元CFO起業家が教えるーCFOとは?資金調達のコツまで解説

資金調達手帳

Webで簡単に事業計画書を作成できるプロダクトを開発。株式会社プロフィナンス代表の木村氏にCFOの意味や資金調達法について聞きました

CFO

(2020/06/01更新)

日本ではまだ聞き慣れないかもしれませんが、海外企業では「CFO」(Chief Financial Officer)が重宝されています。

CFOは、企業の財務に関する責任を担う、事業を経営していく上で非常に欠かせないポジションです。ただ経理や財務管理を行う人と思われがちですが、ほかにも様々な役割を担っています。

今回は、元CFOとして活躍し、その経験をもとにWeb上で事業計画書を作成できるプロダクトを開発した株式会社プロフィナンス代表の木村義弘氏に話を聞きました。

起業した経緯から、CFOの本質やプロの観点での起業家の資金調達法などについて解説していただきました。

創業手帳では、資金調達手帳でキャッシュフローのポイントや資金調達方法についてご紹介しています。この機会に、ぜひ参考にしてみてください。

木村義弘

木村 義弘(きむら よしひろ)株式会社プロフィナンス 代表取締役
1980年生。2004年大阪府立大学工学部卒業、2006年東京大学大学院工学系研究科修了。
大学院修了後、投資・コンサルティング会社にて、複数のスタートアップの支援、特に事業計画策定に従事。このときに自身が悩まされた体験から「こんな苦労は起業家がするべきではない、もっとほかにやるべきことがある」と考えたことが本プロダクトの開発を志す原点となる。スタートアップの海外法人立ち上げを経験した後、BIG4系コンサルティングファームのミャンマー事務所立ち上げを担う。事業会社で国内外のM&Aに携わり、国内外の買収先CFOとして経営にも携わった。
2018年、株式会社プロフィナンス創業。国内大手ビジネススクールでファイナンスの講師としても活動。

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

挫折しても諦めなかったー元CFOが起業した理由とは

私は、大学院で統計的品質管理・品質マネジメントを勉強し、株式会社インスパイアという投資コンサルティング会社に新卒第1号として入社しました。

株式会社ユーグレナを始め、多くのスタートアップの投資・支援に携わった後、別のスタートアップの海外事業の立ち上げにジョインしました。

その後、今の会社・サービスの原型をつくろうと独立したものの、自分の未熟さに直面し挫折。もう一度社会人としてやりなおそうとグローバルファームのDeloitte(デロイト)に入社し、ひょんなことからミャンマー事務所開設に携わりました。

事業会社のM&Aチーム組成に伴い、クロスボーダーM&A担当として国内外のM&Aをリードし、買収先のCFOとして経営にも従事しました。その過程で、今のプロダクトのニーズを再認識し、「今度は最後までやりきろう」と、2018年に株式会社プロフィナンスを創業しました。

「自分のした苦労を他の人にしてほしくない」という想いを実現

新卒で入社したのは、ベンチャー投資を行う小さい会社でした。そこで投資した会社(今では東証一部に上場したバイオベンチャー)の詳細な数値計画を作りました。

この数値計画は、完成させるまでに2ヶ月かかりました。同社が設備投資の必要なスタートアップだったため、売上やコストを見据える予測損益計算書(PL)だけではなく、資産もシミュレーションできるよう、予測貸借対照表(BS)、PLとBSと連動する予測キャッシュフロー(CF)が必要でした。

このPL、BS、CFを連動させないといけないのですが、いつまでも計算が合わない。Excelに切り刻まれる夢を見るほど思い悩みました。

ですが、最終的には完成させることができ、同社もその後にすぐ大型の資金調達ができました。正直、「二度とやりたくない!」と思ったのですが、それがきっかけで他の投資先の事業計画を作ることになり、やっているうちに楽しくなってきました。

毎回、数値計画をゼロから作ることが面倒だったため、変数を切り分けたテンプレートを作り、投資先の社長に質問シートを埋めてもらうだけで翌日には事業計画の初稿ができるようにしました。

せっかくExcelのテンプレートでやるなら、Web上で誰でもアクセスできて簡単に作れるほうが便利だなと考えました。また、自分ではできますが、多くの労力を割くことになるため、「起業家はやらなくてもよいのでは?」と思うようになりました。

一度は自分の力不足で諦めたのですが、その後の経験を通じて、「この領域で苦しんでる人たちが多い」と感じ、「自分のした苦労を他の人にしてほしくない」という自分の信条をプロダクトで実現しました。

