フツパー 大西 洋|勢い余ってイスラエルで起業失敗。それでも諦めなかった起業の志

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年08月に行われた取材時点のものです。

起業失敗を経て中小製造業向けに最新AIテクノロジーを提供するフツパーの事業にたどり着くまで

メディアでは華々しい起業家の成功事例ばかりが語られますが、その一方で、人知れず起業に失敗し、泣く泣く事業撤退している企業も数知れません。じつは、中小製造業をメインターゲットに業務を自動化するAIソリューションを提供しているフツパーの大西洋氏もその一人。しかもただの起業失敗ではありません。新卒で就職した会社を1年で辞め、いきなりイスラエルにご友人とお二人で渡航した後の起業失敗です。

しかし、大西氏はそこで諦めませんでした。日本に帰国してもう一度起業に挑戦しようと奮起するも、実力を高める必要性を感じて中小企業に再就職し、そこで後にフツパーの起業アイデアにつながる製造業現場についての知見を得ます。そして今度は、広島大学時代に知り合っていたご友人含めた3名で、満を辞して起業。そこから右肩上がりの成長を続けられています。

大西氏は最初のイスラエルでの起業失敗で何を学び、二度目の起業で生かされているのか、創業手帳の大久保が聞きました。

大西 洋(おおにし ひろ)株式会社フツパー 代表取締役CEO
1994年生まれ。兵庫県出身。広島大学工学部卒業。専攻テーマは製造プロセスの最適化。新卒で日東電工に入社し、ICT部門の法人営業に従事。
退社後はイスラエルで起業を試みるも失敗し、工場向けAI/IoTベンチャーの事業開発グループリーダーを経て2020年にフツパーを設立。MENSA会員。ソフトバンクアカデミア外部12期生。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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中小製造業向けのAIサービス「メキキバイト」を提供

大久保:フツパーの事業概要について教えてください。

大西:主に工場などで製造を行なっている中小製造業の現場向けに、外観検査や目視検査などを自動化できる画像認識のエッジAIサービスを提供しています。

「メキキバイト」という商品は、外観検査に必要になるソフトとハードがセットになっています。

オーダーメイドのAIモデルを構築して、手のひらサイズのエッジデバイスに実装します。それらのデバイスを製造現場にカメラなどと一体化した形で設置して検査のときの「目」の役割を果たせます。

また、検査の判定結果について統計データをとって、「その日いくつ不良品が出たのか」などといったことも簡単に閲覧でき、ユーザー側で再学習ができるようなSaaSもセットで提供しています。AIなので、使っていくうちに賢くなっていきます。

「起業したい」という目標に向けて過ごした新卒1年間

大久保:学生時代から「起業しよう」と考えていたのでしょうか。

大西:「今すぐに起業しよう」ということではなかったのですが、なんとなく、「いつかは起業したい」という思いはありました。ただ、具体的に何か行動していたわけではありません。大学3年生のときに中小企業の商品開発のインターンをしたくらいです。ただビジネス書は好きで読んでいて、会社員になる頃には起業に向けて動き出していました。

大久保:新卒でいったん就職されたんですね。

大西:新卒では日東電工に入社しました。新人研修などを経て、9ヶ月間ICTの法人営業を担当し、結果的には1年で退職することになってしまいましたが。

大久保:もうその頃には「起業したい」という思いが強まってきていたのですか。

大西:いろいろな起業家の伝記やWebの記事に触れていく内に、無意識にどんどん感化されて、「早く起業したい」という気持ちが強くなっていきました。会社に不満はなかったのですが、「自分でプログラミングをしてWebサービスを作りたい」という思いが強くなり、通勤時や土日にプログラミングの勉強などをするようになっていきました。

同時に起業のアイデアも考えていくようになりましたが、最初に思いついたのが、ブロックチェーン保険のアイデアです。そのアイデアを友人と一緒にネット番組『堀江貴文と藤田晋のビジネスジャッジ』に応募して、「イマイチ」の評価をもらうことができましたが、形にすることまでは至りませんでした。他のビジネスコンテストなどにも応募しましたがダメでした。

その後、当時は東京にいたので、コンタクトの取れるVCと会って壁打ちしてもらったりしていましたが、もちろん出資に至るようなことはありませんでした。

大久保:行動力がすごいですね。それは在職中のお話ですか。

大西:在職中です。それでも「起業したい」という熱は冷めず、「自分で起業したい」「サービスを作りたい」「イスラエルに行きたい」という3つの欲を全部叶えたいと思い、結果、1年で退職することになりました。

