ベンチャーを起業するということ【木嶋氏連載その1】

創業手帳
※このインタビュー内容は2020年11月に行われた取材時点のものです。

エンジェル投資家、木嶋豊氏に聞く「スタートアップのステップ別成長テクニック」

『企業の成長戦略が10時間でわかる本』の著者でエンジェル投資家の木嶋豊氏は、成長する企業の特徴は、創業時からビジョンが大きく、柔軟性を持ち合わせていることだと言います。そして何より重要なのは、起業の時点でスケール(拡大)する考えを持っているかどうかということ。

それにはビジネスチャンスを逃さないための起業アイディアのまとめ方や、資金調達を可能にするビジネスプランの作成などが欠かせません。本連載では、創業手帳代表の大久保との対談を通して、全5回にわたって成長する企業の作り方を紹介します。

木嶋豊

木嶋 豊(きじま ゆたか)
株式会社アイピーアライアンス代表取締役社長。亜細亜大学都市創造学部・亜細亜大学大学院MBA教授。1986年東京大学法学部卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。ハーバード大学に留学。テクノロジー系VCの取締役、投資総括常務執行役員を務め、現在、ベンチャー投資、成長戦略支援、IPO支援を行う。20社以上を上場させたベンチャーキャピタリスト。20社のエンジェル投資家、4社の会社オーナー、15社以上の成長企業の社外役員・アドバイザー。サンフランシスコ州立大学客員教授を兼職。行政府や企業などでの講演多数。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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ベンチャー企業の分岐点はスケールするかどうか

大久保:木嶋さんは20社以上のベンチャー企業を上場させてきたと聞いています。ベンチャーの定義を改めて教えていただけますか?

木嶋:日本の場合は、人によっては若い人が起業することをベンチャーと称することもありますが、これは曖昧で、ベンチャーの定義は起業後に事業を拡大できるかどうかを事前に考えて起業しているかだと思っています。

起業した時にスケールについて考えているか、もしくは起業しながらスケールするということを第一プライオリティーにしているか。そこが重要だと思います。

大久保:生業的な起業が悪いというわけではなく、いわゆるスタートアップ的な、スケールしていくものとそうではないもので大きく分かれると。スケールするかしないかがベンチャー企業の本質的な分岐点というわけですね。

木嶋:ええ。それはその後の資金調達や事業の拡大にも大きく関わってきますよね。エンジェルやVCから本格的に資金を調達しようとした時、事業がスケールするかということは非常に重要なポイントになってきますから。

ハーバードでは優秀な人こそ起業する

大久保:木嶋さんは以前ハーバードに留学されていましたが、優秀な人ほど起業するという向こうの流れが日本にも少しずつ来ている気がしませんか?

木嶋:そうですね。私が大学を卒業した80年代後半は、同じ東大法学部の仲間たちは3分の1が官僚で3分の1が弁護士、残りが民間企業を志望していて、民間に行くのは二流、三流。ましてやベンチャー企業に行くなんていうことは皆無でした。

なのにハーバードへ行ってみたら、一番賢い自信のある人たちがベンチャーを起こしていた。これにはカルチャーショックを受けました。学卒で大企業に行くのは恥ずべきことで、官僚をはじめ公務員はそれしか働き口がないというイメージですよ。

今は東大でもAIの研究室からベンチャーを起こしたり、慶應もSFCで起業を促進しているせいか、日本でも就職せずにベンチャーを起こす人が増えてきていると感じます。起業する人の質も高くなってきて、あえて就職せずに起業するという人が以前よりも増えましたね。

大久保:昔ははみ出し者が起業するというイメージがありましたからね。変化の激しい今の時代においては、むしろ自分で起業できるということは一番のリスクヘッジですよね。自分1人で生きていけるということですから。

創業期は資金よりどれだけ良い人材を確保できているかがポイント

大久保:木嶋さんが考える起業に適したタイミングというのはありますか?

「不況時は起業に向かない」のはウソ?

木嶋:起業のタイミングはいつがベストというのは一概には言えなくて、今のように不況だからタイミングが悪いというわけではありません。むしろ成功したベンチャーは、リーマンショック後などの不況の時にできた企業が多いですよね。

資金調達は難しいかもしれないけれど、不況の時は意外とクビになった人が巷に増えるので優秀な人を集めやすい。企業を存続させるために必要なもう1つの資源、人材が豊富なんですよね。

スケールするベンチャーは、志を持った人が集まりやすい環境の方が成功するじゃないですか。拡充する時には資金が必要になってきますが、創業したての1、2年はむしろお金よりも人材です。

今だって、2、3年経てばコロナも収束して資本市場やベンチャー市場にも活気が戻ってくるでしょう。戻ってきて事業を拡張する時にVC資金が必要ということで、ちょうど時代にマッチするのではないでしょうか。

大久保結局、起業は思った時に始めるのが一番いいということですね。京セラの稲盛和夫さんも勤めていた会社が潰れかけて、自分で会社を始めたという話を聞いたことがありますし、アメリカでもヒューレット・パッカードのリストラによってシリコンバレーに人が流れという話がありましたね。ここ数年の人材不足は異常でしたもんね。

木嶋:そういう時は当然ベンチャーにも人材なんて流れないですからね。アメリカは他にも、IBMが倒産しかけた時に辞めた人たちがベンチャーを起こして、結果的にいい企業に育ったという話もありますね。

不況の時は、大企業にバキュームされていた人材がうまくスタートアップに流れていくんです。逆に好況の時は、ブラックホールのように人材が大企業に吸収されてしまうんですよ。

30~40代は「プレイングマネージャー」を目指せ!

