「アイデアは○○から生まれる」発明家 松本奈緒美の「成功する考え方」(インタビュー後編)
成功する発明家と起業家の共通点
(2018/05/09更新)
前編では、発明に興味を持ったきっかけや特許などの注意点を中心に語っていただいた、株式会社発明ラボックス 代表取締役の松本奈緒美さん。
後編では、起業した経緯や起業家に伝えたいメッセージを中心に、お話を伺いました。
前編はこちら→起業で使える発明家の発想術 株式会社発明ラボックス代表 松本奈緒美インタビュー(前編)
株式会社発明ラボックス・代表取締役/発明家
「お金をかけずに発明する」をモットーに数々のヒット発明品を生み出している主婦発明家。
販売促進用ツール「紙パズル」100万枚ヒット。掃除機のノズル「ペン先すーぴぃ」は14万個、「おそうじシュシュ」8万個、「おまとめハンガーカバー」「耳あてマフラー」など数々のヒット商品を生み出す。誰でも考えうる簡単な構造であるが特徴を持たせ権利を取得、数々の企業とロイヤルティ契約を結んでいる。
2010年 株式会社発明ラボックス 設立
個人発明家のアイデアをメーカーに繋ぐ「アイデアご意見隊」システム構築
システム会員は、約3,500人 ツイッターフォロワー約2万人
<主なテレビ出演>
2012年12月「ヒルナンデス!日テレ」スーパー主婦コーナー 特集
2013年2月 「笑っていいとも!フジテレビ」出演
2014年9月 「ノンストップ!フジテレビ」特集
2015年3月 「バイキング フジテレビ」出演
2016年9月 「NEWS アンサー テレビ東京」出演
2017年9月 「Rの法則Eテレ」
など、メディア出演多数
発明ラボックスホームページ
https://www.hatsumeilabox.com
知財販売・出願相談 チザオク.COM
https://www.chizaoku.com
苦い経験から始まった起業
松本:恥ずかしながら、起業した当時は明確な目標が定まっていませんでした。ただ「自分でできるような簡単な構造を試作して、特許を取得しメーカーとライセンス契約をした」ということで、テレビや雑誌にたくさん取り上げてもらいました。その当時仲良くしていた人に「出資するから、会社を一緒にやらないか」と持ちかけられたのです。
ですが、お話しした通り目標が明確でなかったため、思うように売上が上がりませんでした。結果、その人は出資した資本金を引き上げ、会社を出て行きました。今振り返ってみると、私自身の考えがとても安易で、甘かったと反省しております。
そんな経験がありましたが、ずっと「個人発明家を応援できないか?」と考えていました。私の最初の発明がメーカーに採用されるまで5年もかかり苦労したことがありましたので。
個人のアイデアは実用的であったり、アイデアが生まれるまでの物語もあります。物語は通販の広告からみても大事な要素ですから、メーカーが魅力的に感じるポイントの一つだと思います。それでも、個人とメーカーが取引をするのは難しい部分が多くあります。そんな人たちの間に入って、架け橋となる仕事をしたいと思って事業を続けることにしました。
松本:アイデアをメーカーに繋げるには、製作しやすいように自分で試作をしてみないといけません。ところが、試作の時間を増やすと営業活動ができないので収入が途絶えます。事務所の家賃・スタッフのお給料などを賄うのはとても大変でした。
また、提案しても却下になることもあります。次から次へ提案しなければなりませんが、私はじっくり考えるタイプなので、会社の利益になっていくには時間や提案するアイデア数が少なかったです。そこも苦しいところでした。
そこで、「他者の力を借りることはできないか?」と考え、ウェブ上で誰でもアイデア提案をできる「アイデアご意見隊」というシステムを作りました。投稿した人は、他の人がどんな投稿をしたのかを見ることができない非公開のアイデア投稿システムです。
そこから続々と会員は増え、活発にアイデア投稿されるようになりました。次第に、私のアイデア案がボツになっても、他の人のアイデアで商品開発の仕事を繋ぐことができるようになっていきました。
また、個人会員が増えてきたことで、彼らの望んでいるニーズに合わせてサービスを提供していった結果、自然と「発明家のポータルサイト」になっていきました。
嬉しかったことは、会員さんが「発明ラボックスがあってよかった」と、楽しそうに利用していただいていることです。また、私どもを通じて特許が売れ利益がでた、起業のきっかけになった、と喜んでいる姿を見ると「やってきて良かったなあ」と実感します。
松本:会員満足を常に考えて、サービスを試しては、反応をこまめにチェックしています。
昨年9月に立ち上げた「チザオク.COM」は、「自分が取得した特許などを販売したい」、「ライセンス先を見つけたい」という、会員の要望から作りました。ウェブ上に契約したい知財案件を掲載、メーカーとのマッチングサービスを提供しています。