人脈も手応えも何もない状態でしたね。とくに解決したい課題などもなく、「起業したいから、起業したい」という状況でした。

大久保:退職してから起業のアイデアをまた練り直したのでしょうか。

大西:そうですね。そのときも最初はブロックチェーンのアイデアで起業しようと思っていたのですが、その言語の勉強が難しすぎて挫折しました。退職してすぐに「ギークハウス岡山」というエンジニアが集まるシェアハウスに引っ越して、そこで朝から晩まで勉強や開発などをしていました。1ヶ月半くらいですね。

ブロックチェーン領域でのサービスは諦めたのですが、「とりあえず何かを作ろう」ということでシンプルなQ&Aサービスを作りました。このときもVCを回ったのですが、「君たち、このサービスでどうやってご飯食べるの」とほぼ全部のVCに却下されます(笑)。それでかねてから憧れていたイスラエルに行って、このサービスを広めようと思い、イスラエルに行きました。退職して2ヶ月くらいのことですね。

大久保:目まぐるしいですね(笑)。でも行動力はさすがです。

大西:イスラエルではVCや起業支援をしている人たちのところを回ったのですが、全くダメでした(笑)。一緒に行った友人も1週間で帰国してしまい、残された私も貯金が尽きるまで足掻いていましたが、結局1ヶ月ほどでイスラエルでの起業は断念しました。

大久保:また日本で起業に向けて奮闘されたのでしょうか。

大西:イスラエルから帰国した後で、また東京に行きました。そこでもVC関係者にTwitterなどで手当たり次第に連絡をとって40〜50社ほど会ってもらいましたが、全然ダメでした。

法人の登記申請もし、3ヶ月ほど足掻きましたね。ただ、出資を受けようと思ってまた投資家に会いに行ったときに、「合同会社じゃ出資できないよ」と言われまして。株式会社でないと出資は受けられないことも知らずに、「登録料が安いから」といって合同会社で登記していたんです。圧倒的な力不足を感じた私は、そこで当時のエンジニア仲間に「やっぱりもう一度、やり直そう」と伝えました。もう一度、知識を得てから起業し直そうと。

伝統ある中小企業で再修行する

大久保:もう一度起業するという選択ではなかった、ということですね。

大西:はい。そのときは再就職することを考えました。イスラエルに行く前に再就職することになった会社の親会社の社長と会っていて、帰国してから1度飲みに行きました。「いつかはまた会社を辞めて起業します」と言っても理解してくれて、その社長が経営している会社の子会社に就職が決まりました。歴史90年の伝統ある設備工事会社です。

大久保:そちらの企業では、どのようなお仕事をされていたのでしょうか。

大西:社内ベンチャーで工場向けのAI IoT製品を作ろうということで、最初はWebエンジニアとして入社しました。まだプロダクトもできあがっていない状態でしたので、プロダクト開発に1年かけ、製品ができるとともに営業も担当しました。いざ営業を始めるといきなり大手の顧客に導入が決まって、入社1年目からある程度売上も立って楽しかったですね。最終的には事業開発グループリーダーという役職を持たせていただきました。ただ、この企業も、1年半で辞めることになりました。

広島大学の友人同士3人で二度目の起業

大久保:再就職した会社を1年半で辞めたのですね。そのときもまた、起業に向けて動いていたのでしょうか。

大西:再就職した当初は「すぐに」とは考えていませんでした。しかし、私の友人で共同創業者の黒瀬康太から「起業しよう」という話を持ちかけられて、「よしやるか」ということで結局すぐに起業することになりました(笑)。

そのとき黒瀬はIBMで営業をやっていて、ちょうどAI関連の製品を売っていたんです。一方私は、製造業の現場でプロダクト開発をしていたので、現場に即した商品設計ができる。「もう一人、実際に手を動かしてプログラミングするエンジニアが必要だ」ということで、共通の友人である弓場一輝にアプローチして、二つ返事でOKをもらいました。

弓場は広島大学の学内では「天才」とも呼ばれていた凄腕エンジニアで、大学4年生のときに私と黒瀬などと一緒に3週間ロシア旅行に行ったときに彼の性格は理解していたので、「ぜひ一緒にやってほしい」とお願いした形です。役割分担がちょうどうまく分かれていました。

大久保:二度目の起業は、いつ頃から準備を始められたのですか。

大西:二回目も半年前から動き出しました。チームを作って、社名やビジョンを考えてと、退職前から少しずつは動いていました。前回の起業時に散々VCに出資を断られた経験があったので、出資を受ける難しさはわかっていたのですが、VCに話に行くと2社目のANRI(佐俣アンリ氏率いる著名なVC)ですぐにOKをもらえたんです。

