CBcloud 松本隆一|配送プラットフォーム「PickGo」を開発した物流業界の革命児が挑む業界変革
運送業ドライバーの待遇改善と地位向上のために!元航空管制官が目指す物流業界の改革
ECサイトの利用などにより急増する荷物取扱量に対し、物流のキャパシティーが追い付かなくなる物流クライシスや、荷主から配送依頼された荷物が下請け、そのまた下請けへと回される多重下請け構造など、物流業界では様々な課題解決が求められています。
こうした状況下で、業界変革に挑む企業として業界内外の注目を集めているのがCBcloudです。「届けてほしい」 と「届けてくれる」を直接繋げる、24時間365日・全国対応の配送プラットフォーム「PickGo(ピックゴー)」をはじめとしたサービスを提供する配送クラウドソーシング事業を運営しています。
同社の代表取締役CEOを務めるのは「物流業界の革命児」の松本さん。ドライバーの労働環境をテクノロジーの力で改善するため、航空管制官から転身した経歴の持ち主です。
今回は松本さんの起業までの経緯や、物流業界の課題解決について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
CBcloud株式会社 代表取締役CEO
1988年生まれ、沖縄県出身。高校時代に独学でプログラミングを修得。高校卒業後、航空保安大学校を経て国土交通省に入省。航空管制官として羽田空港に勤務。2013年に退省、他界した義父の運送業を継ぎ、配送ドライバーを経験。同年CBcloud株式会社を設立。運送業経営の現場で、多重下請け構造や非効率な慣習から、業務改善に余力がない物流業界の現状を実感。自身の会社だけでなく、あらゆるドライバーの環境を改善することで業界全体をより良くすべく、ITによる業界変革を決意。これまでに、ドライバーに意思決定権のある自由な働き方、効率的な稼働、正当な業務評価により努力が可視化される環境を提供してきた。ドライバーの価値が正当に評価され尊敬される存在になることを目指し、常に「現場で働く人のため」に尽力する。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
「好き」が高じてプログラミングスキル習得と航空管制官への道を決断
大久保:まずはご経歴についてお聞かせ願えますか。
松本:中高生を対象にした学習塾を経営する沖縄の家庭で生まれ育ちました。高校時代に独学でプログラミングを習得したことが、結果としてCBcloudの設立に役立っています。
大久保:もともとプログラマーに憧れていたのでしょうか?
松本:いえ、違うんです。プログラミングの独学に至った発端は、学生時代にゲームが大好きだった私に対して恩師がくださった「ゲームに時間を奪われているうちはまだまだだね。自分でゲーム開発ができるようになりなさい」という言葉なんですね。
思春期の私にとって、その発想がものすごく刺激になりました。
そんなとき、たまたま父の経営上の課題を知って「プログラミングを習得すれば家業の課題解決ができるし、ゲームの制作にも活かせる」と考えたんです。そこからプログラミング学習に没頭しました。
大久保:松本さんの「好き」という気持ちに寄り添い、将来のヒントを与えてくださった素晴らしい恩師ですね。ご実家が事業運営されていた背景も、起業する上で影響を与えたところがありそうですね。
松本:はい。祖父も父も起業家でしたので、企業経営に関するイメージがわきやすかったのは大きいかなと思います。ただ単に「起業ってかっこいい!」ではなくて、幼少期から事業運営の大変さにも触れられたのが良かったです。
大久保:プログラミングを習得して高校を卒業した後、航空保安大学校にご進学されてらっしゃいます。理由をお聞かせください。
松本:幼い頃から空が大好きで、パイロットに憧れていたんですね。ただ実際に調べてみると、条件的に難しいかなと。「じゃあパイロットに近い仕事はなんだろう?」と考え、航空管制官という明確な目標ができました。
航空管制官を目指すためには、航空保安大学校を卒業する必要があります。必然的にその進路を選んだという感じですね。
大久保:プログラマーから航空管制官へスイッチというのも思い切った決断ですね。
松本:周囲からは「プログラミング系の領域に進んでみてはどうだろう?」と勧められましたが、どうしても空への夢や憧れを諦めたくなかったんです。だから好きな気持ちを優先させました。
物流業界への転身を決意させた義理の父との出会いと、業界課題への直面
大久保:先ほどのお話で、これまでのご経歴で「好き」という気持ちをとても大事にされてきたことや、学生時代から社会の課題解決意識が強かったことがよく理解できました。その次の大きな転機が、お義父様との出会いだったそうですね。詳しくお聞かせください。
