起業家の想いが伝わる「土の香り」のする言葉が人の心を動かす。 ロフトワーク創業者・林千晶インタビュー(前編)

創業手帳

カフェの常識を変えた「FabCafe」が、人と人を繋げる

(2017/07/20更新)


「クリエイティブを流通させたい」−オープンコラボレーションを通じて、Web、コンテンツ、サービス、コミュニケーション、空間などをデザインする株式会社ロフトワークを2000年に創業した林千晶さん。2万3,000人が登録するクリエイターネットワーク「loftwork.com」を核に、様々なサービスを提供してきました。近年では、デジタルものづくりカフェ「FabCafe」をグローバル展開する傍ら、森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す「飛騨の森でクマは踊る(通称ヒダクマ)」を岐阜県飛騨市に設立。「常に創業状態」と語る彼女から、“起業家が想いを人に伝えて、実現する”秘訣をうかがいます!

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林 千晶(はやし ちあき)
ロフトワークの共同創業者、代表取締役。
1971年生、アラブ首長国育ち。早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王、共同通信NY支局を経て、2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間530件を超える。 2万人のクリエイターが登録するオンラインコミュニティ「ロフトワークドットコム」、グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、クリエイティブな学びを加速するプラットフォーム「OpenCU」を運営。 MITメディアラボ 所長補佐(2012年〜)、グッドデザイン審査委員(2013年〜)、経済産業省 産業構造審議会製造産業分科会委員(2014年〜)も務める。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す官民共同事業体「(株)飛騨の森でクマは踊る(通称ヒダクマ)」を岐阜県飛騨市に設立、代表取締役社長に就任(2015年4月〜)。

起業時に大事にしているのは、市場のニーズを「生肌感覚」で感じること

ー林さんは、父親の仕事の関係で小学校高学年までアラブ首長国連邦で過ごされたそうですが、その後の仕事観に影響していますか?

ないと思います。メディアの方はインタビュイーの特徴を際立たせたいためか、アブダビ育ちという点にフォーカスが当たることも多いんですが、アブダビでの経験がきっかけで起業しようと思ったことはありません。生まれや育った環境が人に与える影響は何かしらあると思いますが、それが全てではないでしょう。

こうした「どれだけ自分が周りと違うか」とアピールしなきゃいけないという意味では、起業家のおかれる状況と就職活動は似ていると思います。

「あなたのサービスはどこが他と違うのですか?」と、起業家も学生も問われがちですよね。でも「人と違うことだけが価値なんだろうか」、「これからやろうとしている気持ち自体にも価値はあるはず」と思うんです。どれだけ人と違うかということで人を選んだり、投資を決めることに対して、私は就職活動の時も違和感があったし、会社を作ったときもそうでした。

普通にみんな育ってきたのにいきなり就職活動の時に「他の人と違う何かをやってきましたか?」という質問に答えて、採用/不採用を決められてしまうのはもったいない。想いは育てていくものだし、起業もそれに近いんじゃないかなと思います。

ー起業した時点ですべてのことが見通せるとはなかなか言えないですから、いろんな出会いを経て、どんどん変えていくことが重要なのかもしれないですね。

:そうですね。その際に意識しているのは「生肌感覚」です。どれだけ「先入観」という服を着込まずに、社会では何が起こっていて、何をすることができるかを真正面で感じられるか、が大事です。そして感じることができたら、どこを工夫したらその環境をよくできるのかという次のアクションにつなげていくことができます。

世界展開中のデジタルものづくりカフェ「FabCafe」ができるまで

ー5年前に創業された、日本初のデジタル工作機械が主役のデジタルものづくりカフェ「FabCafe」のきっかけは何だったのですか?

:「FabCafe」を創業したのは2012年でした。当時、3Dプリンターの文字をよく新聞で見るようになっていましたが、私が知っているのは紙にインクで印刷するプリンターで、3Dとプリンターってどうしても理解できなかったんです。そのことがずっと引っかかっていたので、知人である大学教授に「私に※デジタルファブリケーション(※レーザーカッターや3Dプリンターなどのデジタル工作機械によって、デジタルデータをもとに木材、アクリルなどを切り出したり成形する技術)を一式全部触らせてください。」と言って、2日間のキャンプをやったのがきっかけでした。

その時に集まった仲間が各々いろんなものを作っていて、「非デザイナーの人間が1、2日やっただけでこれだけのものが作れるんだったら、毎日こういう機械を使えたら作れるものは飛躍的に広がるだろうな」と思いました。

そのときチームにいたひとりが「千晶さん、こういう機械をみんながいつでも触れる場所をカフェみたいな形で開きませんか?」と言い出して、賛同したメンバー3人が集まって「FabCafe」を立ち上げました。

でも、カフェなんてやったことないんです。
専門家に聞けば「カフェは回転率と単価のビジネスです」というので、まずは人通りを調べてみたら、午前中で8人しか通らない立地だということがわかりました(笑)。

しかもオープンしてみたら、楽しいからお客さんも1日中いるんですよ。全然回転しないから、単価も上がらない。ビジネスとしては赤字でした。

ですが、その時の生肌感覚では、これこそ見たかった景色だと思ったんです。
いろんな人たちが来て、作業しながら横の人と話してどんどん人と人が繋がっていく光景は、まさに理想でした。

そのとき「回転率と単価で考えないビジネス」を作らなきゃいけないんだと気付きました。
しばらくして「FabCafe」にいる人たちとつながりたいという企業がたくさんあることがわかって、その企業とクリエイターをつなぐことがカフェの事業のひとつになりました。今では売り上げは年間1億以上です。

普通のやり方をしていたら事業は続いていなかったと思います。
それでもそこで踏み留まってやろうと思ったのは、その場所で生まれている価値を自分や仲間が生肌感覚で感じられたからだと思います。

赤字だけど価値は見えているから、何らかの形でビジネスにつなげられるはず。どうやってビジネスにつなげられるかが、最もクリエイティブで工夫しなきゃいけない挑戦だったんです。
今は世界で9店舗に広がって、ものすごく楽しみな事業の一つになりました。

カフェの常識を破る。「人×人」が本来のカフェ!?

ー「FabCafe」を始める時には、自分も楽しみだし、周りの人も喜んでもらえるだろうっていう方向性が見えていたんですね。

:そうですね。「FabCafe」は、デジタルファブリケーションで私たちは何ができるのか、ということを実験しながら探る場としてつくりました。実際に、カフェに集う人と人、企業も含めた組織がつながり、数々のオープンコラボレーションが生まれる拠点にもなってきています。

ー従来のカフェともまた違う場所になっているわけですね。

:かつてヨーロッパでコーヒーサロンが生まれた時、そこは自由な思想が行き交う場でした。自分がやりたいことや未来について楽しく想像したり、自由に話したりする場所がカフェだと思います。FabCafeもそうあり続けたいと思います。

(取材協力:株式会社ロフトワーク 代表取締役 林 千晶
(編集:創業手帳編集部)

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