ODYSSEY 平岩康佑|アナウンサーが伝授する「場を盛り上げるコツ」とは?【後編】

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年04月に行われた取材時点のものです。

売上などの数字だけではなく、人のストーリーにも注目する

朝日放送のアナウンサーとして、ANNアナウンサー賞優秀賞の受賞経験のある平岩康佑さん。2018年に朝日放送を退職して、株式会社ODYSSEYを創業しました。

eスポーツブームの波に乗り、毎年最高益を更新しています。

実況のプロである平岩さんに、経営者にも役立つ「場の雰囲気を盛り上げるコツ」などを、創業手帳代表の大久保が聞きました。

平岩 康佑(ひらいわ こうすけ)
株式会社ODYSSEY 代表取締役
2009年米ワシントン州の大学で経営学を学び卒業後、朝日放送にアナウンサーとして入社。プロ野球や高校野球、Jリーグ、箱根駅伝などの実況を担当​。2017年には高校野球の実況が評価され、ANNアナウンサー賞優秀賞を受賞。2018年に同社を退社し、株式会社ODYSSEYを設立。​日本最大級のeスポーツイベント「RAGE」や「CRカップ」などで実況を担当。
テレビ朝日:ReALeレギュラー 著書:KADOKAWA「人生の公式ルートにとらわれない生き方」

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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会社は「円満退社」が必須

大久保:平岩さんは、会社を辞めるときの挨拶に気をつけていたそうですね。

平岩:会社員を辞めて、会社を創業しようと考えている人もいると思います。そういう方には、絶対「円満退社」をしてほしいです。
ありがたいことに、前職の朝日放送さんとは、いまでもお仕事をさせてもらっています。

大久保:円満退社は非常に大事ですね。アナウンサー時代から、会社設立の準備をされていたのでしょうか?

平岩:会社設立の手続きなどは、前職の有給休暇消化期間中にしていました。
その間は、まだ会社員ですから、できないことも多かったです。起業の本を読んだり、定款を自分で作ったりしていましたね。会社の口座を作ったりもしました。
こうした雑務を一通り全部自分でやってみるのもありだなと思ったんです。

大久保:会社を創業して良かった点はどんなところでしょう?

平岩:所属しているキャスターがいい実況をしていたり、彼らの実況がコメントで褒められているのを見るのが一番うれしいですね。
営業での折衝も楽しいです。放送局でアナウンサーをしているときは、営業をしたことがありませんでした。

オンリーワンでナンバーワンになれた

大久保:平岩さんはゲームという好きなことを仕事にしたわけですが、良かった点はありますか?

平岩:良かった点は、ゲームを嫌いにならなかったことですかね。よく「好きなことを仕事にすると嫌いになるから、やめたほうがいいよ」と言われると思うんです。でも、いまもゲームが好きで、新しいゲームが発表されるとワクワクしています。好きなゲームに関わる仕事ができているのは、とても幸せです。
あとは、eスポーツ業界の成長が想像以上に早かったです。おかげさまで、僕の会社も毎年最高益を更新し続けられています。

大久保:素晴らしいですね。よく会社の肩書がなくなると、大変だという方もいるのですが、平岩さんの場合はいかがでしたか?

平岩:僕の場合は、会社の肩書はなくなりましたが、アナウンサーという肩書はあったので大丈夫でした。
アナウンサーは日本に1000人くらい居るのですが、僕が会社を創業した当時は、ゲーム業界には1人もアナウンサーがいませんでした。オンリーワンであり、ナンバーワンになれたので、いいタイミングだったなと思います。
会社を辞めた瞬間にヤフーニュースのトップに載って、その日のうちに70件くらい仕事依頼がきました。

大久保:超ブルーオーシャンですね。なぜゲーム業界にアナウンサーが1人もいなかったのでしょうか?

平岩:ゲームの知識とアナウンス力を兼ね備える方が居なかったからではないでしょうか。僕の場合、ゲームの実況をするときは、そのゲームを100時間プレイします。
ゲームを理解してから、実況用の資料を作ったり実況練習をしてから本番に臨みます。見ている方はリテラシーが高いので、ゲームをプレイしていないとすぐ分かるんですよね。見ている方に対してもゲーム会社さんに対しても、誠実に向き合いたいので、そのようにしています。
所属しているキャスターも同じです。いまだとリモートで実況練習をして、指導したうえで本番に臨むスキームを組んでいます。

大久保:アナウンサースキルがあるだけでは、eスポーツ実況は難しいんですね。

平岩:ゲームの理解は必要です。理解していないと、プロゲーマーのすごさもわからないんですよね。実際にゲームをプレイしていれば、プロゲーマーのすごさもわかります

eスポーツ大会 驚きの賞金額

大久保:eスポーツで賞金額の大きいゲームジャンルは、どのようなものでしょうか?

