ネットプロテクションズ 柴田紳|柔軟性を育むティール組織で業界を牽引する企業へ成長!従業員全員がリーダーの組織構築方法

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年09月に行われた取材時点のものです。

後払い決済市場を牽引する、国内BNPL決済サービスのリーディングカンパニー


近年デジタルツールの普及に伴い、幅広い年代層が日常的にオンラインショッピングを活用するなど、消費行動が大きく変化しました。その影響で市場規模を拡大させているのが後払い決済(BNPL)です。

後払い決済とは、顧客がECサイトなどで購入した商品を受け取った後、コンビニエンスストアや銀行、郵便局などで代金を支払う決済手段です。クレジットカードの不正使用や、商品の確認前の支払いに対する不安を解消するメリットがあり、ユーザーが増加しています。

その後払い決済市場において、国内BNPL決済サービスのリーディングカンパニーとして確固たる地位を確立したのがネットプロテクションズです。BtoC通販向け決済「NP後払い」をはじめとした各種後払い決済サービスを提供し、業界を牽引しています。

同社の代表取締役を務める柴田さんが後払い決済をゼロから作ったエピソードや、盤石なティール組織を構築するための方法について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

柴田 紳(しばた しん)
株式会社ネットプロテクションズ 代表取締役
1975年生まれ。1998年に一橋大学卒業後、日商岩井株式会社(現・双日株式会社)に入社。煙草事業に3年間取り組んだ後、IT系投資会社であるITX株式会社に転職。すぐに株式会社ネットプロテクションズの買収に携わり、2001年より出向、2004年に代表取締役に就任。何もないところからNP後払いを創り上げ、黒字化に成功。世の中を変革する事業を創造すると共に、人が人らしく、幸せを最大化できる組織づくりに強いこだわりを持ち、事業においても組織風土においても「つぎのアタリマエをつくる」というミッションの実現を目指している。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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ベンチャーキャピタルから出向後、事業を成功させて代表取締役に就任

大久保:柴田さんはネットプロテクションズへの出向後、代表取締役に就任されたと伺っています。まずは出向までの経緯についてお聞かせ願えますか。

柴田:1998年に一橋大学を卒業後、当時の日商岩井(現双日)に新卒で入社し、物資部煙草課で3年間キャリアを積みました。

入社時から仕事に対する意欲は旺盛だったのですが、煙草事業のスキームが完成されていたため、暇を持て余すことが少なくない部署でして(笑)。ちょうどIT勃興期でしたので、幾度となくインターネット事業企画書を作っては上司に提出するなど行動を起こしましたが、なかなか現状を変えることができずあがいていた時期でした。

ただ、こうしたアクションを繰り返すことで「IT関連事業に携わりたい」と自分の中で希望が明確になったんですね。ただしいきなり起業するのは厳しいと考え、まずはIT系の知見を得ようと、2001年5月にベンチャーキャピタルのITXに転職しました。

奇しくも同社に移った時期に監査法人から入ってきたのが、ネットプロテクションズの買収案件です。およそ半年間かけてデューデリジェンスを行い、交渉ののち買収に成功。2001年11月、取締役としてネットプロテクションズに出向しました。

大久保:買収先企業からの出向という形でスタートしたんですね。後払い決済は買収前から事業展開していたのでしょうか?

柴田:公にはアナウンスされていたのですが、事業実態がありませんでした。そこで「後払い決済とはどういうサービスか?」の下調べから始め、ビジネススキームや与信管理、回収プロセスなど、すべてゼロベースで私が構築しました。

一連の作業をスタートさせたのが2001年11月、テストサービスにこぎつけたのは翌2002年3月でしたね。

大久保:「これから世の中がインターネットによって変わっていくぞ!」という期待感と、「インターネットを活用したサービスは成功するのだろうか?」といったまだ見ぬ世界への不安に駆られていた時代ですね。役員から社長に昇進されたのはいつ頃でしょうか?

