マツリカが国産CRMを作るまで。大企業に挑戦するには「プロダクトビジョン」が大事【前編】
「プロダクトビジョン」で競合と差別化。SaaS営業支援ツール「Senses(センシーズ)」で、営業の現場を支えたい
セールスフォースなど、外資系や大企業が圧倒的な強さを見せているCRM業界において、国産CRMで注目されているのがマツリカです。CRMとは「Customer Relationship Management」の略で、「顧客関係管理」を指し、顧客との関係を深めてくれます。
国産CRMで注目企業のマツリカ黒佐CEOに、同社の大企業への挑戦の仕方、プロダクトビジョンに込めた営業支援への思いについて、創業手帳の代表の大久保が聞きました。
株式会社マツリカ 代表取締役 Co-CEO
ニューヨーク州立大学バッファロー校卒業後、積水ハウス株式会社にて個人向けの企画提案、法人・資産家向けの資産活用提案、海外事業開発において企画営業及びマネージャーに従事。2011年に株式会社ユーザベースに入社し、営業開発チーム立ち上げを担当。以来、営業部門、マーケティング部門及び顧客サポート部門の統括責任者を歴任し、SPEEDA販売促進・保守、営業・マーケティング戦略の立案及び執行を担う。2015年にマツリカを共同設立。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
マツリカのミッションと創業に至るまで
「マツリカ」に込めた思いとは
大久保:早速ですが、マツリカという社名の由来を教えて下さい。
黒佐:マツリカという社名は、われわれのミッションである「世界を祭り化する」から名づけました。「祭り化」は、起業前から私が個人的に使っていた言葉です。人のエネルギーで満ち溢れた世界を作りたい。マツリカは、ミッションそのままの社名ということです。
大久保:創業当時から、事業デザインはできていたのでしょうか?
黒佐:創業準備をしながら、「世界を祭り化する」というミッションに合致した事業は何かと考えていました。当時は今ほど完成された事業領域を描いていたわけではなく、まずセールス領域に取り組むと決めました。2015年4月に設立しています。
起業を考え始めた中学時代
大久保:黒佐さんは、米国で大学卒業後、積水ハウスに就職されました。キャリアをどのように設計されていたのですか?
黒佐:そうですね。正直中学生の時から、起業するイメージは持っていました。自分が人生において何をやっていく人間なのかと自分自身の信念を考えた時に、自分ひとりの力でできることは限られているので、より多くの仲間や、より多くのお金が必要だと気づきました。そのためには、起業という手段を取ったほうがいいなと思ったのです。
積水ハウスへ入社したのは、起業を前提に「営業を学ぼう」と思ったからです。人やお金を集めてサービスやプロダクトを売る、すべてにおいて営業が重要です。そのために営業に強い積水ハウスを選びました。
当時は3年ぐらいで辞めるつもりでしたが、結局5~6年勤めました。その間に1回起業しようと思ったものの、ITの知識があるわけでもなく、経営を横で見ていたわけでもないということに気づき、そのタイミングで、ユーザベースに転職しました。
ユーザベースでゼロイチの組織作りを経験
大久保:ユーザベースでは、どのような経験をされましたか?
黒佐:私が入社した時、ユーザベースの社員はまだ15名ぐらいで、これから人を増やしていこうというタイミングでした。私は営業チームを作り、一通り仕事が回るようになったら他のメンバーに任せて、次はマーケティングチーム、CS(※1)チームと、次々にチームづくりに取り組んでいきました。
退職前の約2年は全体の責任者を務めました。ゼロイチでチームを作り、広げていく。そして全体が大きくなった時に組織に何が起こるのかについて、一通り経験できたのは大きかったです。
※1 CS:「Customer Satisfaction」の略で、「顧客満足」を指す。
大久保:ユーザベースを退職して、起業された経緯について教えてください。
黒佐:ユーザベースが上場を決めてから、仕事に対して少し物足りなさを感じるようになりました。会社は上場ラインに乗っているので、上場することは分かっているし、その計画通りに進めることが大事で、リスクは取れません。新しいことをしたくても、それに投資できないわけですから、そろそろかな…と思うようになりました。
マツリカのプロダクトと企業風土
大久保:現在のマツリカについて教えてください。
黒佐:今は社員が60~70名です。SaaSで「Senses(センシーズ)」という営業支援ツールを提供しています。AIが案件のリスク分析や類似案件を直接アドバイスしてくれる、画期的なツールと自負しております。
