クラブ稲葉 白坂亜紀|大成する人は「周りを巻き込める人」

創業手帳

NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』にも出演。時には親友、時には恋人、時には母親。さまざまな役割を担うホステスにはIQ500が求められる?

早稲田大学在学中に女子大生ママとなり、リーマンショックやコロナで何度も危機にさらされながら、約25年間銀座で高級クラブを経営し続けてきた白坂さん。人の心のつかみ方や、大成する人物とはどんな人かについて、創業手帳代表の大久保がお聞きしました。

白坂亜紀(しらさか あき)
クラブ稲葉 ママ
大分県竹田市生まれ。早大第一文学部在学中、日本橋のクラブでアルバイトを始め、2年後にはママに。1996年に銀座5丁目にクラブ「稲葉」を開業し、現在は3店舗を経営する。著書に『銀座の流儀 ―「クラブ稲葉」ママの心得帖―』(時事通信社)『セ・ラヴィ これこそ人生!: 亜紀とあつこ「困難な時代の生き方」を語る』(時事通信出版局)など。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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ホステスとして求められる能力とは

大久保:本日はよろしくお願いします。白坂さんは25年前に独立してお店を始められたとのことですが、25年前と現在のお客さんはどんな違いがありますか?

白坂:こちらこそよろしくお願いします。わたしがホステスになったのはバブル期真っ只中でしたから、やはりその頃のお客さんは豪快に飲んでいましたね。今はよく言えば皆さんスマートです。昔はビジネスマンが多く、「銀座のマナーを教えてやる」というような上司の方が部下を連れて来ることが多かったのですが、今は社用の人たちが少なくなりました。40歳ぐらいでIT系の社長をされていて、銀座で学びたいと言って来られるような方も多いですね。

大久保:一見さんお断りというのは銀座のクラブでよく聞く言葉ですが、やはり紹介ではないと入れないのでしょうか?

白坂:紹介ではないとお断りというわけではないですが、他のお客様たちのためにも、やはり身元がきちんとした方に来ていただきたいというのはあります。「初めまして」とひとりで来る方はあまりいないです。やはり誰かに連れて来られてという方が多いです。
バブル時は約3000軒と言われていた銀座のクラブですが、リーマンショックで10分の1の300軒になったと言われています。コロナでまた減ったでしょうね。

クラブとキャバクラの境がなくなってきたと言われているので、正確に軒数を把握するのも難しいのですが。

大久保:知り合いの社長が、六本木では女性の話を聞いて、銀座では女性に話を聞いてもらえると言っていました。どう思われますか?

白坂:そうですね。六本木で求められるのが女性の華やかさや美しさだとしたら、銀座では接客が大事なので、見た目はもちろん大切ですが、それだけではつとまりません。お客様は担当制なので、売掛金を回収するのも女性の役目です。とはいえ、今はカードがあるから便利になりましたよね。昔はいちいち請求書を書いていましたから。

お客様の誕生日、趣味、仕事の内容、家族構成などを覚えたり、来店された際に今日はわーっと騒ぎたいのか静かに飲みたいのかを読み取って、接し方を変えることも大事です。

大久保:誕生日や家族構成なども覚えているんですか。

白坂:そうです。話した内容も覚えていて、次にいらしたら前回の話の続きから始めますし、例えば「そろそろお子さん大学卒業する頃ですよね」などとお話しすると、自分のことに関心を持ってくれていると感じ、心を開いていただけます。

しかもお酒を飲みながらですから、複数のお客様の情報や話の内容を覚えているのは大変なんですが、それを承知で「営業中はIQ500でいて」と女の子たちにはいつも言っていますね。

もてなすだけではなく、売上も上げないといけないのがこの職業ですから。例えば「今日は友達を連れてきた。プライベートで交際費は使えないから新しいボトルは入れられない」ということであれば、話の中で「お友達は銀座デビューなんですね。わたしがシャンパン入れましょうか」と言うと「自分で入れるよ」という流れになったりします。お客様の気分を良くしながら、売上も上げるために頭をフル回転させています。お金の勘定ができないとホステスはできないですね。

大久保:勉強などはどのようにされているんですか?

白坂:昔は日経新聞を読んでいればいいなどと言われましたが、今はお客様の仕事や興味などが多様化してきて、それだけでは追いつかなくなりました。雑誌だけでも月30冊は取り寄せています。全部読み込むわけではないですけど、パラパラめくるぐらいね。スポーツについても、広く浅く5つぐらい得意であれば大抵の話題にはついていけますね。

自分が話すために勉強するのではなく、お客様の会社に何か大きなことがあったときにいつもと同じ態度でお出迎えするのはおかしいですし、話を聞くときに話し相手になったり、理解したりするために勉強しています。

大久保:夜はお店に出てらっしゃると思いますが、昼は何をされているんでしょうか。
白坂:お店に来ていただいたお礼のメールやお手紙を出したり、予約を取ったり、勉強をしたり、お店に出る支度をしたりと、昼は昼で忙しいんですよ。事務作業も多いですし、昔はそれこそ365日24時間営業と言われていました。

大久保:それだけ忙しいと大変だと思いますが、メンタルはどのように保たれていますか。

白坂:そうですね。今は鋼のメンタルですが(笑)、やはり接客業なので、ひどいことを言われたりすることも時にはあります。そういう時には、帰りにバーで飲んで反省することもありますね。そんな時は、悩むべきことと悩まなくていいことを分け、お詫び状を書くこともあります。

若い子たちに聞くと、カラオケで歌ったり、走ったり、絶対に泣ける映画を見たりしていますね。メンタルが健康でないと、いい接客はできないと思います。

どんな人物が大成する?

