Dodai 佐々木裕馬|Uberなどを経験した日本人起業家が、アフリカで電動モビリティのNo1を目指す理由とは
混沌としたエチオピアで新しいビジネスをやるからこそ、日本では得られない体験ができる
世界で成長を続ける電動モビリティ市場。最近は電気自動車だけではなく、電動二輪車や電動キックボードなど、新たなプロダクトを手掛けるスタートアップが増えています。
こうした中、アフリカのエチオピアを拠点に電動二輪車のビジネスに取り組むのが、Dodai(ドダイ) Group, Inc代表取締役兼CEOの佐々木裕馬さんです。
佐々木さんは東京大学を休学して渡米。その後フランスでMBAを取得してアフリカで働き、UberやLuupといったベンチャーを経て起業されました。今回は佐々木さんがアフリカに興味を持ったきっかけやグローバルスタートアップを立ち上げた経緯について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
Dodai Group, Inc代表取締役兼CEO
東京大学卒業後、新卒でENEOSに入社し2年半石油開発事業に従事。退社後フランスの大学院エセック・ビジネススクールでMBAを取得。その後ガーナのスタートアップPEGに無給インターンで入社、3ヶ月で250人の営業部隊を統括するポジションに抜擢される。
帰国後はUber Japanの営業本部長、電動キックボードシェアサービスを手掛ける株式会社Luupの副社長を経て、2021年Dodai(ドダイ) Group, Incを創業(Dodai社の本社はアメリカ・デラウェア州)。2023年からエチオピアで電動モビリティ事業を手掛ける。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
東大入学の2日後に休学してアメリカへ。この経験がアフリカへの興味につながった
大久保:まずは佐々木さんのご経歴から教えていただけますか?
佐々木:僕は横浜市出身で、一浪して東京大学に入りました。ただもともとアメリカに行ってミュージシャンになりたいと思っていたので、東大に入った2日目から3年休学したんです。
それから1年半アルバイトをしてお金を貯めて、アメリカへ行きました。アメリカではバンドを組んで音楽活動をしましたが、全く売れず1年半後に日本へ戻りました。
その頃から漠然とアフリカに興味を持ち始めて、アフリカに行けるかなと思って新卒でENEOSに入社しました。
大久保:アフリカに興味を持ったきっかけを伺ってもいいですか?
佐々木:アメリカで生活した経験が大きいですね。普通に日本で育った僕にとって、アメリカの生活は本当にめちゃくちゃで。音楽活動はうまくいきませんでしたが、めちゃくちゃな中で新しいものを作るという体験は、すごく楽しかったんです。
明日が見通せる日本の暮らしより、明日がわからない中でガチャガチャする方が自分は好きなんだと気づきました。そこからもっとめちゃくちゃなところはどこだろうと考えて、漠然とアフリカかなと思ったんです。
アフリカへ行くには、まずアフリカで最も使われている言語であるフランス語を身につける必要があると思いました。そこで東大に復学してからは、フランス語を学ぶためにフランス文学を専攻しました。正直フランス文学には全く興味なかったんですけど。
やはりコミュニケーションする上で、語学は大事です。アメリカに行った時は全然英語はできませんでしたが、バンドのメンバーと議論する時も全部英語ですから、とにかく必死で英語を学びました。
UberやLuupの経験をもとに、エチオピアで電動モビリティビジネスを立ち上げた
大久保:その後ENEOSで2年半働いたそうですね。
佐々木:ENEOSに入ったものの、ちょうど「アラブの春」(編集部注:中東や北アフリカ地域で2011年に起こった民主化運動)が起こりまして。危険が高まっているということで、アフリカ行きは実現しませんでした。
それなら自分で行くしかないと思って、ENEOSを辞めて、フランスで有名な大学院でMBAを取ることにしました。当時の僕はアフリカで働いた経験もないし、フランス語も英語もネイティブではないし、技術力もない。そういう人間が現地に行っても、はっきり言って使えないじゃないですか。アフリカではフランスがパワーを持っているので、フランスでMBAをとれば箔がつくと思ったんです。
フランスに行ってからは、勉強よりもアフリカで働く機会を探していましたね。そんな時に、すごく面白そうなガーナのスタートアップを見つけました。
そこの社長に「君は経験がないから給料は払えないけど、6か月無給インターンでいいなら来ていいよ」と言われまして。僕はアフリカに行くために頑張ってきたわけですから、迷わずガーナへ飛びました。
ガーナでは地元の人と雑魚寝しながら、死ぬ気で働きましたね。そうしたら無給インターンは3か月に短縮されて、4か月目から会社のナンバーツーになり、いきなり250人の部下を持つことになりました。
大久保:日本ではまずできない体験ですね。ガーナのスタートアップで働いてみてどうでしたか?
