事業戦略を明示した事業計画の作成方法【木嶋氏連載その5】

創業手帳

エンジェル投資家、木嶋豊氏に聞く「スタートアップのステップ別成長テクニック」


『企業の成長戦略が10時間でわかる本』の著者でエンジェル投資家の木嶋豊氏は、これまで20社以上のベンチャー企業を上場させてきました。成長する企業の特徴は、創業時からビジョンが大きく、柔軟性を持ち合わせていることだと言います。そして何より重要なのは、起業の時点でスケールする考えを持っているかどうかということ。それにはビジネスチャンスを逃さないための起業アイディアのまとめ方や、資金調達を可能にするビジネスプランの作成などが欠かせません。そこで本連載では、創業手帳代表の大久保との対談を通して、全5回にわたって成長する企業の作り方を紹介します。
最終回となる今回は、事業戦略を明示した事業計画の作り方についてお聞きします。

木嶋豊

木嶋 豊(きじま ゆたか)
株式会社アイピーアライアンス代表取締役社長。亜細亜大学都市創造学部・亜細亜大学大学院MBA教授。1986年東京大学法学部卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。ハーバード大学に留学。テクノロジー系VCの取締役、投資総括常務執行役員を務め、現在、ベンチャー投資、成長戦略支援、IPO支援を行う。20社以上を上場させたベンチャーキャピタリスト。20社のエンジェル投資家、4社の会社オーナー、15社以上の成長企業の社外役員・アドバイザー。サンフランシスコ州立大学客員教授を兼職。行政府や企業などでの講演多数。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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興味を惹くエグゼクティブサマリー(事業計画の要約)が最も重要


大久保:今回は事業戦略事業計画の作成方法についてうかがっていこうと思います。事業計画書に記載すべき最低限の内容を説明していただけますか?

木嶋:事業計画書には決まったフォーマットはありませんが、これだけは外せないというポイントを説明していきますね。まず何と言っても重要になってくるのが、最初に持ってくるエグゼクティブサマリーです。これは事業計画書の集大成と言っても過言ではないほど重要なもので、事業計画の要約のようなものと考えてください。

ベンチャーの中には、100枚超えなんていうものすごい量の事業計画書を作ってくる会社もありますが、そうなると見ているだけで疲れてしまいます。ベンチャーキャピタルに勤めていた頃は、あまりにも厚いとそれだけで見るのをやめてしまうほどでした。

ベンチャーキャピタリストは多忙な人が多いので、エグゼクティブサマリーを1枚つけていただくと非常にいいですね。エグゼクティブサマリーには、競合と何が違って何が凄いかということを、1枚にギュッと凝縮して分かりやすく明記する必要があります。

それがよくできていると、20~30枚の事業計画書にも目を通してみようという気持ちになります。そこでいいと思えばすぐにコンタクトを取りますから、エグゼクティブサマリーの重要性は高いですよね。これは相手がエンジェルであってもベンチャーキャピタリストであっても同じだと思います。

大久保:確かに掴みは重要ですよね。エグゼクティブサマリーの作り方のコツはあるのでしょうか。

木嶋エグゼクティブサマリーは最後に作ることですね。20~30枚ぐらいの事業計画書を作って、それを要約したものがエグゼクティブサマリーです。それまで事業計画書で散々想いの丈を書いているでしょうから、エグゼクティブサマリーには何が新しくて何が凄いのかということがサラッと書いてあるとよいでしょう。

製品やサービス概要はマーケティングの4Pを活用してまとめる


大久保:事業計画書には、エグゼクティブサマリーの他にどのような内容を盛り込むべきですか?