大久保:銀座に長くいらして、さまざまな人を見て来られたと思うのですが、どんな人物が大成されると思われますか。

白坂:やはり人を巻き込める人は大きくなっていきますね。自分の会社の成長だけを考えるのではなく、業界や地域を大きくしようというような社会貢献的な気持ちを持っている人です。銀座のクラブももちろん競争はあってバチバチすることもありますが、ママの誕生日などに花を贈り合う伝統があり、いい文化だなと思っています。

また「やってやるぞ」という熱い心を持っている人、人をだましたり嘘をついたりしないまっすぐな人であることも重要だと思います。

独立したばかりの頃に、ヤマト運輸元会長の小倉昌男さんがかけてくれた言葉は忘れられません。大学出のママは当時珍しかったのですが、「志と使命感を持って銀座で頑張れ」「これからの水商売の女性には知性が必要だ」と言っていただき、銀座全体がどうやったら繁栄するかという気持ちでやってきました。

銀座みつばちプロジェクトといって、2006年から銀座のビル屋上でみつばちを飼う活動をしています。食の安全や環境、地方創生などをテーマにしていて、現在はわたしが理事長と社長をやっているんですが、そこもヤマトさんの子会社に協力していただきました。

うちの黒服(お店のスタッフ)は全員大学生なんですよ。社会経験としていろいろなことが学べるからなのか、就職して出世したり、起業したりする人が多いですね。就職面接でも、黒服をやっていましたというと興味を持ってもらえることが多いと聞きます。

大久保:確かに話が広がりそうですよね。お客さんから相談などを受けることもあるんですか?

白坂:それこそ最近は起業の相談を受けることもありますし、会社のトップの方は孤独なので、誰にもしゃべれないような仕事の悩みを相談されることも多いですね。お客様の情報を頭に入れ、よく聞き、興味を持っているからこそ、言葉で背中を押してあげられるのだと思います。そういう意味ではホステスは親友でもあり、ある時は恋人、ある時は母親、というように、何個もの役割ができないといけません。

また、うちから女の子がもう13人独立しているんです。うちはノルマもなくて、厳しくないお店なんですが、できる女の子にはどんどんまかせます。「もうこの子独立できるのに、なんで独立しないんだろう」と思ったら、崖から落とします。勤め人と経営者は住む世界が全然違うので、ためらう気持ちはわかりますが。

大久保:そういう時は、お客さんはどうするんですか。新しいお店に持っていかれてしまうと普通は考えてしまいそうですが。

白坂:のれんわけじゃないですけど、お客様を持っていくのは構いません。銀座のお客様は回遊魚とよく言われます。もし喧嘩したら元のお店には来てくれなくなりますけど、円満に送り出したら元のお店にも飲みに来てくれるので、快く送り出しています。みんなで盛り上げればいいと思うんですよ。

粋な男は何が違う?

大久保:外国人の方も来られるんですか?

白坂:そうですね、アメリカ人、インド人、ドイツ人などが多いです。何回か来られるとハマるみたいですね。英語をしゃべることができる女の子がいたらいいですよね。「こんな綺麗な女性が熱心に話を聞いてくれる、こんな世界はない」と出張のたびに来られる方もいますね。

大久保:お酒はもちろんですが、結局のところ何を売っているのでしょうか?

白坂楽しい雰囲気や、人と人とのつながりというところでしょうか。男性はやはり綺麗な女性から褒められるのが嬉しいですし、元気が出るんでしょうね。大人な男女の大人な会話ができる場所は、実はあまりほかにないんじゃないですか。

男を磨く場所とも言えると思いますね。粋な男の方は、見返りを求めないんです。お店のスペースは限られているので、満席になったらぱっと席を空けるとかね。
大久保:創業時はどんなことに苦労されましたか。

白坂:人をどう採用して、どう育てるかということや、いろんなお客様が来られるのでお客様の振り分けには苦労しました。今はひとりも嫌なお客様はいません。また、景気に左右されるところですね。

やはり経営者としては、銀行の方とはおつきあいしたほうがいいと思います。ITバブルの頃は銀行も「貸します貸します」という感じで、日本料理屋をオープンしました。2018年頃のリーマンショックの前に、お客様の様子がどうもおかしいなと感じて銀行に行ったら「アメリカでこんなことが起こりそうだ」と教えてもらい、危機的状況になる前にお金を貸してもらったことがあります。

わたしは講演の仕事もしているんですが、けっこう銀行のお客様の集まりに呼んでいただくことも多いんですよ。

しばらく営業できなかったりと大変でしたが、コロナ禍でもお店を継続できたのは、過去の経験からの備えがあったからだと思います。

大久保:この先に思い描いていることってありますか。

白坂:そうですね。コロナの影響で1軒お店を閉めたので、もう増やす気はありません。先ほども触れましたが、銀座のクラブとキャバクラの境がなくなりつつあるという声もありますので、銀座のクラシックなクラブらしさを維持して、熟成させていきたいですね。

クラブの女の子は教育が行き届いているのが大事だと思っているので、今後も教育をしっかりしたいですね。例えば初対面のお客様には安心感を持っていただけるように、アルト系のほっとする声のトーンを出したり、笑顔を意識したりといったことです。つまらないクラシックさではなく、クラシックの良さが引き立つようなお店を今後も作っていきたいですし、銀座全体がますます元気になるようにと思って活動していきます。

大久保:本日は貴重なお話をありがとうございました。

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