黒字化して終わりじゃない!持続的に利益を生み出す“黒字経営の型”とは?
黒字でも倒産する!? 今、必要なのは「利益の仕組み」
「黒字経営」と聞くと、順調で安定している企業をイメージするかもしれません。
しかし実際には、黒字なのに倒産する企業も少なくありません。
例えば、「帳簿上は利益があるのに資金繰りが回らない」「大型案件が終わった途端に赤字転落」──。こうした事態は、多くの中小企業にとって他人事ではない現実です。
なぜ、黒字なのに資金が足りないのか?
その答えは、「利益が出た」という結果ではなく、どういう仕組みで利益が出ているか、つまり「利益の構造」を正しく理解しないまま経営判断を下してしまうことにあります。
今回の記事では、「黒字経営を再現するための仕組み化」に焦点を当て、黒字倒産を防ぎ、持続的に利益を生み出す経営の“型”について営業支援・コンサルティング事業を展開する株式会社エッジコネクションの代表大村氏に解説していただきます。
延岡高校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業後、米系金融機関であるシティバンク銀行(現SMBC信託銀行)入行。2007年、株式会社エッジコネクション創業。営業支援業を軸に、現在は人事・財務課題も対応する「営業・人事・財務課題伴走型支援企業」として展開。経営危機を乗り越えた経験を生かし、コンサルティング業や、ラジオ・YouTube・コラム・Instagramなど、各種メディアで発信中。
これまでに1600社以上を支援し、継続顧客割合は平均75%台。地元宮崎でも地域振興に尽力し、延岡市立地促進コーディネーターや延岡デジタルクロス協議会人材支援委員長を務める。
2024年7月、「24歳での創業から19期 8期連続増収 13期連続黒字を達成した黒字持続化経営の仕組み」を出版。
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この記事の目次
なぜ黒字なのに倒産は起きる?
「利益が出ているのに資金が足りない」。これは、特に中小企業で実際に起こりうる現象です。
見かけ上は黒字なのに、ある日突然、資金が尽きて倒産という事態に陥ることも。なぜ、こんなことが起きるのでしょうか?
その背景には、会計上の黒字と現実の資金繰りのズレ、そして経営判断の落とし穴が潜んでいます。
会計上の「黒字」と現実のキャッシュは別物
損益計算書で黒字となっていても、実際の手元資金が潤沢とは限りません。
例えば、まだ入金されていない売掛金も「売上」として計上されるため、帳簿上は利益が出ていても現金が足りないというケースがあります。
減価償却のように、キャッシュアウトを伴わない費用によって帳簿上の利益が増えることもありますが、これは資金余力を意味するものではありません。
資金のタイムラグが“黒字倒産”を引き起こす
入金が遅いのに、支払いは即発生する。そんな「キャッシュフローのタイムラグ」が、黒字倒産の典型的な原因です。
特に、大型案件や下請型ビジネスでは、支払いサイトが長期化しやすく、仕入れや外注費、人件費などの支出が先行します。
売上が立っていても、資金繰りが回らなければ経営は破綻します。
「黒字だから安心」という誤認が判断を鈍らせる
黒字であることに安心してしまい、本来は見直すべき非効率な事業や人件費の固定化を放置する。あるいは、資金的な余裕がないのに新規採用や新規事業に投資してしまう。
このような“黒字幻想”が経営判断を狂わせ、取り返しのつかない事態を招くことがあります。
本当に見るべきは「利益構造」と「資金構造」
黒字か赤字かという結果だけでなく、どのような構造で利益が生まれているのか、資金繰りは持続可能かを見極めることが経営の本質です。
例えば「一時的な案件に依存していないか」「固定費に比して利益が薄くなっていないか」など、構造的な分析が必要です。
これらを見誤ると、利益が出ているのに“続かない”経営になってしまいます。
黒字経営を支える“4つの視点”
黒字を継続させるためには、単なる売上や利益額だけでなく、その中身と構造に目を向ける必要があります。
特に中小企業にとっては、限られたリソースの中で「どこで稼ぎ」「どこにコストをかけ」「いつ引くか」を見極めることが、持続的な経営の鍵となります。
