けています。

しかし、ITトレンドの波に必要以上に乗る必要はなく、トレンドの本質を掴むことが大切と、岩田さんは語ります。

そこで今回の記事では、岩田さんがIT業界で20年以上もビジネスを継続してきた経験や、IT業界で成功するコツについて、創業手帳の大久保が聞きました。

岩田 進(いわた すすむ)
株式会社イルグルム 代表取締役
大学入学直後に休学し、バックパッカーで世界を旅する。
帰国後すぐに飲食店を経営、その後旅行ビジネスを経営するも共に実らず。
それらの反省を活かし、2001年、22歳で当社を創業した、根っからの起業家である。
岩田の最も強みとする点は「構想力」である。
株式会社イルグルムが提供する「アドエビス」シリーズや、「EC-CUBE」といった自社製品は、時代の先を行く岩田の独創的な視点から生まれた。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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バックパッカー、アルバイトを経て、飲食店を経営

大久保:これまでのキャリアと起業の経緯を教えていただけますでしょうか?

岩田:大学入学の直後に、4年間も通い続ける意味があるのだろうかと疑問を感じ、休学手続きをして大学を離れました。

何かやりたいことがあったわけではないので、バックパッカーで海外を見てみたいと思い、4月から資金を貯めて、7月に海外に出発しました。

アジアからアメリカを巡っている中で、現在にも続く理念が芽生えました。

それは「ビジネスの分野で、海外でも通用し、感謝される人材になりたい」ということです。

そう決めて、起業をするためにバックパッカーをやめて、日本に帰国しました。

大久保:日本に帰国してからまず何から始めましたか?

岩田:とにかくスタート地点に立たなければという思いがあり、最初はオムライス専門店のアルバイトを始めました。とにかくやる気はあったので、フライパンを自費で購入し、家でもオムライスの作り方について研究していました。

ただし、周りの人たちには、そこまでのモチベーションはなかったので話が合わず、このままこのお店にいても成長がないのでは?と感じ始め、辞めることを考えました。

しかし、一度冷静になり、考え直してみたところ、今、この店を辞めて、他の店に行っても一緒だと思ったんです。

もし自分がオーナーになれば、自分が理想とする組織を作れるかもしれないと思い、実際に人を雇用し直し、私の采配による店舗経営をスタートさせました。

でも、この経営はうまく行きませんでした。

飲食店が上手くいかなかった反省点は「立地」

大久保:結果的に上手くいかなかったとのことですが、反省点としては何が挙げられますか?

岩田ビジネスにおいて「立地」が一番重要なのではないかという、一つの答えが出ました。どこで勝負をするかを間違えると、何をやっても上手くいかないのでは、と考えました。

そもそも飲食店自体、競争が激しく「人の胃袋を満たす」という意味では、コンビニやスーパーマーケットすら全て競合になります。さらに、私がやっていた飲食店は駅の中でしたが、端の方に立地していたため、かなり苦しかったです。

大久保:これから飲食店をやろうと思っている方にとっては、本当に立地は気をつけて選ぶべきということが言えますし、事業テーマがどこなのか、ということを慎重に考えなければいけませんね。

システムエンジニアに転向し、旅行ポータルサイトを開設

岩田:日本の教育・社会においては、基本的に競争のレールに乗らないと逸れ者扱いされてしまいます。

ただ、ビジネスにおいては、必ずしも競争する必要はありません。飲食店経営の経験からむしろ競争したら半分は負けてしまうという気づきを得ました。

そこで、もっと競争が少なく、伸び代が大きい領域を探したところ、IT領域が有望だと思い、ここを軸に置くことを決め、まずはシステムエンジニアになることを決意しました。

大久保:旅行ビジネスもやられていたとのことですが、その点も伺えますか?

岩田:システムエンジニアとして受託開発を請け負いつつ、今でいうトリップアドバイザーのような、旅行のコンテンツポータルサイトを立ち上げました。

今とは違いスマホもなく、常時インターネット接続環境もなかったため、マネタイズの面で苦戦しました。

当時は、資金調達が容易ではなく、自己資金だけで進めていましたが、かなり壮大なビジネスモデルになることが途中でわかりました。

会社が潰れる唯一の理由が「資金ショート」だと気づき、まずは目先の収益も確保できる受託開発にシフトして、そこで実力をつけることにしました。

「受託開発」から「自社プロダクト」へ

大久保:利益がしっかりと出る受託制作事業から、自社プロダクトで勝負に出るタイミングを逃し続けている人は多いと思います。そのような中で、自社プロダクトに踏み出してどうでしたか?

