テレビ番組制作の裏側を知る放送作家が「メディア担当者の心をつかむポイント」をこっそり教えます。(つげのり子さんインタビュー後編)
広報は「何を伝えたいか」をブレずに持っておこう
(2017/10/23更新)
経済番組をはじめ、さまざまな番組制作に関わってきた、放送作家つげのり子さん。前編では、数々のメディアの中で、テレビに取り上げてもらうためのアピール方法を教えていただきました。
後編の今回は、メディアの立場から数多くの広報担当者に接してきたつげさんが考える「メディア担当者の心をつかむポイント」を中心にお話を伺いました。
前編はこちら→テレビに取材されるためのポイントはコレ! 放送作家つげのり子さんから見た「メディアが取り上げたくなる企業」の条件
放送作家。香川県出身。東京女子大学卒業後、NHKや民放各局で、放送作家として数多くの番組を担当してきた。TBSのワイドショー、テレビ東京の報道番組、特に皇室番組を15年担当し、現在に至る。2016年度テレビ東京報道局長敢闘賞を受賞。日本放送作家協会、日本脚本家連盟会員。現在、放送作家に加え、プロデューサーとして番組制作も手掛ける。
著作は「女帝がいた時代」(自由国民社)、「大人も子供も脳の鍛錬 ギリシア神話」「同 哲学」(毎日コミュニケーションズ)、「フィレンツェ愛の彷徨」(ダイソー出版)、「14歳の私が書いた遺書」(河出書房新社)など。2015年に株式会社商品表示研究所を設立しメディアの制作現場の経験を生かした「テレビメディアのほうから食いつく広報活動」の助言、講演活動等を行っている。
デキル広報担当になる、3つの黄金法則
法則1:レスポンスは早くがキホン
つげ:テレビでは、取り上げるテーマが決まったら、ADさんが取材候補に片っ端から電話するんですね。そのときに「今は上司がいないので、即答できません」と答えたら、もう次の候補に電話をかけてしまいます。電話を受けた時に、どんな内容で取材したいのかを明確に聞いて、積極的な協力姿勢を印象付けたほうがいいです。その時につかまえる、ということが重要です。
チャンスの女神に後ろ髪はない、ということを心得ましょう。
法則2:自社のネタ情報集を作成する(分厚くても良い)
つげ:もし求めているものが分からない場合は、自社がPRしたいトピックスを一覧にしてまとめておき、問い合わせが来たら、メールやFAXなどでそのデータを送って、「この中で興味があるものがあったらご連絡ください」と、先方に選んでもらえばいいんです。もし今回は方向性が違っても、別の放送回なら引っかかるかもしれません。そういう自社のネタ情報集を1つ作っておくと、取材される可能性がより広がると思います。
つげ:いいえ、分厚くても良いと思います。メディアの人たちは、紙の資料を読むことに慣れている人が多いです。なので、こちらで精査せずに、先方で精査してもらえばいいと思います。空いた時間にななめ読みして、「これ良いかもしれない」と引っかかる場合もありますから。
法則3:一期一会の気持ちで、心を尽くした対応を
つげ:たくさんの広報担当の方と接する中で、時折、心を動かされるような、丁寧な対応の方に巡り合うことがあります。ささいなメールのやりとりの中にも、気遣いの言葉がちりばめられていたり、気持ちの温かさが感じられる言葉があったりすると、好印象を残すものですからね。
通りいっぺんではない、心の交流を感じさせてくれる広報担当の方に出会うと、「何かあったら、この人にまた連絡しよう」という気持ちになります。
広報担当の方の中にも、そっけない事務的な対応をする方がいます。会うと人柄が分かるものですが、電話は先方と初めてコンタクトを取るツールであることが多いです。やはり基本は、人と人とのコミュニケーションですからね。事務的な対応であったために、せっかくの取材が流れてしまうともったいないので、注意しましょう。
「世の中になかったもの」と「流行の最先端」
つげ:「昨日まで世の中になかった新しいもの」や「流行の最先端」は、テレビで取り上げられやすいです。
「昨日まで世の中になかった新しいもの」の例として、以前、私が経済番組の担当をしていた際に「ゴルフ場で刈った芝でバイオ燃料を作る」ことを始めた企業を取材しました。
「ゴルフ場の芝」という廃棄されるものから燃料ができる「意外性」と「新しさ」に興味を引き付けられました。「新しさ」は、好奇心をそそる原点ですし、テレビに求められる価値の一つです。なので、「新しさ」を押し出すことは大切ですね。
