ファンズ 藤田 雄一郎|上場企業に資金を貸す「Funds」で個人の資産運用に変革を起こす

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年08月に行われた取材時点のものです。

独自基準をクリアした企業のみを貸出対象とすることで個人が投資しやすい工夫を実装


株式投資やFX投資を学んだことがない方にとって、資産運用はハードルが高いと感じている方も多いのではないでしょうか?この状況に変革を起こすために、企業に資金を貸し出す形で投資して、利息を受け取れるサービス「Funds」を運営しているのが藤田さんです。

ファンズを創業した背景やサービス概要、連続起業家である強みについて、創業手帳の大久保が聞きました。

藤田 雄一郎(ふじた ゆういちろう)
ファンズ株式会社 代表取締役CEO
早稲田大学商学部卒業後、株式会社サイバーエージェントに入社。2007年にマーケティング支援事業を行う企業を創業し、2012年上場企業に売却。2013年に大手融資型クラウドファンディングサービスの立ち上げに経営メンバーとして参画。2016年11月に株式会社クラウドポート(現ファンズ株式会社)を創業。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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サイバーエージェントを経て2回目の起業として「ファンズ」を創業

大久保:起業の経緯を教えてください。

藤田:私にとってファンズは2回目の起業です。まず新卒でサイバーエージェントに入社しました。2年目に退職し、Webマーケティング支援やWeb制作会社を友人と創業し、6年くらい経営していました。これが1回目の起業でした。

私が起業した当時のWeb業界はすでにレッドオーシャンでした。最終的には上場企業に買収してもらい着地は出来ましたが、同じタイミングで時流に乗ったサービスで起業した人達と、数年で売り上げも規模も注目度も大きな差がつきとても悔しかったです。

この経験から起業で大事なのは「どんな事業をどのタイミングでやるか」だと感じ、次に起業するときは成長市場に良いタイミングで参入しようと思いました。

次の事業を考えている時に、海外でP2Pレンディング(※1)が流行っているという記事を見つけ面白そうだと思いました。

ただし、金融業界についての経験が全くなかったので、興味はありつつも、事業展開は考えていませんでした。そんなタイミングで、日本で同様のクラウドファンディング関連の事業立ち上げを検討をしている会社から、マーケティングの責任者をやってほしいと誘っていただき、参加することになりました。

約3年間事業に携わる中で、この領域の面白さを実感しました。既存の金融機関が行き届いてないところにお金を届けることも、個人に新しい資産運用の選択肢を提供するところも面白かったですね。

当時はハイリスクハイリターンな商品を扱うプラットフォームがほとんどだったので、もう少し安心感のある商品設計で、スタートアップらしい事業展開が出来ないか考えていた時に、共同創業者の柴田に出会いました。

柴田は当時からいくつも会社を作っていたシリアルアントレプレナー(※2)だったので、私の持っている金融や業界に関する知識と、柴田の持っているスタートアップの経営経験をうまく合わせて会社を作ったら面白いことが出来ると思い2016年にクラウドポート(現ファンズ)を起業しました。

※1 P2Pレンディング…銀行等の金融機関を通さずに、インターネットを経由して、資金を必要としている個人と資金を提供する個人を結び付ける仕組み

※2 シリアルアントレプレナー…新しい事業を何度も立ち上げる起業家のこと

上場企業に資金を貸し出す新しい資産運用の形

大久保:ファンズの業務内容を教えてください。

藤田:私たちは、個人向けに高品質な運用商品を提供することで、個人預金を動かし、日本及び世界の経済成長、産業発展に貢献したいと考えています。

Fundsは上場企業にお金を貸すことで資産形成が出来るサービスです。資産形成をしたい個人と資金調達をしたい企業のマッチングをして個人が企業に資金を提供する新たな金融市場の創出を目指しています。

参加企業は上場企業が約8割です。三菱UFJ銀行、メルカリなどの大企業に個人がお金を貸して、金利がもらえるというユニークな運用の機会提供をしています。

Fundsは初めから利回りが決まっているので、大きな儲けはないですが、借り手企業が倒産しない限りは、予定された利息が返ってきます。投資信託や株のように世界情勢の変化で日々の値動きにハラハラすることはありません。

借り手企業に対する審査では、リーマンショックなど金融危機で倒産してしまった会社を分析することで、似た傾向を持つ企業を審査で除外するなど、一定の基準をクリアした企業のみを貸付の対象としています。

Fundsを利用する企業は銀行からお金を借りられる会社なので、銀行から借りられる部分は銀行で借りてもらい、不足する部分はFundsが出す補完金融というポジションです。

