個人事業主で開業届を出していないと損する?提出しないデメリットや注意点などを解説

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個人事業主でも開業届を出さないとデメリットがある

この記事のAI要約!

●開業届の重要性:青色申告や特別控除、赤字繰越しなど節税効果を得るために必須。
提出しないデメリット:家族給与の経費計上不可、補助金申請が難しくなる、事業口座開設制限など。
提出期限:1カ月以内が義務だが、期限を過ぎても遡って提出可能。
注意点:扶養外れや失業手当受給不可の可能性があるため事前確認が必要。

近年、会社員を辞め独立する方や、副業を始める方が増えています。何らかの事業を開始して個人事業主になる場合、様々な手続きが必要になりますが、開業届の提出もそのうちのひとつです。

しかし、気付けば開業届を提出する期限が過ぎていた、といったケースも少なくありません。

今回は、個人事業主に向けた開業届に関する情報や、開業届を出していない場合に困ること、最近話題の「インボイス制度」との関連性などについてご紹介します。

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この記事の目次

個人事業主でも開業届の提出は義務!だが罰則はなし


事業主として社会的に認められるためには、開業届の提出が必要ですが、個人事業主であっても、開業届の提出は必要なのでしょうか。

結論からいえば、個人事業主でも提出が必要です。新しく事業を開始した際に開業届を提出することは、所得税法によって義務付けられています。

ただし、罰金などのペナルティが課せられることはありません。では、開業届はいったいどのようなものなのか、紹介していきます。

開業届とは

開業届は、正式名称を個人事業の開業・廃業等届出書といいます。事業を開始するにあたり、事務所や事業所を設けて開業・増設したことを税務署に申告するための書類です。

国税庁の「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」によると、開業届の概要として、新たに事業を開始したまたは不動産所得、山林所得などを得る事業を開始した時・事業用の事務所や事業所を新設・増設・移転した時に提出するとあります。

中には、会社員を辞めて独立した方や、本業をする傍ら、副業を始めた方もいるでしょう。こうしたケースもすべて事業を開始したことになるため、管轄の税務署に開業届を提出する必要があります。

また、個人事業の開業・廃業等届出書という名前にもあるように、事務所の移転や廃業を行う際にも、同じ書類を提出しなければなりません。

基本的には、事業を開始した日より1カ月以内に提出する義務があります。

開業届を提出しなくても罰則はない

個人で事業を開始した場合には1カ月以内に開業届を提出する義務があります。

義務があるというと、提出しなければ罰則があるのではないかと不安に感じる方もいるかもしれません。

しかし、たとえ開業届を出さないまま事業を行ったとしても罰則があるわけではなく、実際に開業届を出さずに事業を行っている個人事業主もいます。

それでも開業届の提出は任意ではなく義務であることは理解しておいてください。

開業届はさかのぼって提出することも可能

開業届の提出期限は事業開始日から1カ月以内とありますが、期限を過ぎてしまっても、さかのぼって開業届を提出することは可能です。

提出期限を過ぎていても、それが後で問題になるといったこともありません。期限が過ぎてしまったからという理由で、開業日を偽って書かないでください。

個人事業主が開業届を提出しないデメリット6選


罰則がないとはいえ、開業届を提出しないままでいると後々後悔する可能性があります。

では、開業届を出さないで困るのはどのようなことなのでしょうか。以下で紹介するのは、提出しない場合のデメリットです。

デメリット1:青色申告ができず65万円の特別控除が使えない

個人事業主が毎年行う確定申告では、一定の条件下で最大65万円の特別控除が使えます。開業届を出していなければ、特別控除は使えません。

確定申告には青色申告と白色申告の2種類がありますが、特別控除が使えるのは青色申告のみです。青色申告は開業届を出している人しか利用できないため、未提出の個人事業主は特別控除のない白色申告をすることになります。

青色申告特別控除は、個人事業主にとって重要な節税対策です。開業届を出しておかないと、税金面で損をする可能性が高くなります。

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青色申告について、詳しくはこちらの記事を>>
知っておきたい青色申告の基礎知識とメリットデメリット