「流行の最先端」は、まさに読んで字のごとく、「今のトレンド」です。
以前、番組の中でパクチーが隠れたブームになっていると、パクチー専門店を取り上げたことがありました。実は、パクチーブームはこのお店が仕掛けたもので、見事、その戦略が当たったのです。
王道ではなく、限られた人たちだけに巻き起こっている裏ブームでも、その現象を画にできれば、取り上げられます。
その例としては、「鹿児島の女子高生は白いタオルを首に巻いている」というトピックスをワイドショーで取り上げたことがありました。実際に調査してみると、確かに街の女子高生のほとんどが白いタオルを巻いていたんです。
彼女たちにインタビューしても流行の理由は分かりませんでしたが、鹿児島の女子高生にとっては白いタオルが最先端のファッションアイテムだったんですね。
このように、企業情報に限らず「製品」が社会現象を巻き起こしている、あるいは巻き起こしそうな予感がするものは取り上げられやすいと思います。
つげ:テレビ局の代表FAX番号に、企業のプレスリリースを送っても、毎日、大量のFAXが届きますから、目に留めてもらうのは、簡単なことではありません。
前述したとおり、テレビの番組で何が取り上げられるのかが決まる最高決定機関は、番組スタッフが出席する会議です。その会議に具体的なネタ情報を持ってくるのは、リサーチャーです。
番組の会議では、リサーチャーが作成した資料が出席者全員の席に置かれて、「これは面白い」「もっと詳しく情報を聞いてみたい」など、意見が交わされます。
こうした会議でネタ案として出されるには、リサーチャーにピックアップしてもらうことが一番の近道です。
つげ:一番お金がかかるけれど簡単なのは、芸能人を絡めて売り込むことです。しかし、芸能人との契約となると、それなりの費用がかかりますからね。
最も理想的なのは、お金を掛けずに、知恵を絞って勝負すること。これは、広報に限らず、どの世界でも同じだと思います。
そのためには、PRしたい商品の広報戦略を考える時、「振り切ったアピール」をぜひ意識していただきたいです。
例えば「新製品の販売促進キャッチコピー募集」ではなく、「新製品の超ダメなトホホ情報募集」のほうが面白いですし、リスクをとってまで話題を作ろうという「振り切った姿勢」は、逆に好印象を与えます。
テレビのワイドショーやバラエティ番組などからは、「なぜ、こんな逆張りキャンペーンを?」という意外性に食いついてくるかもしれません。
ここまで振り切っていいのかな、と思えるくらいに、大胆に、分かりやすく、アピールできればベターだと思います。
放送作家という仕事をしていると、知り合った様々な企業の方から、「うちの会社をテレビに出してください」「今月、新商品が出るので取材してもらえませんか」というリクエストをよくいただきます。そういう場合は、商品資料が私のもとに届きますので、何かネタにならないかとじっくり目を通しています。
ですが、テレビの取材ネタとして可能性がありそうなものは、100のうちの2~3つ。かなり少ないです。
一方、テレビ制作の現場は「何か面白い情報はないか」「視聴率を獲れるとびっきりのネタはないか」と目を皿のようにして探しているのですが、なかなか見つからないので、日々苦労しています。
企業の広報資料を見ていつも思うのは、商品にかける情熱や気持ちは伝わってくるものの、スタッフの琴線に触れるアピールでないことが多く、もったいないなぁということ。
メディアの人間もネタになりそうなものを常に探しているので、ぜひそのアンテナに引っかかるような表現をすると、取り上げてもらえる可能性はグンと高くなると思います。
継続こそ力なり、広報担当者の努力は必ず結果になる
つげ:今からすぐできる、一番簡単なことは、企業のHPに効果的な動画を載せることです。
企業なり、商品なり、社長さんなりが持っているドラマを、分かりやすく伝える動画を掲載していると、メディア向けだけでなく、一般のお客様にも理解が広がると思います。
そして、メディアには積極的にアピールすることが大切です。連絡を取るときは、丁寧で好感を持たれる対応を心掛けましょう。
広報活動は、コツコツ地道なことの連続ですが、結果は必ずついてきます。
いつかこの番組で取材されたい、という目標を定めて、あきらめずに挑戦を続けてほしいと思います。
継続こそ力なりで、いずれ努力が報われる日が訪れます。
(取材協力:つげのり子)
(編集:創業手帳編集部)