大久保:それは一度目の起業時に失敗から学んだことが生かされているわけですよね。

大西:そうです。製造業での会社員経験も生きて、動き方も変わっていたので、運が良かったのもありますがすぐに出資していただけました。2020年4月に創業して2ヶ月目の5月に出資を受けられたんです。その後に日本政策金融公庫からも創業融資を受け、順調なスタートを切れたと思います。

大久保:1度目の起業と違い、二度目の起業ですぐに出資を受けられた理由は何だと思われますか。

大西創業したばかりで商品のプロトタイプもない状況でしたが、バランスのいい3人のチームと、市場のニーズとマッチしていること、中小の町工場でも使える手軽なAIというアイデア、この3つがあったからこそ、出資を受けられたのではないかと思います。それしかなかったですが、逆にそこが重要だった、ということではないでしょうか。

製造業向けAIという領域で、泥臭く攻める

大久保:製造業向けのAIソリューションを提供されているということは、BtoBのビジネスモデルですよね。最初は顧客を開拓するのも大変だったのではないでしょうか。

大西:そうですね。最初は「全員営業、全員開発」というキャッチコピーのもと、3人全員でテレアポやメルアポ、飛び込み営業、製造業の集まりに参加するなど何でもやっていました。一緒の家に住んで、終始行動をともにしていましたね。何が一番顧客に響く営業手法なのかわからなかったので、ずっと手探りでした。

大久保:Web広告は使わなかったのでしょうか。

大西:やっていないですね。他のスタートアップはWeb広告などを利用するところが多いでしょうけれど、我々の業界ではそれはハマらないことがわかっていましたから。

いろいろやって、半年後にようやく大手企業の案件が1つ取れました。そこからは動き方も少しずつ変わっていきました。それまでは売上目標も達成できるかどうか、まったくわからず手応えのない状況が続いていました。

日本の製造業の課題はどこにある?

大久保:日本の製造業の課題はどんなところにあるとお考えですか。

大西:課題しかないと思っています。まず明らかなのは、人手不足ですよね。それを補う手段が、現状では外国人労働者しかないということも課題です。中国にはすでにほぼ全自動の工場などが出始めているにもかかわらず、です。日本の製造業も、中国のようにAIなどを活用して自動化していかなければ、国際競争には勝てません。現状、日本の人件費はもはやそこまで高くなくなってきていますし、本来の強みである製造と開発の技術力で戦いつつ単純作業は上手く自動化できれば国際的な価格競争でも勝てる可能性が出てきます。

大久保:もはや日本の人件費は安いんですね。

大西安いですね。だから本来であれば、価格競争でも勝負できるんです。でも現状はそこを諦めてしまってマス市場を取りにいけていない。そこが大きな課題です。

もう一つの課題は、ソフトの連携ですね。一つの工場にさまざまなメーカーの機器を導入していますが、それらの機器同士が上手く連携できていない。ソフト同士の連携ができないといけません。

起業で一番大事なこと

大久保:フツパーはご友人同士で創業されています。一般的には、「友人同士で起業すると危ない」とも言われますが、実際どうですか。

大西:弊社の場合は逆ですね。友人同士で起業して、いいことしかありませんでした。実際に、起業に失敗する理由で最も多いのが、人間関係に起因する失敗ですよね。我々3人の場合、そこの部分は最初から完全にクリアされているので、そこは安心です。

それに、起業当初に「これがやりたい」と思っている事業も、大抵の場合、ピボットすることになりますよね。どうせピボットするわけですから、スキルで選んでも仕方ありません。逆にスキルがマッチしなくなったら、別れざるを得なくなってしまいますから。だから最初から起業するチームはスキルではなく、パーソナリティーの相性や志で選ぶべきだと思います。

大久保:最初からチームを前提としていたのですね。

大西:そうですね。私の場合は、このチームありきの起業でした。結局、自分一人でやる限界はすぐにきてしまいますから。

あとは、資金調達や融資を受けなくとも自走できる力も大事です。例えばエンジニアであれば、サービスを作るまでは受託開発で生き残れますよね。営業であれば、営業代行などができます。このように、自分たちだけで最低限のお金を生み出せる能力はあると、さらにいいでしょうね。

大久保:なるほど。最後に、これから起業したい人に向けてアドバイスをお願いします。

大西:あとは、「起業したい」と思ったら、周りの人に具体的な数字と目標をセットで伝えるのがおすすめですね。私もいつも「〇月までには〇〇する」と伝えています。そうして後に引けない状況を作ってみて、動かざるを得ない状況を作ってみてください。

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(取材協力: 株式会社フツパー 代表取締役CEO 大西 洋
(編集: 創業手帳編集部)



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