木嶋会社や経営者の概要経営理念ビジョンは当然必要ですね。それから、製品・サービス概要、市場・顧客分析、事業戦略、人員計画、事業スケジュール、収支計画といったところでしょうか。それ以外に製品やサービスのパンフレットがあれば添付資料として加えてもいいと思います。

大久保:製品・サービス概要については「競合との違いを明確にするためにはマーケティングの4Pを利用しながら比較表にまとめると良い」と木嶋さんの著書『企業の成長戦略が10時間でわかる本』にありました。

木嶋:ベンチャーの皆さんは自分たちの製品やサービスにすごく自信を持っていて、主観的に良さを書いていることが往々にしてあります。ですが見る側としては客観的な視点が欲しいので、類似のサービスをやっている3社ぐらいの競合と比較して、どこが違うのかを比較表の中でハッキリ述べていただきたいですね。

大久保:競合比較はビジネスの基本中の基本のような気もしますが……。

木嶋:基本に思えて、意外とそれができていないベンチャーが多いんです。競合比較といっても、物理的なスペックだけを並べているだけでは説得力に欠けます。

我々投資する側は、その製品・サービスがどうやってローンチできるのか、どうやって消費者に受け入れられるのかというマーケティングのアプローチを知りたいわけです。

マーケティングの代表的な指標はマーケティングの4Pと呼ばれるものですが、製品・サービス概要の部分では「Product=プロダクトそのものの特徴」「Price=価格」「Place=流通経路」「Promotion=促進政策」の4つについて、それぞれ競合と比べて何が違うのかということをハッキリ書いていただく必要があります。

「うちのベンチャーはまったく新しいものを生み出しているので、競合はいません」と言い切る人もいますが、それはむしろマイナスです。競合に気づいていないというのは論外ですが、自分たちの製品やサービスがすべてで、似ているものに気づいていないというケースもよく見られます。

顧客に提供する価値をバリュープロポジションと言いますが、形は違っても、同じような価値を提供するものは意外とあるわけです。そういった競合とは顧客を取り合うことになるので、それに気づいてきちんと対策をしているかどうかは重要になってきますよね。

自分の想いだけで製品・サービスについて述べても客観性がないので、マーケティングという観点できちんと競合比較をする。それにはやはりマーケティングの4Pを活用していただきたいですね。マーケティングの観点から競合との比較を書いてある事業計画にはグッときますから。

クロスSWOT分析によって事業戦略に説得力を持たせる


『企業の成長戦略が10時間でわかる本』木嶋豊 あさ出版より
大久保:事業計画書のもう1つの要である事業戦略については、「クロスSWOT分析から出てくる戦略を明示すると説得力が増す」と著書にありました。こちらについて詳しく聞かせてください。

木嶋:最近は銀行や自治体、商工会議所などでも「SWOT分析ぐらいはやろう」という流れになっているようですが、まず大前提として、SWOT分析とクロスSWOT分析は似ているようでまったく違うものだということを認識していただきたいですね。

SWOT分析は、自社の強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)を洗い出し、特異性やブランド力、顧客層、販売チャネル、流通チャネル、技術開発力、保有特許、生産ライン、事務管理、企業風土、対外的人脈など、さまざまな視点から行うもので、この分析は自分たちのビジネスの本質を認識するところから始まります。これが内部環境の分析で、そこからさらに事業機会(Opportunities)と市場の脅威(Threats)を把握して、外部環境の分析を行います。

ここまではほとんどのベンチャーが行っている分析ですが、それをクロスさせて戦略を出すクロスSWOT分析を行っていない会社は非常に多いですね。クロスSWOT分析は、SWOT分析で挙げた「強み」「弱み」「事業機会」「市場の脅威」の4つの項目をクロスさせ、さらに深い分析を加えるものです。我々キャピタリストが知りたいことは実はそこにあります。

自社の強みと市場のチャンスを生かして、自分たちはこういう戦略をやる。その戦略こそが重要なので、事業計画書にはクロスSWOT分析によってどのような戦略を考えたかということをぜひ書いていただきたいですね。

