マニュアルの作り方を知り”マニュアルPDCA”をまわそう【中山氏連載その5】
内閣官房で業務見直しを任された業務効率化のプロ、中山亮氏に聞く。マニュアルの効果と可能性
今まで500社以上のマニュアル作成に携わってきた中山氏は、効率的で透明性がある仕事環境のためにはマニュアルがあることが望ましいと言います。気をつけないと次第に属人的になってしまう日常業務ですが、突然の退職や病気、異動など、会社に人の入れ替えはつきもの。また、次の世代に会社を引き継ぐことを考えても、業務に透明性を持ち、複数人が仕事を把握できることが、望ましい会社の環境と言えるでしょう。
前回までの連載で、事業承継や引き継ぎ、新人教育などにおけるマニュアルの必要性と重要性についてうかがってきましたが、連載第5回である今回は、実際の具体的なマニュアル作りのポイントをお聞きしました。
内閣官房「業務の抜本見直し推進チーム」アドバイザー
株式会社2.1 代表取締役社長
長崎大学大学院を修了後、株式会社アルファシステムズにSEとして入社。その後株式会社リクルートを経て、プルデンシャル生命保険株式会社へ。リクルートでは住宅情報誌の営業MVP、プルデンシャルでは業界上位1%の保険営業マンに送られるMDRTの称号を獲得し、横浜エリアにて営業所長を務めた。多くの企業に戦略的なマニュアルが導入・活用されていないことで、生産性の低下や人材が活躍できていないことに着目し、2014年、株式会社2.1を創業。
これまでマニュアル導入支援事業を通じて300社以上の組織活性化を実現した実績から、2019年より政府機関である内閣官房にて日本行政全体のマニュアル化を支援。2020年より、福祉介護業界の属人化脱却を掲げる一般社団法人CI connectや、働きにくい環境の排除を推進する一般社団法人働きやすさ推進協会で理事を務める。
また、マニュアルの真価と重要性を解説した著書『社長、僕らをロボットにする気ですか?』で好評を得ている。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
マニュアルPDCAをまわすための作成前の4つの準備
中山:PDCAという言葉をご存知でしょうか。「Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)」を繰り返し行うことで、ある行動の改善を繰り返し行うことを指します。
マニュアルに対しても「一度作ったらおしまい」ではなく、「可視化」→「仕組化」→「習慣化」というサイクルで常に改善していってください。
大久保:一度作っておしまいでは、いつの間にかマニュアルが現在の業務内容とかけ離れている、といったことも起こり得ますもんね。
中山:その通りです。そしてこの3つのステップを始める前に、まず4つの準備をしてほしいと思っています。
1. 可視化する業務の選定
現状の課題から、どんな業務を可視化したいのかを考え、選定します。例えば「人材雇用に向けて、社員教育の環境を整えたい」「上場に伴ってマニュアル作成が必要」など、会社によってさまざまなニーズがあるはずです。マニュアル化したい業務が何なのか、よく考えましょう。
選定した業務範囲があまりにも広いと、非常に時間がかかってしまいマニュアル作成がいつまでも終わらないということにもなりかねませんので、まずはマニュアル化が必要な部分を厳選することが重要です。
例えば
- 習得に時間がかかっている業務
- 担当者の入れ替わりが頻繁な業務
- 新人が最初に携わる業務
などがマニュアル化をまずするのにふさわしい業務と言えるでしょう。
2. プロジェクトメンバーの選定
次に、マニュアルの作成担当者を決めます。責任者を決めるということは、そのプロジェクトを頓挫させないという意味でもとても重要です。
メンバー選定で注意したいのは、その業務を知り尽くしているからという理由で、トップの方を選ばないということです。例えば営業マニュアルを作る際に、トップ営業マンが作成担当者になると、どうしても高度な内容になりますが、マニュアルを読む人は多くの場合、その業務の初心者ですので、わかりにくいマニュアルになることを避けるためにも、初心者の目線で書くことができる立場の人を選んでください。
トップの知見は、マニュアルができた後にエッセンスとして盛り込めばOKです。
人数ですが、できれば担当者ひとりの知見でまずマニュアルを作成することがおすすめです。複数の担当者で作ると、議論ばかりで前に進まないというのがその理由です。できたマニュアルに対してみんなで議論し、ブラッシュアップしていけばいいのです。
3. 作成ルールの設定
「何のためにマニュアル化をするのか」「どういうときにマニュアルを使うのか」という、マニュアル化の意義や目的を説明できるようにしておきます。
また、全社員に知ってもらうための下地作りとして、社内にマニュアル化を進めることをアナウンスしたり、作成担当者の紹介、マニュアル作成にあたっての流れを説明するなどの方法を決め、実行します。
4. 作成目標スケジュールの設定
可視化は短期間で行うことが非常に重要です。業務の内容は日々微細に変わっていくものですので、期間を決めて一気に作りましょう。作成が終わり、実際に運用するところまでを見据えてスケジュールを設定することをおすすめします。
マニュアル作成の実際の手順
大久保:なるほど。確かに準備もなく行き当たりばったりに作り始めると、中途半端に終わりそうです。実際の手順としては、どのように進めるのがよいのでしょうか?
