TalentX  鈴木貴史|タレント獲得プラットフォーム「Myシリーズ」を通じて、人と組織のポテンシャル最大化を目指す

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年09月に行われた取材時点のものです。

雇用の最適配置や流動化を支援し、転職潜在層を掘り起こす


スタートアップ企業は知名度が低い、採用リソースがない、自社にマッチする人材が獲得できないなどの採用課題を抱えています。

これらの採用課題の解決を目指すのが、「Myシリーズ」を展開し雇用の最適配置や流動化を支援している株式会社TalentXです。社員が人材を紹介するリファラル採用などを活用し、企業と人とを本質的につなげています。

今回は代表取締役社長の鈴木さんに、会社を設立するまでの経緯や人材採用の今後の展望などについて、創業手帳代表の大久保がお聞きしました。

鈴木 貴史(すずき たかふみ)
株式会社TalentX 代表取締役社長
起業家。『戦わない採用』著者。国内1,000 社、100 万名が利用する採用マーケティングSaaS を運営。日本の採用の在り方に課題を感じ、2018 年にTalentX を設立。日本初のリファラル採用サービス「MyRefer」など、タレント獲得プラットフォーム「Myシリーズ」をリリース。受賞歴には、日本の人事部「HR Award2019」、東洋経済「すごいベンチャー100」、経済産業省後援「第9回HRテクノロジー大賞」採用サービス部門優秀賞など。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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雇用において本質的なマッチングが行われていないことに気づく


大久保:これまでのご経歴から教えてください。

鈴木:室町時代くらいから続く和歌山県のお寺が自分のルーツです。どちらかというと歴史とかルールを重んじて育ちました。その中で、自分自身で新しいものを生み出したいという欲求が幼少期からありました。

そのエネルギーが元になって、大学時代から起業を志していました。

大久保:最初の社会人時代は、どんな感じだったんでしょうか?

鈴木:社会価値を大きな規模で創出する起業家になりたいと考え、インテリジェンスという会社に新卒で入社しました。インテリジェンスは当時、起業家をたくさん輩出している登竜門という印象がありましたね。

働きながらどういう領域で起業するかを考えた時に、人材領域だと思いました。法人側のマッチング支援をしている中で、雇用の最適配置や流動化が本質的に行われていないという課題意識を持ったのです。

求人広告や人材紹介において企業の本質的な魅力をしっかりと引き出し、求職者に届けられているイメージがありませんでした。

それから、日本では転職をされる方が少ないことも気になりました。現職に不満や不安はあっても、一歩をなかなか踏み出せない事例を目の当たりにしてきたんです。

そこで、人と人とのつながりを活かして本質的なマッチングを生み出しながら、日本の求職者に新しい機会提供ができるサービスを作りたいと考えて創業しました。

大久保:その後、どのようにして起業されたのですか?

鈴木:インテリジェンスには、社内ベンチャー制度がありました。その制度に運良く通過できたため1億円の資金調達ができて、MyReferを創業しました。

ただし、社内の人材関係の事業とカニバリを起こすビジネスモデルだったため、MBOをして独立しました。

大久保:MBOによる起業はいかがでしたか?

鈴木:インテリジェンス社内のリソースを引っ張ることはなかったので、「MBOだから」という特別なことはあまりなかったですね。株主が変わったようなイメージかなと思います。

いきなりスタートアップを創業する場合、シードステージから1億円の資金を投入して事業の実験をできることは少ないため、ダイナミックに事業展開できる利点はありました。その後は株主の一部が事業会社からVCに変わったようなイメージで、MBOだから経営の方法論が大く変わるということはなかったですね。

リファラル採用を活性化させるプラットフォームビジネスからスタート

大久保:事業が伸びたターニングポイントはありますか?

鈴木:ビジネスモデルの軸足をSaaSに置いて、どんどん営業してエンタープライズを開拓していく意思決定をしてから、徐々にマーケットに認知が広がっていった感じです。

当初は営業組織やコンサル組織ありきではないプラットフォームビジネスを志向していまして、リファラル採用を活性化させるクラウドサービスとして「MyRefer」をスタートしました。

社員がリファラルサイトを活性化させるのではなく、転職者側から自分の知人・友人経由で応募ができるプラットフォームを作ろうとしていたのです。

当時は営業組織を持たずに、フリーミアムで日本のさまざまな企業にMyReferを使ってもらいました。

エンタープライズも含めて200社ぐらいの申し込みがありましたが、実際に使っていただいたお客さんは10社ぐらいしかありませんでした。

リファラル採用のハードルには、割と根深い日本の採用の習慣と慣習、人事制度が結構あります。例えばリファラル採用を進めていく上で、土日に従業員が紹介活動をすると業務に当たるのではないかとなり、労働組合向けの資料を作って社内を通さないといけません。

リファラルが全然浸透していない中で、転職者からアプローチしていく手法は先を行き過ぎたなと感じました。2015年に、営業やコンサルティングありきのBtoB SaaSに路線変更しました。

大久保:プラットフォームとしてよくできていても、日本の市場で広めるには人による折衝みたいなものが必要なのでしょうか?