柴田:後払い決済事業が軌道に乗った2004年に転籍し、代表取締役に就任しました。もともとネットプロテクションズの人間としてずっと続けていきたいと思っていましたので、事業の成功が本当にうれしかったです。

その後、2018年7月に持株会社のネットプロテクションズホールディングスを設立しています。

BtoC取引向け国内BNPL決済サービス市場におけるシェアは40%以上

大久保:御社の市場での立ち位置と、現在展開しているサービスについてお聞かせください。

柴田:弊社は国内BNPL決済サービスのパイオニアであるとともに、BtoC取引向け国内BNPL決済サービス市場において40%以上※のシェアを誇るリーディングカンパニーです。

BtoC通販向け決済「NP後払い」をはじめ、BtoC向け会員決済「atone(アトネ)」、BtoB向け決済「NP掛け払い」、台湾向け後払い決済「AFTEE(アフティー)」といった多彩なサービスを提供しています。

※矢野経済研究所「2021年版オンライン決済サービスプロバイダーの現状と将来予測」より、後払いサービス市場の2020年度見込金額(8,820億円)と「NP後払い」「atone」の2020年度取扱高合計金額(約3,600億円)をもとに算出。

大久保:BtoBや会員制など、周辺領域に拡大していったんですね。当初から計画されていたのでしょうか?

柴田:はい。2002年に作成した戦略メモ「NP後払いの成功後、BtoBサービス、会員向けサービス、海外展開を広げていく」と予想していました。ほぼシナリオ通りですね。

大久保:戦略メモについて詳しく伺いたいのですが、個人的に作成されたものですか?

柴田:そうです。まずNP後払いサービスを成立させるまでが非常に大変だと覚悟していましたので、「NP後払いが成功し、後払い決済事業の土台を築くことができたら」という前提でその後の道すじを立てていきました。

NP後払いサービスを軌道に乗せることができれば、必然的に少額のリスク管理能力も身についている。この強みを活かすことで、BtoBの少額決済も弊社が市場を握れるし、海外展開も視野に入れることができるだろう。NP後払いのユーザー増加により、会員化してワンランク上のサービス提供を行えば進化していくはずだ。

このように、突飛な方向に広げていくのではなく着実に事業領域が拡大できるよう展開しました。

先駆者として基盤を整えて事業を盤石にすることで競合優位性を確保

大久保:御社はNP後払いを成功させるまでが大変だったとはいえ、そこから事業が伸び続けています。これまでに転機となるマーケットの追い風はありましたか?

柴田:特にありませんでした。継続して市場ニーズが存在していましたので、ずっと右肩上がりで順調でしたね。

あえて言うと、2010年過ぎから大手企業のサービス導入があり、連鎖するように他大手にも広がっていったのが追い風でしょうか。

それから2015年頃に競合の参入が相次いだのですが、マーケットの全体認知度が上がるため、マイナスよりプラスのほうが大きかったです。それまでは約15年間、ほぼ弊社だけの一人旅でしたからね(笑)。

大久保:先駆者として基盤を整えて事業を盤石にしておけば、競合がこぞって参入してきたからといって恐れることはないということでしょうか?むしろ相乗効果で伸びるからチャンスと言えるかもしれないと。

柴田:そうですね、「先駆者として基盤を整えて事業を盤石にしておく」ことを心がけました。

実は競合対策として、2005年から2006年頃はあえてPRを控えたんですね。強固な経営基盤を確立させるまでは、自社のユニークな強みを公にしてしまうと資金力のある大手に追い抜かれてしまうリスクがあったからです。

だからなるべく露出を避けましたし、インタビューで質問された際も核心を明かさないように努めました。たとえば「与信管理はどういうふうに行っていますか?」と聞かれたとしても、最も重視している肝については明確にせず、その手前で留めておくといった感じです。

大久保:「嘘ではないけれど、核心までは明かさない」といったように徹底されていたわけですね。特に大手企業との戦い方の参考として、他にも競合対策についてアドバイスをいただけますか?

柴田:私の場合は競合が参入する前にあらかじめ仮想競合リストを作っておいたのですが、この方法が功を奏しました。コツとして、まずは企業名をあげてみてください。

たとえば私が当時、戦略メモにピックアップしたのは大手通販会社やインターネットショッピングモール、決済代行会社、運送会社などでした。なぜなら早いタイミングでこれらの企業が参入してきたら、さすがに負けてしまうと考えていたからです。

実際にメモに記入したのは具体的な企業名ですが、予想通りに参入してきました。だからこそあらかじめ想定して、なるべく時間を稼いでマーケットを築いておき、負けない状態を作っておいたほうがいいですね。

それから企業名を羅列するだけではなく、各仮想競合企業の強みと、反対に磨き込めない要素もあわせて具体的に書き出してみてください。そして彼らが磨き込めないものをひたすら追求し、自社の強みとして昇華させていくと良いと思います。

結果として弊社の場合は、2つの大きな強みを確立しました。1つ目は与信管理、そして2つ目が組織風土が生み出す柔軟性です。

後払い決済市場での戦略上で必要だったティール組織を構築した方法

大久保:先ほどお話しいただいた「組織風土が生み出す柔軟性」についてですが、御社はティール組織として成功を収めていると伺っています。この運営方法が柔軟性を育んでいるのでしょうか?