大久保:ではコロナ禍での起業についてはどう考えていますか?

木嶋:今はコロナがきっかけで、付加価値を生まない中堅大企業の30〜40代の人材がハッキリしてきてしまっている。この状況が続くと、ホワイトカラーの大失業時代につながり兼ねません。その世代は今、自分がプレイングマネージャー(現場に立ちつつ、部下の管理も行う立場)としてやり続けられるかを見極める力が問われています。

また、人生100年時代と言われる一方で、会社の寿命は30年と言われています。そうなるとひとつの企業に勤め上げることは不可能で、終身雇用制度も崩壊しつつある今、必死で大企業に入る必要が果たしてあるのかどうかです。

そういったことを踏まえると、常に新しいビジネスを起こしていこうという気持ちと、次のキャリアとして独立を覚悟しておくということは、ますます重要になってきているのではないでしょうか。

不況の時こそまずは「カーブアウト」で独立

大久保:木嶋さんは著書の中で、起業は考えているだけでは何も見えてこないから、起業準備に時間をかけずにまずは実践しようとおっしゃっています。また、一からの起業がリスキーだと感じる人には、まずは週末起業で経験を積んだり、すでにニーズを把握して慣れている「カーブアウト」で独立することも勧めていますよね。

木嶋:「カーブアウト」は、事業の一部を企業から切り離して独立させる経営戦略の手法で、暖簾分けのようなものだと思ってください。スピンオフは資本関係もなく出て行くというイメージですが、カーブアウトは事業を削り取って分離するものの、本体の方も納得済みで資本関係も持ち続ける。それがカーブアウトとスピンオフとの違いです。

大久保:会社の経営層と交渉して独立させてもらうということですよね?これは一番失敗が少なそうな起業の方法で、ほぼ成功するパータンですね。

木嶋:そうですね。基盤となる人材と技術はすでにあるので、起業準備に時間がかからず、何より安心ですよね。

大久保:他にカーブアウトのメリットというと?

木嶋:やはり企業に属しているよりフレキシブルに動けるということではないでしょうか。大企業のブランドがあるとなかなかチャレンジできず、飛び抜けたことはできないですよね。ちょっとこんなことをやってみようと思い立っても、社名を傷つけるようなことはできないので、売上が100億に達するタイミングもなかなか見えず、座敷牢のような状況から脱出できません。

そのため、有望な事業でありながらそのままくすぶってしまうことも多いので、カーブアウトは企業にとっても起業家にとってもメリットのある方法だと思います。

特に今のような不況の時は、カーブアウトのように会社から一部門を切り出しやすいんですよね。カーブアウトを考えるのであれば、今がチャンスです。

事業計画は50%ぐらいの出来でいい

大久保:事業計画については、どうお考えですか?

木嶋:起業講座の講師やコンペの審査員をやる中で、起業を考えている方に数多くお会いしますが、意外と事業計画に凝りすぎて前に進めない人がいるんですよ。頭の良い人に多い傾向がありますが、半分本能で動く方が実は成功しています。

100時間かけて事業計画を作っても、1時間で得たリアルな反応のほうが事業に必要なものだったりします。50%ぐらいの出来でまずはローンチしてみて、周りの反応をうまく吸収して改善していくことをお勧めしています。ピポットという言葉がありますが、うまく転換してリアルなニーズをつかむことが重要なんです。

大久保:事業計画を作る上ではマーケティングの4Pやファイブ・フォース分析を勧めていますが、これらはやりつつ50%の出来でということですよね?

木嶋:そうですね。何十時間もかけてああでもないこうでもないとやっていても、それらはすべて仮説にすぎません。まずは5時間ぐらいのインプットで、事業計画を作ってみましょう。とにかく作ってみることが重要です。

そこでサービスなり商品なりをお客様や潜在顧客にリアルに伝えてみて、あとはそれを修正していくことこそが重要なのではないでしょうか。

アイディアだけであればAmazonやAirbnb(民泊プラットフォーム)のようなことを考えていた人はたくさんいると思いますが、それを実践して初期から変化させていったからこそ今のAmazonやAirbnbがあるのです。

もうひとつ言えるのは、どんな大企業でもどんな著名なベンチャーでも、最初の事業計画そのもので上場した企業はゼロに等しいわけです。そういう面で言うと、事業計画に時間をかけすぎて進めないでいるよりも、せいぜい5時間ぐらいの知識で作ってやってみる。そのぐらいのスピード感が必要なのではないでしょうか。

大久保:時代の移り変わりも激しいですし、考えを即実行しないと無駄になってしまう可能性もありますからね。次回は、事業を成功させるための「ビジネスモデルキャンバス」の描き方についてうかがっていきたいと思います。

(次回へ続きます)

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(取材協力: 株式会社アイピーアライアンス代表取締役社長 木嶋 豊
(編集: 創業手帳編集部)



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