SmartHR 芹澤 雅人|成長を加速させるSmartHRの二代目社長が考える「事業承継」成功の秘訣とは

事業承継手帳

創業者を尊敬しつつ自分のテイストを入れてアップデートするマインドが大切


事業承継が上手くいかずに、その後の成長スピードが鈍化してしまう企業も少なくありません。

そのような中で、社長交代後も成長を続けるSmartHRでは、事業承継について、どのような工夫や苦悩があったのでしょうか。

そこで今回の記事では、創業初期のSmartHRにエンジニアとして入社し、VPoE(※1)、CTO、代表取締役CEOと役割が変化した芹澤さんに、事業承継をスムーズに行うコツを創業手帳の大久保がお聞きしました。

※1:VPoE・・・Vice President of Engineerの略。技術部門のマネジメント責任者。

芹澤 雅人(せりざわ まさと)
株式会社SmartHR 代表取締役CEO
2016年、SmartHR入社。2017年にVPoEに就任、開発業務のほか、エンジニアチームのビルディングとマネジメントを担当する。2019年以降、CTOとしてプロダクト開発・運用に関わるチーム全体の最適化やビジネスサイドとの要望調整も担う。2020年取締役に就任。その後、D&I推進管掌役員を兼任し、ポリシーの制定や委員会組成、研修等を通じSmartHRにおけるD&Iの推進に尽力する。2022年1月より現職。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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TechCrunch TokyoでSmartHRのプレゼンを聞き、創業メンバーの3人と働きたいと思った

大久保:SmartHRへ入社された経緯を教えてください。

芹澤SmartHRに入社する前は、BtoB商材を扱う会社にいました。

クラウドビジネスに興味を持ち、もっと知りたいと考えている中で、たまたま「TechCrunch Tokyo」というイベントでSmartHRのプレゼンを聞いて、大変興味を持ち、そのまま入社を決意しました。その時のSmartHRの社員数は3人でした。

大久保:入社しようと思った時、何が芹澤さんの心を動かしたのですか?

芹澤1つはSmartHRのサービス自体へ興味を持ちました。純粋に機能などの点ですごく良いプロダクトだと思いましたし、それと同時に、私がエンジニアとして「もっとこうすれば、こう良くなる」というポジティブなイメージが頭に浮かんだためです。

でもそれが入社する決定打に影響したのは、多く見積もっても5割程度だと思います。

プレゼンでSmartHRの話を聞いたあと、当時の代表や創業者の方々と話したのですが、フランクで裏表がなく、3人の仲の良さ、そしてクリエイティブ思考なところに驚きました。

仮にSmartHRが上手くいかなかったとしても、この人たちともっと面白いものを作れば良い、と思えることができました。

それもあって、一緒に働きたいと思い、入社を決めました。

SmartHRの急成長の起爆剤となったのは新しい人材の入社

大久保:芹澤さんが思うBtoBビジネスの面白さは何ですか?

芹澤BtoBは使っているユーザーから直接、改善すべきところなどをヒアリングすることができるので、私の性に合っています。

またそれが業務効率化という領域なので、技術者としてとても楽しいのです。

大久保:貴社のすごいと思った点は、法的手続きというバックヤードでわかりにくい領域を助けるという、大変わかりやすいブランディングですよね。

芹澤TechCrunchTokyoのピッチでサービスデモを見た時、労務という馴染みの薄い領域なのにわかりやすいUIだなと思いました。人事・労務の担当者だけでなく、従業員にとってもわかりやすい内容になっているというのが嬉しいですよね。

大久保:なぜそのようにわかりやすいUIに辿り着いたのでしょうか?

芹澤共同創業者の1人にすごくロジカルに物事を考える方がいて、全てに合理性を求めていたため、その方の影響が強いと思います。エンジニアなので、データ構造をきれいに設計できますし、どのようなUIが使いやすいか、というのも科学的にわかる人でした。

2015年ごろのWebアプリケーションのデザインの考え方は、成熟度があまり高くありませんでした。そのため、本来プロダクトデザイナーが入るところを、グラフィックデザイナーが作ることもあり、プロダクトデザインとは全く領域の違う話になってきます。

共同創業者はプロダクトデザイナーではないものの、彼なりにプロダクトデザインを理解して形にできる人だったと思います。

大久保:その後、プロダクトの成長はどのようにしてきたのでしょうか?

