カーブアウトとは?成長を目指せる注目の経営手法
カーブアウトの活用を検討している企業へ!意味やメリットとデメリット・実施手順を解説
カーブアウトは、近年注目されている経営手法のひとつです。複数の事業を抱える企業や子会社を持つ親会社などで、カーブアウトを利用できます。
カーブアウトにどのようなメリットがあるのか、どう進めると良いかと、経営上の課題を抱えてカーブアウトを検討中の企業は、慎重に検討を進めることが必要です。
カーブアウトの意味やほかの手法との違い、具体的な実施手順や注意点を解説します。
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この記事の目次
カーブアウトとは
カーブアウトとは、「切り出す」という意味の英語がもとになった用語です。会社分割を意味する言葉として使われ、経営手法として選択肢のひとつとなりました。
カーブアウトは近年注目され、カーブアウトで新しい道を切り開き、成功を収めた事例も増えています。
カーブアウトの定義
カーブアウトとは、一企業からひとつの事業の部門だけを切り出し、新会社として設立することを指します。
親会社が子会社を切り出す手法もカーブアウトのひとつです。カーブアウトによって、切り出した企業も切り出された部門も、それぞれに生まれ変わることができます。
その事業部門の人材や技術、資産も負債も分離独立させることで、元会社はコア事業に経営資源を集中させられるようになります。
主に不採算事業の切り離しのために使われるのがカーブアウトの手法です。
切り離された新会社のほうも、柔軟な舵取りができるベンチャー企業として新たな一歩を踏み出せます。
組織の中で活躍できずに埋もれた技術や人材が、独立したことで力を発揮し、新会社が大きく躍進する可能性があることもカーブアウトの側面です。
カーブアウトが注目されている理由
カーブアウトが注目されるようになった背景には、株主の不採算事業への視線が厳しくなったことが挙げられます。
将来性はあるにもかかわらず、現在振るわない事業をカーブアウトさせれば、自社の価値を高め、株主を納得させることが可能です。
さらに、切り出した事業部門には、親会社からの支援を受けつつも思い切った経営で収益力の向上を目指せます。
将来的には成長した事業を自社に取り込むことも売却することもできます。
また、不採算事業を切り離すだけでなく、大会社では取り組みにくい事業を切り離し、柔軟にグローバル化や若返りを図ることも可能です。
古い体制から抜け出せない日本企業の事業成長戦略としても、カーブアウトは魅力ある手法といえるでしょう。
スピンオフとの違いとは
カーブアウトに関連した用語として、スピンオフがあります。スピンオフはカーブアウトの一種であり、新会社への出資方法によって呼び方を変えています。
スピンオフでは、元会社が新会社に出資を続け、資本提携を残しながら事業を分離させる方法です。
元会社は独立した後も新会社に対して影響力を持ち、新会社は元会社のブランドや商標、ライセンスなどを活用できます。
スピンアウトとの違いとは
スピンアウトもカーブアウトに関連した用語で、出資方法によって使われる呼び方です。
スピンオフでは元会社は新会社と資本提携していましたが、スピンアウトでは新会社は元会社の出資を受けずに独立します。
専門性の高い部門が対象となることが多く、元会社が不採算部門を切り離し、独立させて売却するケースもあります。
新会社は元会社の影響を受けないため、比較的自由な経営が可能です。ただし、スピンオフのように元会社の知的財産を活用することはできません。
カーブアウトの成功事例
カーブアウトは主に上場企業の一部の事業や子会社が、マーケットから低く評価されている時に行われています。
大企業の中にはすでに、カーブアウトによって成功を収めた事例があります。
カーブアウトで元会社も新会社も良い結果を得た事例には、ソニー株式会社の「VAIO」の切り離しが有名です。
ソニー株式会社は、売上が落ちて会社本体にも影響を及ぼすほどの不採算事業となった「VAIO」を切り離し、独立させました。
独立後、VAIO株式会社として、PC事業からEMSやロボット事業に経営資源を移し、2年度目で黒字化を実現しました。
カーブアウトのメリット・デメリット
カーブアウトには、メリットとデメリットがあります。カーブアウトは企業にとって大きな決断で、今後の経営にも大きな影響を与えるものです。
