オーナーズ 作田隆吉|投資銀行仕込みのプロフェッショナルなM&Aで中小企業を支援

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年08月に行われた取材時点のものです。

中小企業の支援を通して日本の社会課題解決に貢献したいとの想いで起業。M&A業界に一石を投じる


中小企業をメインにM&Aをサポートするエージェント、オーナーズ。現在、日本の中小企業のM&Aは仲介会社を通すことが一般的です。しかし、仲介会社のサービス構造は顧客にとってデメリットが多いと、オーナーズ代表取締役の作田隆吉さんは考えています。

オーナーズでは、テクノロジーを活用し、投資銀行の手法であり大企業向けがメインだったFA(ファイナンシャルアドバイザー)のサービスを中小企業に民主化、想い入れのある事業を売却する売り手側に立った支援を展開しています。

起業時には「創業手帳」を読んで準備を整えたという作田さん。M&Aの仕組みや実情、オーナーズの独自性や創業の想いについて、創業手帳代表の大久保がお話を伺いました。

作田 隆吉(さくた りゅうきち)
オーナーズ株式会社 代表取締役
慶應義塾大学経済学部在学中の2005年、旧公認会計士二次試験に合格。現、EY新日本有限責任監査法人に入社。上場・未上場会社の監査業務を中心に従事。
2011年、現、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。
2013年のデロイト ニューヨークオフィスでの勤務を経て、2015年からはデロイト ロンドンオフィス勤務。Advisory Corporate Finance チームのディレクターとして、日本企業の欧州M&A案件を多数支援。2019年からは東京オフィスにて、スタートアップ・ファイナンス・アドバイザリー事業を統括。
2021年に当社を創業。公認会計士。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

創業手帳では「中小企業のための『M&Aガイド』」をリリース!まだまだ「会社の売却・買収」といったネガティブなイメージもあるM&Aですが、M&Aを活用することにより、事業の急速の発展や新規事業の展開など事業の成長においても有効な手法です。また会社全体ではなく、一部の事業のみのM&Aなど、M&Aの手法は様々。詳しくは無料でお配りしているガイドブックを是非ご覧ください。

M&Aガイド

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

世界で日本企業のM&Aを支援

デロイト社のロンドンオフィスでクロスボーダーM&Aを支援していた頃

大久保:いきなりですが、作田さんは当時最年少で公認会計士の試験に合格されたのですね。どのような生い立ちからそのような快挙を成し遂げられたのでしょうか。

作田:東京・大井町の小学校から私立の中学校を経て、慶応義塾大学の附属高校に入学しました。大学受験がないものですから、高校時代はずいぶんゆるい生活をしていたんです。しかし大学に入学したとき、高校生活の延長のような生活をするのはさすがにまずいと一念発起。体育会の活動をするなど色々選択肢はある中、私はビジネスに興味があったので、1年生の終わり頃からダブルスクールで本格的に公認会計士の受験勉強を始め、最初に受験できる3年生の夏の試験で旧公認会計士二次試験に合格しました。その後、現EY新日本有限責任監査法人に入社して、上場・未上場会社の監査業務を中心に、コンサルティング業務やIPOなどに従事しました。

大久保:その後2011年にM&Aや財務などFAS業務に特化した、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に転職されたのですね。

作田:ええ。M&Aに興味をもったのは、オフェンス的な数字の見方も身に着けたいと思ったからです。会計士の監査業務はどちらかというと過去の数字をチェックするディフェンス系の職種なのですが、オフェンス系、つまり投資家が意思決定に数字を使ってどういった判断をするのかといった目線で数字を見たくなり、デロイト社に飛び込みました。顧客のほとんどがブルーチップ(優良銘柄)の有名な会社で、2013年からはニューヨーク、2015年からはロンドンで、多くの日本企業のクロスボーダーM&Aを支援しました。

