すきだよ あつたゆか|カップル・夫婦の対話を日常に。アプリ「ふたり会議」で目指す「好きだよ」があふれる社会

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2024年05月に行われた取材時点のものです。

カップルのコミュニケーション課題解決を目指し、日本のリレーションシップアプリ界に先鞭をつける

「パートナーと真剣な話し合いができますか」「『好きだよ』と伝えていますか」ーー。そう問われると考え込んでしまう人は多いのではないでしょうか。パートナーとの対話に悩むカップルは多くいます。コミュニケーション不足はすれ違いを生み、時に深刻な問題にまで発展することも…。

そんな中、カップル夫婦の対話をアップデートするFamily Techアプリ「ふたり会議」が注目を浴びています。開発したのは、株式会社すきだよのあつたゆか代表。幼少期や大学時代の経験から異文化コミュニケーションに興味を持ち、パートナーシップの課題解決に取り組んでいます。

中小機構が主催する「第10回アクセラレーションプログラム」の参加者でもあるあつたさんに、プログラムでの学びをはじめ、ふたり会議の機能と可能性、そして事業の原動力となる思いを伺いました。

あつた ゆか 
株式会社すきだよ 代表取締役
「誰もが大切な人とずっと幸せでいられる社会をつくる」をビジョンに、家族・パートナーシップに関する社会課題を解決し、ふたりらしい生き方を支援する。累計10万人以上の夫婦・カップルが利用する対話ツール「ふたり会議」の開発に加えて、企業・自治体向けに、共働きでのキャリア形成・夫婦間のコミュニケーション講座・ライフプラン研修も提供している。TBS・フジテレビ・ABEMA・日経ウーマン・日経新聞など多数のメディアで紹介され注目されている。

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対人関係に苦労した帰国子女時代を経てコミュニケーションを研究

――あつたさんは幼少期をアメリカで過ごされたそうですね。

あつた:3歳から5歳までの2年間、アメリカにいました。現地の幼稚園や学校では、コミュニケーションに苦労しました。また帰国後も、今度は帰国子女として対人関係に悩んだ経験があります。必然的に、お互いを理解し合うにはどうすればいいのかということに興味を持つようになりましたね。

価値観の異なる相手とどう対話していくかに関心が高まり、大学では異文化コミュニケーションを専攻しました。また、1年間アメリカに留学し、特にカップル間でのコミュニケーションについて研究しました。

――カップル間のコミュニケーションに目を向けられた理由として、社会における家族のあり方に課題意識をお持ちだったのでしょうか。

あつた:そうなんです。「結婚は墓場」なんていう言葉もありますしね。自分が結婚する際に、結婚式場のコーディネーターから「結婚式の日が幸せのピークですから」と言われた時にも、これからが結婚生活の本番なのに、下降していくのが前提の言葉に、違和感を覚えました。これらは、当たり前のようにどこでも言われている言葉なんですよね。

日本では3分に1組のペースで夫婦が離婚しているというデータもありますし、まさに「墓場」状態のまま結婚生活を続けている人も少なくないでしょう。「カップル間のコミュニケーションが不足しているのでは」といった課題意識はありました。

――2019年の起業の前、2018年にご結婚されています。ご自身の結婚生活はいかがでしょうか。

あつた私は夫が大好きで、それが起業の原体験になっています。ありのままの自分を受け入れてくれる、安心して何でも話せる唯一無二の存在ですね。私は得意不得意分野がはっきりしていて、そのことにすごくコンプレックスを感じていたんです。でも、夫は「そんなことは、君の人格全体の中では小さなことでしかない」と言ってくれて、私のいいところをたくさん見つけてくれました。

面白いことに、性格や好みは正反対と言っていいほど違います。しかし、どんなことでもきちんと話し合える姿勢を持っている人なんです。この人なら何があっても一緒にいられると思い、出会ってから1年で結婚しました。今でも、もやもやしたことがあればその日のうちに話し合うことを心がけています。

――社名の「すきだよ」にも、あつたさんの思いが込められているのでしょうか。

あつた:長く一緒にいるとお互いの存在が当たり前になり、愛情表現をしなくなる夫婦も多いですが、いつまでも「好きだよ」とお互いに言い合えるパートナーシップがあふれる社会を目指したいという思いでつけた名前です。あと、インパクトがあるので覚えてもらいやすい点も意識しました。お取引先に弊社から振り込みを行うと、「スキダヨ」の文字とともに入金されるので、「ユニークですね」「うれしい気持ちになります」などと言われます。

