みらい創造機構 岡田 祐之|新設ファンド「東工大関連ファンド」の仕掛け人に独占インタビュー!

創業手帳
※このインタビュー内容は2016年11月に行われた取材時点のものです。

東工大関連ファンドインタビュー

(2016/11/07更新)

国立大学法人東京工業大学と株式会社みらい創造機構(代表取締役社長:岡田祐之氏、以下「みらい創造機構」)は、2016年5月13日に連携協力に関する協定を締結し、「東工大関連ファンド」を設立しました。

技術屋から一転し、ベンチャーキャピタルへ。さまざまな経験を積まれた岡田氏が手掛けた、東工大関連ファンドの実態に迫ります。

東工大の独創的な基礎研究・最先端技術を活かし、技術立国日本を発展させたい!
そのような岡田氏の熱い想いを語っていただきました。

interview-okada

岡田 祐之(おかだ ひろゆき)
東京工業大学大学院修士課程修了。大学院修了後に東京電力入社、原子力部門にて新技術開発に従事。企画調査部門に転向後、海外技術の導入と事業化、国プロ技術開発でのプロジェクトマネジメントに従事。原子力政策策定、規制当局との折衝業務。事業組成からサービス化、営業戦略までの戦略立案と実行の経験を積む。株式会社みらい創造機構 代表取締役社長。

「東工大関連ファンド」参考HP

東工大関連ファンド設立のねらいー技術立国日本の発展を目指す

ーこのファンドの目的は何でしょうか?

東京工業大学(以下、東工大)関連の研究成果や知的財産の事業化、東工大に関連する研究者や卒業生が携わるベンチャー企業への投資・支援を通じて、東工大の社会連携機能の拡大と国際協働が加速することを目的としています。

その成果を世界が評価し、東工大が手がける独創的な基礎研究や最先端技術開発をどんどん進めるための原資を呼び込み、技術立国日本の発展に寄与していきたいと考えています。

ーどういった組織やメンバーが主体になっていますか?

東工大の卒業生を中心に、事業部門での事業づくりに経験豊富なメンバーが主体となって、技術と市場を熟知した外部専門パートナーと協働して組織しています。
もしかすると、授業より課外活動が得意科目だったメンバーが多いかもしれませんね。

ーなぜ東工大なのでしょうか?

技術的な実力や可能性を秘めていたにも拘らず、リスクマネーの供給元が東工大には存在しておらず、我々にとって一番身近な大学(母校)だったことが大きいですね。
いつも、学生時代より大学にいる時間が多いなと苦笑いしていますが。

また、実は逆説的に重要なのが、東工大が理工系単科大学であるという点です。
イノベーションは新連携から生まれるものです。
医学領域、農学領域、海洋領域等については、必然的に他の大学や研究機関と連携を進めていくことになり、イノベーションが起こりやすい環境になると考えています。

実は既に大学内プロジェクトには、美術大・芸術大の皆さんとのコラボレーションも進んでいます。
これら「大学間連携」を我々みらい創造機構が推進していくことも非常に重要な成功の鍵とみています。いまでこそ学内にも女子学生比率が増えてきましたが、消費財イノベーションのことを考えれば、女子大とのコラボレーションも重要になると思いますね。

東工大の強みを活かしたベンチャー創出

ー投資の対象の領域は?

投資対象については、技術やサービスの貢献領域を意識しています。
全世界の抱える社会課題を克服したり、私たちの生活を一変するようなもの全てが対象とする領域です。

東工大が強みを有する、計算機科学、人工知能、IoT、ロボティックスや新材料領域の技術・ノウハウを活用し、環境・エネルギー、ライフ&ヘルスケア、海洋開発等、様々なマーケットニーズを捉えた新たな事業化とベンチャー創出を支援していきたいと思います。

しかし、あくまでも、IoT、AI、ロボティクス等は技術要素ですから、最終的な価値創造シナリオを我々みらい創造機構と産業界とで併走して生み出せると判断した領域が投資対象になると考えています

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ーAIやロボティクスは今後世の中をどれくらい変えると思いますか?

東工大が得意とする、計算機科学やロボティクス技術は、既に人間の能力を遥かに凌駕するテクノロジーになっていると考えています。
しかし、お話したとおり、世の中をかえる、社会価値を引き出すのは我々の仕事でもあり、世界が日本に期待しているところであると感じています。
RIOオリンピックの閉会式での日本を全世界が評価、期待してくれたように。

ーファンドの強みは何だと思いますか?

大変素晴らしい流れとして、我々のように新設されたファンドの数が増加中と聞いています。
逆を言えば、お金の出し手が増えている分、我々の強みの輪郭をしっかりと明確にする必要があると認識しています。しかし、外部環境が劇的に変化する中で、相対的な強みを維持していくことは、大変困難なことです。

一方、東工大とみらい創造機構の持つ幅広い企業や地域とのインサイドネットワークを活かしながら、技術と市場をにらんで成功確率を上げる仕組みを持っているところが、我々の本質的な強みかもしれません。

これらビジョンに賛同頂き、みずほ証券プリンシパルインベストメント、東京都民銀行、芙蓉総合リース、西武信用金庫、三菱UFJキャピタル、東急不動産ホールディングス、デンソー、ツネイシカムテックス埼玉(敬称略)にご出資を頂きました。
このように、そのネットワークには出資者の方々自体も含まれていますので、心強さは倍増です。

