ストリーム 櫻澤香|多角経営でメンタルを保つ!17期続く「無理をしない会社運営術」

飲食開業手帳

シニア雇用にも力を入れるストリーム代表取締役に聞く。多角経営を成功させるコツとは?

創業17年目を迎える株式会社ストリームは、カレーレストラン「蜂の家」や、ラグジュアリーな個人旅行を手配する「ストリームツアーズ」など、様々な事業を運営しています。

代表取締役を務める櫻澤香さんは「経営はメンタルが重要。無理をせず、やらないと決める勇気も大切」だと語ります。

今回は、多角経営を成功させるポイントやシニア雇用に加え、コロナ禍を乗り越える飲食業の術について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

櫻澤 香(さくらざわ かおり)
株式会社ストリーム代表取締役/起業家/作家/研修講師

長崎県出身。金融業界での事務職を経て、ルイ・ヴィトン・ジャパンへ転職。常にトップの売上成績を保持。
その後、グローブ・トロッター・ジャパンの営業部長として、国内、海外の店舗展開を手掛ける。
2005年に独立。レストラン、カルチャースクール、旅行代理店の経営を行う。
主な著書に「上質で選ばれる接客の魔法」(日本実業出版社刊)、「小さな会社経営者のための多角経営術」(セルバ出版刊)がある。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役

大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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地元に貢献するため、チェーン展開を直訴

大久保:創業までの経緯を教えていただけますか?

櫻澤:最初はOLとして働いていたのですが、フランスに憧れを持ったことから、ルイヴィトン・ジャパンに転職しました。その後、​峰竜太さんのマネージャーを経て、イギリスの高級スーツケースブランドであるグローブ・トロッタージャパンで4年間営業を経験しました。副業を認可していたグローブ・トロッタージャパンに勤めながら、旅行手配業やPR業をやっていたときに、大手企業の社長さんから「『蜂の家』のカレーがおいしいからチェーン展開したい。紹介してくれないか?」と相談を受けまして。「蜂の家」は、私の地元である長崎県佐世保市にお店を構えるカレーレストランで、幼い頃からよく食べていたものの特に繋がりはなかったので、お店に直接電話して「やらせてもらえませんか?」と交渉したところ「櫻澤さんにだったら」とチェーン展開の許可をいただきました。

大久保:1本のアポイントメントの電話から、そこまでの信頼関係を構築するのは大変なことですよね。

櫻澤:地元出身だったのが大きかったと思います。PRを含め、これまで経験してきたことを組み合わせてお店を経営することで「地元に貢献したい」という思いが強かったので。また、株を売買したり、会社を大きくするためにM&Aをするといった野心的な気持ちがなかったことも、任せてもらえることになった理由の一つでしたね。

大久保:現在は、東京銀座歌舞伎座横と大手町フィナンシャルシティにて蜂の家を運営されていますね。

櫻澤:はい。2007年1月にオープンした銀座本店は、今年で15年目を迎えました。大手町フィナンシャルシティー店も今年で10年目になります。佐世保の雰囲気を味わえるようなアットホームな空間にしたいと考え、店構えや内装にお金をかけるよりも、見た目や味、入りやすさ、PR、そしてサービスに力を注いでいます。その甲斐もあり、本当にファンの方に支えられています。ファンの方に支えられていなかったら、コロナ禍を乗り越えることはできませんでしたね。

大久保:コロナ禍での飲食業は、相当大変なことだったと思います。

櫻澤:2020年5月の第1回緊急事態宣言のときは、売上が83%ダウンしました。世の中のムードが「外食は悪」という感じでしたし、海外旅行には行けない、講演は密になると弊社で行っているほかの事業もすべてがダメで。「こんなに苦しい目に遭わされるのか」という状態だったのですが、ファンの方がついていてくださったのが大きかったですね。近隣企業も軒並みリモートワークが導入されていったのですが、たまに出社された際に来店してくださったり、「全然来られないから」と、お土産に「長崎カリーの冷蔵チルドパック」を100個買ってくださるお客様や、価格帯が安価な当店で一人当たり1万円使ってくださるお客様もいて。本当にありがたいなと思っています。ファンの方に支えられていなかったら、今の状況を乗り越えていくことは難しかったと思います。

