公庫融資と制度融資の違いとは?借りやすさや手続きのポイントを解説【芳賀氏連載その1】

税理士・中小企業診断士の芳賀保則氏に聞く、起業家のための融資・資金調達の知識

起業する際、ビジネスの内容はもちろん、資金調達について気になる起業家の方も多いのではないでしょうか。銀行の融資や投資会社からの出資が実現するのは創業後だいぶ経ってから。そこで、起業のプロセスに合わせてどのように資金を調達すれば良いのか、起業を考えている男女2人が芳賀税理士に聞いていきます。本連載では、全6回にわたって起業家のための融資・資金調達の知識を解説します。

芳賀 保則(はが・やすのり)
経営革新等支援機関 税理士法人ハガックス 代表社員
1970年生まれ、渋谷区で生まれ育つ。東京大学大学院卒業後、東京ガス勤務を経て、税理士法人ハガックス(渋谷区、税理士4名・スタッフ合計14名)の代表社員に。
中小企業大学校にて経営改善計画策定支援研修の講師及び試験評価委員を務める。主な著書は『現場で使える創業相談の手引き』。趣味はゴルフ、ジム、輪ゴムでハエを落とすこと。

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資金調達の4つの方法とは?

ビジネスを行う上で資金を調達できる方法は、主に以下の4つです。資金調達のタイミングが起業前なのか起業後なのか、ビジネスの規模はどの程度なのかなどを踏まえ、自分に合った資金調達の方法を見つけましょう。

  • 融資:起業時の資金調達の中で最もオーソドックスな方法。スピーディに資金を調達できるが、返済の義務あり。
  • 出資:多額の調達が可能で返済義務はないが、起業タイミングでの実現の可能性は極めて低い。投資家が経営に介入してくる可能性がある反面、経営支援を期待できることも。
  • 補助金:審査基準は厳しいが、要件に合えば通過率は高く、補助金額も大きい。後払い制で資金が手元に届くまでに半年以上かかる。返済は原則不要。
  • 助成金:1人以上の正社員雇用をすることが前提。要件に細かな規定はあるが、満たせば必ず支給される。後払い制で着金まで1年以上かかる。返済は不要。

上記を見て分かるように、起業前〜起業時の融資として一番現実的なのが1の「融資」です。そこで今回は、その融資について詳しく解説していきます。

起業家が借りられる2種類の融資

起業家が借りられる融資はいくつもありそうに思われるかもしれませんが、大きく分けると「公庫融資」と「制度融資」の2種類しかありません。創業時の会社は実績がまったくないので信用力はゼロです。そのため、銀行などの窓口に直接行っても簡単には借りることができないのです。国や市区町村などが創業を支援するために設けた施策のひとつとして行っている創業支援の制度を使った融資のみが対象となります。

具体的には日本政策金融公庫で行っている「公庫融資」と、都道府県や市区町村などの自治体を窓口とした「制度融資」です。

前者は、全国にある日本政策金融公庫における創業融資制度で公庫からお金を借ります。後者の制度融資は自治体による信用保証制度を活用した融資制度で、自治体が斡旋書を交付することで保証協会の保証を受けて信用金庫等から借りるものです。

なお、希望すれば「公庫融資」と「制度融資」の両方を同時に融資を受けることも可能です。

これから起業を考えている2人が芳賀税理士に相談してみました

「公庫融資」と「制度融資」の主な特徴

公庫融資と制度融資についてなんとなく理解はできたけれど、どうやって活用すれば良いのかイマイチ分からない、という方に向けて起業家を代表して、武志さんと由香里さんの2人が、芳賀税理士に相談をぶつけてみました。

武志さん:仲間とWebコンサルの会社を始めようとしている40代前半の男性。元手となる自己資金は200万円あり、将来的には上場を希望している。

由香里さん:妹と飲食店を始めようとしている30代後半の女性。手元には500万円あるが、創業のためには1,000万円は必要と考えている。

由香里さん:先にカフェをオープンさせた飲食店仲間が、女性向けの融資を使ってお得だったという話をしていました。どんな融資なんですか?

芳賀税理士:それは日本政策金融公庫がやっている「公庫融資」のうちのひとつで、「女性、若者/シニア起業家支援資金」のことですね。無担保・無保証でありながら、年1.86%の低金利で融資を受けられるのでおすすめです。

公庫融資には、それ以外に最もオーソドックスな「新規開業資金」、それから「生活衛生新企業育成資金」や「新創業融資制度」、「中小企業経営力強化資金」などの融資制度が用意されています。それぞれ要件によって利率が違うので、一度公庫融資の融資制度一覧を確認してみてください。他にも自治体がやっている制度融資があるので、のちほどご説明しますね。

由香里さん:お金を借りた上でお店を始めて、うまくいかなかったら……と思うと、融資を受けるのが怖い気もするのですよね。どのぐらいの期間で返済すればいいのですか?

