スタートアップファクトリー 鈴木おさむ|放送作家を引退後ベンチャーファンドを立ち上げた理由とは

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年09月に行われた取材時点のものです。

50代で違う世界に飛び込んだら、新しい自分の価値に気づけた。本当の人生に向き合えてワクワクしている


「SMAP×SMAP」などの人気番組を手掛け、30年以上放送作家として活躍された鈴木おさむさん。2024年に放送作家を引退し、現在はベンチャーファンド「スタートアップファクトリー」を立ち上げ、その代表を務めています。

実は約5年前からフリーのシェアオフィスを作り、若い起業家たちと交流していたという鈴木さん。「ファンドを通じて、スタートアップと投資家の架け橋になりたいんです。これまでと違う新しい世界でのチャレンジに、ワクワクしています」と語ります。

今回は鈴木さんが放送作家を引退後なぜファンドを立ち上げたのか、今後どのような展望をお持ちかについて、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

鈴木おさむ
スタートアップファクトリー 代表
1972年生まれ、千葉県出身。19歳の時に放送作家になり、それから32年間、様々なコンテンツを生み出す。2024年3月31日をもち放送作家・脚本業を引退し、現在は、TOC向けファンド「スタートアップファクトリー」を立ち上げ、その代表を務める。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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若い起業家たちのがむしゃらに頑張る姿を見て支援したいと思った


大久保:まずは放送作家を辞められた理由について、あらためて伺えますか?

鈴木:僕は32年放送業界で仕事をしてきまして、その途中2016年にずっと一緒に仕事をさせてもらっていたSMAPが解散しました。SMAPというのはマネジメントやスタッフも含めて巨大な船でした。この船に一流クリエイターが次から次へ乗ってくるので、本当に刺激的な時間でした。

SMAP解散後も5年くらい頑張って、もちろんやりがいのある仕事をたくさんやらせていただいたんですが、僕はやっぱり彼らに認めてほしくて全ての仕事を頑張ってこれたんだなと気づきました。これがまず1つの理由ですね。

もう1つは、テレビの世界はこのまま行くと売り上げは下がっていくばかりだし、自分がしてきたような番組作りはできなくなると思いました。それに年齢も50代になると、アドバイザー的な立ち位置になってきますよね。でも僕はもうちょっとプレイヤーとして頑張りたかった。だから、このタイミングでテレビというステージを降りた方がいいのかなって思ったんです。

あとはテレビの世界にいる人って、たいていそこに居続けます。だから僕みたいな人間が外に出ることで、何か刺激になるんじゃないかなって思っていました。

大久保:放送作家を辞める前から、起業家の支援をしようと思われていたんですか?

鈴木:放送作家をやめるのが先でした。周りに辞める話をした時、よく遊んでいるスタートアップの子たちから「おさむさんはファンドを本気でやる気はありませんか?」って言われて、面白そうだなと思ったんです。

やるなら片足を突っ込んでいる状態じゃなくて、これまでの仕事をやめてから始めるべきかなと思い、放送作家と脚本家業をやめました。

大久保:以前から起業家や若手の方との接点は多かったのでしょうか。

鈴木:2011年からサイバーエージェントさんとお仕事をさせてもらっていたんです。サイバーエージェントさんのゲームプロデューサーさんは、20代前半なんですよね。そういう若い方にチャンスが与えられているのは、テレビ業界ではまずないので構造の違いを強く感じていました。そういう意味では、テレビ業界の中でもネット界隈の状況をいち早く感じることができていましたね。

その後もAbemaの仕事をさせてもらったり、ユーチューバー事務所UUUMの顧問もやらせてもらったり、そういう仕事が増えていきました。おかげでテレビに対していい意味で俯瞰して見ることができたんです。

そんな時5年前くらいに仕事場のあるビルの地下のフロアが空いていたので、何に使おうか考えていました。そうしたらサイバーエージェントの谷口くんが「シェアオフィスにしたら、おさむさんは面白がれるんじゃないですか」って言ってくれました。面白そうだなと思って、シェアオフィスを立ち上げたというわけです。

シェアオフィスにはいろんなベンチャー企業の方が入ってくれています。例えばWeb漫画で有名になってきた「ソラジマ」というスタートアップの漫画スタジオも、まだ2人の社長だけの時にシェアオフィスに入ったんですよ。その後もシェアオフィスの人はどんどん増えて、幅が広がっていきました。

大久保:昔のテレビ業界に感じた雰囲気を、スタートアップにも感じたということでしょうか?