大久保:お店のファンになっていただく秘訣は何でしょうか。

櫻澤:大手町フィナンシャルシティー店は全18席なのですが、シニア世代になる私の母と叔母に運営を任せています。うちの家族はみんな世話好きな性格なのですが、今はその「世話好き」が軽薄になっている時代なので、2人の人柄に惹かれたというお客様も多いですね。特にオフィスビル街である大手町には、こういう形態のお店があまりないので「ホッとする空間で落ち着く」「実家みたい」と、よくファンのお客様から言われますね。場所柄、ハイエンドは仕事で味わっている方が多いと思うので、かっこよく決めるランチミーティングの場とは違った温もりを提供できる、「いつもの」が通じるお店でありたいと思っています。

大久保:本日来店させていただいて感じましたが、店主とのコミュニケーションの場でもありますよね。

櫻澤:そうですね。お客様もそれを求めていらっしゃる方が多くて、特に地方出身の新入社員の方や、東京に赴任してきたばかりの方は嬉しいみたいですね。「あの店に行ったら親切にしてもらえるよ」と、みなさん社内で口コミを広めてくださって。大手町フィナンシャルシティの3棟だけで1万2,000人ほどの方が勤めていらっしゃるので、口コミを広めてくださるのはとてもありがたいですね。お客様に親切にすることで、「同じランチ代1,000円を払うならこの店で食べてよかった」と思ってもらえるような場所にしたいと思っています。

批判を跳ねのけた多角的な経営

大久保:カレーレストラン以外にも、講演・研修の講師や旅行会社の経営など、様々な事業を運営されていますよね。

櫻澤:はい。起業した2005年当初は、いろんな先輩社長さんから「事業を1本に絞らないのはプロではない。そんなにいろんなことをやっていたら大成しないよ」と言われていました。特に、男性の社長の方には、本当に厳しく言われました。でもずっと「そうなのかなぁ」とモヤモヤしていたのですが、だんだんと時代が変わってきたこともあり、今この時代になってやっと「いろいろやってるのね」と肯定的に見てもらえるようになりました。

様々な事業を行うメリットは、仮に何かの事業が上手くいかなくなったとしても、ほかの事業で盛り返せるところですね。そしてそれは、経営という意味でもそうですが、「メンタルを保てる」という点が一番大きいと思います。創業から17期を迎えられたのも、多角的な事業によってもたらされる喜びがあるからだと思います。

大久保:旅行事業に関しては、ラグジュアリーな個人旅行を手配する「ストリームツアーズ」を運営してされていますね。

櫻澤:はい。ラグジュアリーブランドでの経験を活かし、オーダーメイドによる個人旅行をサポートしています。ラグジュアリーなリゾートホテルとも多数提携しており、特にトルコ旅行に特化した日本代理店として運営を行っています。創業当初はホテルの手配だけを行っていたのですが、それでは日本進出を果たしたBooking.comや大手旅行代理店と差異がつけられないと思い、ラグジュアリーなプライベートツアーを提供しようと思い至りました。

大久保:なぜトルコを選ばれたのでしょうか。

櫻澤:まず、現地で自ら車を借りなければ観光できないような、インフラが整備されてない国に特化したいと思い、いろんな国を見て回った結果、トルコに決めました。親日かつ、とても温かい国民性で味のある国なんですよね。現地スタッフと協力しながら12年事業を行っていますが、勉強になることばかりです。9カ国語を操る語学が堪能な現地スタッフや、5つ星のトリップアドバイザーにて高評価を獲得していることもあり、蜂の家同様こちらもファンの方が多いですね。大手旅行代理店ではできないようなプライベートツアーを展開することで、お客様に「来てよかったな」と思ってもらえるサービスを提供しています。

また、現在、さらにラグジュアリーなサービスを企画しているのに伴い、トルコについて改めてイチから勉強し直しているのですが、国土が広いため、一つの国であっても場所によって文化に違いがあり、すごく面白いんです。日本では、まだ海外旅行業界は低迷したままですが、ヨーロッパの方からのツアー申し込みが増えてきました。欧米の方は、日本人が行かないような場所も観光を希望されるので、ターゲットを日本人に絞らず、インターネット上で様々な国からの依頼を受けていることが、コロナ禍を乗り越えるきっかけの一つになりましたね

経営者に必要なのは、メンタルを保つための工夫

大久保:国や業種を超え、様々な事業を展開していくなかで、一番大切にされていることは何ですか?