デメリット2:家族の給与を経費にできない

家族に支払った給与がある場合、青色申告者であれば経費として計上できます。開業届を出していない白色申告者は、この恩恵を得られません

青色申告者が家族に支払った給与は青色事業専従者給与となり、全額が経費の対象です。白色申告だと、最高で86万円しか経費計上できなくなります。

家族経営をしている個人事業主であれば、開業届を出していないとデメリットが大きくなるため、注意が必要です。

デメリット3:赤字の繰り越しができない

開業届を出していない個人事業主は青色申告が使えないため、赤字の繰り越しができません

青色申告は、赤字でも最長3年間は繰り越せます。黒字になった年に所得額を相殺でき、税金対策が可能です。

開業届が未提出の場合は白色申告のみとなり、赤字の繰り越しも使えないので、いざというときの節税対策が不十分になります。

デメリット4:屋号付きの口座やクレジットカードが作れない

新たに事業をスタートする場合、事業用の口座開設や法人用のクレジットカードを作りたいという方は多くいます。しかし、屋号付きの口座や法人用のクレジットカードを作成するには、開業届の提出が必要です。

厳密にいえば、屋号付きの口座は個人用として開設することが可能です。しかし、その際にも金融機関から開業届の控えを求められる場合が多く、開設できない可能性があります。

また、個人事業主は一般的な会社員とは違い、給与の見通しや安定性が不透明です。そのため個人事業主としてクレジットカードを申し込むと、事業を行っていることの証明として開業届を求められるケースがあります。

個人事業主の屋号について、詳しくはこちらの記事を>>
個人事業主の屋号は必要?決め方のポイントなどを徹底解説!

デメリット5:補助金・助成金の申請ができない

個人事業主が補助金・助成金を申請する際、開業届が必要になる場合がほとんどです。開業届を出していないと申請対象から外れたり、申請ができなかったりし、資金調達がしにくくなります。

個人事業主でも申請できる補助金と言えば「小規模事業者持続化補助金」です。小規模事業者の持続的な経営を支援する制度ですが、決算を一度も迎えていない個人事業主の場合、申請には開業届が必要となります。

自己資金だけでは開業資金を賄えない方も多く、補助金や助成金の活用は欠かせません。開業届を提出していれば、補助金や助成金が申請でき資金調達もしやすくなります。

デメリット6:小規模企業共済の加入ができない

小規模企業共済とは、個人事業主が退職金の代わりとして受け取れる共済金の積み立て制度です。1965年に、小規模企業共済法に基づき発足しました。

個人事業主が加入するには確定申告書の写しが必要ですが、開業したばかりの初年度は確定申告の写しがないため、開業届の写しを提出しなければなりません

開業届を出していなければ小規模企業共済への加入ができず、共済金も受け取れなくなってしまいます。

小規模企業共済に6カ月以上積み立てておけば、万が一廃業した場合でも共済金を受け取ることができます。12カ月以上積み立てていれば、解約手当金の受け取りも可能です。

早めに加入したい方は、開業届を出すメリットの方が大きくなります。

小規模企業共済について、詳しくはこちらの記事を>>
小規模企業共済の貸付制度を使ってみよう!概要から申し込み方法までまとめ

個人事業主が開業届を提出する際の手続方法


開業届は税務署で受け取るか、国税庁のホームページからダウンロードすれば入手できます。

ここでは、必要書類や開業届に記載する内容などについてご紹介します。

開業届に記載する内容

開業届に記載する項目は、以下のとおりです。記載項目で不明点がある場合は、最寄りの税務署で相談することもできます。

  • 税務署長名:提出先の税務署名を記載
  • 提出日
  • 納税地:住民票のある住所を記載
  • 住所地:事務所や店舗がある場合のみ記載
  • 氏名・生年月日
  • 個人番号(マイナンバー)
  • 職業:所得を得ている職業があれば記載
  • 屋号:事業の名称や社名を記載
  • 開業先の住所・氏名:開業した場所の住所・氏名を記載
  • 所得の種類:事業所得・不動産所得(家賃収入)・山林(林業)から選択
  • 開業・廃業等日:事業の開始日を記載
  • 開業・廃業に伴う届出書の有無:青色申告を行う際、また消費税を支払う際はそれぞれ「有」を選択
開業届の書き方について、詳しくはこちらの記事を>>
5分で作成完了!開業届の書き方と税務署に提出する際の注意点