営業支援ツール「Senses」は、「現場での使いやすさ」にこだわる
大久保:セールスフォース(※2)の競合という立場ですが。
※2 セールスフォース:アメリカのSalesforce.com社が手掛けるクラウド型の顧客管理システムであり、世界中で利用されている。CRMプラットフォームの先駆け。
黒佐:そうですね。我々は創業から約5年半かけて機能を積み上げ、セールスフォースとほぼ同等の機能をもったツールを提供しています。
SaaSは海外だけでなく、国内でもここ数年で広がっています。多くの競合がある中、プロダクトを差別化するのは「プロダクトビジョン」です。プロダクトビジョンをもとに、ひとつひとつの機能を作っていくので、同じ営業における課題を解決するのでも、プロダクトによって表現(使い方や使いやすさのこと)は違います。
われわれがプロダクトビジョンで大事にしているのは「現場主義」です。本来CRMは管理ツールなので、基本的に管理者に価値を感じていただくツールなのですが、Sensesの場合は「営業現場で使いやすいように」ということにこだわって作っています。
大久保:プロダクトビジョンがない、単なるスペック競争は不毛ですよね。
黒佐:おっしゃるとおりです。例えば、同じ要件定義をされて、これを作ってくださいと依頼されたとしても、それをどう捉えるのか、どうやってコーディングして、どう見せるのか、そこに何か疑念を持つか持たないか、そのひとつひとつにプロダクトビジョンがないと、全然違うものができてしまうと思っています。
ミッション・バリューに基づき「自分で考え、自分で動く」自由な会社
大久保:マツリカの社風について教えてください。
黒佐:基本的に自由な会社です。「どんな会社?」と聞かれたら、「自由な会社」と答える社員が多いと思います。「自分で考えて、自分で動く」という会社ですが、ミッションやバリューをとても大事にしています。それさえしっかりしていれば、あとは各自で考えて動いても、大きくぶれることはないと考えています。
大久保:ミッションやバリューを社内に浸透させるのは難しいと思いますが、どう伝えていますか?
黒佐:浸透させるための施策は日々行っています。バリューを体現させる目的で、社内広報をしたり、バリューを体現したことを社員同士で話し合うこともあります。表彰をしたり、評価制度に入れたり、浸透させるためにできることはできるかぎり行っています。
一番大事にしているのは、「ミッション、バリューは大事だ」と言い続けることです。とにかく社員が数多くミッションやバリューに接する機会を作るようにしています。
マツリカの組織設計と採用
大久保:採用や定着率に悩む企業も多いですが、マツリカはいかがですか。
黒佐:私のここ1~2年の考えですが、終身雇用はとっくになくなっていると言いつつも、一定数は長く勤めることが前提で、雇用側も被雇用側も組織を保っていたと思います。
でもいよいよそれが、本当に無くなってきたというか、例えば米国ではフリーランスは50パーセントを超えています。おそらく日本もどんどんそうなってくると思います。
フリーランスも増えていますが、エンジニアが3年同じ会社にいたら長いみたいになると思います。ですから極端なことを言うと、3年で人が入れ替わることを前提に経営をするような考えが、世の中に出てきてもいいのではないかと思ったりもします。
ただ、これはあくまでも個人的な考えなので、今すぐ会社にその考えを落とし込んで経営しているわけではありません。長く定着してくれたほうがいいに決まっているのですが、将来どこかのタイミングで、3年で80%が入れ替わるぐらいの前提で、人事制度や組織設計をしていく必要があるのではないかと、うっすら思っている感じですね。3年経っても離職ではなくポジションチェンジなどの方法で要件を満たせるケースも多いと思いますし。
大久保:マツリカに応募してくる方は、何に魅力を感じているのでしょうか?
黒佐:いろいろな方がいますが、事業領域に興味を持つ人と、ミッション、バリューに興味を持つ人の大きく2つに分かれます。
事業領域で言うと、最近はSaaS業界で働きたい転職希望者が多いと思いますが、その中でSaaSの王者であるセールスフォースに向かっていく事業に関われるという理由は多いですね。
もうひとつは、ミッションやバリューに基づいた働き方です。組織風土、働き方のところで、自由な働き方や、今日のテーマのひとつでもあるリモートワークを取り入れているところに魅力を感じるようです。
(後編に続きます)
起業を支援する冊子「創業手帳」では、多くの起業家のインタビューを掲載しています。起業経験者による体験談をご覧いただき、ぜひ今後にお役立てください。
(取材協力:
株式会社マツリカ 代表取締役 Co-CEO 黒佐英司)
(編集: 創業手帳編集部)