「経営の多角化」に乗り出す前に経営者が抑えておきたい基礎

創業手帳

経営の多角化の基礎・ポイントを解説します

(2020/08/04更新)

新型コロナウイルス感染症による社会的混乱などを受けて、緊急時にいかに事業を存続するかが大きなテーマになっています。

有事に備えたリスクヘッジや、長期的な事業の成長を考える時、「経営を多角化する」という選択肢があります。製品やサービスなど、複数の事業を展開する戦略です。経営の多角化を考えている経営者向けに、基本的な概要、メリット・デメリット、注意点などを解説します。

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経営を多角化する4つの型

経営の多角化には、大きく分けて「水平型」「垂直型」「集中型」「コングロマリット型」の4種類があります。

水平型


水平型は、既存の事業や技術を活用し、同じ分野の市場に対して新製品やサービスを生み出していく形です。例えば、「家庭向けの自動車を主力商品として作っていたメーカーが、バイクやトラックも生産する」ことなどが挙げられます。既存の生産技術や流通を利用することで、新規事業に乗り出すコストを抑えたり、既存事業とのシナジー効果を高めたりしやすくなります。

垂直型

垂直型は、製品やサービスに関わる上流や下流に向かって事業を拡大していく形です。例えば、「飲食チェーンを展開する企業が、食材を生産する事業に乗り出す」、「繊維工場がアパレルブランドを立ち上げる」といったケースをイメージするとわかりやすいでしょう。既存の事業にない新たなノウハウなどが必要になる場合が多い一方で、新規事業を軌道に乗せることができれば、既存事業のさらなる強化を図ることができます。

集中型

集中型は、既存の事業で培った技術やノウハウを活用して、新しい領域のプロダクトやサービスを生み出す形です。例えば、「酒造メーカーが、お酒の成分を含む化粧品を販売する」「楽器メーカーが、楽器製造の技術を応用した消毒用アルコールスタンドを作る」といったケースが挙げられます。既存の経営資源を活用して、新たな成長分野に進出する場合などに活用できる多角化戦略です

コングロマリット型

コングロマリット型は、既存事業と全く関連のない、新しい領域に事業を展開する形です。例えば、コンビニ大手がATMなどの金融サービスを始めたり、自動車メーカーがリゾート事業に進出したりすることが挙げられます。まったく新しい分野へ事業を展開することになるため、最もハイリスクな多角化の形と言えるでしょう。M&Aによって、事業を買収する形をとることも多いです。

経営を多角化するメリット

経営を多角化することで得られる主なメリットを紹介します。

事業のリスクを分散できる

技術革新、企業環境の変化、緊急事態による事業の継続危機など、ビジネスは、いつ起きるかわからないリスクと隣り合わせです。1つの事業に注力する場合、事業の根幹を揺るがす変化が起きると、会社もろとも倒れてしまうリスクが高まります。経営の多角化によって事業の柱を複数持つことで、事業活動に柔軟性が生まれ、大きな変化が起きた時にも対応しやすくなります

事業同士のシナジー効果を得ることができる

人材・技術・知識・経験など、企業にはさまざまな経営資源があります。既存の事業で培った経営資源を活かして事業を多角化していくことで、事業の間にさまざまな相乗効果が生まれやすくなります

例えば、バーを経営しているオーナーが、昼間の店内を企業向けの商品展示スペースとして貸し出す事業を始めたとします。それまで活用できていなかった昼間の時間にも利益を生むことができるようになり、また昼間訪れた人が店に興味を持ち、夜のバーの新規顧客になってくれるといった形になれば、多角化によるシナジー効果が生まれていると言えます。

また、経営資源を複数の事業で共有・活用することで、個々の事業を別々の企業が行う場合に比べて、コストを抑えることができる可能性が高まるメリットもあります。

プロダクトライフサイクルによるリスクを抑えやすくなる

多くの開発やサービスは「開発→導入→成長→成熟→衰退」のサイクルをたどります(これをプロダクトライフサイクルといいます)。一つのプロダクトやサービスが衰退のステージに来ていても、別の事業が成長したり、成熟していれば会社全体への打撃を抑えることができます。経営の多角化によって、企業全体の売上高を安定的に維持しやすくなるのです。

社員のモチベーション・主体性を高めやすい

経営の多角化は、組織運営の視点から見てもメリットがあります。主力事業を一つに絞ったピラミッド型の企業は、従業員の選択肢や、将来的なポストが限られます。事業を複数展開していると、同じ会社内でも業務やキャリアパスの多様性が生まれ、従業員のモチベーションや主体性を高めやすくなります

経営の多角化によるデメリット

経営の多角化は、経営資源を分散させることになるため、短期的にはコストの上昇が避けられません。短期的に複数の新規事業を立ち上げる戦略を取る場合は、開発や販売活動のため多大な投資が必要になります。経営の多角化によって得られるメリット・利益は、長期的な目で見なければならないのです。多角化に乗り出す前に、事業として、投資が可能なステージにあるかどうかを見極めることが重要です。

経営の多角化に取り組むポイント

経営の多角化に取り組むにあたり、経営者が注意すべきポイントを抑えましょう。

既存事業の事業価値を高めきっているかどうか

経営を多角化するには資金と投資が必要です。そのため、多角化経営に耐えうる経営資源・基盤があることが前提となります。乗り出す前に、まず既存事業の価値を十分に高めることができているかを掘り下げましょう。「既存事業での商品・サービスのアイデアは出尽くしたか」「既存事業の収益性や付加価値に改善の余地はないか」といった視点で事業の価値を見定めます。

主力事業の社会的な影響力やブランディングがしっかりと確立していれば、新規事業の成功率も上がりやすくなります。特に、大企業に比べて一度に大きな投資をしにくい中小企業の場合は、主力事業の価値が重要になってきます。

経営者が新規事業に注力できる組織になっているか

経営の多角化に取り組むタイミングについて、既存事業が経営者不在でも回るくらい、運営が仕組み化されているかどうかも一つの指標になります。既存の事業に不安がある状態で新規事業に取り組むとリソースが分散し、どちらの事業にとっても非効率な運営になってしまうリスクが高まります。

多角化に活用できる融資制度

新規事業を立ち上げて、経営を多角化する際に活用できる融資制度「中小企業経営力強化資金融資事業」を紹介します。

中小企業経営力強化資金融資事業は、創業または経営多角化・事業転換などによる、新たな事業活動への挑戦を行う中小企業・小規模事業者を支援する融資制度です。認定支援機関の経営支援を受けた事業者を対象に、日本政策金融公庫が融資を行います。

中小企業経営力強化資金融資事業の概要
要件
  • 経営革新または異分野の中小企業と連携した新事業分野の開拓などにより、市場の創出・開拓(新規開業を行う場合を含む。)を考えている事業者で、事業計画書を策定し認定支援機関による指導及び助言を受けている。
  • 中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」を適用している、もしくは適用する予定があり、事業計画を策定する。
対象資金 設備資金及び運転資金
貸付限度 【中小企業事業】 7億2,000万円(運転資金は2億5,000万円)
【国民生活事業】 7,200万円(運転資金は4,800万円)
貸付期間 設備資金:20年以内(うち据置期間2年以内)
運転資金:7年以内(うち据置期間2年以内)
貸付条件 事業計画を策定し、実行責務を負い、期限内の進捗報告を行う

まとめ

経営の多角化の概要を解説しました。経営の多角化を成功させるためには、長期的な視点で計画を立てることが重要です。将来的に経営を多角化したいと考えている経営者は、経営資源の分配や想定されるコストを明らかにした上で、会社にとってベストなタイミングを慎重に見計らいましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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