芳賀税理士:飲食店を開業する場合に、多額の資金を要するのは店舗の敷金や内装工事、厨房設備の導入などです。このような設備に必要な資金を「設備資金」と呼びます。公庫融資では、設備資金の返済は20年以内となっています。またお店を経営する上で必要な食材費をはじめとした日々のお金(運転資金)の返済については、7年以内での設定になっています。

公庫は経済振興の役割を担う政府系金融機関なので、低利で融資を受けられるのが最大の魅力です。ひと昔前は数百万程度しか借りられないというイメージが強かった公庫融資ですが、政府の起業を促進する方針もあり、ここ数年で起業融資の貸出を増やしています。多くの起業家が利用している「新規開業資金」の貸付限度額は最大7,200万円で、創業直後でも1,000万円など多額の融資を受けている事例もあります。

武志さん:それは心強いですね。自治体がやっている制度融資もそのぐらい条件がいいのですか?

芳賀税理士自治体の制度融資は、公庫融資よりさらに金利が低い傾向にあります。それは借入金利息の一部を自治体が負担する「利子補給制度」や、信用保証協会の保証料の一部を自治体が負担する「信用保証料補助制度」が用意されているケースが多いからです。

地域にもよりますが、1%未満のかなりいい金利で融資を受けられる可能性もあります。

武志さん:ということは、公庫融資より制度融資の方が良さそうですね。制度融資のデメリットはないのですか?

芳賀税理士:公庫融資と制度融資では、融資が下りるまでのスピードや手間が違います。公庫融資は通常2~3週間程度で融資実行に至りますが、制度融資の場合は自治体・保証協会・金融機関の3ケ所とのやりとりが必要で、最初の相談から融資実行まで1カ月以上はかかることも多いようです。そのため、ご自身の状況に応じてどちらかを選ぶ必要が出てきますね。

また、自己資金の額によっても選ぶべき融資が変わってきます。公庫融資は希望する融資額の10分の1の自己資本があれば融資を受けられますが、制度融資は2分の1の自己資本を求められるケースがほとんどです。武志さんは元手が200万円とのことなので、公庫融資であれば最大2,000万円、制度融資では400万円しか下りないことになります。起業時にどれだけの資金が必要かを加味して選ぶと良いでしょう。

公庫融資と制度融資は同時に併用することも可能

由香里さん:私は現在オープン予定の店の内装を考えている最中ですが、当初の予定より内装費用が膨らみ、かなりの額の資金が必要なことが判明しました。公庫融資と制度融資、2つの制度は両方利用することもできるのでしょうか。

芳賀税理士:ぜひ併用してください。2つは競合している関係ではないので、それぞれから借りると双方に説明しても構いません。また、一方で借りられたのならこちらは貸さないよというような話になることもありません。

逆に片方の審査が通ることで安心され、それがプラス材料になってこちらも貸しましょうという流れになることが多いです。仮に公庫で1,000万円借りられた場合、制度融資の方では1,000万円はあるからもう十分だろうという風には受け取られず、借りていないものとして審査してくれるため、通りやすい状況になっています。

由香里さん:どちらかで当面必要な資金を借りられた場合、さらにそれ以上借りるのはもったいないですよね?

芳賀税理士:そういう考えもありますね。ただ、創業後、たとえば2期たって、2期とも決算で赤字になってしまった場合は、それが信用のベースになってくるのでそこから新たに借りることは難しくなります。起業時すぐの場合は、公庫融資も制度融資もどちらも創業支援という枠組みでやっているので、信用がなくても借りられるチャンスです。起業当初は、当初見込んだ売上がすぐにあがるとも限りません。いざという時のためにもできれば双方から借りてしまうのがおすすめです。

武志さん:ところで、公庫融資と制度融資ではどちらの方が借りやすいのでしょうか。

芳賀税理士:借りやすいと言いますか、公庫の方が窓口が1か所なのでひとりの担当者と話せば済みスムーズに進みやすいですね。制度融資の場合は自治体の斡旋を受ける形を取っているので、自治体の窓口に出向いたあと、実際に融資を受ける信用金庫などとやり取りする必要があります。さらに必ず保証協会をつけなければいけないので、窓口が全部で3ケ所あるということになります。そのため、公庫に比べて時間と手間がかかるのです。

由香里さん:私は世田谷区在住ですが、制度融資の中には東京都と世田谷区がやっている創業融資があるようです。おすすめの制度融資は何でしょうか。

芳賀税理士:私は渋谷区に事務所を構えていますが、相談者には都の融資ではなく渋谷区の融資をお勧めしています。理由としては、区の制度融資と比べて都の融資は狭き門だからです。また制度融資は自治体によって内容が異なるので、まずはご自身が本店登記したエリアの自治体のホームページなどで制度の詳細を確認してみましょう。

融資の面談で大切なのは「社長が自分の言葉で語れるか」

由香里さん:融資の面談で必ず聞かれることと、その対策を教えていただけますか?