メリットとデメリットの両面を見て、慎重に判断することが必要です。
カーブアウトのメリットとデメリットを紹介します。
カーブアウトのメリット
カーブアウトは、元会社も切り離された新会社もどちらにもメリットがある方法です。
カーブアウトを検討する際には、自社がメリットを活かせるかどうか、内容を確認しておきましょう。
事業促進を見込める
元会社と切り離された新会社の両社が事業促進を見込めることは、カーブアウトのメリットのひとつです。
双方がそれぞれにカーブアウトの特性を生かして事業を促進し、成長を図れます。
親会社は不採算事業を切り離すことで、より多くのリソースを主力事業に投入できるようになり、主力事業を促進させられます。
また、新会社もこれまでの不振を根本から見直し、大胆で柔軟な事業展開によって再生を図ることが可能です。
カーブアウトで切り離される不採算事業は、現時点で不採算というだけであり、将来的には展望のある事業です。
そのため、切り離しによってこれまで以上に本領を発揮し、黒字経営に転じることも難しくはありません。
外部からの融資や技術供与を得られる
カーブアウトでは、元会社の既存事業を切り離して設立された新会社は元会社以外からも融資や出資、技術供与などが得られるようになります。
これはカーブアウトが経営を後継者に引き継ぐ「承継」にあたるためです。
資金調達だけでなく人材や技術などの経営資源も外部から取り入れられ、新会社は親会社以外の製品を扱うことも可能です。
前述のソニー株式会社から独立したVAIO株式会社でも、「SONY」以外の外国製品を扱っています。
成長スピードが向上する
カーブアウトを行うと、元会社・親会社の成長スピードもアップします。
カーブアウト前には不採算事業によって経営資源の分散や経営状況の悪化などを抱えていましたが、カーブアウトで経営資源を主力事業に集中させ、経営状況も改善させられます。
カーブアウトのデメリット
カーブアウトは優れた経営戦略であり、元会社にも新会社にも良い影響を与えられることもありますが、実施するにあたって難しい点もあります。
カーブアウトを検討している場合には、デメリットにも目を向け、どのようなリスクが起こりえるか十分に理解してください。
実体的な分離が難しい
カーブアウトは、実施が難しい場合もあります。
会計上の分離はできても、実体的な分離を進められない場合もあり、実施には事業の実情調査が必要です。
例えば、製造をともなう事業の分離では、切り離す予定の事業部門が独自に製造工場を持っていなければ、実際の業務を切り離せません。
ソニー株式会社と「VAIO」の事例では、新会社は「VAIO」のブランドや事業部の人材とともに工場も引き継いだため分離できました。
また、カーブアウトでは人材も含めた経営資源が分離するため、親会社に人材不足が起こることもあります。
意思決定が煩雑になる
カーブアウトを行うと、新会社は元会社とは別の組織となり、外部からの出資も受けられるようになります。
そのため、新会社の意思決定は新しい出資者の要望も反映させることとなり、意思決定は煩雑化し、元会社の思惑通りに新会社の経営が進まない場合もあります。
従業員の離職・モチベーション低下の可能性がある
カーブアウトで分離することになった新会社では、従業員の離職の増加やモチベーションの低下などによる事業不振が起こる恐れもあります。
新会社に転籍となることで、元会社で描いていたキャリアプランの変更を余儀なくされるためです。
カーブアウトでは、一部の事業を人材や技術ごと切り離し、別会社へ独立させます。
従業員は元会社から新会社へ転籍することになりますが、大企業でのキャリアプランを描いていた従業員にとって、新しいベンチャー企業への転籍は青天の霹靂となるでしょう。
そのため、カーブアウト後は一時的にせよ、従業員の離職率が高まる恐れがあります。人材を定着させるためには、カーブアウト前後の従業員に対する施策も必要です。
カーブアウトの2つの手法
カーブアウトを実施する際には、以下の2つの手法を選択することになります。
それぞれに引き継ぐものやその後の契約関係や手続きが異なるため、自社に適したやり方で実行することが必要です。
主に規模が大きく、個別に事業承継が難しい大企業は会社分割、比較的規模の小さい企業は事業譲渡に適しています。
会社分割
会社分割は、新しく会社を作って元会社が出資する方法です。元会社の権利関係や契約関係、許認可まで包括的に移転します。