大久保:なるほど。クロスSWOT分析に踏み込めていないベンチャーが多いんですね。

木嶋:ええ。ベンチャーの場合は、自社の強みと市場やテクノロジーといった外部環境(フォローの風)を掛け合わせて戦略を導き出すことが重要です。ベンチャーには資源不足という弱みもあると思いますが、その弱みをどう改善するかという意味でも、クロスSWOT分析から出てくる戦略を明示すると分かりやすいのではないでしょうか。

一方で、自社に強みはあるけれど、市場に吹く逆風(アゲインストの風)をどう回避しようとしているのかという戦略を見せることも必要です。弱みと脅威を掛け合わせると最大の脅威になりますからね。

クロスSWOT分析によって、最悪の事態に対してこんな対策を考えているということをぜひ整理しておいてください。そうすることで逆境や自社の弱みに接した時にどう対応しようとしているのかが分かります。SWOT分析で終わらせず、ぜひクロスSWOT分析による事業戦略を出してみるといいと思います。

大久保:クロスSWOT分析の表そのものが事業計画書に入っていると分かりやすいですか?

木嶋:そうですね。表を載せた上で、そのサマライズとして戦略について1枚分ぐらいの文章でまとめられているといいと思います。何の分析もなく戦略だけ載せてしまうと、どういう根拠があってその戦略が練られたのかが分かりにくいじゃないですか。

そこでクロスSWOT分析が出てくると、こういう必然性からこの戦略ができたというのが分かりますよね。そういう意味では、クロスSWOT分析の次ぐらいに事業戦略を持ってくると非常にいいと思います。

収支計画は3〜5年先までの計画をグラフ化する

大久保:著書には「収支計画は3〜5年先までの計画をグラフ化する」と書かれていましたが、それはなぜでしょうか。

木嶋:スタートアップのビジネスというのは、どうやってスケールアップしていくかということが非常に重要になってきます。エンジェルやベンチャーキャピタルに事業計画を見せるという前提で言うと、その会社がどのようにスケールアップするかを示すものとして、3〜5年先までの収支計画をグラフ化するのがいいという意味でそう書きました。

創業時はどうしても先行投資になりますよね。全体の流れとして、起業後2、3年は損益赤字だけど、3、4年目ぐらいから黒字になっていくとか、そういうところが見えて来ると非常に分かりやすいですし、社長としての意見表明にもなります。事業を拡大して売り上げを大きく伸ばしていくという目標が明確になるのではないでしょうか。

大久保:数値化することで自分の中でもビジネスの道筋が定まりますしね。

木嶋:5年経っても売上げが増えないようなベンチャーは、少なくともエンジェルやVCからのエクイティファイナンスは期待できません。エグジットはIPOでもM&Aでもいいですが、ベンチャーとして急成長して、売上げを急拡大していくという成長性に期待するのがVCやエンジェルです。それによってキャピタルゲインが入ることが彼らの主な目的ですから、そういう面で言うと、やはり5年後ぐらいに最低10億円以上の売上げが上がるようなビジネス計画を作った方がいいと思います。

単に売り上げを2倍ぐらいずつ伸ばして、5年経ったら10億円になるなんていうまったく根拠のない数字を出されるとかえって逆効果になるので、先ほど説明したクロスSWOT分析などからくる事業分析、事業戦略をしっかりやった上で、こういう戦略で持っていくからこう拡大していくということを明記してください。

最終的にこういうことを目指しているという可能性を、収支計画でグラフ化してしっかり見せる。そういうことは重要だと思います。今までの連載含め、もっと詳しく相談したいということがあれば、ホームページに私のアドレスが載っているので、気軽に問い合わせてください。

大久保:5回に渡り、ベンチャーの起業に関して興味深いお話を聞かせていただき、誠にありがとうございました。

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(編集:創業手帳編集部)

(取材協力: 株式会社アイピーアライアンス代表取締役社長 木嶋 豊
(編集: 創業手帳編集部)

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