ルグラン 山辺 仁美|「人の役に立ちたい」気象に連動した広告で原点に立ち返る

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2022年07月に行われた取材時点のものです。

気温が1℃上下するだけで、売り上げは変わる。人に大きく影響を与える気象を使った広告


気象と連動して、見る人に必要な広告を届ける新しいサービスを提供するのがルグランです。CEOの山辺仁美氏に、ルグラン立ち上げまでの経緯や、気象連動型広告誕生への想いを聞きました。

山辺 仁美(やまべ ひとみ)
株式会社ルグラン 代表取締役 CEO
⽶国セントメリーカレッジ経営学部卒。⾦融〜AT&T・Palm Computing を経てオーバーチュア(現ヤフー)シニアディレクターとしてマーケティング全体を統括。企業に対しデジタルマーケティングを起点としたマーケティング/PR活動に関するアドバイスを⾏う。オーバーチュアでは、上場前のアイレップ・オプト・アウンコンサルティングやセプテーニ・⽇広(現・GMO NIKKO)・サイバーエージェントなどのネット広告代理店を束ね、⽇本初となる検索連動型広告販売に特化した広告代理店組織を構築。中⼩広告主を対象とする直販ルートの開拓も統括し、4年間で述べ20万社以上の広告主を獲得、売上⾼400億円を実現。ルグラン設⽴後は、外資系クライアントの⽇本進出プロジェクトを多数⽀援するほか、英国やカナダの広告管理ツールベンダーとの事業提携を進め、⽇本における広告管理ツールの普及に努める。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

(2000/00/00更新)

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インターネット広告のパイオニア「オーバーチュア」との出会い

大久保: 山辺さんはオーバーチュア(現Yahoo!)の設立に携わったと聞きました。設立の経緯や、オーバーチュアのサービスについて教えてください。

山辺検索に連動して見る人に必要な広告を出す、検索連動型広告を世に出したのがオーバーチュアです。以前勤めていた会社の上司が、オーバーチュアの日本オフィス立ち上げメンバーを探していたときに声をかけられ、初期メンバーとして参画することになりました。当時、オーバーチュアはアメリカで成功していて、次にヨーロッパへ、そろそろアジア進出、という時期でした。

大久保:今経営されているルグランは、共同経営ですよね。パートナーの泉さんとは、そのオーバーチュアで出会ったのですか。

山辺:以前、私はPDA(携帯端末)を製造する会社でコンテンツビジネス全体を任されていました。PDAのハードは最高のUIを実現した素晴らしいもので、その端末で見ることができるコンテンツパートナーのリクリーティング活動に力を入れていました。

そのときにアプローチしたドイツの大手出版会社のコンテンツ提供の責任者が、ルグランの共同経営者の泉でした。その後オーバーチュアに移ったときに、泉と再会し、ルグランを設立したという経緯です。

大久保:外資系企業で働くには、英語が必要というイメージですが、山辺さんは留学経験があるのですか。

山辺:大学時代、アメリカに留学していました。そこで自分で会社を立ち上げる人をたくさん見て憧れていましたね。企業で働くというよりは、新しいことにチャレンジしたいと思う気持ちが湧いてきて、いつかは自分でビジネスを立ち上げたいと考えていました。

一方で、日本のトラディショナルな組織を経験することも長い人生では大事だと思い、とりあえず日本の都市銀行に就職しました。都市銀行は想像以上に年功序列が辛くて、毎日毎日、雑務に追われる生活に自分の将来が見えず、数年であっさり退社。これまでの経験を活かすには、外資系企業で働くのがベストだと考えていました。

大久保:泉さんも、海外のイメージが強いですね。

山辺:泉も偶然にも最初の就職先は都市銀行でしたが、銀行から留学して、アメリカの大学院を卒業しています。また、海外での勤務も経験し、私よりもずっと長く銀行で経験を積んだようですが、やはり少し物足りなかったようで、銀行から外資系企業に転職しています。

大久保: 2人で経営する良さを教えてください。

山辺:1人だと心細い時がありますが、2人だと心強いですよね。また、私たちは、守備範囲をわけて担当しているので、自分の得意な部分を伸ばせる良さがあります。1人で起業している人は、全てを自分で担当しなければならないので、大変だと思います。

大久保:山辺さんと泉さんは、タイプが違いますよね。

山辺:そうですね。泉は慎重派で、私は超ポジティブ派です。共同で経営するためには、2人がポジティブだと、気が付いたら会社が潰れているみたいなことにもなりかねないので、スキルも性格も含めて異なるタイプで補完し合うのが、大事ではないでしょうか。