開業届の提出先

開業届の提出先は税務署です。納税地を管轄する税務署が対象となります。

自宅で事業をしている場合は自宅の住所地を管轄する税務署、自宅とは別に事務所がある場合は事務所の住所地に基づいてください。

持ち込みや郵送での提出が可能ですが、e-Taxを利用した電子申請にも対応しています。

開業届の提出期限

事業を開始してから1カ月以内が開業届の提出期限です。1カ月後が土日祝日の場合、翌平日までとなります。

期限内に提出できなくても罰則はありません。青色申告の届け出や小規模事業者への加入を検討している場合は、早めに出すのが賢明です。

開業届だけじゃない!開業時に必要な書類一覧

事業を開始した際に必要なのは、開業届だけではありません。開業届以外にも準備しなくてはならない書類について、以下にまとめました。

提出が必要な書類名 提出期間 提出先
事業開始等申告書 在住している都道府県により異なるため、事前に確認が必要

(例:東京都では事業開始日から15日以内)

都道府県民税事務所
青色申告承認申請書 承認を受ける年の3月15日 税務署
青色事業専従者給与に関する申告書 計上する年の3月15日 税務署
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 適用したい月の前月 税務署

事業開始等申告書

事業開始等申告書は、個人事業税に関わる書類です。開業届と同じく、個人事業を開始したことを申告するためのものですが、税務署ではなく都道府県民税事務所に提出します。

正確な提出先・提出期限は、在住している都道府県により異なるため、事前に確認が必要です。インターネットで「事業開始等申告書 都道府県名」と検索することで確認できます。例えば、東京都では事業開始日から15日以内が提出期限です。

ただし、事業開始等申告書は届出をしなくても罰則があるわけではなく、実際に提出していない個人事業主も少なくありません。

青色申告承認申請書

青色申告承認申請書は、青色申告の承認を受けたい場合に提出する書類です。承認を受ける年の3月15日までに提出します。

最大65万円の特別控除や赤字の繰り越しなど、青色申告特有の節税効果を得たい場合には必ず提出しましょう。開業届と同時に出しても問題ありません。

青色事業専従者給与に関する申告書

家族に給料を支払う場合、青色申告で必要経費として計上できるようにするための書類です。家族とは、青色申告者と生計をひとつにする配偶者や親族が該当します。

必要経費として計上する年の3月15日までが提出期限です。開業日や雇用日が計上年の1月16日よりあとであれば、開業日あるいは雇用日から2カ月以内に提出します。

源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

従業員から徴収した源泉徴収税は、原則として毎月の納付です。納付回数を半年に1回に抑えたい場合には申請書を出し、納期の特例の承認を受けなくてはなりません。

源泉所得税の納期の特例に関する申請書は、提出日の翌月分の給与から適用されます。3月分の給与から適用したいのであれば、2月中に提出が必要です。

出しておけば、納付手続きが年2回で済みます。煩雑な事務を少しでも軽減したい個人事業主は検討しておきましょう。

個人事業主が開業届を提出する際の注意点5つ


個人事業主として開業届の提出は様々なメリットがあります。

その一方で失業手当受給者や副業をしている人などは、注意しなければならないこともあります。最後に、開業届を提出する際の注意点をご紹介します。

注意点1:配偶者の扶養から外れる可能性がある

親や配偶者の扶養に入っている場合であっても、開業届の提出は可能です。しかし、開業届を出すことで扶養から外れてしまう場合があります。

扶養から外れるかは会社の健康保険組合によって異なりますが、年収が一定額を超えた場合、もしくは自営業として起業した時点で外れるケースが多数です。扶養から外れた場合、健康保険料を自分で納付する必要があります。

