中小企業とは。日本の法人の99.7%は中小企業。その定義は?
中小企業の定義を解説。特徴や中小企業が生き残るために必要な戦略とは
日本の法人の多くは中小企業ですが、「中小企業」の定義をご存じですか。
中小企業にはきちんとした定義があり、その要件に資本金額や従業員数が関係しています。
税制や補助金の対象など、会社の規模で線引きされる事柄も多いため、経営に携わる人にとって中小企業の定義を知ることは重要です。
特に中小企業経営者は、今後の戦略を練るためにも正しく自社の現状を知ることが必要です。
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この記事の目次
中小企業の定義とは
中小企業庁の発表によると、2016年の中小企業・小規模事業者は357.8万、企業全体の割合としては99.7%でした。
中小規模の企業が大多数を占める日本において、企業経営していく、今後起業するのであれば、中小企業の定義や大企業との違いについての理解が大切です。
また、大企業と比べて労働生産性の格差が広がっており、2020年の中小企業の休廃業・解散件数は前年比6350件増の4万9698件となっています(東京商工リサーチより)。
厳しくなっていく社会情勢下で、中小企業として生き抜く術を知るためにも、自社や取引先の規模を冷静に把握し、生き残りの対策に生かすことが重要です。
中小企業基本法上の中小企業者
中小企業や大企業など、漠然としたイメージはあるものの、明確な定義を知っている人は多くないでしょう。
中小企業を考える上で知っておきたいのは、中小企業基本法です。
中小企業者の定義
中小企業者の定義は、中小企業基本法で定められています。
しかし、この定義は中小企業政策の対象となる範囲を定めたもので、法律や制度によっては定義の範囲が変わる場合もあるため注意が必要です。
中小企業基本法では、中小企業者の定義を以下のように定めています。
両方の基準を満たす必要はなく、どちらかの条件を満たせば中小企業者に該当するとみなされます。
業種分類 | 中小企業基本法の定義 |
---|---|
製造業その他 | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は 常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人 |
卸売業 | 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は 常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
小売業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は 常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人 |
サービス業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は 常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
引用:中小企業者の定義
上記の定義では、業種分類によって資本金の額や従業員数が異なります。製造業と小売業では、資本金額も従業員数も倍以上違っており、規模にはかなりの差があります。
「常時使用する従業員」の定義
中小企業者の定義にある「常時使用する従業員」にも決まりはあります。
中小企業基本法では、「常時使用する従業員」を労働基準法に基づく「予め解雇の予告を必要とする者」としています。
前述の表の従業員数はこの条件下でカウントされることが必要になるでしょう。
労働基準法では、労働者を解雇しようとした時に30日前までに予告する必要があると定めており、日雇いや2カ月以内の期間を定めて雇われている人など例外も定めています。
また、会社役員や個人事業者なども該当しません。
大企業には定義がない
中小企業者の反対は、「大企業」ですが、実は大企業には定義がありません。
それは中小企業者の条件に当てはまらない、この条件を超えるものを一般的に大企業と呼ぶからです。
大企業や中小企業とよく区別していますが、中小企業ではないものを大企業としているだけに過ぎません。
また、中小企業以外の定義には「みなし大企業」もあります。
「みなし大企業」とは、資本金や従業員数は中小企業者の定義の範囲なのに、大企業とみなされる企業のことです。
ただし、このみなし大企業にも、大企業同様に明確な定めはありません。
企業の規模に関わらず、大企業と密接な関係を持っている企業は「みなし大企業」と判断されることがあります。
零細企業とも違う
中小企業者の定義の中には、「小規模企業者」・「零細企業」も含まれています。ただし、零細企業という言葉は、法律で定義されていません。
中小企業基本法でいう小規模事業者が、「零細企業」にあたります。
小規模企業者の定義
上記の中小企業基本法による中小企業者の定義で定められた範囲のうち、以下の判断基準に当たるものを「小規模企業者」としています。
零細企業という用語は法律にはありませんが、零細企業と言われたら以下の定義を満たす小規模企業者を指すと考えれば間違いはないでしょう。
業種分類 | 中小企業基本法の定義 |
---|---|
製造業その他 | 従業員20人以下 |
商業・サービス業 | 従業員 5人以下 |
引用:小規模企業者の定義
法律ごとの中小企業者の範囲
中小企業者の定義は、法律や制度によって変わる場合があり、普遍的なものではありません。
補助金制度や助成金制度の条件としても、法律上でもそれぞれに範囲が定められることがあります。
主な法律とその所轄担当、含まれる業種などは以下の通りです。
法律名 | 中小企業 基本法 |
小規模事業者 支援法 |
小規模企業 共済法 |
中小企業 信用保険法 |
---|---|---|---|---|
中小企業庁の 所管課 |
企画課 | 小規模企業振興課 | 小規模企業振興課 | 金融課 |
医者 (医療法人) |
× | × | × | ○ |
医者 (個人開業医) |
○ | × | ○ | ○ |
農家 (農業法人※会社法の会社又は有限会社) |
○ | ○ | ○ | × |
農家 (個人農家) |
○ | × (一部例外あり) |
○ | × |
引用:(参考)中小企業者の範囲が異なる事例(医者、農家の例)
小規模事業者支援法とは、「商工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律」です。