中山:そうですね、ワークフロー→ステップアクション→用語集→目次というふうに作っていくのがいいでしょう。順に説明していきます。
1. ワークフロー
中山:ワークフローとは、業務全体の流れを表すものです。動き方、考え方を可視化し、業務の全体を俯瞰して見られるようにしましょう。これを見れば、今どの段階にいるか、次に何をすればいいのかが、すぐに分かるようにします。
【ワークフローに入れる要素】
- 業務のプロセス
- 作業時間(バラバラで計測が難しかったり、不要な場合は入れなくてもOK)
- 関係者情報(不要な場合は入れなくてもOK)
【ワークフローの作り方】
- その業務に関して、普段どんなことをしているのか、思いつく限り書き出す
- 業務の内容を洗い出したら、時系列や内容を整理する
- 時系列順に、流れが分かる形にまとめる
2. ステップアクション
中山:次に、それぞれのプロセスごとに「ステップ」と「アクション」を作っていきます。プロセスを大見出しとするなら、ステップは小見出し、アクションは本文となります。つまり、業務内容を階層化していくわけです。
大久保:ワークフロー→ステップフロー→アクションフローという順番で、3層にもわたって業務を「深堀り」していくのですね。これをきちんと作ることができたら、非常にわかりやすいマニュアルになりそうです。
中山:はい。30人の新人が読んだら、30人が同じように業務を遂行できるよう、ひとつひとつのステップを深堀りして具体的に示すことが重要です。
【フローの作り方】
- ステップフローは、プロセスに書かれた業務について詳細な流れを書く。必ず「目的」「行動」「結果」を示す
- アクションフローは、ステップのひとつひとつについて、さらに具体的な流れを書く
目的を記入する際には「お客様にとって」と「私たちにとって」の2つの視点で書くようにしてください。利益追求に走らず、お客様のためという視点を忘れないために、この両方の視点を入れることをおすすめしています。
結果を書く際には、期限や所要時間を記載します。目的、生産性基準など、形容詞や動詞よりも出来る限り数字や名詞を使うようにしてください。対象になる人を想定し、時間設定などはあまり厳しい設定にしないよう気をつけてください。
ひとつひとつのアクションを書く際には、「初回商談の日程を決定する」「移動手段、場所を確保する」などのように「~する」という動詞の形で書くといいでしょう。細かいことでも、このぐらいならわかるだろう、と省略してはいけません。やるべき行動はすべて書きましょう。
3. 用語集
中山:ステップアクションの中に出てくる専門用語をまとめましょう。もし難しい用語がないようであれば、省略してもかまいません。用語集以外に、チェックリスト、行動指針などを入れる場合もあります。
4. 目次
中山:マニュアルには検索性が必須です。「あれってどうやるんだっけ」というときにすぐ該当箇所が読めなければ、あちこちをパラパラと読まなくてはいけなくて非効率極まりないですよね。ですので目次は必ず作ってください。マニュアルの作成中はページの増減が頻繁に起こりますので、目次は最後に作ることがポイントになります。
大久保:やはり2番のステップアクションに一番時間がかかりそうですが、作成することで業務に対する理解が深まるなど、メリットもありそうですね。
中山:そうなんです。業務の不要な部分などにも気づくことができますしね。作成担当者になると確かに大変ではありますが、大事な経験になると思いますよ。
漢字の過剰使用、カラフル、あいまい表現はマニュアルの天敵
大久保:作り方については何となく流れがわかりました。よりよいマニュアルを作るために、他に重要な要素はありますか。
中山:読みやすく、使いやすいマニュアルのために、ぜひ気をつけていただきたいのがマニュアルの見た目ですね。まずは「視認性」。これは文字の見えやすさのことです。適切な余白があるか、文字が小さすぎてはいないか、色は薄くないかなどをチェックしましょう。
次に「可読性」。これは文章の読みやすさを意味します。漢字が過剰に使われていないか、誰にでも分かりやすい文章であるか、難しすぎる単語はないかなどをチェックします。用語集で説明されている用語であれば大丈夫です。
また、カラフルすぎる色使いもマニュアルにはふさわしくありません。色を多く使いすぎると、どこがポイントかがわかりにくくなりますので、2色ぐらいが無難でしょう。
大久保:確かにそうですね。シンプルな色使いの方が、万人が見て意味がわかるものになりそうです。言葉使いについてはどうでしょう。
中山:あいまいな表現は避けてください。「できるだけ」「1日に数回」などの言葉は、読む人によって解釈が変わり、業務の質が落ちてしまう可能性があるからです。
大久保:そこは意識しなければいけないですね。ありがとうございました。それでは最終回の次回は、マニュアルにまつわるさまざまな質問にお答えいただきたいと思います。
(次回に続きます)
ワンポイントコラム グラフの活用
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グラフはひと目で数値の上下や要素の構成、関係性などを把握できるツールです。使用することでマニュアルがより分かりやすくなりますので、必要な場合は積極的に使っていきましょう。
量の比較なら棒グラフを選ぶと分かりやすいですし、要因の構成を比較したいのであれば円グラフが適しています。
折れ線グラフは時系列である数値の移り変わり見たいときに適していますし、レーダーチャートはさまざまな要素に分解して考えたときに、どの要素でのポイントや数が多いかを視覚的に見ることができます。
どのグラフを使用すれば、データが最も伝わりやすいかを考え、効果的にグラフを使用しましょう。
(取材協力:
株式会社2.1代表取締役 中山 亮)
(編集: 創業手帳編集部)