成功に近づくためにビジネスモデルキャンバスを描こう【木嶋氏連載その2】

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年01月に行われた取材時点のものです。

エンジェル投資家、木嶋豊氏に聞く「スタートアップのステップ別成長テクニック」

『企業の成長戦略が10時間でわかる本』の著者でエンジェル投資家の木嶋豊氏は、これまで20社以上のベンチャー企業を上場させてきました。成長する企業の特徴は、創業時からビジョンが大きく、柔軟性を持ち合わせていることだと言います。そして何より重要なのは、起業の時点でスケールする考えを持っているかどうかということ。

本連載では、創業手帳代表の大久保との対談を通して、全5回にわたって成長する企業の作り方を紹介します。前回は、ベンチャーを起業するとはどういうことかについてお聞きしましたが、今回は起業の際に役立つさまざまなテクニックについて解説していただきます。

木嶋豊

木嶋 豊(きじま ゆたか)
株式会社アイピーアライアンス代表取締役社長。亜細亜大学都市創造学部・亜細亜大学大学院MBA教授。1986年東京大学法学部卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。ハーバード大学に留学。テクノロジー系VCの取締役、投資総括常務執行役員を務め、現在、ベンチャー投資、成長戦略支援、IPO支援を行う。20社以上を上場させたベンチャーキャピタリスト。20社のエンジェル投資家、4社の会社オーナー、15社以上の成長企業の社外役員・アドバイザー。サンフランシスコ州立大学客員教授を兼職。行政府や企業などでの講演多数。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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「ビジネスモデルキャンバス」で事業を可視化

大久保:木嶋さんの著書『企業の成長戦略が10時間でわかる本』には、事業計画書を作成する前に、まず「顧客に提供する価値(バリュープロボジション)を明確にするためにビジネスモデルキャンバスを描く」と書かれています。ビジネスモデルキャンバスについて詳しく教えていただけますか?

木嶋:ビジネスモデルキャンバスは、手がけるビジネスの需要と供給を書き出すことでマッチング状況がひと目で分かるものですが、これはブレストに使うのにいいと思います。たとえば、どんなビジネスをしようか考えた時、頭で考えているだけではなかなか実現しないですよね。

なので最初にこんなビジネスをしたいという想いがあったら、その想いをビジネスモデルキャンバスで具体的に広げて可視化してみる。

作業的には、①想定される顧客のセグメント②顧客にどんな価値を提案できるのか③その価値を広めるチャネル④顧客との関係を構築する仕組み⑤収益の流れ⑥価値を提供するために必要なリソース⑦会社が取り組むべき活動⑧アウトソースや外部から調達される主なリソース⑨価値を提供するために必要なコスト、について順に記入していきます。これによりビジネスモデルが明確になり、全体像が見えてきます。

大久保:まずはビジネスモデルキャンバスを描くこと自体が重要ということですね。例えば京都でゲストハウスをやりたかったら、①の「想定される顧客のセグメント」については外国人か若者か、バックパッカーのような層をターゲットにするのかなど、宿泊客の層を具体的に考える。その上で他の宿との差別化を②の「顧客にどんな価値を提案できるのか」で考えますが、これは地域の人と交流できるバーが宿の1階に入っているとか、何かしら特別な価値を提供したいですよね。

③の「その価値を広めるチャネル」は、海外の方をターゲットにするならInstagramでハッシュタグを付けて広めてもらうとか、まぁ色々考えられますね。④の「顧客との関係を構築する仕組み」は、宿のスタッフが京都観光のプランを考えてあげるとか、宿泊プラスαのことを提供して信頼関係を築けるといいですよね。……というように、色々な角度から頭の中にあるビジネスプランを可視化すればいいと。

木嶋:そうですね。新事業のアイディアの発想って思いつきのようなものじゃないですか。なのでビジネスモデルを広げて見える化するという意味ではとても有効だと思います。

流れとしては、こんなものがあったらいいなという発想、たとえば海外で流行ったものをいち早く持ち込むでもいいし、逆に日本でやっていたことを海外に広めるでもいいし、そういったことを考えるのが第一弾です。そうして元となるアイディアがビジネスモデルキャンバスによって可視化できたら、今度はマーケティングの4Pで展開していきます。

