スペースマーケット 重松 大輔|レンタルスペースの革命児が語る、WEB起業成功の法則

創業手帳
※このインタビュー内容は2016年05月に行われた取材時点のものです。

大企業もベンチャーも経験した起業家、スペースマーケット代表・重松大輔氏インタビュー

(2016/04/18更新)

今の時代、どんな仕事にもインターネットが深く関わってきます。しかしその手軽さに反し、インターネットをビジネスにしようとすると、そこには他業界とは違った法則があります。ではWEB業界で起業するならどんなことに気を配る必要があるでしょう?
今回は、大企業、ベンチャーを経て、オンライン上で貸しスペースをマッチングする会社を起業した重松氏に、WEB業界の法則を伺いました。

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重松大輔(しげまつだいすけ)
重松大輔(株式会社スペースマーケット代表取締役CEO)
1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。
2000年NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション(PR誌編集長)等を担当。 2006年、当時10数名の株式会社フォトクリエイトに参画し、新規事業、広報、採用などを担当。2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、全国の貸しスペースをマッチングする株式会社スペースマーケットを創業。

事業ではなく、ニーズが先にあった

ーまず初めに、スペースマーケットさんの事業について教えてください。

重松:インターネット上でスペースを貸し借りできるサイトを運営しています。スペースを貸したい人が登録して、借りたい人が借りるというプラットフォームです。基本的には、時間や借りる時間などの調整はオンライン上で物件のオーナーさんと利用者が直接やり取りします。

現在は5,500件程のレンタルスペースが掲載されています。多くの物件からニーズにあったレンタルスペースを探せます。個人で探すより手間と価格が節約できるうえ、今までに無い安くてキレイでリーズナブルな物件を心がけています。

掲載物件には、今までにない切り口の物件がならぶ

掲載物件には、今までにない切り口の物件がならぶ

ーご自身で起業しようと思った経緯は?

重松:2000年にNTT東日本に入社しましたが、30歳を手前にして「本当にこれでいいのかな」と思ったのです。それまではいわゆる大企業にいたので、次はスタートアップ、つまりベンチャーに挑戦しようと考えました。その時、たまたま友人が創業して「一緒にやろうよ」と声を掛けてくれたんです。それが株式会社フォトクリエイトという、イベント写真の撮影とオンライン販売を手掛ける会社です。

そこで様々な新規事業の立ち上げや、十数人から100人にまで企業が成長していく様子を目の当たりにしました。またIPO(新規公開株)を通してひとつの会社の形を作るという経験もしたので、自分でも何かやってみたいなと思ったのです。

ー起業の何に魅力を感じたのですか?

重松:実は、消去法……でしたね。今さら転職というタイミングでもなかったし、どうせやるなら起業しようとチャレンジしました。フォトクリエイトでさまざまな新規事業を立ち上げるなか、段々とビジネスの作り方やツボも分かってきたし、人脈もできたし、また妻がVC(ベンチャーキャピタル)だという後押しもありましたね。共同創業者となる知人と一緒に、事業のネタ探しを始めました。

ービジネスモデルとして「インターネットを介したレンタルスペース」に着目したのは?

重松:海外のビジネス動向などをチェックしていると、シェアリング行為がひとつの大きなトレンドになりつつあるということが分かったんです。そんなシェアリングエコノミーの要素があるビジネスを日本で出来たら面白いなと思ったのがきっかけのひとつですね。

所属していたフォトクリエイトでも、イベントを開催する時、場所探しに困っていたことがあって、よく考えると場所を簡単に探せるプラットフォームって無いなと気づきました。その一方で、世の中には空いているスペースがいっぱいある。それらをもっと簡単に結びつけられないかなと思ったのが、もうひとつのきっかけでしたね。

最近では似たようなサイトがいくつも出てきましたし、創業当時もシェアオフィスはあったけれども、それを統一しているプラットフォームは無かったんです。多くの物件から一度にニーズに合ったものを見つけられる場所探しの手段として、第一号を作ろうと思いました。

そんな状況もあり、起業のネタを探し始めてから3ヶ月ぐらいでこのビジネスをやろうと決めました。それから半年後に、会社を立ち上げました。
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ー税理士さんなど専門家には、早い段階で相談されたのですか?

重松:はい。税理士さんと弁護士さんには早い段階から相談をしていました。自分でやろうとすると、労力も時間もとられて、本業が疎かなってしまいますからね。もっと本来的な事業に価値を出すためにも、なるべく自分で事務作業はやらないようにお願いしました。

ー創業資金は融資ですか?

重松:1000万の資本金については、すべて自己資金です。妻の理解も支えも大きかったですね。事業のプロトタイプを作るにあたっては自己資金でいける所までいって、ある程度サービスの形ができたら、資金調達はエクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)しようかなと思っていました。

ーWEBサービスに向いた事業立ち上げ方法かもしれませんね

重松:そうですね。飲食業だとすぐ売上げが立ちますけど、インターネットのサービスはお客様に利用してもらうまでに時間がかかります。サービスが立ち上がってしまうと、急激に結果が出てくるんでしょうけれどね。

それでも、起業する前からある程度ビジネスモデルを固めて、営業もした上でのスタートでした。前職での繋がりやネットワークもあったので、初めは身近な方々に利用いただき、スムーズに起業できました。また、前職で新規事業立ち上げの経験があったので、必要なものやつまずくポイントがある程度分かっていたのも、問題なく起業できた大きな理由のひとつだと思います。

ー創業にあたり、やっておいて良かったことは?