柴田:はい。トップダウン型の場合、経営者の理念や思考、手法からはみ出さない組織形態や風土になるため、徐々に柔軟性を失い、結果として市場拡大も難しくなっていきます。「トップがわかっていることしかできなくなる」という状態に陥った弊害ですね。

一方のティール型であれば、経営者からスタッフまで誰もが同じ目線や情報を持ち、それぞれのポジションで市場を開拓していくことができます。アメーバのような広がり方をしていくんですよ。

たとえば弊社の決済スキームは、実は各スタッフが思考やアイデアを持ち寄り、その都度より良い改善を施しながら作り上げています。こうした事例が至るところに存在するのが弊社の大きな特長です。

大久保:素晴らしい組織風土ですね。当初からティール組織を目指していたのでしょうか?

柴田:いいえ、戦略上で必要だったのでティール組織にしました。当初は一般的な企業の組織体制で運営していたのですが、事業成長のスピード感や組織風土の健全さを保つことに限界を感じるようになったからです。2010年頃からその兆候があり、徐々にティール型に移行しました。

大久保:ティール組織を構築するための大切なポイントをお教えください。

柴田:語弊がある表現なのですが、マネージャーに権限移譲しないということでしょうか。

マネージャーに権限移譲しないとうまく運営できないため、当然のことながら組織は拡大しません。ところが権限を渡すことにより、みんな自分の城を作りたがるんですね。つまり各組織がすべて縦割りになり、「マネージャーが上、スタッフが下」という上下関係を作ってしまいます。

これが非常によろしくありませんでした。なぜなら、あっという間に重要な柔軟性が失われるからです。加えて、企業の中に一国一城の主が乱立してしまうと、その瞬間から円滑にまわらなくなります。

組織を拡大させ、安定して作り上げる必要がある一方で、いかに各マネージャーを殿様にしないか?城を作らせないか?このポイントを意識することが重要ですね。

特に弊社のように「全員でワンチーム」が強みとなるサービスを展開している企業の場合、部署間の対立が会社の死につながってしまいます。部分最適を足して全体最適にはならない企業モデルなんですね。

逆に言えば、この「全員でワンチーム」の組織構築やバランスの取り方が非常に難しいからこそ、大手にも勝てると信じていました。そして実際に、業界を牽引する企業へと成長を遂げています。

大久保:「組織風土が生み出す柔軟性」の真意が理解できました。ティール組織を継続するための手法があればお教えください。

柴田:弊社の特徴のひとつは、ほぼすべての情報を全従業員に公開していることです。たとえば私が経営層と深い議論をしていると、その全議事録が全員に開示されるだけでなく、リアルタイムで閲覧可能な仕組みになっています。

それから従業員の納得感を大事にしていることも弊社の持ち味です。たとえばすべての事業において、その事業に関わっている全員参加での戦略会議が自発的に開催されています。必然的に全員が企画者であり、戦略家なんですね。弊社では全従業員に対してリーダーになることを求めています。

ここまで徹底しないと、先ほど一例としてお話しした決済スキームの改善のように、現場で各人が考え、改善していくレベルには到達しません。マネージャーらのミドル層とスタッフは情報を得るだけで、あとはすべて経営層が考える組織運営体制では、弊社のアメーバのような広げ方を実現するのは難しいですね。

誰かの役に立つサービスの提供と、自社独自のケイパビリティの確立

大久保:最後に、起業家に向けてのメッセージをいただけますか。

柴田:企業の売上が上がるのは誰かの役に立った結果ですので、「誰のために、どんな形でお役に立てるだろうか?」とひたすら真摯に考え続けていただきたいです。

それと同時に、会社を成長させるためには戦略も重要ですから、自社独自のケイパビリティをどこまで磨けるか?という観点で事業戦略を構築していくとバランスが取れると思います。

ぜひ誰かのお役に立つためのサービス提供を続けながら、他社には負けないオンリーワンのケイパビリティを確立させてください。

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(取材協力: 株式会社ネットプロテクションズ 代表取締役 柴田紳
(編集: 創業手帳編集部)



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