資産運用の文化が根付いていない日本だからこそファンズが必要

藤田:資産運用の重要性は高まっていますが、日本の金融資産における金融商品比率はずっと変わっていません。

投資は損をする可能性があること、知識がないこと、価格変動が嫌だという点で敬遠する人が多いので、この問題点を払拭する商品性にしました。

固定利回り型、相場による価格変動なし、上場企業中心なので、これまで投資を敬遠してきた層に気軽に資産運用を体験してほしいです。

いまだに家系資産の半分程を占める、日本人が好きな預貯金金はほぼリターンがありません。株や投資信託は大きなリターンが期待できる一方で、リスクも大きいです。リターンが1〜3%の手堅い層の商品がなかったのでFundsを作りました。

大久保:日本は預貯金が好きですよね。

藤田日本の経済が回っていないのは、預貯金でお金が動いていないからです。ですが、いきなり投資はハードルが高いと思います。そこで、Fundsの固定利回り投資で大きな儲けはなくとも、お金がお金を産む経験をしてもらいたいんです。

上場企業がFundsで資金を借りる理由とは?

大久保:上場会社はプライムレートで銀行から金利を安くお金を借りられると思いますが、なぜ上場会社はFundsを利用するんですか?

藤田Fundsのメインターゲットは上場企業の中でも時価総額500億円以下の成長企業です。

企業のお金には「運転資金」と「成長資金」があります。

「運転資金」は企業が事業を継続的に行うために必要な資金で、銀行からの借り入れで十分です。

ですが、事業をより拡大させるための「成長資金」は担い手が少なく供給が十分ではありません。特に、実績のない新規事業への資金や、資金使途や返済原資がまだ明確に定まっていない資金など、銀行の基準では借りにくい資金需要が存在します。これらの資金は、すでに上場している企業であっても調達に苦慮する場合があります。そういった成長資金をFundsが提供しています。

成長資金は銀行の基準ではお金を借りにくく、すでに上場している企業は外部からの資金調達もできないので、Fundsが成長資金に対して貸付をしています。

過去の起業経験がファンズの成長に繋がっている

大久保:1回目の起業で学んだことを教えてください。

藤田:Webマーケティング業界には自分よりも優秀な人材が多かったので、Webマーケティング業界ではなく、他の領域で私の知識を活かした方が力を発揮できると思いました。

実際にやってみると、金融業界にはWebマーケティングに詳しい人が少なかったので強みを生かした事業展開ができました。

大久保:過去にレッドオーシャンに飛び込んだ経験は活かされましたか?

藤田:1社目の起業の時に、Webサイト制作のコンペに何度も参加していました。弱小企業だったので、大小問わず様々な企業の中で自分たちの会社を選んでもらうために、自分たちの会社をいかに魅力的に見せることが出来るか、セールスポイントは何かを6年間考え続けました。

プレゼンテーション力をブラッシュアップし続けた経験は、ファンズを起業して資金調達をする時に役立ちましたし、ピッチコンテストで優勝することもできました。

大久保:藤田さんの考えるスタートアップとはどんなものですか?

藤田成長資本をうまく使いながら、事業を成長させ、優秀な人を採用し、テクノロジーの力を使って事業を推進していくことだと思います。

初めからいいメンバーを揃える、信用力のあるアドバイザーに入ってもらう、銀行系のVCさんから資金調達をする、ピッチコンテストで優勝する、という信頼を積み上げ、お金も人材も集まりやすい状況を作りました。

スタートアップの成長には「信用」の蓄積が最重要

大久保:スタートアップは信用が大事なんですね。

藤田スタートアップの肝は「信用」だと思っています。いかに信用を積み上げ、崩さないかが大切です。

そして事業の成長には「巻き込む力」も必要です。事業を拡大するには、人やお金や企業を巻き込んでいく必要がありますが、信用がないと人もお金も集まりません。

大久保:「巻き込む力」を詳しく教えてください。

藤田:経営者が優秀でも1人でやれることには限界があります。どんどん優秀な人を巻き込むことで、自分の能力を超えた大きいことが出来ると思います。

起業すると様々な壁がありますが、多くの人を巻き込むと自分が出来なくても他に出来る人がいて、協力してもらえれば乗り越えることが出来ると学びました。

私は「巻き込み力=ビジョン×実現可能性×人格」だと定義していて、ビジョンと実現可能性と人格全てがないと周りの人々を巻き込むことは出来ないと思います。

大久保:Fundsはどのように成長していきましたか?

藤田:Fundsがうまく行った要因は社会的背景にあります。

クラウドファンディングが一般的になり、個人がネットでお金を投資することに抵抗がなくなりました。そして、金融インフルエンサーの影響力が高まっていることも追い風になりました。

Fundsはサービス開始当初から金融インフルエンサーと関係構築をしてきました。金融インフルエンサーの影響力は大きく、インフルエンサーがおすすめするものに投資する個人は多いです。インフルエンサーがFundsを後押ししてくれて、フォロワーがFundsに投資をしてくれる構造が出来ました。

組織が成長を続けるためには「風土作り」が大切

大久保:組織づくりで意識していることはありますか?