可視化したプランを掘り下げる「マーケティングの4P」

大久保マーケティングの4Pは、マーケティングにおいて重要な4つのP(Product、Price、Place、Promotion)の頭文字を取った戦略ですが、起業時にはどのように役立てればよいのでしょうか。

木嶋:マーケティングの4Pは決して難しいことではなく、競合相手と自分をどう差別化するのかを考えることです。その差別化の要因を、①商品の内容(Product)②価格(Price)③流通経路(Place)④販売促進(Promotion)の4つの柱で突き詰めていく。それぞれの柱ごとにどんな戦略を取っていくかを考え、同じようなビジネスをやっている競合とどう差をつけるかということの指標にするんですね。

大久保:例えば環境に優しい洗剤を売りたい人がいたら、競合を調べた上でマーケティングの4Pの考えに則って戦略を練るわけですよね。

木嶋:ええ。エコな洗剤は巷に溢れているので、何がどう環境に優しくて、どれだけその商品が信用できるものかということを伝える必要があります。なので①の商品の内容については、例えば海に流しても問題ない成分で作った洗剤など、界面活性剤入りの洗剤にはない良さを全面に押し出す。

次に②の価格ですが、多くの人が使う食器用洗剤に比べて価格が倍もしたらさすがに購入する人はいないでしょう。このあたりの加減を見極める必要が出てきます。③の流通経路については、エコな人の手に渡りやすい売り方を考える。ファーマーズマーケットのようなところに出店して売ってもいいですし、エコな人が集まりやすい湘南エリアなどにお店を出してもいいわけです。

④の販売促進については、消費者の購買意欲をかき立てる戦略を立てる必要があるわけですが、それなりにフォロワーのいるママさんインスタグラマーに商品の良さを宣伝してもらったり、いろいろな方法が考えられますね。

大久保:考えれば考えるほどビジネスが具現化していきますよね。

木嶋:ええ。ここまでのプロセスを経ると、ビジネスモデルキャンバスで可視化された思いつきが、さらに競合先とどう差別化するかというところまで進化していく。たいして難しいことではありませんが、その最初の部分ができていない人も意外と多いんですよね。

起業セミナーやコンペでは、ビジネスが成功する上での最低限の要点、つまりビジネスモデルの内容とそのモデルが競合と比べて何が優れているかを尋ねます。ですが意外にそれができていなかったり曖昧な人がいるんですよ。

大久保:情熱だけで「やってしまえ!」という人も、少なからずいるんでしょうね。ビジネスモデルキャンバスとマーケティングの4Pは、自分の考えを整理するだけでなく、投資家に伝える時に使ったり、経営幹部で考えてもらうといった時にもよさそうですね。

木嶋:そうですね。他の人にうまく伝えるツールとして、その2つのフレームワークは使いやすいと思いますし、頭の訓練としてもちょうどいいと思います。

大久保:MBAの授業などで「これは有難い!」って言われると違和感があるんですが、ただの道具なので、使いこなしてなんぼなんですよね。

木嶋:そうそう。一方で、大久保さんがおっしゃるように「MBAで使う50のフレームワーク」という本などもありますが、それを一生懸命勉強して実際に事業をスタートしないというのは最悪だと思います。

大久保:自分が以前勤めていた企業は100社ぐらいベンチャーが集まっていましたが、全員ファイブ・フォース分析やSWOT分析を書いて必ず報告していました。ニッチなマーケットをいかに独占するかということばかりやっていたので、ファイブ・フォース分析などは役に立ちましたね。

「ファイブ・フォース分析」と「SWOT分析」で経営戦略を確率

木嶋ファイブ・フォース分析は、5つの力から業界の魅力度を分析し、経営戦略を確立する分析手法ですよね。5つの力のうち、まず注目したいのが「新規参入企業の脅威」です。市場に新規参入しやすい業界では、競争も激しく収益はなかなか上げられません。よって参入障壁を高める戦略があるのかを事前に分析し、判断する必要があります。

大久保:試しにこれを花のサブスク(定額で購入する定期便、サブスクリプションサービスの略)で考えてみますね。大手だと、青山フラワーマーケットが2006年からやっている「旬の花定期便」や日比谷花壇の「ハナノヒ」などがありますけど、それに太刀打ちできる戦略があるかということですよね。