日本のM&A業界に一石を投じる

大久保:M&Aの助言業務を行うFA(ファイナンシャルアドバイザー)の立場でご活躍されたのですね。これはM&Aの仲介会社とはまた違った役割なのでしょうか。

作田:そうですね。FAは外資系の投資銀行や国内系の証券会社など様々ですが、一貫して当事者の利益を追求する仕事をします。顧客が売り手でも買い手でも、その方だけの支援をするんですね。いっぽうで、M&Aの仲介会社はいわゆるマッチメーカーで、売り手と買い手をマッチングすることが仕事の中心です。

FAは顧客からしか手数料をいただきませんが、仲介会社は売り手と買い手両方から手数料をとります。業界ではFAのやり方を「片手」、仲介会社のほうを「両手」と表現することがあります。FAの場合、顧客の利益を追求する役割でありながら両手でやってしまうと、両方の顔色を伺わないといけなくなってしまうので、利益相反になります。ですから両手は禁じ手なんですね。いっぽう仲介会社は、売り手と買い手の間に立っており、両方が顧客です。すなわち、どちらかに有利なアドバイスはできないため、どうしても落としどころを探るような交渉の支援になってしまいがちです。単純に片手と両手という商売方法の違いだけではなく、業務範囲の明確な違いが生まれてくるんです。

大久保:なるほど。オーナーズでもFAのお立場で仕事をされているのですね。

作田:ええ、FAは投資銀行の手法で大企業向けというイメージがあるのですが、オーナーズでは売り手側である中小企業をFAとして支援します。事業の売却はほとんどの場合一生に一度の一大イベント。経験も情報もない状態が普通ですから、自分の味方としてアドバイスがほしいというニーズは非常に大きいです。しかし、そこで仲介会社を選んでしまうと、そのニーズは叶えられません。それどころか、何度もM&Aをしている買い手とマッチングした場合、仲介会社が買い手側寄りになってしまい、売り手の利益がないがしろにされてしまう事例も見聞きします。それで両方から手数料を取るのですから、私はこの構造には問題があると感じています。

また、FAの場合は買い手を様々なルートから探すことができるというメリットもあります。例えば大手の仲介会社やマッチングプラットフォームで買い手の検索を補強できることなどです。要は自由がきくんですね。特定の仲介会社のネットワーク内でなんとかマッチング先を探すより、ベターな着地ができる可能性が高いと思います。

中小企業が知っておきたいM&Aの勘所

大久保:M&Aの際に高評価がつく会社はどのような特徴がありますか。

作田:やはり組織として機能している会社は安心されます。極端な話「社長は週に1、2回しか出てこないんですよ」などと聞くと、組織として回っていると判断できますよね。逆に社長が非常に頑張って働いてプレイングマネージャーのロールを果たしていますといった会社は、譲りにくいと思います。社長だから取れている案件などがある会社は、さらに要注意ですね。会社に社長の価値がプラスアルファされていますから、辞めてしまったら同じ収益性が実現できないと見られます。ですからマニュアル化するなり、人材を育てるなりして、社長の手から仕事を離していく、依存度を下げることが重要です。

また、事業売却のタイミングは、ご自身の病気や怪我などでいきなりやってくることがあります。そんな場合、まったく準備ができていないとやはり不利です。まずM&Aについてどういうものかを知っておく、できれば自社の場合M&Aを今後にどう活かしていけるのか専門家を交えてディスカッションし、腹おちするまで考えておくことです。また、社長によっては「〇〇円で売れるんだったら売ろうかな」といった目安に根拠がないケースも散見されます。自社のだいたいの価格感は知っておいてもいいと思います。具体的に売却の予定がなくても現在値を知っていれば、目標の〇〇円で売却するためにはなにをすべきか、さしあたり次の3年のアクションが見えてきます。こういった準備ができている会社は、いざという時にもスムーズですし、高評価を得やすいです。