重松:なにより、たくさんの“人脈”を作っていたことですね。スタートアップ会や、経営者のネットワークがあったので、「こういうビジネスやろうと思うんですけど、どうですか?」と相談できました。昔から知っていた方が多いし、気楽に話せましたね。経営者同士でしか分からない世界があるので、同じ経営者の友人達と過ごすことで、視点が上がるし、付き合う人の仕事のレベルも上がります

それに、私はソーシャルでも自分の意見を発信しているので、相談されたほうもこちらの考え方や思想を理解した上でアドバイスをくれるんです。起業にあたってすごく良い環境にいたと思います。

お客様の声を聞き、改善していく

重松「面白味のない会議室の情報がただ並んでいる…それを劇的に変えたかったですね」

重松「面白味のない会議室の情報がただ並んでいる…それを劇的に変えたかったですね」

ーサービスの提供が始まってから「お客さんの反応が予想と違った」ということはありませんでしたか?

重松:当然ありますよ。今はすべてWEBで行っていますが、最初は自分で顧客サポートをして、直接ヒアリングしていたので、お客様に確認しながら改善していきました。また常に意識していたのは、既存サービスと差別化することです。既存の何を置き換えたサービスにするか、という考えは常に持ちながら進めていましたね。

ー具体的に、どういうポイントを差別化しようとしましたか?

重松:まずはコンセプト。そして使い勝手の良さですね。
実は、会議室の検索サイトのようなものはいっぱいあったんです。けれども2000年あたりの古いUI(ユーザインタフェース:コンピュータを操作するときの画面表示、ウインドウ、メニューの言葉などの表現や操作感)なので、サイトを見ていても全然楽しくない。図鑑みたいにあまり面白味のない会議室の情報がただ並んでいる……といったサイトしか存在していなかったんです。それを劇的に変えたかったですね。楽しく目的のものを探せるようにしたかった。

ー今は、写真であっと惹かれるサイトですよね

重松:写真は力を入れましたね。また会議室だけでなく、車や島やキッチンや一軒家など、「こんなのも借りれちゃうんだ!」と驚くようなスペースもレンタルしようと考えていました。固定概念は壊していこうと思い、いろんな場所に交渉しました。

ーお客さんの声を聞きながら、どういった所が変わってきましたか?

重松:サービス内容の変化としては、サイトのデザインには少しずつ手をいれています。最初にしっかり作ったので基礎は変わることはありませんが、デザインにはトレンドがありますから、定期的にリニューアルしていますね。

また、もっとも大きな変化は、個人のお客様が増えてきたことです。当初は法人向けのBtoBサービスだったのですが、今では個人でスペースをレンタルするBtoCの割合が8割を占めるようになりました。

やっぱり、最初からBtoCは難しいんですよ。こちらも予測できないし、信用も得られにくい。そのために意図的に法人の方に営業していました。そのうちにSEOの効果が現れてきたり、認知度が上がってきて、いろいろな場所から「こんな場所も貸したいのですができますか?」という問い合わせが増えてきたんです。貸し出されるスペースのバリエーションが増えて、個人の方にも使い勝手の良いレンタルスペースが掲載されるようになっていきました。皆様、ミーティングやちょっとした貸切パーティーとして使ってくださるケースが多いですね。

ー今後、目指しているビジョンは?

重松:まずはとにかくレンタルできる場所の数を増やしていくことですね。今は5,000件程度などですが、2年後には5万件、5年後に10万件が目標イメージです。大手の飲食系検索サイトは30万件くらいあるので、そのボリュームを目指していきたいです。WEBのサービスですから、今の社員30人規模でも仕組みがしっかりしていれば運営は問題ないと思っています。

また、今後は民泊や宿泊のニーズが増えてくると思います。今でも空き家や古民家はレンタルされているのですが、法律の問題上、泊まることができないんですよ。それを有効活用できるようにしていきたいですね。

ーレンタルスペース以外の事業展開も考えているのですか?

重松:スペースに付随してイベントを企画したりといったことは、すでに法人向けに行っています。社員総会や、経営者向けの交流会や、大手人材系企業と一緒にイベントを企画したりもしていますね。

ー海外進出は?

重松:いずれはやりたいですね。海外にはスペースがたくさんありますし、たとえばシンガポール等のアジアに非常にウケが良さそうなサービスだと思っています。集まって何かをするというニーズは、どこの国にもありますしね。でも今はまだサイトは英語対応していないですし、いったんは日本で形にしてからです。関西に拠点を増やしてもいいかなと思っています。

ビジョンを掲げ、掘り下げる

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ー起業して良かったことは?

重松:自分が思い描いていた世界観がどんどん実現していくことですね。「こうしたい」というビジョンを掲げておくと優秀な人が集まってきます。彼らと働くのは非常に楽しいですよ。

一方で責任も多いので、仕事から離れる時間がなく、夢の中でも仕事をしています。だから、たまにフラっと遊びに行きたいなという気にもなりますね(笑)。ずっと仕事でハイな状態は楽しいんですけど、反面、休みがなくて体力も精神力もいります。スポーツなどでリフレッシュしたいですね。

ー起業にあたって気を付けた方がよいところは?

重松:いろいろ広げすぎないことですね。やはり最初は不安なので、つい色んな事をやりそうになってしまうんですけど、それは良くない。基本的にはひとつのことに集中して、狭い所を一生懸命頑張っていく。それがちゃんと形になったらどんどん広げてく……という感じですね。やりたい事ではなく、資金を得るために始めた副業がメインになってしまう会社って結構あると思うんです。そうならないように気をつけなくてはいけないですね。

今の時代、「企業化」しないと日本は沈んでいく。新しいものを作っていくということはすごく大事ですし、起業はどんどんやった方がいいですね。自分でやって、失敗してみないと分からないですよ。

(編集:創業手帳編集部)



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