松本:義理の父と出会ったのは2012年でした。25歳で結婚したのですが、当時はまだ妻と交際していた時期です。
もともと義父は自動車販売業を営んでいまして、冷凍貨物の需要拡大を受けて冷凍車まで手掛けていました。そこで物流業界におけるドライバーの環境改善の必要性に気づいたそうです。
それから「ただ貨物車を販売するだけでは駄目だ」と一念発起し、車を購入してくださったドライバーに仕事の供給まで行えるよう物流業界に参入しました。この会社を経営しているときに出会い、その姿勢に感化されましたね。
大久保:社会の課題解決のために尽力する信念の強さなど、お義父様は松本さんと似てらっしゃるバイタリティをお持ちだったんですね。
松本:はい。特に「誰かを助けたい」という気持ちに共感しました。
ただ、アナログでビジネスを進めていた側面がありまして、このままだとスケールしにくいなと。私自身がシステム化の必要性を実感したのと、義父もどうにかしたいと考えていたんですね。
そこで昔とった杵柄ではありませんが、高校時代に身に付けたプログラミングのスキルを活かしてお手伝いを始めました。
大久保:お義父様の事業に伴走しながら携わるようになったのが2012年、起業されたのが翌年の2013年だそうですね。その経緯をお教えください。
松本:義父が抱えていた課題を共に解決するようになり「一緒にやろう」と声をかけられたことから、国土交通省を退省して本格的に義父との事業運営を決めました。
このときも結婚前だったのですが「娘との縁が切れたとしても、僕との縁は続けてほしい」とまで言ってくれたんですね。
大久保:お義父様から惚れ込まれたんですね(笑)。
松本:はい(笑)。義父の立場で考えてみると、娘と結婚する予定の男は公務員ですので、一生安泰の可能性が高いですよね。父親ならそちらのほうが嬉しいんじゃないかなと思います。
それでも「一緒にやってほしい」と言ってくれたその気持ちに感動したんです。なにより私自身、ドライバーの環境改善に尽力したいという熱意がありましたので「義父とともにがんばりたい」と決意しました。
ところが、国交省を辞めた2週間後に義父が急逝したんです。そこからもう無我夢中でした。
義父が営んでいた冷蔵・冷凍の軽貨物事業を引き継ぐ形で、2013年10月にCBcloudを設立。「ドライバーの皆さんの生活を守りたい。お客様からのご依頼にしっかりと対応したい」という一心で、休む暇もなくがむしゃらに働き続けました。
大久保:大変でしたね。その当時の経験が今でも大きく活きていると伺っています。
松本:はい。必要に応じて自ら配送ドライバー業務を担い、帰ってきてから効率化のための仕組みづくりを行っていたんですね。おかげで身を持って運送業界のあらゆる課題と今後の可能性を実感できました。
多重下請け構造などの課題を解決し、ドライバーの価値向上への貢献を決心
大久保:お義父様の急逝もあり、起業当初は目の前の業務に忙殺される毎日だったと伺っています。そこから物流業界全体の構造改革に着手されたり、資金調達を行い事業を拡大するようになったきっかけについてお聞かせください。
松本:物流業界はその歴史の長さゆえに、変化が生まれづらいというネックを抱えていました。とりわけ運送業は上場企業でも粗利率が少ないため、環境整備を目的にシステム投資しようにも一筋縄ではいきません。
そんななか、雑誌などのメディアが取り上げてくださり、投資家からお声がけいただくようになりました。
そこであらためて市場全体の状況や売上、利益などについて調べるようになったんです。その結果、「国交省を辞めてこの仕事を始めたからには、もっと業界全体を改善したい。さらにドライバーの価値向上に貢献したい」という想いが芽生えたんですね。
それから本格的に事業を拡大しながら、2016年9月から資金調達を行い、現在に至ります。
大久保:物流業界の構造改革に取り組まれている松本さんから見て、最も課題だと思われた点についてお教えください。
松本:いくつかあるのですが、なかでも多重下請け構造を改善したいという想いで事業を運営してきました。
日本には運送業を営む法人事業主が約6万社ありますが、このうち50両以上の車両を抱える大手事業者は1割未満で、多くが中小零細企業と個人事業主です。
義父の事業を受け継いだ当初驚いたことなのですが、クライアントの荷主から依頼を受けた際、まず協力関係にある運送会社にお願いすると、1時間後くらいに電話がかかってきて「配送をお願いできませんか?」と。この依頼が弊社でお願いした案件なんです。
しかも報酬額は、弊社が依頼したときの半値程度。つまり案件発生時を起点として、多重下請け構造により依頼合戦になってしまい、その過程でどんどん中抜きされているわけです。