大久保:素朴な疑問なのですが、M&Aの話を進める中で、売り手側が機密情報を出した後に破談になってしまうようなことはないのでしょうか。

作田:それはまさに我々の腕の見せ所ですね。売り手側は常に破談のリスクを考えながら情報を開示していかなくてはいけません。先ほどの話とリンクしますが、間に入っているのが仲介会社の場合は、買い手の要求がそのまま飛んでくるリスクが高い。当然、買い手側は早く情報を知りたいですから、デューデリジェンスの初期に重要な機密事項の開示要請が来ることもあります。仲介会社も「これを開示しないと進まないから開示しましょう」なんて言うわけです。

私たちの場合、営業上の機密情報になるような情報はデューデリジェンスの最後の最後、あるいは契約締結した後のクロージングの前の確認に留めるなど工夫をします。機密情報をリスクが高い状況で開示しないよう、タイミングを見計らうのも大切な仕事です。

大久保:なるほど、奥が深いですね。結局のところ、理想のM&Aとはどんな形なのでしょう。

作田:売り手の経営者が何を重視するかによって変わってきます。高く買ってもらうこと、譲渡後も事業が伸びていくこと、よく知っている会社と一緒になること、本当に様々です。M&Aはあくまでもツールなんです。私たちの仕事は、顧客である経営者がM&Aでなにを実現したいのかしっかり聞いて理解し、その想いを実現するお手伝いをすることだと思っています。

プロフェッショナルサービスとAIの可能性

大久保:業務におけるテクノロジーの活用について、最近のAI化の流れなども踏まえてお話いただけますか。

作田:弊社のビジネスはいわゆるプロフェッショナルサービスで、ChatGPTなどに代表されるLLM(大規模言語モデル)とは非常に相性がいいと考えています。これまでの機械学習のモデルは千・万単位のサンプルが必要でしたが、LLMの場合、人間が条件分岐やワークフローを設定すれば、この中で自由に学習させることができ、サンプルを多く必要としません。

小さなチームでもクオリティの高いサービスを実現させているという条件において、LLMの活用の余地は大きくなると考えています。強いチームの知見や経験値をLLMと掛け合わせることによってより多くの人にサービスを届けられる。このことは弊社のビジョンである「テクノロジーを活用して、プロフェッショナルサービスを民主化し、社会の価値向上に貢献する」に直結します。例えば弁護士ドットコムさんの取り組みはいい先行事例です。M&A業界では売り手支援に強い弊社が先頭に立ちたいですね。プロフェッショナルのノウハウをAIに学習させてLLMを動かすことで、我々自身の生産性を上げることが重要だと考えています。

理念は会社に人格を与える

大久保:ビジョンのお話が出ましたが、起業時には創業の理念を熱く語ることで人材集めをされたのだとお聞きしました。

作田:ええ、創業の想いを面談の最初30分でひたすら語り続ける作戦でした(笑)。創業時からの想いは、投資銀行仕込みのFAサービスを、売り手となる中小企業の経営者をターゲットにテクノロジーを使って民主化していくこと。ですからコアチームを組織する優秀な人材が喉から手が出るほど欲しかったわけです。

話が前後しますが、そもそも私が創業しようと思ったきっかけはロンドン勤務時代に端を発しています。欧州の国々と比較すると日本は企業の数が多いんです。そして労働人口の約7割が勤めている中小企業は、大企業に比べて生産性が半分以下と非常に低い。すごくシンプルな話、国のGDPは人口×1人あたりの稼ぐ力ですから、この人口減少が著しい局面において、中小企業の非効率を放っておくとGDPは大変なことになります。当然それに引っ張られて医療や年金、教育など、あらゆるインフラが今の水準で維持できなくなり、国力の低下を加速させてしまいます。中小企業だけの問題ではなく、社会課題としてなんとかしなくてはと感じ、中小企業を支援するため創業したんです。