木嶋:そうですね。大手相手にどんな戦略を持って知名度を上げられるかがポイントになります。次に着目するのが「業者間の競争」です。これは素人でも分かることですが、競合同士が激しく対立する業界では、薄利多売になって一向に利益は上がりません。同業者の数やリーダー企業の有無などで、業界自体の魅力度を判断する必要があります。

大久保:花のサブスクに関してはまだ参入の余地があるように思います。同業者の数はそれほどいませんし、コロナ禍で在宅が増えたこともあって花のある暮らしをしたいと考える方が増えてきているみたいですしね。

木嶋:ええ。3つ目に分析すべきは「代替品・代替サービスの脅威」です。先ほどの業者間の競争と少し似ていますが、自分たちの商品に対してどれだけ替わりが効くものが存在しているのかを分析してください。

大久保:これは実店舗の花屋が脅威になりますね。ただ、店舗がない地域の方や、なかなか店に行けない子育て中の主婦の方や多忙なキャリアウーマンなどには刺さるサービスだと思うので、そこにどれだけアプローチできるかですね。

木嶋:ニッチなところを攻めるのもひとつのやり方ですからね。4つ目は「買い手の交渉力」です。せっかく新商品を開発しても、商品を買ってくれる顧客の要求が高いと苦戦を強いられます。理不尽な価格の値下げや品質の向上に対する要求など、買い手がどれだけ高い交渉力を持っているかを分析する必要があります。

大久保:これはサブスクを頼む利用者のことですね。かなりの花好きが利用するであろうサービスなので、花のセンスや鮮度については厳しく指摘されそうですね。

木嶋:それに負けないクオリティのものを届ける自信があれば問題ないですが、配送によるダメージなど気をつけるべきポイントが多いでしょうね。最後に「売り手の交渉力」もチェックしましょう。商品を作る際に必要になってくる部品など、仕入先となる供給業者(売り手)の交渉力もビジネスを伸ばす上では脅威になってきます。自社で使う部品は特定の業者しか扱っていないのものなのか、品薄状態になっていないかなど、業界の構造をしっかりと把握してください。

大久保:これは花を供給してくれる農家との交渉ですね。ではSWOT分析に関しても改めて教えてください。

木嶋SWOT分析は、自社(自分)の強みや弱みを洗い出し、世の中の動きを汲んだ上でビジネスの可能性を探る分析手法です。SWOT分析では、経営資源といった自社の持つ内部環境を分析し、同時に外部環境の分析を行います。外部環境分析については、市場の成熟度や地域的な優先位、技術環境の変化、業界全体から見た競合関係、法規則や海外企業の動向など、さまざまな立場からの分析が必要で、これらを掛け合わせた結果、最適なビジネスが見えてきます。

ファイブ・フォース分析とSWOT分析の2つは基本的なツールですが、これらは成功する事業を構築するための単なる手助けです。手助けであるツールをうまく使いこなして、競合に勝てる戦略を立てる。まだ眠っているけどこんなニーズがあって、それに応える事業を構築するとか。そのための材料にしていただくことが重要です。

大久保:フレームワークを使っていていいと思うのが、次の一手が分かっていることかなと。事業を立ち上げてうかうかしていると競合にやられてしまうので、フレームワークを使い続けると先を見通す力がつきそうですね。

木嶋:確かにクロスSWOTや競合分析をやっておくと、次にどんな変化が起こったらこう対処しようなど、予想できると思うんですね。あらかじめ対処法を予想して、競合とどう差をつけるのか、先手を打つのか、ということにも使えると思います。

大久保:やみくもに起業せず、最初にしっかりビジネスモデルキャンバスを描いてさらにそこから掘り下げる。今回は、改めて事業を成功させるための秘訣についてうかがうことができました。次回はエンジェルやクラウドファンディングなど、ベンチャー企業の資金調達についてアドバイスをいただきたいと思います。

(次回へ続きます)

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(取材協力: 株式会社アイピーアライアンス代表取締役社長 木嶋 豊
(編集: 創業手帳編集部)



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