マツリカ 黒佐英司|スタートアップこそ知見やデータを蓄積してくれるCRMを導入すべし

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年06月に行われた取材時点のものです。

生産性を下げず課題を解決してくれる国産CRMのメリットとは


「顧客関係管理」を意味する「Customer Relationship Management」の頭文字を取ったCRM。顧客情報を集約し、管理するためのツールです。

CRMはある程度大きな企業が導入するイメージがありますが、2015年に国産CRMで起業したマツリカのCEO、黒佐さんはスタートアップだからこそCRMを導入したほうが良いといいます。

第一弾のインタビューに続き、創業手帳代表の大久保がスタートアップがCRMを導入するべき理由や日本のDXなどについてお聞きしました。

黒佐 英司(くろさ えいじ)
株式会社マツリカ 代表取締役 CEO
ニューヨーク州立大学バッファロー校卒業後、積水ハウス株式会社にて個人向けの企画提案、法人・資産家向けの資産活用提案、海外事業開発において企画営業及びマネージャーに従事。2011年に株式会社ユーザベースに入社し、営業開発チーム立ち上げを担当。以来、営業部門、マーケティング部門及び顧客サポート部門の統括責任者を歴任し、SPEEDA販売促進・保守、営業・マーケティング戦略の立案及び執行を担う。2015年にマツリカを共同設立。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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CRM導入で生産性を下げずに売上げをアップする

大久保:以前のインタビューでは営業支援ツールであるCRMを立ち上げるまでの経緯や、企業としてのリモートワークなどへの取り組みについてお聞きしました。今回は一歩踏み込んで、スタートアップがCRMを導入するメリットや導入する上での注意点についてお聞きできればと思います。

黒佐:そうですね。スタートアップですと、成長に伴ってどんどん人が増えるケースが多いと思いますが、一般的に人が増えると教育や情報共有の必要性が上がるので、その分生産性が落ちるといわれています。CRMがあるとスピード感のある情報共有ができるので、生産性を下げずに済みます。

またCRMで情報が見えるようになると、時系列やどのような顧客がいるかがわかり、結果として課題が見えてきます。細かいデータの蓄積と整理、そしてどのように対処するかを分析して対応するということが重要なので、CRMに入力して終わりではなく、そこからがスタートととらえていただきたいですね。

大久保:具体的にはどういった点に注目してデータを見るといいのでしょうか。

黒佐受注や失注の量や理由、また流入経路、どの部分でコンバージョンが増えている、または減っているのかという部分です。

例えば「この展示会に出展したときから流入が増えた」というターニングポイントを見つけることができれば、今後も同様の展示会にどんどん出展しようという方針を決めることができます。

なぜ受注が増えたのか、なぜ競合に負けたのかなど、いかに情報の共通点を探していき、今後につなげるかということが重要です。

大久保:エクセルはCRMの代わりになり得るのでしょうか。

黒佐:エクセルもデータを残すということは可能ですが、列や行を無限に増やすことはできても、一挙手一投足のデータを全部記録したり、全てを紐づけたりすることには不向きです。

また、最新の状況を上書きしがちなのですが、それも過去のデータが消えてしまうのでよくないですね。例えば「この顧客にメールを送ったらどのような動きがあった」というような細かいデータが蓄積されていくことが大事です。

大久保:ベテランのマネージャーは過去の事例や因果関係が頭の中にインプットされていますよね。それをCRMで見えるようにすることで、全員がベテランマネージャーのような働きができるようになるということなんでしょうか。

黒佐:その通りです。経験を積んだ営業マンは、過去のデータが頭に入っているのでさまざまな場面で自然にどう動けばいいのかが分かっているのですが、例えば入ったばかりの社員が「こういう場面でどうすればいいのか」という疑問を持ったとき、過去に似たような事例があって、どのように対応したのかということがCRMを見ることでわかります。

また、例えばある上司に教わるとひとりの知見しか学べないですが、CRMには他の上司の情報も溜まっていくので、あらゆる知見やデータを得ることができます。

そういった点が、人員が一気に増えることも多いスタートアップでは余計に大事になってくる要素だと感じます。

入力者にメリットが感じられる現場主義のCRM

大久保:CRMを使う上で、入力に手間がかかるというのは共通の悩みかと思うのですが、いかがでしょう。

黒佐:その点に対してのアプローチは2つあると思っています。

1つ目は、入力はやはり面倒なので、とにかく簡単にしていくというアプローチですね。そのアプローチの究極形は自動化だと思っています。例えば、クライアントにメールを送ると自動的にCRMで情報が貯まっていったり、zoomで面談したことが自動で要約されてデータとして蓄積されるようになれば、入力の手間が省けて楽になります。今後は、今話題のAIの力を借りるなどして、少ない動作でデータの蓄積ができるようにやれることをすべてやっていくべきだと思います。