話を戻すと、中小企業のM&AをFAで支援したいわけですから、欲しい人材は投資銀行で華やかに活躍している人たちです。その人たちに「ブルーチップの誰もがやりたい案件を追いかけている場合じゃない。困っている中小企業の経営者はたくさんいてマーケットは大きい。社会のために中小企業の生産性向上に貢献する仕事をしていこう!」と必死で説いてまわりました。でも、キャリアとして「イケてる感じ」が見えてこないと「やっぱり僕は大企業の新聞に載るような案件をやりたいです」となりますから、その中で熱い想いをもって共感してくれる人を集めていくのはやはり大変でしたね。

大久保:すごく励まされるエピソードです。その経験からの気づきをぜひ起業家にシェアしてもらえますか。

作田:さきほどの続きになりますが、起業の想いを大切にして採用活動をするのは大変ですが、最終的に強いチームを作るのはその想いの強さだと思います。それは私が体感したことなので、起業家に伝えたいなと思いますね。

また、弊社は企業理念を「正しいことを正しくやりきり、理想の未来を実現する」と定義しています。こういった理念は会社に「人格」を与えるんですね。ここがカチッと決まり浸透していくことで、会社で働く意味を明確に示せるようになり、採用もマネジメントもすごく楽になります。意思決定をする際にも「社長が言ってるから」ではなく「弊社はこういう理念のもと動いているから、この局面においてはこの判断が正しいはずだ」と主語を会社にして思考できるようになるのです。創業の想いから繋がる企業理念やミッション、ビジョンがしっかり固まると、全てがスムーズに運びやすくなるので、そこは粘り強く取り組んでほしいですね。

事業オーナーから支持されるNo.1プロフェッショナルファームへ

大久保:これからの展望を教えてください。

作田:弊社のミッションは「事業オーナーから支持されるNo.1プロフェッショナルファームになる」ことです。今はM&Aがサービスの中心ですが、ゆくゆくは経営者の相談をワンストップで受け止められる体制にしたいですね。最近IFA業務を行えるよう証券外務員資格を取得し、金融商品を提案できるようになりました。事業を売却するとまとまったお金が入ってきますから、次の人生のプランの相談や、キャッシュフローから逆算して運用の提案なども期待される顧客が多いです。可能な限り我々が支援できる局面を増やしていきたいと思っています。

大久保写真大久保の感想

M&A仲介「両手か片手か」それが問題だ

事業承継手帳や補助金AIなども運営している創業手帳の大久保です。起業の創業手帳にも、M&Aや承継の相談が来る時代になりました。それだけ世の中にニーズが高いということですね。

M&A仲介業界は高い利益率で年収も高く、M&Aというとあまり良い印象がない時代から一転、高利益の花形ビジネスに躍り出ました。今後も高齢経営者の後継者不在の問題もあり、今後も市場は拡大していくでしょう。

そんなM&A・承継業界だが手数料が「両手か片手か」という課題があります。両手は双方から手数料、片手は片側から手数料という意味です。

今の上場しているM&A大手は基本的に両手。もちろん利益もざっくり言うと2倍になり非常に儲かる。ここで問題になるのが、どちらの味方になるかということで、基本仲介は両方のメリットということですが、片手の場合は片側から手数料なので、信頼の置き方やビジネスモデル、収益構造が全く異なってきます。

今後もM&A業界は両手か片手かという課題が永遠のテーマで出てくると思いますが、作田さんはそんな業界に一石を投じようとしている、そんな印象の取材でした。

冊子版創業手帳では、新しい分野を開拓する起業家のインタビューを多数掲載しています。無料で届きますので、web版と合わせてご覧ください。
関連記事
ピースユー 藤瀬 公耀|新たな販売チャネルとして注目されるライブコマース。ECとの決定的な違いとは
スタートアップのM&Aとは?件数やEXITとしての意義、事例などを紹介
創業手帳は、起業の成功率を上げる経営ガイドブックとして、毎月アップデートをし、今知っておいてほしい情報を起業家・経営者の方々にお届けしています。無料でお取り寄せ可能です。

(取材協力: オーナーズ株式会社 代表取締役 作田 隆吉
(編集: 創業手帳編集部)



創業手帳
この記事に関連するタグ
創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す