鈴木:テレビ業界も含めて、世の中全体が最近は労基がすごく厳しいじゃないですか。でもスタートアップの子たちを見ていると、寝ないで働く社長も多いですよね。少年ジャンプの漫画みたいな、努力する時間は裏切らないっていう感じがすごくいいと思ったんです。だから僕も頑張ってそういう若い起業家をサポートしたいなって思いましたね。

スタートアップと投資家の架け橋になりたい


大久保:ファンドではtoCと言い切っていらっしゃいますね。

鈴木:toBのファンドはすでにプロがいっぱいいますから、僕がやるべきではないと思います。僕が今までテレビやメディアを通じて作ってきたものはtoCなので、やっぱりそこかなと。

toCはファンドの目利きができる人が少ないという話を聞いたんですよ。例えばショートドラマって言われた時、僕は弱点がすごくわかるんですけど、意外とみんなそこは気づかない。そんな風に、toCならほかの人よりわかるかなと思います。

大久保:toCは収益を上げるまでに時間も手間もかかるので、鈴木さんの立ち上げたファンドによって資金調達できるようになると、盛り上がりそうですね。

鈴木:toCで当てている若い人たちは、VCに対するいろいろな思いがあるらしいんですよ。なぜかと言うと、本当にtoCのみんなは資金調達に苦労しているんですよね。VCがなかなかtoCを理解してくれなかったんだと思います。そういうところを、僕が向き合えたらいいなと思っています。

事業も理解できるし、うちのファンドに参加しているLP(Limited Partner)はエンタメ関連の会社が多いので、僕がスタートアップとそういうLPの架け橋になれればと思っています。ファンドですからもちろんお金も大事ですが、それだけではなくて、人と人をつなぐとか環境の整備をしてあげたいですね。

大久保:鈴木さんがファンドの管理者であるGP(General Partner)であり、いろいろな会社がLPとしてファンドに出資されているということですね。LPの会社はスタートアップをどう見ているのでしょうか?

鈴木参加してくれているLPは、意外とリターンを出してくれなくてもいいって言ってくれる人が多いんですよ。

スタートアップとの出会いを作りたいというところが多いですね。単に出資するよりも、僕がハブになることで「もっとこういう絡み方ができるのでは?」って僕が提案することを期待しているのではないでしょうか。リターンよりも、新しいものを作れたり、協業できたりすることを期待しているようです。

大久保:今までtoCについては、情報が少なかったのかもしれませんね。

鈴木:それもあると思います。先日ある人が「人脈は資産である」と言っていて、いい言葉だなと思ったんですよ。今は僕がLP周りをしているのですが、やはり人脈ってすごい資産だなって感じます。

僕の場合は、まずトップと会うんですよ。僕が自分で行く意味は、そこにあると思っていますから。例えば博報堂だと最初から矢嶋さん(編集部注:博報堂DYメディアパートナーズ・矢嶋弘毅社長)が出てきてくれます。

投資担当の人と話すこともありますが、直接トップの方に僕の意気込みを伝えることが多いですね。そこは普通のファンドと大きく違うところだと思います。

「イタい」くらいの面白い起業家にはどんどん資金が集まる


大久保:ファンドでどのような支援をしていきたいと思っていらっしゃいますか?

鈴木:新しい人の発掘もしていきたいのですが、実は人気クリエイターの会社でも、あまり資金調達を考えてこなかったところが多いんです。そういう人たちが、僕がファンドを作ったことを聞いて連絡してくれることがあるんですよ。

僕がファンドを始めたことで、IPOに向かおうかなと思ってくれるケースもあるので、そういうスタートアップの支援もしていきたいですね。

大久保:外部の資金を入れることによって、違う世界が広がりますよね。

鈴木:そうですね。例えばアニメ会社の場合、資金調達したい一番の理由がCOOとCFOを入れたいということなんです。会社の組織を大きくすることで、給料が安いといったアニメ界全体の問題を解決したい、構造を変えたいという考えがあるようです。これって素晴らしいことだと思うんですよ。

海外と違って日本ではクリエイターの立場が本当に弱くて、ギャラもすごく安い。でも僕はお金が稼げることって重要だと思うんですよ。例えばスポーツ選手は年収や契約金が公開されて、そこに夢があるじゃないですか。

日本で一番成功しているクリエイターは漫画家です。大ヒット作のある漫画家はすごくお金を持っているイメージがあるじゃないですか。でも僕は、それ以外のクリエイターたちが、お金の面でも成功して欲しいと思っています。

大久保:鈴木さんが投資先を決める上で重視しているポイントは何ですか?