技術屋からベンチャーキャピタルへ 研究発展の可能性にかけた想い

ー岡田様のキャリアを教えてください。

私は大学院に進学しましたが、4年卒業時が就職バブル、大学院修了時が就職氷河期のはじまりと、なんともいえないタイミングで社会にでました。
大学の専門(原子核物理)の延長で、電力会社の原子力技術者として社会人をスタートしました。

このような時代でしたので、先輩社員の人数も多く、枠にとらわれず何を成すべきか考えしっかり成し遂げなければサラリーマン(?)としては次のステップに進めないな、などと、そんなことを考えていたように思います。そんなはみだし気味(笑)の私をしっかり見て下さっていた上司に恵まれたこともあり、技術屋から一転、ベンチャーキャピタルへの派遣という機会を得ました。

当時、ファイナンスのファの字にも触れたことの無い技術屋に何が勤まるのか?と自分でも思っていましたが、いやいや、これまで私を育ててくれた緒先輩に大変感謝としか言いようも無い、分野は違えど、技術を眺める本質的な視点を着実に鍛えて貰っていたことを、外に出てはじめて気づくことができました。
帰任後も、新事業企画や投資部門で、色々な事業分野の経験を積ませて頂き、サラリーマンとしては極めて稀なキャリアを歩ませて頂きました。

ーファンド設立に至った経緯はどのようなものですか?

先にもお話したとおり、特に国立大学における研究活動に係る原資が、海外のTOPスクールとの比較で水をあけられていく状況にあることを感じておりました。
実力が拮抗していれば、必然的に資金が大きいほうに競争優位を奪われることは自明です。
そこでなんとか、研究活動への多様な資金の流れを作ることができないかと考え、ファンド設立の検討に至りました。

そんな中、我々のファンドがスタートした翌月、大隅良典栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞されました。
東工大にとっても大変嬉しいニュースで、学内がぱっと明るい雰囲気に包まれました。
しかしながら、当初から我々も懸念していた通り、受賞後に大隅先生が発信されたメッセージは、日本における基礎科学領域での研究環境維持の課題でした。
一方、企業活動において(国の大きな流れもそうですが)、出口志向の強い開発研究や応用研究に活動原資が厚く配賦されることは、必然であると理解しています。

このバランスは一民間企業で負うには大変難しい課題であります。
しかしながら、我々はファンド準備当初からその難題に挑戦し、できることからはじめようと考えていました。

そこで、まずはこれまで培ってきた先端技術の価値化・事業化を社会に対して分かりやすい形で事業成果へと結び、次なる中長期的な研究活動の呼び水として、大学への活動原資の流れを目指しています。
同時に、私自身がそうであった様に、技術の専門家がマーケットに触れることで、自分の取組むテーマ領域が新たな可能性に繋がることを体現できるきっかけ作り、人材作り、を東工大に創りたかったことも挙げられます。
皆さんご存知の通り、駒場や本郷にはその素晴らしい土壌が関係者の努力によって既に出来つつあります。
我が大岡山・すずかけ台・田町もそれに続き、又は、協働したりする環境を作っていけたらと思います。

投資の可能性は無限大!これからの展望は

ーファンド・VCにはどのような役割が求められていますか?

先ほどお話したとおり、沢山のファンドが立ち上がり、リスクマネーの出し手が増えていくことは、わが国の産業創生・成長戦略達成に向けて大変良い流れと考えています。
また、そのファンド間でそれぞれの強みを活かした様々な役割分担と協力体制が一層進んでいくよう連携できればと思います。

ファンドの強みでもお話しましたが、特に我々が果たす役割としては、事業会社の方々と早い段階から密に連携して、大企業と支援先VBそれぞれの持ち味を最大限活かせる事業シナリオの推進をコーディネートさせて頂くことにあると考えています。
大企業とVB双方の立場の経験を持つ私だからこそ、その役割を果たすべきものと強く認識しております。
また、既に米国の80%がそうであるように、EXITの多様化としてのM&Aの可能性が拡大していくことにも尽力していきたいと考えています。

自社の経営計画の中で成長戦略に、VBとの連携やCVC設立などを盛込む事業会社は大変増えています。しかし、この施策が壁にぶつかるポイントはいつも同じで(笑)、私も嫌というほど経験済みですが、成長戦略上なんら間違っているものではありません。
環境変化や状況変化に併せて、これを如何に上手くやるかであり、我々のようなコーディネート役の力量が問われるわけです。

このため、我々はVCではありますが、VBを巻き込んだ成長戦略遂行のための大企業側の人作りも大変重要と考えています。
これも、私自身がそうであったように、是非、大企業の中堅人材が私どもと併走(出向)頂いて、大企業とVBとの間に立てる人材が増えていくことが、わが国の成長戦略としても大変重要であると確信しています。

ー今後の展望を教えてください

これまで、東工大連携ファンドにおいても、産業界との連携が重要と考えていることをお話しました。
実は、東工大130年史を紐解くと、大変興味深いのですが、それらが既に「建学の精神」として綴られています。

まさに、東工大は当時の教育界におけるアントレプレナーであり、明治近代工業国家の礎を築くため、当時としては珍しかった「実修を通して、学理と実理を兼ね備えた教育」を実践し、「本校の教育はつねに民間に先行して行われ、その成果が民間における工場を喚起させていった」というほど、産業界と連携を保ち、民業育成と工業近代化を担う人材養成を未来国家のために目指していたことが分かります。

当時の社会情勢の中で大変な反対にあいながらも、あきらめず、あるべき未来像を目指して貫いた、この建学の精神を受け継ぐべく、東工大とそこからでたベンチャー群が、今の時代における未来を創造するために大いなるプレゼンスが示されるよう、私たちも全力でご支援して行きたいと考えております。



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