鈴木:おっしゃる通りだと思います。特に日本のBtoB産業に関しては、諸外国と比較して社内SEの人数が少ないです。HR領域でいうと、長らく新卒の終身雇用一括採用でしたので、人事において新しいテクノロジーへのリテラシーが育ちきってないところがあります。

大久保:MyRefer、MyTalent、MyBrandなど複数のサービスを展開していますが、どのように増やされたのですか?

鈴木:基本的には採用マーケティングのプラットフォームを作るという思想のもとで、他社と戦わずに転職の潜在層に対してマーケティングをしています。

日本の採用版セールスフォースや、採用版ハブスポットのようなポジションを作っていきたいと思っています。

「MyRefer」は面倒な広報業務を半自動化し、負荷をかけずにリファラル採用を推進していくサービスです。

リファラル採用で紹介する友人とは、転職活動を積極的に実施していない転職潜在層です。そういう潜在層に対し、リファラル以外の候補者もプールしてマーケティングできるのが「MyTalent」というサービスです。

採用ブランディングとして自社の魅力を伝えるメディア制作や、リファラル採用をやっている中で、自社のどこをおすすめしたいかといった口コミのデータを半自動で掲載できるのが「MyBrand」ですね。

MyBrandではこれまで採用サイトを外部の制作会社に委託していたのを、ノーコードで自前制作できます。また、エージェントと外部のリクルーターに依頼していたものを従業員ができるようになり、企業が効率良く採用力を強化していくことができます。

MyReferというリファラル採用を促進するサービスから創業してはいますが、全体的な世界観としては、企業が外部のリクルーティングサービスを活用して、局所的な採用活動をし続けるのではなく企業の採用力自体を持続的に高めるようなテクノロジーとコンサルティングを作ってきました。

外部の人材紹介リクルーターではなく、内部の従業員リクルーターを活用するMyRefer、外部の広告メディアではなく、自社の採用メディアを制作するMyBrand、外部のスカウトデータベースではなく、自社のスカウトデータベースを構築するMyTalentなど、企業の採用力を強化するためのプラットフォームをMyReferで培ったデータやアセットを起点に拡張してきたイメージです。

経営陣のコミットメントがリファラル採用を成功に導く


大久保:リファラル採用における重要なポイントとは、どのようなことでしょうか?

鈴木経営陣のコミットメントが一番重要だと思います。

リファラルにしろ、採用マーケティング全般にしろ、人事だけの仕事と捉えるのではなく、トップがコミットメントしているか否かが成功に大きく関わっています。

大久保:リファラルはどこから手を付けたらよいのでしょうか?

鈴木:自分自身の身近な友人たちをリストアップするところから始めます。この際に重要なのが、今転職を考えているかという縛りを入れないことです。あの人は優秀だとか、この人は一緒に働きたいという人たちをまずはリストアップします。

その人たちとご飯を食べに行って「最近どう?」みたいな話をする関係性を築いていくことが重要です。

大久保:今、転職したい段階ではない人、すなわち潜在層の頃からアプローチしておくのは見落としがちなポイントですね。

鈴木:特にリファラルの場合は、今声をかけてすぐに動く人は少数です。早くても半年、長ければ一年はリードタイムがかかります。

ただしスタートアップ企業であれば、その一人のタレントが入るかどうかで事業の成長速度が大きく変わるので、優秀な人材との接点を常に持ち続けることが重要だなと思います。

大久保:リファラルでの注意点はありますか?

鈴木リアルな仕事観を語るということは、ミスマッチを生まないために重要だと思います。

リファラル採用は、カジュアルに応募してカジュアルに入社する手段です。ベンチャーの場合は「じゃあうち来ない?」というような勢いで入っていくケースって多いですよね。だからこそ、「実はこういうところが結構大変だよ」などとリアルな仕事観を語ることが重要です。

課題もしっかりと提示した上で、ここを一緒に解決してほしいと伝えて仲間を集めるのが一番いいと思います。

アルムナイ・タレントプールなど採用手法が多様化してきた


大久保:今後人材のあり方、採用のあり方はどう変わっていくと思いますか?