櫻澤:「comfortable」をテーマにしています。快適で、ストレスがMAXにならない状態でいること。メンタルを保つことが大切ですね。経営って、心一つで良い方にも悪い方にも変化していくものだと思うんです。

大久保:メンタルを保つ秘訣は何でしょうか。

櫻澤人に会うことですね。人に会えないと、やる気やパワーが落ちるんです。お店にお客様がいて、喜んでくださる顔を直接見れたりすると、やはりパワーがみなぎります。コロナ前は、スタッフと2カ月に1度食事に行っていたのですが、食事会という場でコミュニケーションを取ることによってスタッフの士気が上がり、結果的に売り上げも上昇したんです。私も、みんなを支えるために頑張ろうと思えるので、限られた人員に長く勤めてもらっている私のような会社の社長は、チームリーダーのように立ち回る方がいいと思っています。

食事会は、そのとき流行っているお店に行くのですが、「このメニューはうちでも出せるかも」「じゃあ、カレーレストランだけど餃子も出す?」というような感じで、その場で新メニューについて意見を出し合ったり。店舗の状況も「先日、お客様がこんなことをおっしゃっていて」とお客様との会話を参考にするなど、みんなから意見を吸い上げる時間にしています。それぞれが全然違う考えを持っているからこそ、いろんな意見を出し合ってコミュニケーションを取る。そういう場にしていますね。

大久保:マーケティングを踏まえた企画会議も重要ですが、雑談の場から生まれる意見交換も重要ですよね。

櫻澤:そうなんです。銀座駅と大手町駅ではたった3駅しか離れていないのに、マーケットが全然違うんですよ。そのため、メニューも値段も店舗によって変えていますし、店のレイアウトもお客様の動向を見ながら変えています。店内の小物を手縫いで作り「昭和の田舎感」を演出すると、「温かみがあって素敵」と写真を撮られるお客様もいらっしゃるんです。

大久保:今の店舗数だからこそできることもありますね。

櫻澤:実は4店舗あった時代もあるのですが、今の店舗数の方が快適ですね。とても安定感があって、みんな仲良くて、すごくcomfortableです。無理して稼いでも年間の所得が少ししか違わないのなら、快適に運営できる方がいいと思うんです。

また、当店は、毎日長崎の蜂の家から商品を空輸しているんです。本場の味を再現することはできないですし、創業者の味は変えてはいけないので、冷蔵庫も最小限にして毎日届いたものを毎日入れ替える手法を取っています。蜂の家は作り方がしっかりしていて、工場で滅菌までやっているので、東京でも長崎と同じ味を提供できるんです。

大久保:あえて頑張って作ろうとしないということも大切なのですね。

櫻澤:はい。再現しようとしても、どうしても味が変わってしまいますし、それでは長崎に貢献できないので。71年続いている完成された商品を長崎から直接仕入れる。そうすることで、これまでに数億円は貢献できています。

できる範囲でやってもらうことが大切


大久保:櫻澤さんは、シニア雇用にも力を入れておられるんですよね。

櫻澤:はい。銀座本店では、78歳までアルバイトをされた方もいらっしゃいました。シニア雇用では特に「できる範囲でやってもらうこと」を大切にしています。例えば、料理の配膳はお願いするけど、レジはほかの従業員が担当するなど、担当業務の範囲を明確にしています。

また、銀座本店は、現在若い男性従業員が取り仕切っているのでUber Eatsも導入していますが、大手町フィナンシャルシティー店はシニア世代のみなので導入していません。タブレットの扱いも難しいですし、多い時には60分で120食提供するランチ時にUber Eatsの注文が入ると収拾がつかなくなるので、「Uber Eatsはやらない」「土日祝日は休み」と決めています。さらに、コロナ禍になり、銀座本店は土日祝日は17時で閉店しています。「17時で閉めるっておかしくない?」とよく言われるのですが、17時まででも努力すればやれるなと。ちょっと昔に戻った感じですね。無理せず、できる範囲でやっていくことが長く続ける秘訣です。

