ビットキー 江尻 祐樹|累計資金調達額、約50億円。莫大な資金調達を達成できたその理由とは

創業手帳
※このインタビュー内容は2020年01月に行われた取材時点のものです。

株式会社ビットキー代表・江尻祐樹氏に、資金調達をするうえで大切なことを聞きました。

キーテクノロジースタートアップの株式会社ビットキーは、2020年1月23日、総額39億300万円の資金調達を実施したことを発表しました。創業から今回の調達を含めた累計調達額は17ヶ月で約50億円。更に勢いを加速させています。
そんな注目を集める中、同社のコアテクノロジー「bitkey platform」の発明者である江尻祐樹代表取締役CEOに、改めて起業に至る経緯や、今後のビジョン、資金調達をするうえで大切なことについて話を聞きました。

(2020/01/27更新)

江尻 祐樹(えじり ゆうき)株式会社ビットキー 代表取締役CEO

1985年生まれ。大学時代は建築/デザインを専攻。 新卒で1社を経験し、2009年にワークスアプリケーションズ入社。数億〜数十億規模の複数のプロジェクト責任者、コンサルタント・サービス組織の統括を経験。並行して12年末より、先進テクノロジー研究会を発足。18年8月、同会のメンバーを中心にビットキーを創業した。同社のコアテクノロジーであるbitkey platformの発明者であり、現在はビットキーにて技術・製品開発および経営・管理業務を管掌している。CEOであり、CFO・CTOの役割も併せて担っている。

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スマートシティーの実現を目指して

ーなぜこのサービスを作ろうと思ったのですか?

江尻:そもそも私自身、先進テクノロジーが好きで、起業前に友人らと先進テクノロジーに関する研究会を開催していました。

その当時「ブロックチェーン」技術が普及し始めていたのですが、ブロックチェーンの外側の取引領域や情報流出、そして不正利用など外部から攻撃を受けやすいという脆弱性をどうやったら解決できるか、という考えがサービスを作る起点でした。

「テクノロジーの力であらゆるものを安全・便利に、気持ちよくつなげること」をミッションに掲げて、IDを連携、認証したり、そこに紐づく権利の処理をおこなう独自のデジタルキープラットフォーム「bitkey platform(ビットキープラットフォーム)」と、それを応用したスマートロック「bitlock(ビットロック)シリーズ」を作っています。

ーこの製品は他社に比べて、どのあたりが新しいのでしょう?

江尻:たくさんあるのですが、あえて絞ると1つ目は「価格」です。

スマートロック自体はこれまで一般的に数万円で販売されていたのですが、弊社の「bitlock LITE(ビットロック ライト)」は、初期費用0円、月額300円〜という圧倒的な安さなので、これまで使ってみたいと思っていた方にも使っていただけるようにしました。

マンションのオートロックエントランス向け製品「bitlock GATE(ビットロックゲート)」もオートロックドア1箇所あたり月額2,000円〜という低価格なので、導入しやすいという声もいただいています。

2つ目は、単なるスマートロックにとどまらない「他サービスとの連携」です。
「bitlockシリーズ」は、時間や回数を指定してカギを開ける権利を渡すことができます。
このサービスの広がりの先には、他社と連携し、宅配クライシスを解決するために注目されている「置き配」や、不在中の家事代行や買い物代行などのサービス提供を見据えています。

3つ目は、「bitlockシリーズ」はビットキー独自開発の「bitkey platform(ビットキープラットフォーム)」を応用しており、特許を出願している技術面が新しいです。

そもそもも人やモノ、事業間のIDのハブになり、IDの連携や認証、およびそこに紐づく権利の処理を行うという考え方自体が、まだ世の中には殆どなく新しいと思います。

「bitkey platform(ビットキープラットフォーム)」の機能
ー社会に与える影響はどういったものでしょうか?

江尻スマートシティーの実現です。

私たちは、スマートロックが広がることで皆さんの生活が豊かになると思っています。

具体的には、家事代行を依頼するときに、合鍵をつくることなく、時間や回数を指定した一時的な鍵の利用権利を渡して不在時にサービスを受けられたり、不動産と提携して、物理的な鍵の受け渡し不要でユーザーが物件に入ることができて、内覧が便利になったりという世界です。すでに一部ではじめていますが、皆さんの身近で利用しやすくなるよう、準備を進めています。

そして、私達のテクノロジーは、物理的なカギ以外にも適用できるのです。

例えば、カーシェアサービスで車を使う時に、スマホと顔が“カギ”となって、本人認証とエンジン始動ができたり、コンサート会場では“顔”を使ってチケット購入者の確認ができてスムーズに入場したりということが可能です。

