Be win 河村 勝就|山口県発の地域密着型求人サイトを全国へ。地方企業が抱える採用の課題を解決したい

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年04月に行われた取材時点のものです。

家族の事情でUターン後に起業。大手ができない地域密着型の営業で、総合人材支援企業に成長


人材不足の深刻化により、地方の中小企業は大きな影響を受けています。こうした中、地方に特化した求人メディア「じょぶる」を立ち上げ、全国で29府県に展開しているのが株式会社Be winです。

2007年に山口県宇部市で株式会社Be winを起業し、現在も代表取締役を務めるのが河村勝就さんです。河村さんは「東京の大手企業と地方の中小企業では、課題やリテラシーなどあらゆることが違います。だからしっかり地元密着型で取り組めば、そこが強みになる」と語ります。

今回は河村さんが起業した経緯や、地方でどのように事業を成長させてきたのかについて、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

河村 勝就(かわむら かつなり)
株式会社 Be win 代表取締役
島根職業能力開発短期大学卒業後上京し、建築業や不動産営業に携わる。2004年家族の事情で地元である山口県に戻り、人材派遣会社に勤務。

2007年に株式会社Be winを設立、人材派遣事業を手掛ける。2015年には求人広告事業として地域密着型求人サイト「じょぶる山口」をスタート。2019年には「じょぶるJAPAN」として全国へ展開。現在は29府県まで拡大し、数年後には全国を網羅する予定。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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起業後はとにかくがむしゃらに働き、軌道に乗るまで5年かかった


大久保:河村さんはご家族の事情で地元の山口県へUターンされ、その後起業されたそうですね。起業のいきさつを教えていただけますか?

河村起業した一番の理由は、やはり家族ですね。私が学生だった頃に母が病気になり、後遺症が残ってしまいました。その数年後には父が病気で他界したんです。私は長男ということもあって、一度は東京で働きましたが、地元の山口県へ戻りました。その後家族の世話を続けるためには、起業するしかないという状況でした。

1つ良かったことは、起業を後押ししてくれる方がいたことですね。私は起業する前、大手人材派遣の支店長をしていました。当時は派遣業界が注目されていましたし、西日本1位の成績をとったこともあって、複数の方から「出資をするから起業してみないか」と声をかけていただいたんです。

大久保:起業前の仕事ぶりを評価して支援してくださる方がいたわけですね。実際に起業してみて、いかがでしたか?

河村起業して3年くらいは寝る時間がないくらい、朝から晩まで仕事をしていました。若くて体力があったからできたことですね。仕事の他に家族の世話もありましたし、子どもを授かったこともあって、本当に忙しい日々でした。若いうちにがむしゃらに働いて自分の時間を確保できる状態を作りたいという思いで、なんとかやっていました。

大久保:その後会社が軌道に乗ってきたと感じたのは、どんな時でしたか?

河村起業して5年目くらいでようやくというところです。リーマンショックなどをなんとか乗り越え、5年目には年商が4億円ぐらいになり、営業利益も3,000万円ぐらいは安定して出るようになりました。その頃には信頼できる社員を採用できるようになって、落ち着いてきたかなと感じました。

大久保:その後2015年に地域密着型求人メディア「じょぶる」を立ち上げ、求人広告事業をスタートされました。このメディアはどのようなきっかけで立ち上げたのでしょうか?

河村:起業後は人材派遣をメインにやっていましたが、2008年のリーマンショック以降「派遣切り」が社会問題となり、派遣業界全体が変化を余儀なくされていたんです。

その後2010年頃になって派遣から正社員への登用といった流れができ、良い兆しが見えてきました。その頃から求人広告を扱うようになっていったという流れです。そういう中で「じょぶる」を立ち上げた大きなきっかけになったのは、スマートフォンの爆発的な普及ですね。

それまで求人広告の世界では、フリーペーパーとWebを組み合わせたビジネスモデルが主流でした。私はスマートフォンの勢いを見て、Webメディアだけで完結するサービスに思い切って挑戦したという感じです。

大久保:もともと人材派遣業だけではなく、他の事業もやっていこうという考えがあったのでしょうか?