平岩:2019年に「Fortnite(フォートナイト)」がワールドカップを開催して、賞金総額が1億ドル(約110億円)でした。あと「Dota 2(ドータ・ツー)」は、2021年の賞金総額が4000万ドル(約44億円)という額でした。

大久保:すごい金額ですね。やはり見ている人も多いから、それだけの金額になるのでしょうね。

平岩:ゴールドマン・サックスが出しているレポートによると、世界では月間の視聴者数がメジャーリーグベースボール(MLB)やナショナルホッケーリーグ(NHL)よりも多いです。
日本でも最も多いライブ配信だと、同時に75万人くらいに見られています。若い人たちがリアルタイムで何かを見ることって少なくなっていますが、これだけ多くの人がリアルタイムで配信を見ているのは、eスポーツのすごさだと思います。
世界大会だと同時に1億人が見ていたりしますからね。

大久保:メジャースポーツよりも見られているんですね。

平岩:裾野が広いからだと思います。多くの方は何かしらゲームをプレイした経験がありますよね。それにeスポーツは男女で分かれていませんし、障がいも関係ありません。
ゲームが強ければ、誰でも活躍できます。僕の場合、ゲームをコミュニケーションツールとしても活用しています。
仕事関係の方とも一緒にゲームをして、近況報告したりしています。コロナの影響もあり、対面で会えないことが続きましたが、ゲームの中で人間関係を構築できました。
久しぶりに対面で会うと、戦友に会ったような気分です(笑)。

大久保:最近では、ゲームがきっかけで結婚したという話もよく聞きますね。

場の雰囲気を盛り上げるコツ

大久保:平岩さんは実況のプロです。会社の代表は、仲間を盛り上げたり、仲間のモチベーションを上げることも大事だと思います。どうすれば、場の雰囲気を盛り上げられるでしょうか? コツをうかがいたいです。

平岩:結局のところ「人が主人公」です。だから、人にフォーカスすることが大事になります。人のストーリーに注目して伝えることで、多くの人に伝わるのではないでしょうか。たとえば、eスポーツで選手の紹介をするときに技術だけではなく、これまでの過程を伝えます。
「この選手は良い高校から良い大学に進学したのに、就職活動はせずにプロゲーマーの道を選びました。人生のすべてをゲームに賭けてきた彼が、いまから世界大会決勝戦に挑みます」。こう伝えるだけで、ストーリーが伝わって応援したくなると思うんです。

大久保:応援したくなりますね。

平岩:「高知県出身の16歳」というように、簡単でもいいので細かいところまで伝えることが大事です。
朝日放送時代、高校野球の実況をしていましたが、野球の上手さだけを見たいなら、プロ野球を見ると思います。
でも、高校野球ってすごい人気ですよね。なぜかというと、ストーリーを持っている高校球児が、泥だらけになってがむしゃらに野球している姿を見に行くわけです。これは、会社で何かを伝えるときにも活かせるのではないでしょうか。

大久保:社長は売上や商品のことを言いがちですけど、社員のストーリーをほかの社員に伝えるのは良さそうですね。

平岩:数字だけだと、どうしてもドライに感じてしまいます。売上であれば、それを達成するまでに、社員がどのような過程を経たのかをうまく伝えられると良いと思います。もちろん数字は大事ですが、感情を動かすことも大事です。

大久保:人のストーリーや努力にフォーカスして、それを発信することで社員もついて行きたくなるかもしれませんね。実況のスキルはどのように磨いてきたのでしょうか?

平岩:朝日放送の場合は、3年目の夏に高校野球でデビューすることが決まっていました。その時点で、ある程度のレベルに達していないといけません。決められた期限までに、スキルを上げなければならないわけです。
僕がしたのは野球場へ行き、観客席で3時間くらい1人で実況することです。それをボイスレコーダーに録音しておいて、先輩に聞いてもらいます。
1人で実況していると、周りからは「なんだこの人は?」という目で見られます(笑)。
このように、目に見えるもの全部を言葉にする練習をしていました。

大久保:思ったよりも体育系ですね。

平岩:練習は地道にやっていました。そのおかげで、動きがあるものならいくらでも喋り続けられます。意識して喋るというよりは、無意識に喋れるようになりますね。これがベースとなって、そのうえで選手がこれまでどのような努力をしてきたかとか、これまでの成績などを勉強しておきます。実際に選手本人へ取材もします。
聞いてくれる人たちに、より臨場感や面白さが伝わるよう努力することがプロとしての責任だと思っています。

若い方の感性を学ぶための方法


大久保:eスポーツは若い世代の盛り上がりがすさまじいですが、そういう若い世代の感性は違うものですか?

平岩:全然違いますね。やはり10代の方は、小さい頃からインターネットに触れてきているので、デジタルネイティブなんですよね。そういう若い方に向けてプロモーションしていく必要があります。労働基準法があるので無理ですけど、本当は中学生を雇いたいくらいです。

大久保:そうした若い方との感性の差を埋めるために、どのようなことをしていますか?

平岩:若い方が良いと思っているものをインプットしています。
たとえば、若い方の間で流行っている音楽を聴いたり、映画やアニメを見たりですね。何に重きを置いていて、何に感動するのかを知ろうとしています。
ただ最近は、根底にあるものは世代が違っても変わらないと感じています。若いといっても、異星人ではありませんから(笑)。

大久保:感動するポイントが違うだけで、感動そのものは若い方もしますからね。

創業を考えている方へのメッセージ

大久保:今後の事業展開を教えてください。

平岩:eスポーツ全体を盛り上げる意味でも、大会の運営や統合的なことをやりたいと考えています。いろいろな企業さんと仕事をしてきているので、全体を俯瞰で見られている自負があります。そこを活かしていきたいです。

大久保:コンサルティングのようなイメージですね。

平岩:そうですね。eスポーツをブームではなく、長く続くものにしたいです。

大久保:最後にこれから創業を考えている方へ、メッセージをいただきたいです。

平岩:責任重大ですね(笑)。商品のクオリティにとにかくこだわってほしいです。うちの場合だと、それが実況になります。良い実況をし続けることにこだわりを持っています。商品のクオリティを高く保っていれば、いずれうまくいくと信じてほしいです。

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(編集:創業手帳編集部)

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(取材協力: 株式会社ODYSSEY 代表取締役 平岩 康佑
(編集: 創業手帳編集部)



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