基本的には従業員もそのまま引き継がれます。そのため、新会社は契約や許認可取得のやり直しなどの必要はありません。
事業譲渡
事業譲渡は一事業のみを譲渡する方法で、会社分割のように会社の一部をまとめて移転するものではありません。
そのため、契約や許認可、従業員の雇用契約などはすべてやり直す必要があります。
事業譲渡では転籍に同意しない従業員の離職のリスクが高くなりますが、一方で簿外債務を引き継ぐことはありません。
カーブアウトの実施手順
カーブアウトを実施する手順を解説します。
カーブアウトを実施する際には、いくつかの必要な事項の検討が必要です。また、作成すべき書類が増える場合もあります。
法的手法の検討
事業譲渡の方式で進めるか、会社分割を行うか、法的手法を検討します。
事業譲渡にも会社分割にもそれぞれメリットや特性があるため、企業や事業の規模、業種などによって適しているほうを選ぶ必要があります。
必要事項の検討
カーブアウトを実施するにあたり、何を切り離し、何を切り離さないか、検討します。
主に検討すべき必要事項は、資金・負債・契約関係・従業員の雇用関係・カーブアウト後の待遇などです。
これらは最低限決めておかないと、実施後の運営でトラブルが生じる恐れがあります。また、知的財産もある場合には知的財産の承継も検討事項となります。
適時開示の検討
適時開示とは、会社の決算情報など、重要情報を開示することです。
投資家の判断材料となるため、上場会社や公開企業が関係するカーブアウトでは適時開示が必要です。
この場合、取引先や従業員も含め、どの時点で適時開示を行うか、検討しなければいけません。
会計管理情報を調整
カーブアウトの実施では、対象事業の会計情報を切り出し、調整を行う必要があります。
会計の処理単位・分離範囲の調整・固定資産の減損処理を反映するなど、会計データの調整が必要です。
カーブアウト財務諸表の作成
カーブアウト財務諸表とは、SEC(米国証券取引委員会)登録の企業へ事業譲渡する際やM&Aの際に必要となる書類です。
SECでは事業買収の重要書類としてガイダンスにそって作成する必要があります。また、M&Aでは交渉の前に企業の財務情報を把握するために利用されます。
カーブアウトの注意点
カーブアウトを実施する際には、注意したい点がいくつかあります。元会社と新会社のそれぞれの発展を目指し、慎重に検討を進めてください。
業務に影響が出ないようにする
カーブアウトを実施する際には、業務に影響が出ないように進める必要があります。
実際に切り離した後、どのような変化があるか、経営資源・物流・人材面などで起こりえる問題を十分に検討することが大切です。
事業成長性やM&Aの手法も検討する
カーブアウトは経営手法として注目されていますが、どのような事業にも適しているわけではありません。
自社に不採算事業があった場合も、まずはカーブアウト後の事業成長性を十分に検討し、カーブアウト以外のM&Aなどの手法も選択肢として取り入れます。
法的問題を事前に検討する
カーブアウトを実施する際には、契約や許認可を承継する可否、許認可を再取得する必要性など、法的問題を明らかにしておくことも大切です。
カーブアウト後の新会社がスムーズに運営できるよう事前に確認し、必要な手続きがあれば進めておかなければいけません。
株主総会で決議を得る必要がある
カーブアウトを実施する際には、通常株主総会で決議を得ることが必要です。
適切なタイミングで株主総会を開催しないと、スケジュール通りにカーブアウトが進まなくなります。ただし、出資割合によっては株主総会が不要の場合もあります。
従業員の雇用契約の見直しが必要なことがある
カーブアウトではその手法によって従業員との雇用契約継続の可否が変わります。
事業譲渡の場合には、雇用契約の見直しが必要となるため、早めに検討を進める必要があります。
まとめ
カーブアウトによって元会社も切り離された新会社も、事業促進と企業価値の向上の良いチャンスとなることがあります。
不採算事業を抱えて苦戦を強いられている企業は、カーブアウトを選択肢のひとつとして検討してみると良いかもしれません。
ただし、カーブアウト実施に際しては、注意点を守って慎重に検討を進めていくことが必要です。また、安易にカーブアウトを選ぶことなく、自社に最も適した方法で事業を見直すことも大切です。
(編集:創業手帳編集部)