CFOはファイナンスの要であり「仲間づくりのプロ」

ファイナンス 仲間
CFOは、正式名で「Chief Financial Officer」といい、ファイナンスのトップを指します。

ファイナンスは書店に置いている教科書では、「①お金を使う、②お金を集める、③お金を還元する」の大体3つの機能で語られます。しかし、これはあくまで機能であり、ファイナンスの本質ではないと思っています。

①お金を使うという部分では、おそらく設備投資を思い浮かべるでしょう。ですが、最近の傾向では事業の成長を目指すとき、新しいメンバーを採用することに一番多くお金を使います。

また、➁お金を集める、③お金を還元するという部分ですが、お金を出してくれるのは投資家や銀行です。投資家は、そのビジネスの将来性を信じてお金を出します。銀行では、返済できるのかを基準としていますが、それ以上に、そのビジネスに共感して融資を実行します。

投資家も銀行も、自分たちが取り組もうとしているビジネスの将来性やビジョン、その先にあるビジネスチャンスに賭けてくれているのです。

還元の仕方が少し違うだけで、従業員・メンバーには報酬、投資家にはキャピタルゲインや配当、銀行には利子をそれぞれ還元するわけです。

そう考えれば、従業員・メンバー、投資家、銀行は自分たちがやりたいことに共感して、時間や資金を投じてくれている仲間といえます。

このことから、ファイナンスというのは、実は「仲間づくり」が本質にあります。企業としての戦略があって、企業の外側にユーザーやお客様という仲間を作るマーケティング、企業の内側にメンバーや投資家という仲間を作るファイナンスがあるのです。

そこを司るCFOは、「仲間づくりのプロ」であるべきだと考えるようになりました。

「最強のCFO」はマーケターの素養がある人

「仲間づくりのプロ」と考えたとき、従来の「数字のプロ」という世間一般の考え方をお持ちの方からすると、違和感があるかもしれません。
しかし、ここでいう数字とは「手段」のことです。企業の目的達成・価値実現のためには、価値を届ける仲間と価値を届ける相手(お客様)が必要なのです。

数字を駆使して、組織の内にメンバーや投資家という仲間を作ることにコミットできる方が真のCFOといえます。実際、海外のCFOは世界を飛び回って投資家への説明をしています。

そのため、CFOには「マーケターの素養」が必要です。会社のマーケターは、「プロダクト」のマーケティングに責任をもちますが、CFOは「会社そのもの」のマーケターといえます

この世で、一番高い価値がつくものは「企業」です。その企業の価値・値段を説明し理解を得て、実際に買ってもらう。そこを担うCFOにマーケターの素養がなければ、そんなことはできません。

現に、マーケティングで著名なフィリップ・コトラー氏が、「コトラーの資金調達マーケティング」という書籍を書いています。そういった意味では、日本で「最もすごいと思うCFOは誰か?」と聞かれると、CFOではないのですが、ソフトバンクの孫正義さんを思い浮かべます。

CFOの観点から「伸びる会社の共通点」とは?

伸びる会社では、「資金調達が上手いCFO」が不可欠だと思います。ステージにもよりますが、会社が成長途上だと、燃料・原資である「資金」が枯渇していることが多いです。

上場企業だと信用はありますが、未上場企業の場合には、信用の部分を補完する必要があります。ただ単に、「資金調達だけがCFOの仕事か」というと違います。「集めた資金を適切に使う」ということもCFOにとって重要です

CFOは、こういった「バランス感覚」も大切です。

スタートアップが資金調達でつまづきやすい部分とは?

スタートアップがつまづきやすいのは、フェーズによって押さえるべき数値が異なることへの理解が不足していることにあります。

創業時と創業後に資金調達するとき、資金調達のステージによって押さえるべき数値は異なりますし、向き合い方も変わっていくものです。これを勘違いすると、著名な起業家やベンチャーキャピタリストのいう、「数値の計画なんていらない」「事業計画(数値計画)なんて作っても意味がない」という表層的な言葉に踊らされることになります。

創業時や売上による収入がない間は、手元資金の管理が重要です。いつ資金が尽きるのか、それまでに何をすればよいのかなど、それによっては次の資金調達をするべきなのかも含めて、デッドラインを考えながら進めていかなければなりません。

一方で、試作品ができてから売り出すことを考えると、何をしたらお客様が増えるのか、そのために自社の資源(ヒト・モノ)はどれくらい必要か、それにいくらお金が必要なのかを考えなくてはなりません。