大久保:無理をせず、自分のメンタルを大事にしながら働くことが大切なのですね。

櫻澤:そうですね。メンタルを保てるなら、私自身は365日フルタイム働いても大丈夫なのですが、従業員には快適に過ごしてほしいので、休みをしっかり確保し、大企業並みの福利厚生を完備する努力をしています。社会保険の完備はもちろんですが、定期健康診断に加え、歯周病検診など、当たり前のものは全部完備しています。また、コロナ禍では「みんな出勤するのが辛いだろうな」と思ったので、ボーナスや危険手当も出しました。コロナ禍で飲食事業では稼げなかったので、投資信託で捻出して従業員に分配しましたね。

大久保:そこまでされる方は、なかなかいないと思います。従業員への思いがすごく伝わってきます。メンタルを保てる範囲でご自身は頑張るけれども、従業員へは多くを求めすぎないという経営方針も櫻澤さんらしい部分ですね。

櫻澤:私自身、気合いも根性もある方だとは思いますが、それを一緒に働くメンバーには求めないですね。シニアの方もいらっしゃいますし、求めたら嫌になって辞めちゃうと思うんですよね。「働いてくれてありがとう」の思いだけです。

実績作りで受けた融資が役立った

大久保:多角的な事業を展開されていますが、創業当時、資金調達はどのようにされたのでしょうか。

櫻澤:私は元々お金を借りない経営方針で、「予算内でやる」と決めたら欲張らず、店舗作りにもあまりお金をかけないやり方で事業を行ってきました。また、創業当時の16~17年前は、融資を受けようとしても「女性だから」と全然相手にされなかったんですよね。でも、2012年に大手町フィナンシャルシティー店を新たにオープンするときに、日本政策金融公庫から融資を受けた実績を作れるのは大きいなと思い、1度借りてみたんです。あくまで実績作りとして借りたので、結局そのまま返したのですが、それがコロナ禍になって本当に役立ちました

コロナウイルスが流行し始めたときに「もしかしたら、これから何年間もこの状態が続くかもしれない。それなら、今後、資金繰りが苦しくなったときに資金があった方がいいな」と思い、日本政策金融公庫に融資を受けたいと電話をしたんです。すると、完済実績があったことから、スムーズに申請が通りました。お店をオープンした当初は必要ではなかったけれど、あのとき融資を受けていてよかったと思いましたね。

大久保:たとえ必要なくても、借りられるときに一度は借りておいた方がいいですよね。実績も経験値も上がりますし。ちなみに、申請はご自身でされたのですか?

櫻澤:はい。全部自分でやりました。元々、経理・総務が自分でできるので、士業へ頼むのは士業の認証が必要なときだけにしようと。税理士以外は契約せず、給与明細の作成や社会保険の手続き、労務も全部自分で完結させています。最初の1期、2期はまだ会社がそれほど育っていなかったので、税理士にも依頼せず全部自分でやっていたのですが、税務署の方に「税理士さんをつけてくださいね」と言われてしまって。そのときはまだ「顧問料払えるかな」という時期だったのですが、そのときに顧問契約をしました。

大久保:それでは最後に、これから起業される方や起業されたばかりの方に向けてメッセージをお願いします。

櫻澤:とりあえずはキャッシュフローだけを見ておけば大丈夫だと思います。「今、現金がいくらあるのか」ということに着目しておけば、大怪我はしないと私は思っています。あとは、融資の申請を一度は経験しておくと、勉強になりますし、会社としても経営者としても一皮剥ける気がします。私は、元々貸借対照表や決算書を作成するのも見るのも好きだったのですが、全ページ暗記するほど読み込むようになったのはコロナ禍で融資を受けたおかげです。

それまでは、損益計算書や貸借対照表を見て「今は経費これくらいね」で済んでいたものが、政策金融機関と付き合うと「3期丸ごと提出して」と言われますから。そうすると、自分の成績を振り返るわけですよね。自分で書類をまとめて、数値を全部読み込むようになったことで、やっと経営者っぽくなれた気がします。そのため、嫌にならない程度で、経理業務に向き合ってもらえればと思います。

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(編集:創業手帳編集部)

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