中小企業基本法上の「会社」に該当しないと解されると、中小企業者に該当しないと判断されるケースもあります。
中小企業の定義が関係する制度
中小企業の定義について詳しく解説しましたが、この定義をしっかり押さえておきたいのは様々な優遇や補助金制度などに影響するためです。
中小企業の定義に当てはまると、いろいろなメリットを得られる可能性があります。
法人税の税率
中小企業、中小法人にあたる企業は、法人税率の軽減措置を受けられます。
税制改正によって軽減税率の対象にならない範囲は拡大しましたが、当てはまれば大幅な優遇措置の利用が可能です。
中小企業の軽減税率は、大企業の税率(23.2%)よりも低く抑えられており、条件によって15%まで抑えられます。
中小法人にあたるのは、資本金もしくは出資金が1億円以下、さらに以下の条件に当てはまらない企業です。
-
- 大規模法人の傘下にあり、発行株式数の2分の1以上を所有されている
- 複数の大規模法人と支配関係があり、発行株式数の3分の2以上を所有されている
- 常時雇用の従業員が1,000人を超えている
また、年間所得が800万円以下の場合でも、「適用除外事業者」は軽減税率の対象ではなくなります。
適用除外事業者とは、3年以内の各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人です。
法人税の軽減税率は以下の通りです。
所得のうち年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15%(軽減税率) |
適用除外事業者 | 19%(本則税率) | 所得のうち年800万円を超える部分 | 23.20% |
所得のうち年800万円以下の部分のみですが、大きな軽減が行われます。
補助金や支援制度
東京都中小企業振興公社のように、補助金や支援制度でも、申請条件として中小企業の範囲が設けられている場合があります。
東京都中小企業振興公社で実施している助成金の申請資格は、中小企業基本法の定義に基づいて定められていました。
医療法人などの定義も上記のとおり、会社ではないため非該当となります。
小規模企業者にも支援措置が
商工会及び商工会議所による、小規模事業者の支援に関する法律(小規模事業者支援法)では、小規模企業者の経営の発展を支援が定められています。
中小企業であることのメリット・デメリット
中小企業であることには、メリットもデメリットもあります。優遇措置以外のメリットも含めて、中小企業の良し悪しをチェックしてみてください。
中小企業のメリット
中小企業は、規模の小ささによって得られるメリットもあります。
メリットを最大限に生かし、大企業とは違った魅力あるサービスを展開して発展を目指せるかもしれません。
身軽であること
中小企業であるメリットのひとつは、規模の小ささゆえ身軽で、決定や選択のスピードが早い点です。
環境の変化に応じて迅速な対応ができ、時流にいち早く乗ることができます。
大企業のように堅苦しさもなく、多くの部署や複数の上役の稟議を請うこともないため、若い社員による新しい企画も通りやすいかもしれません。
対応の良さ
中小企業メリットとしては、顧客対応の良さ、柔軟さもあります。規模の小ささ、動きやすさは顧客へのきめ細やかな対応にも反映されるでしょう。
また、さまざまな面で融通も利きやすく、満足度の高い取引ができます。
中小企業では、大企業との差異化のために企画の独自性などを持ち味として打ち出している企業も多く、大企業とは一線を画したところで勝負できる強みを持っているようです。
中小企業のデメリット
中小企業には、フットワークの軽さなどのメリットもありますが、その規模の小ささからデメリットを感じる場合もあります。
中小企業のデメリットを理解して、経営や取引相手の見極めなどに生かしてください。
経営資源が乏しい
中小企業は、資金面や人材など、さまざまなリソースの確保に苦しむことが多いかもしれません。
大企業のネームバリューがないため、優秀な人材も集まりにくく、少ない人数で事業を回さなければならず、視野が狭くなる場合もあります。
また、人材が限られることで責任や負担も偏りがちになる場面もあるでしょう。
大企業に比べて信用度も低いため、融資の際にも不利な状況になるケースもあります。
大企業であれば、多少の赤字でも融資を受けられるような時も、中小企業であるがゆえに審査が通らない可能性もあります。
大規模な営業・販売が難しい
中小企業は、大企業に比べて、大規模、広範囲な営業や販売活動が難しくなります。人員の面でも資金面でも、大規模な事業を手掛ける余裕がありません。
そのため、事業の拡大や成長も難しい場合があります。
潤沢な資金や豊富な人員があれば、現存の事業を行いつつも新規事業の立ち上げも計画できるはずです。
しかし、そこまでの余裕がないため、常に今の売上を支える事業に力を入れざるを得ません。
そうしている間に大企業に先を越され、新規ビジネスへの算入に遅れをとってしまう事態もあります。
生き残るための中小企業の戦略とは
中小企業はメリットもありますが、大企業に比べて不利になる点も多いもの。そんな中小企業が生き残るためには、どのような戦略が必要でしょうか。
中小企業の経営戦略のポイントを紹介します。
「ブランド」経営
中小企業が生き残るためには、メリットでもある対応スピードや柔軟性を生かし、独自性を極めて、ブランドを確立することが重要です。
顧客の希望や需要をいち早くキャッチし、商品やサービスに反映させる。顧客のニーズに寄り添い柔軟なサービスを展開する。
こういった価格以外での差別化を計ってブランドを築きます。大企業には出せない味や強みを出し、唯一無二の存在を目指すと良いでしょう。
大企業と中小企業の共存共栄
中小企業が生き残るための対策において、大企業は対抗すべき敵ではなく、共存共栄の道を歩むパートナーにもなりえます。
大企業と中小企業が連携することによって、新しい価値創造のチャンスを得たケースも増えています。
中小企業は、独自に築いてきた技術力を強みに大企業と組み、お互いの利点を生かして競争力を高めるのも一つの生き残りの道かもしれません。
まとめ
中小企業には、明確な定義があり、資本金や従業員数などで大企業と分けられています。
中小企業は、税金の面や補助金制度で優遇される場合も多く、その定義に当てはまるかを知るのが大切と言えるでしょう。
ただし、中小企業には規模や信用性のためにデメリットもあります。
中小企業として生き抜くためには、メリットを生かした独自の戦略が重要です。
(編集:創業手帳編集部)