河村派遣で採用するところから正社員の登用まで、一気通貫でできるような人材総合支援会社になりたいというのは、起業した時から考えていました。やはりずっと派遣として働き続けるというのは、働く方にとって選択肢が少ないと思いますから。

営業はマーケティング。だから多くの営業リソースを投入して、どの会社よりも地元企業の声を聴いた


大久保:「じょぶる」は河村さんの地元である山口県でスタートされましたね。あえて地域を絞り込んだのでしょうか?

河村:そうですね。もともと全国に広げたいと思って起業したわけではないですから。まずは自分たちの地元で一番になりたいという思いでやっていました。

とはいえ大都市と違い、地方では企業の数もニーズも限られます。ですから業種や業界というセグメントを絞ってしまうと、すぐに限界が来てしまいます。地方で勝負するならまず地域というセグメントをよく見て、広くニーズを拾っていくべきと考えました。

大久保:なるほど。地方でビジネスする上で、河村さんが特に注力されてきたことを教えていただけますか?

河村:大手さんはまず東名阪の大都市からスタートして、市場規模の大きいところから営業リソースを投下していきます。そうすると東名阪がメインになるので、山口県に拠点を出すとしても営業人員は1名とか2名になってしまいます。そこで、私は営業リソースをその地域で一番多くかけるようにしました。

私は営業というものは、結局マーケティングだと考えています。ですからお客様が何を課題と思っているか、これまでどんなサービスを使ってどんな方法で課題解決してきたのか、そういうことを理解することが大事だと思いました。これを知るには、やはり営業リソースをしっかりかける必要があります。

そこで多くの営業人材を投じて、とにかくお客様に話を聞くことを重視しました。おそらくこの地域では、どの会社よりも一番多くヒアリングしたと思いますよ。そういうヒアリングで得たお客様の課題や要望を少しずつ足していったら、サービスとして整っていったという感じですね。

大久保:確かに大手は効率のいい場所へ人材を集中させているので、地方のマーケットがしっかり見えていないのかもしれません。

河村:そうですね。例えば大手が地方へ展開する時、テストマーケティングも効率を考えて商圏の大きな大都市でやりますよね。でもこのやり方では、地方の中小企業が持つ課題にフォーカスしにくいと思います。

極端に言えば、大都市と地方は全く別物です。だからこそ地方はスタートアップにもチャンスがあると思いますよ。東京は人口約1,400万人という巨大な市場ですが、これは日本全体で見れば人口の1割程度に過ぎませんから。

大久保:東京で大手企業に勤めた経験もある河村さんから見て、東京の大手企業と地方の中小企業には、どのような違いを感じますか?

河村:私も短大卒業後に上京して、しばらく東京で営業をやっていました。そこで感じたのは、東京に住む方も企業も、視座が高いと思うんですよ。大きな夢や目標をもっている方が多い。反対に地方は視座がわりと低く、そこまでの成長を望んでいない方が多い。

どちらがいいか悪いかという話ではなく、違うというのがポイントです。つまり東京のような「成長したい」という価値観で地方企業に営業しても、全く相手にされません。人材業界で言えば、東京ではすでに採用が必要だと思っているお客様に営業をします。一方で地方は「採用はコストがかかるから怖い」という前提のお客様へ営業をすることになります。ですからいきなりサービスの説明をしても、当然売れないですよね。

大久保:逆に言うと潜在化しているニーズがあるから、そこをしっかり獲得できれば独占で入れるわけですね。

河村:おっしゃる通りです。どんな業界でも営業で苦戦する部分はおそらく共通だと思います。だからこそ、そこを攻略できれば強いと思います。

採用も経営も、あらゆることが都心と地方の企業では全く違う


大久保:山口県からスタートした求人メディアは、現在29の府県まで広がっています。地方から少しずつエリアを広げるというのは、珍しいパターンだと思います。

河村:確かにこういったビジネスモデルは、なかなかないと思います。こういうやり方をしているのは、まず人と人を介在する会社としてその土地をよく知るべきだと考えているからです。

私たちはもともと山口県でこのサービスを立ち上げた時、入社前と入社後のギャップがゼロになるようなサービスにしたいと思いました。ですから求人広告を作る時も、丁寧に取材を行った上で原稿を作成しています。