アイデア採用したいメーカーにとっては、たくさんの案件が掲載されていたほうが魅力です。掲載件数を増やす為に、特許出願を増やしたいと考えました。
そこで、特許を出願する専門家会員(弁理士・弁護士)も作り、会員の出願をフォローする仕組みを確立して、さらに「特許費用全額出しますコンテスト・チザコン」というコンテストを開催してみました。
これが専門家会員の特許調査の収入につながるとともに、個人会員にとっては類似出願などを知ることで、さらにアイデアを深く掘り下げる機会を作ることができました。
私たちにとっても、専門家会員の会員収入というストック的な収入源にも繋がり、売上も上がりました。
ポータルサイトの運営は、やはり「会員満足」を常に求め続けることに限るのではないかと思います。
松本:それは、よくあります。メーカー開発部のベテランの方も「長年開発をしてきたけど、何が売れるかはわからないねえ」と言います。あながち私だけではないと思います。
結局、売れるために一番大切なのは、発明した人や販売する人の直感と、それを信じて突き進む情熱だと思います。
例えば、「チザオク.COM」の会員様で、バッグのベルトのパーツに特許、商標を取得し、ブランディング化に成功、現在6社とライセンス契約している女性がいらっしゃいます。
彼女のライセンス商品「コアルーバッグ」は1万個以上売れ大ヒットしました。
彼女が、このアイデアの試作を私の元に持ってきたとき、私は「カバンのベルトは、ファッション、流行に左右されることがあるから、ライセンス契約は難しいかな・・」と言ったそうです。(私は、そんなことを言ったことは全く覚えてなかったのですが、彼女は成功してから冗談交じりに「あの時、とても悔しかった」と言うので、私はもう平謝りをしたのでした(笑))
しかし当の本人は、私にそのようなことを言われても、信じなかったそうです。
「このアイデアは、いろんな目的で使用するバッグに付けられるので、たくさんの人の役に立つんだ!」という自分自身に降りてきている確信が、諦めずに進んで行った原動力になっていったのです。
自分自身の失敗からしかアイデアは生まれない
松本:いい意味でも悪い意味でも、人の話を聞かない人が多いですね(笑)。言い方としては「人のいう通りには、できない」が正しいかもしれません。私も人に相談しておきながら、実行するときは自分のやりたいようにやっています。
もしかしたら、発明も含め、自分自身の失敗からしかアイデアは生まれないのかもしれません。人に言われたとしても、やっぱり自分で考えたことに対して、失敗してみないと、次の課題に進めないような気がします。
発明家の「人の話を聞かない」が悪い方に出てしまいますと、一つのアイデアに固執し前に進めなくなる人がいます。「諦めなければ失敗ではない」という人もいますが、発明品を世に出していく人にとっては「失敗」を「失敗」と敏感に感じ「修正」する、もしくは「次に繋げる」という気持ちは大事だと思います。
松本:よく勘違いされるのですが、「特許だけ取得できればいい」というものではありません。
特許などの「産業財産権」は、土地や建物のように 皆様の「財産」となります。
土地や建物は計測して「ここからここまでが私のものです」と登記して認められますが、「産業財産権」は文章や図面で、権利範囲を決めます。
つまり、皆様が考えたアイデアは「ここからここまでです」と財産の範囲を明確にするのが「文章や図面」なのです。これが重要です。
出願費用を惜しみ、自分で特許出願書類を書き、特許が取れたと喜んでメーカーに売り込んだ結果、真似されてしまって悔しい思いで終わった方を、私は何人も見てきました。
アイデアをメーカーに採用してほしい、このアイデアを独占して商売がしたい、など知財も財産とした経営をしたい方には、何かあったときに相談できる弁理士に出願してもらうことをオススメします。
壁にぶつかったら自分自身の経験を思い出して
松本:発明家の視点でお話ししますと、人間は誰一人として、身体特徴、家庭環境、学習環境、性格、能力、経済力・・などで同じ境遇の人はいません。ですから、困ることや苦手なこと、気づくことも一人ひとり違います。
自身の経験から社会に対して喜んでもらえるサービスや商品ができた時、揺るぎない確信になり、どんな困難なことがあっても頑張れる。これまで成功してきている発明家は、そう感じて行動していると思います。
逆に、「こんなサービス今までになかったから」、「流行っているから」というような自分の経験から出てきてないものは、不思議なことに自分自身が疲れていくように感じます。もし壁にぶつかった時は、もう一度自分自身の歩んできた経験から生まれた新たなサービス、商品をもう一度考え直してみるのもいいかもしれませんね。
(取材協力:株式会社発明ラボックス/松本奈緒美)
(編集:創業手帳編集部)