鈴木:採用手法、転職手法は、かつてと比較してかなり多様化が進んでいます。特に大企業が新卒一括採用からジョブ型雇用に切り替えて、キャリア採用をすごく強化しはじめました。

いかに潜在層にアプローチしていくかというところで、いろいろな手法がトレンドになっています。例えば、自社の従業員のつながりを活かしたリファラル採用もそうですし、アルムナイという自社を退職した社員に戻ってきてもらうこともそうです。

また、最終選考で見送りになった人のデータをプールして、再度アプローチをしていくタレントプールもあります。

リファラル以外も含めて、ハローワークや人材紹介転職サイト以外の流入が増えてきています。

今後は企業の人材獲得力がどんどん高くなり、終身雇用ではなくスキルアップによるキャリアチャレンジが普通になっていくと、人材の流動性がもっと高くなっていくでしょう。

大久保:今後は採用の常識や作法も変わっていくのですね。

鈴木:人と組織の関係性は変わっていくだろうと思います。会社に適した採用や組織戦略というのは、どういう事業をやっていてどういうカルチャーなのかという点に紐付くと思います。

面白い例で言うと、オービックという会社は新卒採用しかやっていません。世の中がジョブ型雇用やキャリア多様性を謳っている中でも、自社のスタンスを貫いています。そのようにして、事業も企業価値も伸びている会社です。

自社の事業をグロースするための採用戦略は、トレンドに乗るのではなく新卒一括採用でやっていくことなんだと考えているのでしょう。

「どういう人材をどういう手段で獲得するのか」に経営者がしっかり知恵を使って全力を出していくことがより重要になっていくでしょう。

大久保:工夫の一つとしてタレントプールは面白い手法ですね。一方でオペレーションが大変そうですが、いかがですか?

鈴木:タレントプールにはいろいろなパターンがあります。このポストではミスマッチだけどこちらのポストだと大丈夫という人材のデータをプールするケースや、候補者さん側から辞退されたケース、また退職社員やリファラルを通じて出会ったケースなどにおいてデータを蓄積していきます。

これまで各社は応募データを利活用できていなかったのですが、まず資産としてタレントプールしていく発想から始めるということです。

次にその人へのアプローチという話なのですが、お見送りとした人にアプローチするのは気まずいなど、そういう心理的ハードルでなかなか一歩踏み出せない会社が意外と多いです。ところが私たちがリサーチした結果によると、求職者の8割が選考に進んだ会社から再度スカウトがあったら嬉しいと言っています。

組織運営はゴールから逆算する


大久保:起業家やスタートアップの方に向けて、採用に関するアドバイスはありますか?

鈴木:採用担当は置いたほうがいいですね。基本的に組織運営はゴールからの逆算で作っていったほうがいいと思います。従業員数が1名なら10名から逆算する、10名だったら50名から逆算して考えるということです。

その上で、人事制度や必要な人員を考えた方がいいと思います。そして採用担当は、従業員10名の時からいた方が望ましいです。採用の複雑性がかつてと比較して非常に高くなってきています。

例えばエンジニアを採用するとなると、エンジニアの中でもフロントエンドエンジニア、サーバーサイドエンジニア、フルスタックエンジニアのみでなく、SREやQAエンジニア等、より細分化された職種が増えています。営業職の中でもインサイドセールス、フィールドセールスのように専門性が広がっています。

専門の担当者がいないとクリティカルな施策ができないので、組織の拡大を見越して早期の段階でHR担当を置くべきだと思います。

組織や採用に関して、しっかりと同じ目線を持ってできる人を置くのがとても重要です。

コロナ禍の困難な状況で、筋肉質な組織運営へと大きな改革を行った


大久保:起業して一番大変だったことと、一番良かったことについて教えてください。

鈴木:大変だったのは、導入していただいてるお客さまから、コロナ禍で採用を凍結するので一旦システム解約したいという声が非常に多かったことです。

そういう困難な環境では、より筋肉質な組織運営が求められると思います。スタートアップ企業は皆でフラットにアイデアを出し合い、自律的にビジョンを追いかけるティール組織が多いですし、弊社も創業期はそのような文化でしたが、コロナのタイミングではロマンより算盤の方が重要になってきました。

組織の舵を大きく切りまして、階層をしっかり作って筋肉質にKPIを追っていく、すごく大きな組織変革をしました。結果的にコロナ禍でも昨対比で160%も伸びることができました。

良かったことは、我々のプラットフォームで累計1万名以上の雇用を創出でき、このサービスがなくなったら世の中が不便になるというインフラに近いような状況までプロダクトが伸びたことです。

お客様の声から、雇用の最適配置や潜在層のポジティブな流動化を支援している実感を得ています。

令和を代表する会社を創りたい

大久保:今後の夢はありますか?

鈴木:「令和を代表する会社を創る」のが私自身の夢であり、会社のコンセプトです。

今、採用マーケティングのビジネスから入って、社会に対して雇用の最適配置や流動化の支援をやっています。

私たちの会社がビジョナリーカンパニーとしてインフラサービスを生み出し続けることが、その先にある究極の目標です。

大久保:最後に読者の方にメッセージをお願いします。

鈴木:人的資本経営がトレンドになっている中で、その入り口の「採用の変革」はすごく重要なテーマだと思っています。

人材採用とかHRというところに対して、そこまでリソースを割けていない経営者も多いのではないでしょうか。

採用やHRの変革が自社の事業を前進させるとても重要な要素であると、共通認識として持ってほしいですね。

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(取材協力: 株式会社TalentX 代表取締役社長 鈴木貴史
(編集: 創業手帳編集部)



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