佐々木:その会社の経営陣は全員欧米の人で、他のスタッフはほぼ現地の人でした。これは欧米系のスタートアップに多いパターンです。
こういう会社はたいてい経営陣が上から目線なので、現地スタッフとの間に溝があるんです。でも僕は無給インターンで、かつアジア人で、アフリカでの経験がないから学びたいという姿勢でしたので、現地スタッフとは仲良くやれていましたね。
一方で経営陣に対して、僕は言いたいことをガンガン言っていたんです。アメリカにいた頃に英語での議論には慣れていましたから。そのうち、僕が経営陣とスタッフの間に立つパイプ役になっていきました。それぞれの視点で学ぶことができて、すごくいい経験でした。
大久保:その後ガーナを離れた理由は何でしたか?
佐々木:実はもともと期限を設けていたんです。当時交際していた彼女がいて、今の妻なのですが、当然僕がフランスやアフリカにいる間は会えません。ですからフランスにMBAで1年、その後アフリカに2年いたら戻るという約束をしていました。
アフリカでの仕事は楽しかったのですが、約束の期限になったので彼女のところに戻ることにしました。彼女はスイス人なのですが、たまたま日本のスイス大使館で働いていたので日本に戻ったというわけです。
日本に戻る前提で、どこで働いたら面白いかなと考えた結果Uberに入りました。Uberでは営業本部長という肩書でしたが、営業も含めて事業全般をやっていましたね。当時のUberは、ライドシェアを国交省やタクシー業界を完全無視でやろうとしてうまくいかず、方向転換していた時期でした。国交省やタクシー会社からはすでに嫌われていましたから、大変でしたね。
大久保:その後、電動キックボードを扱うベンチャーのLuupへ転職されました。こちらはどんなきっかけでしたか?
佐々木:Uberを辞めた理由を簡単に言うと、戦略のところで僕と米国本社の意見が完全に合わなかったからです。その後はまたアフリカに行くつもりでした。
そんな時、Luupの岡井(編集部注:株式会社Luup代表取締役社長兼CEOの岡井大輝氏)と僕の共通の知り合いから、声をかけられたんです。「岡井がこういう人を探していて、佐々木君がマッチしていると思う。アフリカに行くのは知っているけど1回だけ会ってみてほしい」と言われまして。
岡井と会ってみたら、すごく意気投合したんですよ。岡井は経営者としてすごい人間だなと思いましたね。一方で彼が不得意なことは僕の得意なことかなと感じたんです。岡井も同じように思ってくれたようで、Luupへジョインすることになりました。
僕は1年あればLuupは軌道に乗ると思っていたので、1年限定の副社長兼執行役として入社しました。実際は1年3か月かかりましたが、目標まで持っていけたので、その後アフリカに飛んだという感じです。
まず電動二輪車を普及させて、将来はバッテリーのプラットフォーマーを目指す
大久保:現在手掛けている事業について、詳しく教えていただけますか?
佐々木:2023年からエチオピアで電動モビリティ事業をやっています。電動二輪車のパーツを輸入して、現地で組み立て、販売するというビジネスです。
エチオピアは人口1.3億人、平均年齢20歳という若者の多い国で、アフリカの中でも今後の成長が期待されています。
今は電動二輪車の製造と販売ですが、将来はちょっと違うことをやろうと考えています。電動二輪車のバッテリーにビジネスを絞り、バッテリーのプラットフォーマーになりたいんですよ。携帯電話で例えると、まず端末をたくさん販売して、いずれはデータ通信会社を目指す感じですね。
まずはエチオピアで、電動二輪車の認知度を上げていかないといけないと思っています。ただ認知度が上がれば、資金力のある海外企業が進出してきますよね。そういう会社は価格の安いものをバンバン売って、アフターサービスはやらないという戦略をとるはずです。それを見越して、必ずニーズがあるバッテリーに注力したいと思っています。
大久保:パーツを輸入して現地で組み立てるのはなぜでしょうか?
佐々木:理由は2つあります。まずエチオピアでは、小売業が外資に開かれていないんです。ですから外国人はエチオピアでカフェも開けないんですよ。でも現地で製造すれば、小売りができます。そういう法律上の都合で現地で組み立てています。
もう1つはコストですね。エチオピアでは出来上がったものを輸入するよりパーツを輸入して現地で組み立てた方が、関税が下がるんです。
大久保:エチオピアならではの理由があったわけですね。アフリカでの起業となると日本と違うことも多いと思いますが、いかがでしたか?