芳賀税理士前職については聞かれるでしょうね。由香里さんは10年以上飲食業界で経験を積んだ上で今回独立されるそうですが、前職と同じ事業領域を手がけるということは、連続性、経験値があるので、ビジネスアイディアだけで言っているわけではないということが伝わりますよね。ビジネスの成功確率が格段に違ってくるため、融資においても有利に働きます。

武志さん:確かにそれはそうですね。他に聞かれることはありますか?

芳賀税理士:やはり創業にかける想いです。稼ぎたいという気持ちだけで会社が続くということはまずありません。ですから、その仕事にかける熱意や、20年・30年続ける気持ちで創業するのだという、宣言とも言える想いが非常に大切だと思います。

それからやはり社長の人柄というのはひとつのポイントになってきます。融資元はどこも信頼性を一番の判断材料にしますから。

融資のタイミングで出す事業計画書を、手数料を払って赤の他人に書いてもらっているなんていうケースもよく聞きますが、とりあえずお金さえ借りられればいいやという起業家に対しては、誰も融資はしません。社長が自分の言葉でビジョンを語れるということは、とても重要になってきます。

由香里さん:熱い想いに関しては自信があります! でも融資制度が複雑で理解するのに時間がかかりそうで……。先生の所に来る起業家の方は、どんなところに不安を感じて先生にお願いするのでしょうか。

芳賀税理士:由香里さんのように、制度が難しくてそもそも何をどこに持って行けば良いか分からないとおっしゃる方が多いですね。それに対して、ここのホームページから資料をダウンロードして、ここの番号に電話をして、この手続きを進めましょうとか、そちらの制度は対象要件に該当しないから期待できませんよとか、多くの情報の中から取捨選択をして、ピンポイントで求められている情報を渡せるのが強みでしょうか。

事業計画に関しても提出前に一度レビューして改善点をお伝えしています。数字だけではなく、その数字の根拠となる売り上げの積み上げ方や経費の計画が合理的なものかどうか金融機関目線でアドバイスをしたりします。よくある単純な間違いとしては、たとえば月20万円返済するような計画の場合、20万円は経費ではないので資金繰り表には書いても損益計算書には書かなくてよいとか。元本と利息の違いなどはよく間違えていますね。

こういう書類の作成に慣れていて、ご自身でできそうな方でも、微妙に何がポイントなのか理解されていないこともあります。そのあたりをひと言アドバイスしてから融資先に持って行くだけでも、だいぶ印象が変わります。

武志さん:先生にお願いする場合、どの段階からサポートしていただけるのでしょうか。

芳賀税理士:融資は会社の登記が終わらないと受付してもらえませんが、私がサポートする場合は法人登記をする前の段階から一緒に準備を進めてきます。融資担当者とはメールでやり取りできるので、私の方から事前にPDFで送っておいて、登記が終わったらすぐに書類一式を持参します。事務所のある渋谷区をはじめ城南地区での創業の場合は、公庫の方とも制度融資の窓口となる経営相談員の方とも顔見知りですし、裏事情も若干分かっているので起業家の方には心強いと言っていただけますね。また融資担当者の方からも私の紹介だと安心できると言ってもらえます。

由香里さん・武志さん:確かに先生がいると心強いと思えてきました!今日はリアルなお話をありがとうございました!

相談を終えて……

芳賀税理士にお話をうかがったことで、公庫融資と制度融資について特徴や手続きについてだいぶ理解することができたという武志さんと由香里さん。次回は実際に融資でいくらぐらい借りられるのかなど、より実践的なお話をうかがっていきます。

(次回へ続きます)

補助金・助成金だけでなく、融資や出資などの資金調達方法について知りたい方は、毎月無料で発行している資金調達手帳を参考にしてみてください。それぞれの資金調達方法について詳しく説明しています。また、融資や出資を成功させる方法も解説しているので、是非チェックしてみてください。

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(取材協力: 税理士法人ハガックス 代表社員 芳賀保則
(編集: 創業手帳編集部)

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