ここでは、利益体質の企業に共通する4つの視点から、再現性ある黒字経営を支える具体的な考え方を解説します。
【視点1】売上より「粗利率」を重視する営業方針
黒字経営を支える営業方針の第一歩は「売上至上主義」からの脱却です。売上が大きくても、粗利率が低ければ利益は残りません。
特に中小企業では、少人数で高い成果を出すためには、効率的に利益を確保できる案件に集中すべきです。
粗利率を基準にした営業活動を徹底することで、結果的に資金の余裕が生まれ、次の投資や人材育成にも回せる余地が広がります。
数字で測れる「質の良い売上」を追う姿勢が、継続的な黒字を生む基盤になります。
【視点2】固定費と変動費の“ちょうどいいバランス”
黒字を続けるには、コスト構造の最適化が不可欠です。特に注意したいのが固定費の過剰化。
人件費や家賃など、売上が落ちても支出が続く固定費が多すぎると、資金繰りは一気に厳しくなります。
一方で、すべてを変動費化すると、業務の品質やスピードが不安定になるリスクも。
外注と内製のバランス、人員の配置、オフィス投資などを柔軟に設計し、売上の変動に対応できる“しなやかなコスト体制”を構築することが持続的な黒字経営につながります。
【視点3】キャッシュフローの“見える化”
帳簿上の利益よりも、実際に「いつ」「いくら」現金が動くのかを可視化することが、黒字倒産を防ぐカギです。
特に受注から入金までにタイムラグがあるビジネスでは、キャッシュフロー管理を軽視すると、いざという時に資金ショートを招きかねません。
資金繰り表の定期的な更新、未来の支払スケジュールの把握、事業別のキャッシュ貢献度分析などにより、常に現金の流れを意識した意思決定ができる状態を整えることが重要です。
【視点4】引き際を見極める「撤退ルール」の明文化
事業やサービスは、立ち上げるより「やめる」判断のほうが難しいものです。
しかし、赤字事業をズルズル続けることは、全体の収益性を圧迫し、黒字経営を脅かす要因になります。
そこで有効なのが、「撤退基準」の事前設計です。
例えば「◯ヶ月連続赤字」「粗利率が△%を下回ったら撤退検討」など、明文化されたルールを設けておくことで、感情に流されず、健全な判断が可能になります。
引く勇気が、強い経営を支えます。
実例で学ぶ!黒字を継続させる経営判断とは?
黒字経営を継続するためには、数字の裏側にある「経営判断の質」が問われます。
どの案件を受け、どこで引くか。その一つひとつの判断が、企業体質を左右します。
ここでは、実際の現場で行われている判断の考え方やルールの運用方法を紹介しながら、利益を生み続ける経営の“判断基準”を具体的に紐解きます。再現性のある黒字経営のヒントを見つけてください。
“粗利重視”を貫く理由
売上の大きさに目を奪われがちですが、企業の体力を本当に支えているのは「粗利」です。
粗利が高ければ、その分だけ固定費や投資に回せる余力が生まれ、安定した経営基盤につながります。逆に粗利が低い案件ばかりでは、いくら売上があっても利益が残らず、資金繰りに苦しむことになります。
だからこそ、売上よりも粗利率を重視する営業方針が不可欠です。
例え、魅力的に見える案件でも、粗利が低いならあえて受けないという姿勢が、黒字を「続ける」ための強い経営判断となります。
断る案件の基準と、その運用ルール
すべての依頼を受けていては、組織のリソースが疲弊し、肝心の利益が確保できなくなります。
だからこそ「受けない案件」の基準を定めることが重要です。例えば「粗利率30%未満」「支払いサイト90日以上」「社員の学びにならない」など、自社の基準に照らして線引きを行います。
そして、それを個人の判断にせず、明文化してチーム内で共有・運用することで、ブレのない営業方針が維持されます。断ることもまた、利益を守る大事な経営判断です。
不採算事業からの撤退判断と社内での共有方法
事業の撤退は「損した気がする」心理的ハードルが高く、後回しにされがちです。
しかし、収益を圧迫する事業を続けることは、他の健全な事業にも悪影響を与えます。撤退判断をする際は、あらかじめ定めた基準(粗利率、継続コスト、社内リソースの負荷など)に基づいて客観的に判断し、感情ではなく構造で語ることが重要です。
また、社内での共有は「失敗の責任追及」ではなく「学びの共有」として位置づけ、次に活かす文化を醸成することが再発防止と組織成長につながります。
黒字継続企業が見るべきKPIとは?