ただし、毎月の所得が高くなる見込みがある場合、扶養に入ることが必ずしも得になるとは限りません。

長い目で見た時には、扶養から外れた方が住民税・社会保険料などを差し引いた手取りが多くなる可能性があるためです。

所得が少ない人は、扶養に入っているメリットのほうが大きくなります。

注意点2:失業手当が受け取れない

失業手当を受給している方は、開業届を提出すると失業手当が受け取れなくなります。失業手当は、会社員として雇用保険に加入していた方が、何らかの理由で失業してしまった場合に受給できる手当です。

開業届は事業主として事業をスタートしたことの証明であり、仕事を探している状態ではありません。たとえ開業して売り上げがない状態であったとしても同様です。

仮に開業届を出していながら失業手当を受け取っていたとしたら、それは不正受給に該当します。

失業手当の受給資格がないにもかかわらず、あるように偽って受給すれば受け取った額の返還と不正行為で受けた額の2倍の納付を求められるため、開業届を提出するタイミングには注意してください。

注意点3:確定申告が必要になる可能性がある

副業として事業を始めた場合でも、年間所得(1月1日~12月31日)が20万円を超えると確定申告が必要になります。確定申告で注意したいのが、手続きの手間と本業の会社にバレる可能性です。

確定申告には最低限の収支情報が必要になるほか、申告書の作成にも手間がかかります。所得が多いほど経費や控除の計算も増え、事務負担が大きくなる恐れがあるのです。

確定申告で住民税の徴収方法を選択していないと、住民税の通知から会社にバレる可能性もあります。申告書にて普通徴収を選ぶことを忘れないようにしましょう。

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注意点4:職業により税率・課税対象に違いがある

開業届の記載事項に、職業を記入する項目があります。職業は個人事業税の税率や課税対象を判断するためのもので、記載した職業の種類によって変わってきます。

国税庁で課税対象のものもあれば、国税庁で非課税でも都道府県税では課税対象になるものもあるため、事前に確認しておくと安心です。

東京都主税局の「個人事業税」によると、第1種事業で5%、第2種事業で4%、第3種事業で5%の税率になります。東京都でも区分によって税率が異なるので気を付けてください。

例えば、第1種事業には物品販売業・飲食店業・商品取引業・製造業・請負業などが該当します。職業によっては税金の負担が大きくなる可能性もあるため、注意が必要です。

個人事業税がかからない業種について、詳しくはこちらの記事を>>
個人事業税がかからない業種は?勘違いしやすいケースや課税対象の業種も紹介

注意点5:インボイス制度への登録を検討する

インボイス制度の登録に開業届の提出は必要ではありませんが、開業届を提出する段階で、インボイス制度への登録の検討を推奨します。開業届の提出とともに申請できる青色申告が、インボイスの処理に関わるためです。

インボイスで税抜処理をする場合、通常は青色申告で義務付けられている複式簿記を用います。帳簿の定めがない白色申告では簡易簿記を使うケースも多くありますが、簡易簿記では税抜処理への対応が困難な可能性があるのです。

青色申告承認申請書を出しておけば、おのずと複式簿記を用いることになり、税抜処理にも対応しやすくなります。税抜処理は損益の正確な把握にも有利です。

開業届が直接インボイスに影響することはないものの、青色申告を通じた会計処理への影響は考慮しておきましょう。

開業届を出していない個人事業主は注意しよう

この記事では、開業届は、個人事業主も法人と同じく、事業開始日から1カ月以内に提出する義務があることを解説しました。

期限を過ぎても罰則があるわけではないものの、青色申告ができなかったり、事業者向けの口座やクレジットカードが作成できない可能性があったりするなど、困ってしまう可能性もあるでしょう。

特に青色申告による影響は、特別控除や赤字の繰り越し、インボイスの処理方法など多岐にわたります。節税効果も左右するため、青色申告承認申請書と開業届の提出はセットで意識しておくのが理想です。

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(編集:創業手帳編集部)

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