事業が成長したときには、「これくらいの額の集客投資をすると、これくらいお客様が増える」という方程式が自社内に蓄積されます。お客様をサポートするには、どれくらいの仲間が必要なのかなど、オペレーションが整理されてくると、一定の正確さで計算できると思います。

最初から全部が必要なわけではなく、ステージごとに考えるべきポイントが変わっていくため、ここで、つまづいている方が多いのではないかと思っています。

元CFOが教える事業計画の作り方や資金調達のコツ

資金調達
せっかくなので「数字」の観点から申し上げます。

創業したてのスタートアップにおいて、プロダクトがまだ出来ていない事業で売上計画を作るのは難しいです。売上・収益部分の設計は、拠り所になる数字がないからです。

まずは、何人のユーザーを獲得して、そのためにどれくらいの集客投資が必要かを考える必要があります。「手元にある現金がいつまでもつのか」といった資金繰りの観点でシミュレーションを組むとよいでしょう。

プロダクトをリリースし、一定の実績(トラクション)ができれば、「どれくらい集客投資をすれば、これくらいのユーザーが獲得できる」というのがみえてきます。そういった一定の実績を元にして、変数を設定し、シミュレーションができるとよいでしょう。

どのステージでも共通していえることは、「一旦は収益構造を考えて、一時的にでも数字を入れてみる」ということです。事業が立ち上がった後、どれくらいの期間で、どれくらいのビジネスの規模感になるかを一度数字で把握してもみてもよいでしょう。

人によって「数字なんて作らなくてよい」という方もいらっしゃいますが、僕は「それでも数字で考えた方がいい」と思います。数字で考えようとするからこそ、事業の解像度が上がります。

本当にユーザーを毎月100社獲得できるのか、100社としたらこの単価設定でよいのか、そのとき会社として収益は十分確保できそうなのかなど、事業コンセプトという抽象的な部分を数字として表現することで、見えてくるものがあります。

この具体と抽象の双方を考えることが、とても大切です。

資金調達のコツはお金の流れを考えること

会社のステージと資金調達方法にもよりますが、共通していえることは、「資金を何に使うのか」、「それによって何がもたらされるのか」を考えることが重要だということです。資金はもちろん多いほうがいいかもしれませんが、良い投資家はこういった資金計画に重点をおいているのです。

どんなに綺麗な事業計画を作っても、結局そのお金が何に使われて、今のステージにおいて合理的なのかを説明できなければ資金調達することは難しいでしょう。これは、私自身がスタートアップとして、日々感じていることです。

アフターコロナの資金調達の潮流とは?

資金調達の今後の潮流については、プレイヤーごとに次のように考えています。

  • 投資サイドVC
    全体的に新規ファンドは立ち上がりにくいかもしれませんが、すでにファンドを立ち上げているVCは、むしろアクセルを踏むのではないでしょうか。
    CVCが全体的に投資に対して消極的なので、スタートアップ側もバリュエーション(※)が落ち着いていくと捉えている方が多いように思います。すでに投資を受けているスタートアップに関しては、大手の独立系VCが、既存投資先向けのファンドを次々に立ち上げていることも好材料だと思います。
  • 投資サイドCVC
    本業に依存する部分が大きく、現在の状況を考慮してやや消極的になると思います。実際に、私のセミナーなどでアンケートを取りましたが、「不透明すぎて控える」という方が多数でした。
  • 融資
    期間限定ではありますが、今回の流れを受けて、政府・地方自治体の支援による融資が後押しされています。日本政策金融公庫では、かなり融資審査がひっぱくしているようですが、要件を満たしているのであれば活用するのもよいでしょう。

※バリュエーション・・・投資の価値計算や事業の経済性評価のこと。

私自身もスタートアップ・起業家の端くれです。「そうは言ってもなかなかうまくいかない」というのは、日々実感しています。

私も日々悪戦苦闘しながら学んでいっていますし、これをプロダクトにも活かしていきたいと思っています。みなさんもスタートアップ仲間として、よりよい社会にしていくため、一緒に頑張っていきましょう!

まとめ

実体験に基づいたお話で、スタートアップの資金面での課題など共感する部分が多かったのではないでしょうか。具体的な対策も示されているので、ぜひ事業を進める上での参考にしてください。

創業手帳の冊子版では、資金繰り表の作成術や資金調達の前に知っておくべきポイントをご紹介していますので、こちらも併せてご活用ください。

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(取材協力: 株式会社プロフィナンス/代表取締役 木村 義弘
(編集: 創業手帳編集部)

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