大久保:魅力的な求人広告を作るには専門性の高いスキルが必要だからこそ、御社が担っているというわけですね。

河村:おっしゃる通りです。例えば給与条件という面では、地方の中小企業は絶対大手企業に勝てません。ですから「給与以外で求職者に響くものは何か」を考えて、求人広告を作る必要があります。これもマーケティング的な発想です。

私たちは「バリューシェアリクルーティング」という、求職者の価値観を刺激するような情報の届け方を目指しています。現在はこの考えに基づいた取材とライティングを行っています。

リクナビさんやマイナビさんといった大手メディアは、大手企業が地方で採用する前提で求人広告が作られています。でも私たちのサイトは、地元の中小企業が地元で働きたい方を採用することが目的です。そうなると、当然ながら内容や書き方も大手メディアとは全く違います。

これまでは大手企業と同じようにすれば、地方の中小企業も採用が成功すると思われていました。でも今は採用もそうですし、経営そのものも中小企業の勝ち方は大手企業とは違うという認識ですよね。

ですから採用自体が、専門性の高い業務とみなされてきています。一方で中小企業がこうした業務ができる人材を置くのは、コスト的に難しい。そのため中小企業にとって、外部をうまく使っていく必要性が高まっているわけです。そういう意味では、専門性の高い求人広告の作成から発信まで、中小企業に必要な業務を弊社が担っていると考えています。

地方経済を活性化させるためにも、入社前後でギャップゼロの求人広告を目指す


大久保:ある地方に住む起業家の方から以前聞いた話ですが、地方には上京したい人もいれば地元に残って働きたい人も一定数いるけれど、地方に魅力的な就職先がないからみんな都市部に出てしまうそうなんです。

地方にも魅力ある会社があることがもっと認知されれば、地方に残って働く若者が増えて、地方の人口減少を食い止めることができるかもしれません。

河村:そうですね。私としては、地域でどれだけの雇用の選択肢があるかが重要だと思っています。

大手の求人メディアでは、地方に本社がある企業の掲載比率は2割にも満たないんです。地方の若者がそういう大手メディアで仕事を探そうとすると、そもそも選択肢がないわけです。

でも会社の数で言えば、山口県なら山口県に本社のある会社が一番多いはずです。地方にも就職先の選択肢があることが若者に伝われば、わざわざ都会に出なくても働けるという感覚になってくれると思っています。ですから地方では、いかに企業の魅力を伝えるかという情報発信がより重要と言えます

もちろん都会に出て、知名度の高い大手企業で働きたいという若者は一定数いると思います。でも地方の方が、経済的にも暮らしやすいですよね。山口県で言えば、おそらく東京の半分くらいのコストで同じような暮らしができると思いますよ。通勤のストレスもありません。

私自身は、東京はたまに行くところという感覚でいいかなと思っています。今は2時間くらいで山口から東京に行くことができますから。

大久保:人材不足の時代を迎える中、地方企業が人を採用していけるかが、地方経済にとって重要になってきているように感じます。

河村:確かに、どの企業も若い労働力をいかに確保するかが課題です。ただ結局は、企業が採用にかけた費用と、採用した人材が生み出す利益を見て、ROI(編集部注:投資に対する利益の割合のこと)が1以上になっているかが重要です。

ROIが1以上なら会社は成長できて、社員に利益を還元できるわけです。ただこのROIを意識している中小企業はすごく少ないですね。例えば営業の人材を採用できなかった場合の機会損失はいくらになるか、といったことを考えた上で、採用計画を立てる必要があります。

ですから私たちは「ROIを1以上にするにはどうしたらいいか?」という観点で、採用計画からターゲットの設定、ターゲットにどう訴求するかまで、全て中小企業の方々へ提案しているんですよ。

ただ私たちは求人情報の質にこだわっていますが、もっと高めていけると考えています。私たちが手掛けている事業をしっかり展開していくことで、業界全体における求人情報の質を上げていきたいですね。

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(取材協力: 株式会社Be win 代表取締役 河村 勝就
(編集: 創業手帳編集部)



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