黒字を一時的な成果で終わらせず、継続的に維持するためには、どの数値を指標として追いかけるかが重要です。ここでは、黒字を持続させている企業がどのようなKPIを設定し、どのように活用しているのかを紹介します。
見える化された数字が、強い経営判断を後押しします。
“成長率”よりも“収益安定性”を指標に
多くの経営者が「前年比〇%成長」といった数値に目を向けがちですが、黒字経営の持続には“成長率”より“安定性”を重視すべきです。
例えば、前年より大きく売上が伸びたとしても、その過程で粗利率が下がっていたり、固定費が膨らんでいたりすれば、企業の体力はむしろ低下しているかもしれません。
黒字を継続させる経営には、売上や利益の「ブレ幅の少なさ」「構造の健全さ」を評価する視点が不可欠。
定点観測による収益の安定性をKPIに組み込むことで、無理のない成長と健全な利益の確保が可能になります。
営業利益率・粗利率・離職率などの注目すべき数字
持続的な黒字経営を目指す企業が注視すべきKPIは、単なる売上高ではありません。
例えば「営業利益率」は、事業全体の効率性を測る重要な指標です。
また「粗利率」は商材ごとの収益性を、「離職率」は人材面での健全性を表します。
これらの数字を継続的に把握し、月次や四半期単位で推移を見ることで、経営の“体温”を測ることが可能になります。
売上の先にある本質的な健全性を示す指標を軸に、判断の精度を高めることが求められます。
見える化されたKPIが“強い経営”をつくる
どれだけ優れたKPIを設けても、現場で共有・活用されなければ意味がありません。重要なのは、KPIを「見える化」し、日々の意思決定や行動と結びつけることです。
ダッシュボードや月次レポートを活用してKPIを“見える場所”に置くことで、経営層から現場社員までの認識が揃い、組織全体で数字に基づいた動きが取れるようになります。
また、変化を定点で捉えることで、異常値や兆候を早期に察知でき、柔軟な対策が打てるのも大きな利点です。見える化は、判断と行動を加速させる経営の武器です。
まとめ|黒字経営を「再現できる仕組み」に変えるために
黒字経営は、偶然や一時的な好景気の産物ではなく、再現可能な“仕組み”として設計することが重要です。
利益を出すことを目的にせず、利益が「出続ける状態」をいかに意図的に作れるか。それが経営者の本質的な役割です。
ここでは、黒字経営を支える再現性の高い構造や、経営者が向き合うべき視点について、改めて整理していきます。
今ある黒字を未来の成長につなげるためのヒントとしてご活用ください。
「なんとなく黒字」から「意図して利益を出す経営」へ
黒字の理由を説明できないまま「なんとなく利益が出ている」状態は、経営として極めて不安定です。
偶然の受注や一時的な市場の追い風で得られた黒字は、環境が変わればすぐに消えます。重要なのは、なぜ利益が出たのか、どの構造が貢献したのかを自ら把握し、再現可能なプロセスとして設計・運用していくこと。
感覚や運任せの経営から脱却し、戦略的に「利益を出す」経営へとシフトすることで、企業は持続的に成長する力を得るのです。
経営者が向き合うべき“利益構造”とは?
利益構造とは、売上やコストだけでなく、その裏にある「儲けの仕組み」を指します。
例えば、どの商品・サービスが高粗利を生んでいるのか、固定費と変動費の比率は健全か、人的リソースは最適に配分されているか。
これらを数字で把握し、構造的に分析することで、経営の強みと弱点が見えてきます。
黒字を出し続けるには、この構造に定期的にメスを入れ、必要に応じて事業モデルや営業方針を見直す柔軟さが求められます。経営者にとって最も重要な仕事のひとつです。
収益再現性の設計こそ、スタートアップ経営の最優先課題
スタートアップや中小企業では、まず「黒字化」が目標になりがちですが、実は本当に重要なのはその後です。
一度きりの黒字ではなく、それをいかに再現できるかが、企業の生存率を大きく左右します。
再現性のある収益モデルを設計するには、誰がやっても成果が出る営業プロセス、利益の出る価格設定、損益に直結するKPIの運用など、仕組みによる経営が不可欠です。
成長フェーズにこそ、再現性を意識した経営基盤の構築が求められます。
黒字はゴールではなく、スタート地点。
企業が長く成長を続けるためには、「利益の出る構造」を意図して設計し、再現できるように整えていくことが欠かせません。
今回ご紹介した視点や考え方は、明日からの経営判断にもすぐに活かせるものばかりです。
“なんとなく黒字”から、“意図して利益を生む経営”へ──。
ぜひご自身のビジネスにも照らしながら、持続的な成長に向けた見直しのヒントとしてご活用ください。
(執筆:
株式会社エッジコネクション 代表取締役 大村 康雄(おおむら やすお))
(編集: 創業手帳編集部)