2つ目としてはマインドの問題です。「入力しても自分の得にならない」と思うと入力が面倒に感じますよね。

一般的なCRMは管理のためのプロダクトであり、すなわち管理者のものですが、弊社のCRMは現場主義であり、入力する人にメリットがあるように設計をしています。

具体的なメリットとしては、データが蓄積されたCRMがまるで先輩社員のように困ったときにさまざまなことを教えてくれるという点です。

大久保:なるほど。CRMの導入担当者はどういった人が適任なのでしょうか。

黒佐:我々のプロダクトはエンジニアの知識は必要ないですし、誰でも設定を変更できるので、必ずしもITリテラシーが高度な人材である必要はありません。

ただ、導入担当者に求められる役割は次の2つがあると思っています。1つ目はやりたいことは決まっていてCRMのなかでどうやって情報収集をすればいいかのシステムを設定すること、2つ目がやりたいことが何なのかを決めることです。やりたいことが決まっていないと、どう設計していいかもわからないので、2つ目の要素は必須といえます。

企業によっても違いますが、数字を細かく見て、会社のKPIを設定することができる営業企画のような人が適任なのではないでしょうか。

大久保最初に進むべき方向をきちんと定める必要があるのですね。ある程度の期間使用していて多量のデータが蓄積されていると、あるCRMから違うCRMに引っ越すのは大変という印象がありますが、その点についてはいかがですか。

黒佐:作業としてはCSVファイルとして書き出して移行すれば、実はエクセルからの移行とそんなに変わらないと思います。大変というイメージはおそらく、現状維持バイアスがかかっていて、精神的なハードルが上がってしまっているからだと思いますね。

長年使っているから大量にデータが溜まっているはずと思いがちですが、実際に作業を始めてみればそこまで大変ではないはずです。ただ時系列などの紐づけが大切なので、そういった部分も含めて引越しを完了させる必要があります。

日本のDXは今まで以上にスピードアップすべし

大久保:創業から7年経つわけですけれども、世の中の変化や中小企業のDX化の現状についてはいかがですか。

黒佐:そうですね。2015年の創業時はクラウドがダメという企業もありましたし、パソコン1台を複数人で使っているという企業もありました。でもコロナ渦を経て両方ともほぼなくなったので、世の中はずいぶん変わったと思います。

ただ、それでもまったく日本のデジタル化は足りていないと感じています。紙を使用して仕事をしているところもまだまだありますし、日本と海外でも状況は違いますが、地方と東京でも5年10年違ってきます。

地方の家族経営の中小企業などでお子さんに引き継いでいかれる方から連絡をいただくというケースもけっこうあります。デジタル化の責任者はやはり柔軟性が高い若い人が適任だと思いますね。社長を若くするというのも効果があると思います。

例えば銀行からお金を借りるときは過去の実績を見ていくらまで融資できるかが判断されますが、CRMを使用していれば過去のデータから未来のデータを可視化できるので、より融資の金額が増えるという可能性もあると思っています。

大きい企業が変わらないと小さな企業は変われません。官も民も一丸となって、今までの10倍のスピードでデジタル化に取り組んでいかなければならないと思っています。

大久保:コロナ渦で世界が変わったという話がありましたが、今後の展望はありますか。

黒佐「創造性高く遊ぶように働ける環境を創る」というのが我々のビジョンです。我々のCRMを使う人、すなわち入力する人が「メリットがないから面倒」ではなく、進んで使いたくなる、入力したくなるプロダクトを作るために開発しています。

もう少し中期的な話をすると、営業の世界ではCRMというのは大きな市場ですが、営業だけを支援したいとは正直思っていないんです。中期的には同じビジョンのもとで、他の領域や他の職種も支援していきたいと思っています。

大久保:CRMを導入することを検討している起業家の方にメッセージをいただけますか。

黒佐データは1日でも早く貯め始めたほうがいいということは心からお伝えしたいですね。最初に申し上げたように、人員の入れ替わりや増員が早いペースで起こりやすいスタートアップではデータとしての知見を蓄積し、メンバーで共有することが生産性を上げるために必要です。

思い描く未来を実現させるためにもぜひ導入していただきたいですし、導入時は代表者がどんな思いで導入するのかをきちんと社員に伝えることも大事です。

起業を支援する冊子「創業手帳」では、多くの起業家のインタビューを掲載しています。起業経験者による体験談をご覧いただき、ぜひ今後にお役立てください。

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(取材協力: 株式会社マツリカ 代表取締役 Co-CEO 黒佐英司
(編集: 創業手帳編集部)



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