こういった利用があらゆる場所で展開されると、その先には様々なサービスやモノ、人などがつながるスマートシティーの便利さをリアルに感じられると思います。

自らの経験を活かし、開発へ

ー起業にいたる経緯を教えてください。

江尻:私と共同創業者の一人である寳槻は、以前アメリカで働いていた時期があります。当時はライドシェアのUberで移動して、シェアオフィスの「WeWork」で仕事をし、宿泊先はAirbnbで借りるといった、「シェアリングエコノミー」をフル活用していました。これらのサービスは確かにスマホアプリやパソコンがあればすぐに利用できるので便利だったんですが、最後の鍵の受け渡し本人確認は対面で行う必要があり、手間がかかるのを経験しています。

この経験があったからこそ、「カギ」に着目することが出来ましたし、「カギ」とは本来どういう特性を持っているのか分解し、今の私達のbitkey platformの開発に活かすことが出来ました。

ー起業で大変だったこと、それをどう乗り越えたかなど、起業に関わるエピソードを教えてください。

江尻:やはり一番は資金人材といった広義のリソースです。これらが一般的なスタートアップに比べ桁違いに必要な事業計画で、創業直後(3ヶ月)での3億円超の資金調達と半年で30名以上の組織にすることはとても大変でしたね。

創業直後の資金調達は、創業者3人で描いた事業構想・計画の解像度・本気度を、エンジェルを中心とした投資家から信頼してもらうことによって実現しました。

半年で30名以上の組織にできたのは、創業までに得た、本気の仲間が多くいたこと、採用専任担当者を創業から置き、複数部門の4名以上の面接必須といったルールの徹底などの採用へのこだわり・注力によって実現しました。

ー起業や経営でこれは、絶対にやっておくべきだ、もしくは、やっておいて良かったことはありますか?

江尻:絶対というものは難しいですね。100人いればそれぞれに企業や経営のスタイルがあってよいと思いますので。

やっておいて良かったことは、経営戦略・企画、営業・マーケティングから技術・製品、労務・法務・財務・経理、サプライチェーン、カスタマーサポート等々の企業内に存在するあらゆる「実務」そのシステム、仕組みを理解・経験したことですね。

事業計画や経営実務の解像度が桁違いに上がりますし、実行のリアリティをもてるため実務レベルでの円滑なコミュニケーションができ、結果、組織のパフォーマンスを最大化できます。

ー好きな本、もしくは言葉は何がありますか?またその理由は?

江尻『Less is More』 ミース・ファン・デル・ローエの言葉
理由:広義においてデザイン・コミュニケーションで最も重要な考えだと感じているため

『論語と算盤』 渋沢 栄一
理由:利潤と道徳を調和させるという点について、人間と人間社会の本質的で重要な視点を再確認できる書籍だから

『唯識』大乗仏教の見解・哲学の一つ
理由:一人ひとりの世界は、ただ識が変化したものであるという世界の捉え方が深い真理追求、視座、洞察の獲得につながるため

すべてに共通して、自身の内面との向き合い方、内省の考え方と、世界との向き合い方、それとどう対峙し対話するかの基本となる教え、深く考えさせられるものが好きです。

資金調達に必要なこと

ーなぜ、これだけの資金が集まったのでしょうか?

江尻:誤解を恐れずに言うとしたら、事業計画の解像度とその精度の高さ、実行力だと思っています。

今回のシリーズAラウンドはプロダクトリリース後だったわけですが、商品を出した後数ヶ月は企業のこれからの実行力を証明するタイミングとして重要で、実際に描いた計画をここで実行しなければ、いくら事業計画の精度が高くても実行力の面で評価頂けません。

今回のシリーズAはその実行力がある程度見られていたはずなので、発注いただいたお客様をはじめとして、ビットキーメンバーの総力がこの結果につながったと思っています。

ー今後の長期的なビジョンを教えて下さい。

江尻:長期的には我々のビジョン・ミッションである、あらゆるもの同士が、安全で、便利で、気持ちよく「つながる」「コネクトする」世界を実現していきたいです。これからの時代、つながることで生み出せる価値が重要になると考えますし、我々がその担い手になれたらと思います。

ー最後に、起業家へメッセージをお願いします。

江尻:私自身がまだまだ先輩方に教えていただいている立場ですが、一つお伝えしたいこととして、100人に聞いたときに100人全員から同じ起業家の皆さんとは、「違う世界だね」と言われるようなインパクトと価値のある事業をつくっていきたいですね。

「起業」自体は年々ハードルが下がっていると思いますし、自分自身でビジネスを興すことは非常に良い経験になると思います。だからこそ、せっかく起業する気持ちを持った皆さんの情熱を、より社会に影響がある領域で生かしていくことが大事だと思いますし、私もそうでありたいと思います。

ーありがとうございました。

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(取材協力: 株式会社ビットキー/ 江尻 祐樹代表
(編集: 創業手帳編集部)



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