検索連動型広告の名付け親に

大久保:オーバーチュアの検索連動型広告は革新的です。それまでは、固定の広告枠があって、そこに予算をかけてバナーを出すというのが一般的でした。

山辺:固定の広告枠がある形だと、予算がある会社の広告が上位に出るわけですよね。予算がない小さな会社は、とても大手と競争できない世界でした。けれど、検索連動型広告なら、自分たちで工夫すれば、大手を並んで、同じ場所で勝負できます。

これまでの枠を取り払った新しい考え方で、まさにパラダイムシフトが起こった感覚でしたね。「これでやっと、ネットがみんなのものになった」と感じました。フラットに勝負ができるのが、とても斬新で魅力的でした。

実は「検索連動型広告」の名付け親は私なのです。当時リスティング広告は、いろいろな言い方をされていて、オーバーチュアの社長が統一をしようということで、私に相談してくれました。そこで、検索連動型広告と名付けたのです。

大久保:「検索連動型広告」の母だったのですね。確かに、リスティング広告というより、検索連動型広告のほうが、日本人には通じやすいですね。

山辺:外資系企業はマーケティング施策を考える際に、なにかと格好をつけたがりますが、その国の文化に合わせなければいけません。カタカナだらけにして相手が理解できなければ意味がありませんから。

日本にあった広め方で、Googleにも勝る

大久保:オーバーチュアは、広告業界での歴史が長いですよね。

山辺:サイバーエージェントやオプトがネット広告専業としてビジネスをスタートし、その後、数年してオーバーチュアの日本オフィスが立ち上がったという感じだったと思います。当時は、ネット専業代理店の認知度はあまり高くなかったこともあり、検索連動型広告を販売することに非常に意欲的でした。今は世界的なGoogleも、当時はオーバーチュアよりもいろいろな面で遅れを取っていました。

また、思えば、検索エンジンがいくつもある時代で、競合も4~5社はあり、どの会社もそれぞれ個性を持っていましたね。当時よく、オーバーチュアとGoogleの違いを聞かれましたが、Googleはテクノロジーカンパニーで、オーバーチュアはマーケティングカンパニーだ、という回答をしていました。

今では信じられないことですが、Googleはマネタイズする方法が見つからず、苦戦をしていました。それに対して、技術ではGoogleに劣りますが、オーバーチュアはマネタイズができるビジネスモデルを持っていたことで、その後、広告収入を大きく伸ばし、大成功をおさめました。

大久保:マネタイズする方法で、Googleより勝っていたのですね。

山辺:Googleとオーバーチュアは、販路拡大の戦略も全く違いました。私たちは、まずは代理店にオーバーチュアのサービスを理解してもらい、代理店の先の広告主に販売してもらうことで、一気に広告主の数を増やす戦略でした。

オーバーチュアという会社とサービスを理解してもらうために、代理店の幹部の皆さんんと頻繁にコンタクトを取り、またオーバーチュアのアメリカ本社へのツアーを企画するなど、さまざまな方法で検索連動型広告の魅力や将来性について、しつこく(笑)伝えました。その努力が功を奏し、代理店広告組織を立ち上げることができて、そこから一気に広告主が増え、また、検索連動型広告の認知度があがりました。

一方で、代理店を通して販路を広げる施策を取らなかったGoogleは、日本での立ち上げに苦労しているようでした。オーバーチュアから4~5年遅れて、代理店施策を始めたようです。

多くの外資系企業が、アメリカで成功したから日本でも同じやり方で上手くいくだろうと考えて始めるのですが、想定通りの結果にならないケースをいろいろと見てきました。郷に入っては郷に従えですかね、Googleはその1つの例だと思います。

企業価値を高めるサービスをルグランで提供

大久保:オーバーチュアを辞められたあとに、現在のルグランを立ち上げたということですよね。ルグランついても教えてください。

山辺:2002年にオーバーチュアを辞めて、2006年にルグランを立ち上げました。設立から15年、一貫して、企業の価値を高めるためのサービスを提供してきています。

大久保:今、社員は何人いるのですか。

山辺:スタッフは15人ほどです。正社員は少ないですね。業務委託やインターン、あとはプロジェクごとに、その都度チームを立ち上げるスタイルです。ツールは国内で開発する場合もあれば、私達が仕様を作り、開発は海外で行うケースもあります。