芹澤割と積み重ねで、徐々に大きくなってきたのだと思います。

強いてエポックメイキング(※2)だったと言えることとしては、私が入社したタイミングでは、労務領域について自分たちで情報収集をしたり、クライアントにヒアリングをしたりして、次に実装する機能などを作る予定を立てていました。

その数ヶ月後、大企業で労務の実務経験がある方に入社していただき、現場経験者の意見として「これがないとユーザーには刺さらない」といったサービスを実装することで、成長が加速しました。そこから労務に関する考え方が変わりました。

※2:エポックメイキング・・・歴史的な変革や画期的な出来事を引き起こすこと。

カルチャー重視の採用スタイルで、企業規模の拡大にもスムーズに対応

大久保:社員数3人の時から、今では大きい組織になったと思いますが、大変だと感じる部分はどういったところでしょうか?

芹澤:拡大にあたって、何十人、何百人というフェーズで壁があるとVCの方から聞いて、ドキドキしていました。

さらに、入社動機の一つである、私の好きな創業メンバーたちの雰囲気が、人が増えることで崩れてしまうのではという懸念もありました。

ところが、10人、50人、100人と従業員が増えても、楽しくて良い会社というイメージは変わらないままでした。

大久保:その要因は何だと思いますか?

芹澤カルチャー重視の採用を長く続けているからだと思います。

スキルは満たしているけど、会社とは合わなさそうといった方はお断りするようにしています。

さらに、初代代表は社外に向けた発信が上手な方で、SNSやメディアを通して、会社のアピールを頻繁にしていました。そのおかげで、会社のことを知り、良いと思ってくれた方に来ていただいたりと、フィルターがかかっていたように思えます。

大久保:会社とプロダクト、どちらの発信もすることで、合わない人は最初から来ないということですね。

芹澤:実際に入社した人に、入社前と後でギャップがあったか聞くと、みなさんイメージ通りだと答えます。それくらい、オープンに情報を発信しているのは、大きかったのではないかと思います。

大久保:芹澤さんはエンジニアからCTO、そして社長になったわけですが、ご自身として変化など感じることはありますか?

芹澤じわじわ役割が変わったという感覚ですし、経営陣ともずっと話をしてきていたので、そこまで大きな変化だとは捉えていません。

最初はエンジニアとしてコードを書いていましたが、1年半くらいで当時のCTOが退任され、マネジメントをやってほしいということでVPoEに就任しました。そこからは規模の変化でしかなく、VPoEとしては10人の部下を見ていましたが、CTOになってからは50名、そして150人に増えました。そこから、CEOになったことで、500〜600人をマネジメントするようになりました。

私は役職や肩書きに対するこだわりがあまりありません。

その時々で求められていることに応えられて、自分のバリューが発揮できれば良いと思っています。

大久保:事業承継は大変なイメージですが、いかがでしたか?

芹澤SmartHRの創業者は起業家で、ゼロイチを得意とする方です。そのため、グループ会社の立ち上げに専念しています。事業承継をする時にも大きな問題はありませんでした。

事業承継に関して、一番上手くいかない要因として挙げられるのが、退いた人が口を出すことのようですが、蓋を開けてみたら、何も口を出して来ないので、そこはとてもやりやすいですね。

事業承継を受ける2代目社長は、先代をライバル視するのではなくリスペクトすべき

大久保:引き継いだ側の社長として、必要なスキルはありますか?

芹澤元々の創業者をライバル視して「あの人を超えなければいけない」といったマインドを持ってしまうと、上手くいかないことが多いとある経営者の方がおっしゃっていました。

逆にリスペクトを持って、何を考えて会社を立ち上げ、運営していたのか、といったことを考えて再現しつつ、その上で自分のテイストを入れることで、アップデートすると上手くいくようです。

確かに私は前代表とはフラットな関係で、よく話す関係として今でも付き合っています。

大久保:人間は感情が入るので、上手くいかないこともありそうですが、自然体な関係でとても良さそうですね。

開発出身の社長ということで、開発組織の作り方として、ポイントなどがあれば教えてください。

芹澤ソフトウェア開発の分野は、技術の進化が早い領域、且つマーケットの変化も早いため、一般化しにくい、という点が課題に挙げられます。

常に技術の進歩に追いつくことが必要ですが、未来の予測がしにくいです。

例えば、車作りに関しては、ガラッと数ヶ月で未来が変わるわけではないと思いますが、クラウドはそうではありません。

そのため、細かく意思決定して、軌道修正して、機敏に動いていくことを組織全体として意識しています。

そのため、弊社ではロードマップを3〜5年スパンで考えているものの、解像度を高く考えている未来は半年〜1年後くらいまでにとどめています。これすらも月次の話し合いで変わるくらい、自分たちが決めたことすらも変えていくスピード感を発揮していくことは大事です。