シンプルな下請け構造ではなく、1次請け、2次請けあるいは3次請けと多重下請け構造となり、このままではドライバーの報酬は安定しないし、待遇改善も難しいと痛感しました。
そこで弊社では「ドライバーが適正な対価を得られるようにする」「ドライバーの待遇を改善する」という方針で、IT化により事業を推進してきました。
2016年6月に軽貨物配送プラットフォーム「軽town」をリリースし、2017年6月に「PickGo(ピックゴー)」 へとサービス名称を変更しています。
荷主と配送パートナーを直接繋げる配送プラットフォーム「PickGo」
大久保:「PickGo」のサービス内容をお教えください。
松本:「PickGo」は「届けてほしい」 と「届けてくれる」を直接繋げる、24時間365日・全国対応の配送プラットフォームです。
サービスの特徴は、法人・個人の荷主から「PickGo」を介して配送依頼が入ると、登録されている配送パートナー(軽貨物・二輪・一般貨物のドライバー)が配送を行う仕組みになっていることです。この荷主と配送パートナーを直接繋ぐことで、配車時間は最短56秒、配車率は99.2%を実現しています。
法人顧客向けとして緊急配送/即日配送の「PickGoエクスプレス」、PickGoインフラの柔軟性を活用して売上拡大やコスト最適化に貢献する定期配送/物流ソリューションの「PickGoエンタープライズ」を提供しています。
個人顧客は、法人向け配送の経験豊富なPickGoパートナーが配送を行う「PickGoエクスプレス」、近くの店舗で買い物をしてご自宅までお届けする買い物サービス「PickGoショッピング」が利用可能です。
大久保:画期的なサービスですね。サービス運営するにあたっての理念についてもお聞かせください。
松本:一般的な物流企業はクライアントである荷主を軸としてサービスを構築していますが、弊社ではドライバーのためにサービスを磨き上げています。当初の「ドライバーの環境改善への貢献」という方針を一切変えていません。
特に個人事業主の待遇を良くしたいと考えてきましたので、ドライバーに適正な対価を払うために中間マージンをカットしたり、きちんと仕事を選ぶことができるプラットフォーム作りを行っています。
それからドライバーの評価制度を設けました。実は運送業界ではこれまでこうした制度が存在しなかったんですね。「あなたは運送歴20年だからこの仕事をお願いします」といったような曖昧な基準で、努力が結果に結びつきづらい風土がありました。
そこで弊社ではドライバーの運行に関して正当な評価を行うことで、配送の品質を担保し、荷主に対して高品質な配送サービスを提供しています。
大久保:素晴らしいですね。その結果として、圧倒的なドライバーの数を集めることができたと伺っています。
松本:はい。物流プラットフォーマー別登録台数比較で、「PickGo」は大手キャリアの自社車両に匹敵する規模となっています。国内の軽貨物個人事業主ドライバーの約4分の1が登録してくださっているんです。
ドライバー数の増加に比例して実現できる事業も増えましたので、顧客にもさらなる価値が還元できるようになりました。好循環を生み出せていますね。
事業は愚直に泥臭く。ユーザーやパートナー事業者へ真摯に対する重要性
大久保:起業家に向けてのメッセージをいただけますか。
松本:ありきたりな言葉かもしれないのですが、やはり事業は愚直に泥臭くやることが大事ではないかなと思っています。
特にプラットフォームビジネスの中でも、既存産業でトラディショナルな領域でしたら、根本の部分はすべて同じではないでしょうか。
真摯にユーザーやパートナー事業者の声に耳を傾けるなど、基本的な姿勢を大切にしながら事業推進を行っていただきたいですね。
大久保:基本がなにより大事ですよね。最後に、トラック1台で開業されたようなドライバーへのメッセージもお願いします。
松本:ぜひ「PickGo」に登録していただきたいです。
個人で開業された方は、これまでおひとりで営業活動をしながら配送業務を行う必要がありました。正直言ってかなりきついですし、個人事業主をなかなか相手にしてくれない事業者もあります。
だからこそ、弊社を頼っていただければ嬉しいです。他の仕事をしながら「PickGo」に登録し運行していただくといったこともまったく問題ありませんので、弊社のメリットを活用しながら業界でどんどん活躍していただきたいと願っています。
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(取材協力:
CBcloud株式会社 代表取締役CEO 松本隆一)
(編集: 創業手帳編集部)