岩田:今の会社に至ってるわけなので、結果的にプロダクトありきで成長できて、良かったと思っています。

おっしゃる通り、プロダクトを作りたいと思っている方は多いと思います。そして、踏み出さない、もしくは、踏み出してもすぐに辞めてしまう人が多い印象です。

まずは何をやるにも3年は続けないといけないと思っています。

やると決めたら、ちょっとやってみるのではなく、時間をかけて育てていかなければいけないですね。

大久保:自社プロダクトを成功させる鍵は「継続」なんですね。

岩田:どうやって継続するかというのがポイントとなってきます。

私の考えとしては、既存事業といかに上手く絡めるかを意識しています。

当社のやり方は、制作の事業をやりながら、トラッキング(※1)のサービスを開発するというものでした。

トラッキングサービスを無料で提供することが、Web制作サービスを提供しているお客様に対しても、一定の差別化になります。

このようにして抱き合わせで付加価値が上がれば、サービスとして継続していただきやすくなります。

※1:トラッキング・・・サイトに訪問したユーザーがどのページをどれくらい閲覧しているかを追跡・分析すること

国内最大規模のECオープンプラットフォーム「EC-CUBE」のイノベーションポイント

大久保:自社プロダクト開発において、気をつけている点があれば教えてください。

岩田当社は、競合が存在することはやりません。

世の中の解決されていない問題をどう捉えるか、という視点で開発しています。

日本No.1 EC構築オープンソース「EC-CUBE」で言えば、当時のECサイト構築にはスクラッチ開発(※2)と、SaaS系のサービスの両方がありましたが、サービスを提供する過程でトラブルが起きることも多い状況でした。

一方、カートは画一的で、柔軟性に欠けることも多く、海外では、先行してオープンソース(※3)のものがありましたが、トラブルが起きても、当然自己責任で処理しなければいけませんでした。

ここがイノベーションポイントになりました。

他社のように、ただソースコードを開示するだけではなく、オープンソースのソフトウェアをコアにしながら、制作会社やインフラのサーバーとのネットワークを構築し、オープンソースを「仕組み」という概念で捉えることで、極力「自己責任」と言わせない世界観を当初から作り上げました。

もちろんこの世界観は、他社にはないもでした。

大久保:オープンソースは良さそうなのですが、運営側が至難を極めるものだという認識なのですが、これをずっと続けるのはすごいなと思いました。

岩田:ありがとうございます。ただし、コミュニティを運営して、我々が主導権を握って進めるためには、資金が必要となります。

他のオープンソースのプロジェクトに関しては、プロジェクトと呼ばれるくらいなので、資金が少ないケースが多いです。

そのため、ボランティアに依存せざるを得なくなってしまい、結果うまく回らない状況になってしまうことも多いようです。

我々はそこに、マネタイズのポイントを作っています。

カード会社からのキックバックなどの売上があり、これが資金源となって、コミュニティに対する投資を可能にします。

やはり誰かが、ある程度主導権を握って進めていかないと、空中分解してしまうような結果になりかねません。そのための一定の資本が必要になります。

※2:スクラッチ開発・・・ソフトウェアやコンピュータシステムをゼロから作る開発手法

※3:オープンソース・・・ソフトウェアを構成しているプログラムを一般に公開すること

広告効果測定プラットフォーム「アドエビス」の差別化戦略

大久保:アドエビスについてもお聞かせください。

岩田:従来のメディアはコミュニケーションが一方通行だったのに対し、Webの面白いところは双方向のコミュニケーションが可能なところだと思っています。

ここが非常に面白いと思っていて、Webサイトを訪れた人の意思とも言えるアクセスログを極めれば、デジタルマーケティングで確実に面白いプレイヤーになっていくだろうと考えました。

そこで、アクセスログを扱えるサービスとして「アドエビス」を開発することになりました。

Googleが今のGoogle Analyticsの元となるサービスを買収した頃だったため、これからアクセスログ解析はかなりキツくなることが予測されたので、広告に特化したアクセス解析ツールを作ることにしました。

広告効果測定と、アクセス解析は、技術的には同じなのですが、UIにイノベーションを持たせるという点に違いがあります。

広告の効果測定に特化したUI・UXを作り込むことによって、Google Analyticsと差別化を図ろうと考えました。

Google Analyticsを使っていても、アドエビスは併用するものだと、お客様にも理解いただき、結果的に我々は追い風となって成長できました。

大久保:競合が多くいる中、ビジネスとして成立しているお話を伺うと、とても心強いです。

UIに関しては、社外とではなく、社内の無駄と競争しているんでしょうね。

ITトレンドの波に乗りすぎる必要はない

大久保:貴社は2001年創業とのことで、約20年間で様々な波があったと思います。

インターネット黎明期、ECが盛り上がった時、コロナで経済が低迷した時など。

それを踏まえて、IT業界についての印象を教えていただけますか?