営業チームと開発チームのパワーバランスは対等に保つべき

芹澤:もう一つとして、営業チームと開発チームのパワーバランスについて、ここは対等であるべきだと思っています。

例えば、営業チームが強い組織は、当然営業が先行してしまい、契約を取ったから作って、という流れになります。

逆に開発チームが強い場合は、自分たちが作りたいものを作っているため、誰も求めていない物が出来上がることもあります。

そこで、お互いのパワーバランスの均衡を保つことで、互いにフィードバックし合えるようになります。

タレントマネジメント分野での生成AIの活用の可能性

大久保:ChatGPTや生成AIなどの影響はありますか?

芹澤:生成AIは何かサービスに活かせるのでは、と模索しているところです。

例えば、今「タレントマネジメント」を第2の柱として走らせているのですが、従業員に対してアンケートを取る際、従業員が多いところだと、フリーコメントの回答などは分析が大変ですよね。

それを生成AIで分析して、ポジティブな意見だとこういったものが多かった、というまとめ方が可能になります。

労務の領域だと、インプットとアウトプットが決まっているので、逆に生成AIとは相性が良くないと感じます。

それ以外でも、プロダクトとして価値を提供するだけでなく、自分たちの作業を効率化するために、生成AIで置き換えられることがないか、ということは常に模索しています。

大久保:戦略として、単価を低くして多く売るのか、単価を高くして大手に買ってもらうのか、どちらを選ばれているのでしょうか?

芹澤:どっちつかずの回答で恐縮ですが「広げて乗っける」という標語を社内で使っています。

我々が提供している労務の機能だと、単価が上げられませんが、逆にメリットとしては、業種を問わず導入できます。

クラウドサービスとしては珍しいのですが、小さい会社から大手企業まで入れることができ、業種も問わないため、面を広げることを得意としています。

さらにスイッチングコストも高いため、一度ご利用いただければ、なかなか解約されづらいです。

そこに対してタレントマネジメントや新しいサービスでクロスセルを狙っています。

大久保:今後も新しいサービスを広げられるという点でも良いですね。

芹澤:それだけではなく、第3、第4の柱を立てていきたいと考え、最近ではID管理をする機能を作っていた企業をM&Aさせていただきました。

労務だけでなく、情報システム領域にも広げられるよう、走り出しています。

営業人材と開発人材が組むと起業の成功確率が上がる

大久保:最後に起業家へのメッセージをお願いいたします。

芹澤ビジネスサイドとプロダクトサイドのペアでやることをお勧めします。

例えば、ビジネスサイドの人が起業したのであれば、すぐにでもプロダクトサイドの方を見つけるべきです。

弊社も前社長がビジネスサイドで、プロダクトサイドの方と共同創業者としてペアになっていたからこそ、今があると思っています。

さらにその関係は均衡であるべきだと思っており、どちらかのパワーが強いという関係は良くありません。

意思決定も2人でやった方が絶対良いです。

大久保:後ろに継承していくカルチャー作りを実現するために、何を意識していますか?

芹澤:上場する前に役員を変えることは珍しいとよく言われるのですが、どんどん変えるべきだと思っています。

フェーズに応じて、求められる役割やスキルも変わるからです。

これまで、サクセッション(※3)を意識して、後任育成していたわけではなく、たまたま上手くやってこれたのだと思っています。私もそうですし、新しく就任したCFOも、サクセッションできる人だったという認識です。

起業家に言えることとしては、いつ自分が変わっても良いという準備は必要だと思います。

例えば、自分より強い人を採用することを拒む人がいますが、いつかは権限移譲していくため、初期だからこそ考えておいて良いと思います。

そのため自分に代わる人を周りに置いていくことをお勧めします。

※3:サクセッション・・・経営戦略上の重要ポストが将来時点で欠けないように、その候補者を前もって管理すること。

大久保写真大久保の感想

最初にSmartHRの取材に伺ったときは、まだマンションの一室でした。今回900人の規模になっており急成長に驚きました。

芹澤さんの「広げて乗っける」、つまり面を取りながら単価を増やしていく戦略は他の起業家にも参考になると思います。

創業者からバトンを受けた社長特有の理解しやすい、合理的な戦略や語り口も印象的でした。拡大したSmartHRの今後に注目ですね。

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