藤田:ここ数年「組織風土作り」は特に意識しています。

ファンズには「未来の不安に、まだない答えを。」というミッションがありますが、これは世の中の人たちのお金の不安を解消するスタートアップであるという宣言です。

特に後半部分の「まだ、ない答えを」はこだわっています。また、スタートアップとしてやるからには、今までになかった新しい方法で課題解決をしていきたいと考えています。国内初や世界初を意識しています

個人が銀行にお金を貸せるファンドを出したり、スマホ決済で個人が企業にお金を貸し出せる国内初の仕組みを作りました

大久保:会社の風土をとても大事にされているんですね。

藤田:ファンズは金融業なので、やはり風土は大事です。金融業は小さな問題でも何かあるとすぐに経営陣に上がってくる状態であることが望ましいので、社員が萎縮しない組織作りを意識しています。

難しい課題にチャレンジしているからこそ、社員一人ひとりが伸び伸びと自分の力を最大限発揮出来る組織でありたいです。

経営陣として心理的安全性を大事にしようと意識的に言い続けています

大久保:社内のコミュニケーションが良好で、問題を隠そうとしないことが大切なんですね。

藤田:私は採用段階からモラルのある人を重視しています。能力が高くてもモラルがない人がいると、社内が乱れるので、真面目で誠実な人を採用しています。

ファンズでは、全体ミーティングでコンプライアンスの話を積極的にしたり、コンプライアンス人事にコストをかけたり、コンプライアンスへの意識や誠実さを大切に思っていることを行動で社員に示しています。

大久保:スタートアップは人材選びも難しいと思いますが、スキルよりもモラルを重視することが大切なんですね。

藤田:人材選びは難しいです。スキル重視で人材を選んでも、コミュニケーションに課題がありびハレーションが起きてしまっては組織全体の効率が下がります。ですので、採用において人格やモラルを重視しています。

私も起業して数年はスキルやパフォーマンス重視の採用をしていましたが、私には合いませんでした。自分に合う組織やカルチャーにすることがうまくいくコツだと思います。

ファンズの組織的DNAにある「Think Leverage」という考え方

大久保:ファンズが大事にしている考え方はありますか?

藤田ファンズには「Think Leverage」というバリューがあり、何をするにも必ずレバレッジを考えようというのは組織的DNAの中にあります。

レバレッジは「てこの原理」という意味ですが、常にてこの原理を考えていこうと思っています。大きなことを成し遂げるためには、なるべく小さいうちから、様々な人を巻き込みながら物事を進めることが大事だと思います。

例えば最近三菱UFJ銀行のファンドを公開させていただきました。三菱UFJ銀行が利用するプラットフォームという実績が信用のレバレッジになっていて、自分たちの信用をさらに高めるきっかけになりました。

こういうことを創業の時から常に意識してきたのは、今振り返っても良かったと思います。

大久保:信用を積み上げることを組織化したんですね。

藤田:僕も共同創業者の柴田も基本的には、常にレバレッジをどれだけかけられるかをずっと考えてきて今があるので、この考えを他の社員にもインストールしていこうとバリュー化し、何をするにもレバレッジを考えようと社内で意識しています。

A案とB案があれば、どちらがレバレッジが効くかを意思決定の拠り所にしています。

コストよりもレバレッジを重視するという考え方を社内で共有し続けています。

今は注目されていない業界でも10年続ければ形になる

大久保:最後に読者へのメッセージをお願いします。

藤田:起業後、事業を成長させ上場させることを目標にしている方は多いと思いますが、実は上場後に成長が止まっている企業は多くあります。上場後いかに資本を調達して成長していくかはすごく大事です。

未上場の資金調達環境はVCもたくさんあり充実していると思います。ですが上場後の資金調達に困っている起業家は多くいるので、Fundsの存在を頭の片隅においていてほしいです。

先日、あるイベントで登壇されていたマネーフォワードの辻庸介社長のお話をお伺いする機会がありました。今やマネーフォワードさんはユーザー数も売上もすごいですが、初めは全く注目されておらず、投資を断られたり、うまくいかないと散々言われながら、10年継続して形になったそうです。

今は注目されていない業界でも10年、真面目にコツコツ頑張れば形になることがあると仰っていてとても感銘を受けました。

私もこの業界に入って約10年です。ずっと注目されていない業界でやってきてようやく光が見えてきたなと感じています。今注目されていなかったり否定されたとしても、自分の信念を持ち続けてもらえるといいなと思います。

冊子版創業手帳ではフィンテック関連の起業家インタビューを多数掲載しています。ウェブ版と合わせてぜひご覧ください。
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(編集:創業手帳編集部)

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(取材協力: ファンズ株式会社 代表取締役CEO 藤田 雄一郎
(編集: 創業手帳編集部)



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