佐々木:ありすぎて、どの話をすればいいかわからないくらいです。例えばこちらで驚いたことのひとつが、法律がすぐに変わることです。
僕はUberやLuupでロビイング(※)の重要性を学んだので、エチオピアでもまず大臣に会って、こういうことをやりたいから電動モビリティを支援してくださいという話をしました。そうしたら1か月後にもう法律が変わり、突然ガソリン車が一切輸入禁止になりました。僕だけの影響ではないと思いますが、日本では考えられないですよね。ここでは事前の調整や話し合いはなく、上が決めたらもう翌日に発表するんです。
※ロビイングとは、企業や団体がビジネスを進めるため、政府や行政に対して法整備や規制の策定・変更・撤廃などを働きかけること。
これは僕らにとってプラスなことでしたが、逆にマイナスとなったこともありました。僕らが電動二輪車の販売を始めたら、売れすぎてしまいまして。その結果1か月後に法律が変わって、これまで電動二輪車に不要だったナンバープレートが突然必要になってしまいました。
日本の感覚だと「ナンバープレートを取得すればいい」と思いますが、エチオピアではそうはいきません。法律が変わったにもかかわらず「ナンバープレートの準備ができていないから出せない」と言われてしまうんです。
こういうことは、エチオピアではもう頻繁にあります。文句を言っても変わらないので、受け入れるしかありません。めちゃくちゃだという前提で準備して、その都度対応していく心持ちじゃないとやっていけないですね。
大久保:さきほどロビイングのお話がありましたが、UberやLuupでもロビイングをされていたのでしょうか?
佐々木:僕がメインでロビイングしていたわけではありませんが、重要性は痛感していました。Uberでは最初全くロビイングしなかったため、うまくいきませんでしたから。一方Luupでは代表の岡井がロビイングをものすごく頑張っていて、その結果事業がうまくいっていたのをすぐ近くで見ていました。
僕は、最終的に世の中は行くべき方向に行くと思っているんですよ。例えば日本でもライドシェアはもうそのうち普及するでしょう。でもそれがいつになるかは、ロビイングも含めやり方によって大きく変わります。エチオピアでも電動モビリティは必ず来ると確信していて、できるだけ早く来るようにロビイングを頑張っているわけです。
大久保:今のビジネスで、まず目標としているのはどのあたりですか?
佐々木:今は600万ドルの資金調達を目指しています。日本円にすると約9億円ですね。半分の300万ドルは集めることができたので、あと3か月でいけるところまで行きたいと思っています。
集めた資金をもとに、ビジネスをスケールしていきたいですね。まずは5,000台の販売を目標にしています。そのためにはやはり法律の改正が必要ですので、ロビイングを頑張っているところです。今はエチオピアの首相に会うために手を尽くしているんですよ。
起業家としてチームで事業を作ることにやりがいを感じるなら、いつか海外を目指してほしい
大久保:世界で多くの経験を積まれた佐々木さんが、起業家にアドバイスをするとしたらどんなことを伝えますか?
佐々木:一度だけの人生ですからやりたいことはやったほうがいい、ということをお伝えしたいですね。
もちろん、うまくいかない可能性はあります。僕も音楽はうまくいきませんでした。ただ結果がダメでも、学べることは必ずあります。それに自分自身で決めたことだから、後悔することはありません。
「うまくいかないかもしれない」とか「向いていないかもしれない」とか、悩む人がすごく多いですよね。確かにお金の問題や家庭の事情で、できないこともあります。でも実際には、ほとんどの方が悩んでいることは実現できるんですよ。
僕もアフリカに行きたいとか、スタートアップに行きたいとか、やりたいと思ったことは全部できましたから。優秀な人がそういうことに悩んで、チャレンジしないのはもったいないと思います。
やってみなければわかりません。それにうまくいかなかった、向いていなかったということに気づけば、その後の人生はもっとやりたいことに近づきます。さらに経験も増えるので、得しかないんです。
大久保:佐々木さんならではのご意見ですね。最後に、起業家の方に向けてメッセージをお願いできますか?
佐々木:起業家の方は、新しいチームを作って事業を作っていくところにやりがいを感じると思います。そういう方は、日本で経験を積んだら、ぜひ海外に目を向けていただきたいですね。
海外には、新しいものを作る機会がもっとたくさんあります。さらに世界から仲間を集めて、一緒に新しいものを作ることができます。
しかも作ったもののインパクトは日本よりずっと大きい。日本にいると不便なことってあまりないじゃないですか。ですから世の中が変わるほどのプロダクトやサービスを日本でこれから作ることは難しいかもしれません。一方で途上国では、自分の作ったもので人々の生活が大きく変わるということを、リアルに体験できるんですよ。
日本やアメリカくらいになると、もうイーロン・マスク氏とかスティーブ・ジョブズ氏とか、孫正義氏くらいにならないと、大きな変革はできない気がするんです。僕は自分をそう思っていなくて、あくまで普通の人でやる気はちょっとあるみたいな感じですね。
僕みたいな能力は普通だけどやる気はあるという人にとって、途上国は向いていると思います。アフリカは本当にめちゃくちゃで、課題だらけで、すごく楽しいですから、ぜひ来てください。
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(取材協力:
Dodai Group, Inc代表取締役兼CEO 佐々木裕馬)
(編集: 創業手帳編集部)