岩田:IT業界では、インターネット黎明期から、Web2.0、SNSの盛り上がり、そしてWeb3.0など、こちらでも定期的な周期で波が起きています。

ある一定は捉えておかなければいけませんが、あくまでも技術的変化だけ捉えておけばよくて、お客様自体のインサイトや行動の態度変容に関しては、大して変わってないことも多々あります。

そもそもビジネスとは、お客様の悩みを解決することに対してお金をもらうため、必ずしもトレンドや波を追いかけなくても良いと思っています。それ以上に、軸を捉えることが大前提として必要です。

アドエビスも2004年にローンチしたサービスなので、約19年ほど経っていますが、Cookieをベースとしたトラッキングサービスというのは、約19年間変わっていません。

アドエビスの提供したい価値としては、広告の効果を正しく把握してマーケティングに活かす、という部分で、この意味では、約19年間ぶれていません。時代の波に必要以上に乗っかる必要はないと考えています。

大久保:トレンドに惑わされず本質を見る、ということが大事なんですね。

組織の成長を左右する「5つのターニングポイント」

大久保:2001年から法人としてスタートし、IPOまでご経験されていると思いますが、経営者としての組織論、お考えがあればお聞かせください。

岩田組織の成長について、これまでの経験から5段階あると考えています。

①創業期
②急成長期
③仕組化期
④仕組による成長期
⑤多角化期

①創業期では、PMF(プロダクトマーケットフィット)(※4)を目指すため、人数を増やさず、いかに少人数でクイックにやっていけるかが大事となってきます。

PMFに達したあとは、②急成長期に入ってきます。この時期は、様々なトラブルに見舞われることが多いため、資金調達をして、いかに組織化していくかという点が重要となってきます。

③仕組化期に関しては、創業者は得意じゃないことも多く、もたついている時に収益性が落ち、競合が出てきてジリ貧になることがあるので、組織作りが得意な人材を入れるなど対策が必要です。

このように各フェーズに合わせて、それぞれ課題が出てきます。

私が実際に見てきた景色だからこそ、語れることだと思っています。

大久保:数多の事象を抽出するのが得意なんですね。

※4:PMF(プロダクトマーケットフィット)・・・商品やサービスが市場に適合している状態

イルグルムが仕掛ける「2つの戦略」

大久保:今後の展望をお聞かせください。

岩田当社の今後の戦略は、大きく二つあります。

一つ目は、Eコマース領域に関して、EC-CUBEは法人からのニーズが高まってきています。

これまでは、プロダクト領域で進んできましたが、これからはプロフェッショナル領域まで踏み込んでしっかり伴走していこうと考えています。

二つ目は、マーケティング領域に関して、広告効果測定をずっとやってきましたが、計測したデータを活用して、上手くPDCAが回っていくような環境づくりが大事だと思っています。

そこに対しては、プロダクトで課題解決できる領域がないか模索しているところです。アドエビスの上位概念に当たるようなプロダクト開発をしていきたいと考えています。

ある意味、スタートアップ的に、新規事業を立ち上げるべくガッツリやっています。

大久保:読者である起業家に向けて、メッセージをお願いします。

岩田志高く事業をやっていくことが、一番大事だと思っています。

プロダクトを作るにしろ、どんな課題を解決したいかという思いから始まります。

また、資金調達がしやすい時代になっているので、オーナーシップなど気にしすぎていると、機会を逃してしまいます。

必要な時はしっかり資金を調達して、より多くの課題を解決するというところにフォーカスして、取り組んでいかれると成果も上がってくると思います。

また、経営者としてしんどいことは多々あると思いますが、やればやるほど見える世界は変わってきます。

私もスタートアップの志を持って仕事をしていますが、同じ志をもつ方が増えれば、世の中はどんどん良くなっていくと思いますし、すごく楽しくなっていくんじゃないかなと思っています。

共に頑張りましょう!

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(取材協力: 株式会社イルグルム 代表取締役 岩田 進
(編集: 創業手帳編集部)



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