鈴木やはり人ですね。先日投資をしたいなと思う人に会ったんですけど、その人はプレゼンで「僕は偉人になります」って言ったんですよ。すごく面白いですよね。

それから彼は起業することになって、最初は僕とYutoriの片石(編集部注:株式会社yutori 片石貴展社長)が入りました。形になってから資金調達をしたんですけど、その時「久々にこういうやつ来たな」って話題になって、すごく資金が集まりました。

「偉人になります」っていわばビックマウスで、「イタい」じゃないですか。一般の社会では拒絶されることも多いけど、僕はこの「イタさ」がすごく面白いし、大事だと思います。テレビ業界のビッグマウスな人はあまり信用できないけど、若い起業家でビッグマウスの人は、すごく頑張るんじゃないかなという期待があります。

僕自身も、若い時はイタかったと思います。自分が一番できるやつだと思っていましたから。

大久保:そういう個性的な方は、従来のファンドでは支援を受けられなかったかもしれませんね。今後鈴木さんとしての目標はありますか?

鈴木僕はサイバーエージェントのような会社を作りたいです。例えばタイミーの小川くんとはもう5年ぐらい前に知り合いましたけど、瞬く間に1,700億円規模で上場しました。すぐ近くにいた人がそうなっているし、意外と遠くないって思っています。

サイバーエージェントを作りたいって周りに言うと、「すごいこと言うね」って言われますけど、ファンドをやるからにはそこを目指すのは当たり前でしょって思います。

新しい世界に飛び込めば、本当の自分の価値に気づける


大久保:お話を伺っていると、鈴木さんはご自分の人生をすごくクリエイトされているように見えます。

鈴木:自分の人生って1回きりじゃないですか。僕と同い年の人って強烈な人がたくさんいるんです。SMAPだった中居さんや木村さん、あと貴乃花さんとか。その中で一番強烈なのは、堀江貴文さんですね。

自分と同い年の堀江さんがかつてTシャツ姿で、ニッポン放送とフジテレビを買いますって言う姿を見て、衝撃を受けました。逮捕されても戻ってきて、ロケットを打ち上げますみたいなことも言って、でもちゃんとビジネスもやっている。自分の人生にベットしている生き方が、すごくいいなと思うんですよね。

大久保:鈴木さんが、今後クリエイターやtoCの世界を大きく変えていくと思います。

鈴木:そうしていきたいですね。テレビやメディアの世界にいる人は、そこに居続ける人が多いんです。でも器用で頭のいい人は多いから、そういう人の目線をちょっと別に向けられたら、もっと可能性があるはずです。そういう人生のロールモデルを作れたらいいなと思いますね。

僕の場合、放送作家を辞めた理由の根本にあるのは単純にやっていることに飽きたんだと思います。作品がヒットしても、あまりアドレナリンが出ないというか。アドレナリンが出てワクワクできるかどうかが、自分の中で一番大事です。

大久保:テレビ業界に限らず、40代や50代の方は今の環境に留まる人が多いですよね。そういった方も、次の世界にチャレンジできるわけですよね。

鈴木:今回LP周りをして思いましたが、放送作家じゃなくなった僕に価値を感じなくなった人もいました。ショックではありましたが、反対に放送作家じゃなくなった僕をすごく応援してくれる人もたくさんいたんです。僕が放送作家であること以上の価値を見出してくれる人がいる。それに気づけたことがうれしかったですね。

40代や50代の人も、きっとそういう新しい自分の価値に気づけます。だから、新しい世界に飛び込むのはすごくいいと思いますよ。本当の自分の人生というか、本当の自分というものに向き合える気がします。

自分に才能や人脈があると思う人は、50代まで会社で頑張ったのならあとは自分のために頑張ればいいって思いますね。会社のために頑張ってきても、人事という意味で振り落とされた時、その人の才能はもったいないじゃないですか。それに気づくのが50代前半だったら、まだまだ次の世界で頑張れると思うんですよ。

大久保:なるほど。反対に20代や30代の若手の人に対して、アドバイスがあれば教えていただけますか?

鈴木若い人は、とにかく自分のやりたいことを口にすることが大事ですね。会社の仕事と全然関係ないことでも、これをやりたいと思ったらそれを口にすることです。「イタい」と思われるかもしれないですけど、意外と周りの人は聞いているんですよ。それに10人中9人に嫌われても、1人から強烈に好かれれば人生が変わることもあります。そっちの方が大事じゃないですか。

大久保:本日はありがとうございました。最後に、創業手帳の読者の方々へメッセージをお願いします。

鈴木:頭でっかちにならないでほしいと思いますね。今いろいろな方に会い始めているんですけど、「起業とは」「社長とは」とかいうことを言うより、とにかく自分のやることに対して死ぬ気になって熱量が高い人になる方がいい。

そういう人は大人が面白がってくれます。大人が面白がると、また違う大人を紹介してくれて、どんどん会える人のレベルが上がっていきます。面白くて熱量の高いやつは、気になってみんな見に来ちゃうんですよね。

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(取材協力: スタートアップファクトリー 代表 鈴木おさむ
(編集: 創業手帳編集部)



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