クライアントのニーズや、私たちがやりたいこともさまざまなので、人を増やすというよりは、プロジェクトごとにメンバーを集めて取り組んでいます。スタッフのなかには優秀なパートさんも多く、創業当初から、リモートやダイバーシティを実現しています。

「人の役に立つ広告を」気象連動型広告で原点に返る

大久保:気象に連動した広告を作ったということですが、くわしく教えてください。

山辺:オーバーチュアが発明した検索連動型広告は、本当に素晴らしく、検索する人も、広告主も、媒体のそれぞれが幸せになるエコシステムが出来上がっていました。私は、オーバーチュアでの経験から、ネット広告の原点は「全員が幸せな広告」であるべきだ、という強い想いがあります。

ですので、もう一度原点に返って、人の役に立つ広告を作りたかったのです。企業も、人の役に立つという視点が重要です。今は、過去のデータをもとに、人を追いかけるような広告や、企業の想いだけを載せたものばかりです。このような広告は、購買にはつながりません。人の役に立つ広告を考えられない企業は、今後生き残るのは難しいと思います。

大久保:人の役に立つ広告というのが、気象連動型広告ということですね。

山辺:過去のデータをもとにするのではく、お客様との接点になるものは何か、と考えたときに、海外では気象データだと言われています。実は、私達は5年以上前から、気象データに注目していました。

アメリカでも、同じく5年ほど前から、「これからのマーケティングは気象データが中心になる」と言われています。大企業が気象会社を買収して、気象データをもとにした広告配信もすでに始めています。

気象は、年、国籍関係なく、1日に3~4回、人が接触するコンテンツです。世界中の人の生活にインパクトを与えている気象データを使って、なにか役に立つサービスを作れないかと考えました。

最初に思いついたのは、気象と相性の良さそうなアパレルと組み合わせることです。例えば、イギリスの大手百貨店は、毎朝17分もかけてコーディネートを考えるという調査結果を発表しました。その理由は「その日の天気がわからないから」だそうですよ。イギリスは日本同様、季節の変化があり、また、雨が多いためその日の天気に合わないコーディネートをしてしまうと、1日が台無しになってしまうのだと思います。

私も実際に、コーディネートを考える時間を計ってみたのですが、本当に17分かかりました。毎朝の17分、この時間を短くすることはできないかと考えて、3年前に、気象と連動してコーディネートを提案する、女性向けのサービス「TNQL(テンキュール)」を作りました。その日の天気に合うコーディネートを5パターンほど提案するというサービスです。

さらに、コーディネート提案の一部にアパレルショップの広告を出すという実証実験をしました。気象に合わせておすすめコーディネートを提案したら、コンバージョン率が検索連動型広告並みにあり、気象に連動して広告を出すことの効果が確認できたわけです。

気温が1℃上下するだけで、売り上げが変わります。気象は人々の行動に大きく影響を及ぼしますから、今までそれを広告に利用していなかった方が不思議です。

大久保:ホームページに配信するのでしょうか。雨の日は、雨に関連したコンテンツがでるというイメージですか。

山辺:広告の配信先は、InstagramとFacebook、Googleといったメジャー媒体です。降水量が、この地域で何ミリ以上になったらこのコンテンツ、雨が降らないなら通常コンテンツ、といった形で天気に合わせて訴求するコンテンツを出し分けることができます。雨の場合は降水量をミリ単位で設定できますし、ユーザーがいる場所だけでなく、施設や店舗が所在する地域の天気に合わせて、広告を配信することも可能です。

降水量、降水確率、湿度など9種類の気象パターンを設定できますので、例えば、3時間後に降水量が何ミリ以上の場合は、「3時間後に雨がふりますから、必要なものを早めにオーダーしましょう」といった広告も出せるわけです。

大久保:特許を取ったほうが良さそうですね。

山辺:はい、すでに特許も取っています。過去のデータをもとに、今求めていない広告を見せるのではなく、これからあなたに必要になるものは、これではないでしょうか?と気付かせてくれる広告が気象連動型広告です。見る人の邪魔になるどころか、必要なものをすっとだしてくれます。まさに、人の役に立つ広告という、原点に立ち返るツールを作ることができたと思っています。

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(編集:創業手帳編集部)

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(取材協力: 株式会社ルグラン 代表取締役 CEO 山辺 仁美
(編集: 創業手帳編集部)



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