デリケートで大切なトピックこそアプリを介して話し合いやすく

――「ふたり会議」の特徴を教えてください。

あつた:人生のトピックについて「真剣な話し合い」ができるカップルは全体の3割以下と言われています。理由の多くは「怖いから」。もし意見が食い違ったら…、うまく話し合うことができなかったら…、別れにつながるのでは…、と不安になりますよね。きっと誰もが経験している気持ちだと思います。

アメリカではそういったトピックを話し合う場合、プロのカウンセラーを交える「カップルカウンセリング」がポピュラーです。しかし、日本ではあまり馴染みがない上に、費用も数万円かかることが多いです。

そこで、テクノロジーの力を使って、もっと気軽にカップルカウンセリングのようなものを普及させられないかと考え、開発したのが「ふたり会議」です。約300問の質問にそれぞれが答えることでお互いの価値観を洗い出します。

――具体的にはどのように使うのでしょう。

あつた:まず、LINEの公式アカウントから友だち登録します。そして、設問に対して2人で回答していくんです。忖度のないよう、お互いの回答は相手には見えない設定になっています。2人とも回答し終わると、結果画面が表示され、お互いの考えや価値観の共通点や相違点が一目で分かるようになっています。加えて、その話題についてどのように話し合えばいいかというヒントも提示されます。

――どのようなトピックを扱っていますか。

あつた:家事・育児の分担、介護、性生活、お金の使い方など、ライフイベントに関わる広範なテーマを扱っています。例えば、「結婚式はしたい派?したくない派?」「子供は何人欲しい?」「両親の介護が必要になったらどうする?」といった具合です。

「ふたり会議」には大切なポイントがあります。それは、一致度を測らないこと。考えがぴったりと一致することが「善」というわけではないですよね。一致するほど相性がいい、という見方もしません。大切なのは、一致不一致にかかわらず、お互いの価値観を尊重しつつ話し合うこと。「ふたり会議」からは、そのためのヒントも提供します。

――「ふたり会議」の主なユーザー層はどのような方々ですか。

あつた:ミレニアル世代やZ世代にあたる20~30代が中心です。特筆すべきは、男性からも非常に需要が高いことです。男性も、結婚後のキャリアプランや出産後の家事分担について、パートナーに聞いてみたいと思っています。しかし、相手の反応が怖かったり、穏便な聞き方が分からなかったりして、諦めることも多いのだとか。「ふたり会議」なら、そういった重要な話題について、建設的に話し合いができると喜ばれています。

――ユーザーの方から、嬉しい反響はありましたか。

あつた:「結婚前に『ふたり会議』をしていたおかげで、子どもを持った今でも夫婦円満です」「2年間言い出せなかった『結婚はしたいけれど、苗字を変えたくない』という思いを話すことができました。パートナーも受け入れてくれて本当によかったです」「遠距離で付き合っているパートナーと一緒に『ふたり会議』をすることで、将来について前向きに話し合えるようになりました」など、たくさんの声をいただいています。こうしたフィードバックは本当に励みになっています。

――ビジネス的な可能性についても教えてください。

あつたカップル・夫婦の関連市場は約70兆円とも言われています。結婚、出産、住宅購入、保険、旅行など、関連するビジネスは非常に大きいんです。一般的なアプリの会員データとは違い、「ふたり会議」では今のカップルのリアルな価値観のデータが手に入ります。例えば「この先、数年以内に子供が欲しいと考えているカップルの割合」や、「理想とする子供の数」といった具体的なデータです。

これは企業にとって、マーケティング戦略を立てる上で非常に価値があるでしょう。もちろん、ユーザーのプライバシーには細心の注意を払いつつ、win-winの関係を築いていきたいと考えています。

プロダクトを磨き「好きだよ」があふれる社会へ

――昨年、中小機構の「アクセラレーションプログラム」に参加されたそうですね。

あつた:「ふたり会議」を具体的にどう成長させていくか、スケール面で迷いを感じていたんです。プログラムに参加したことで、想像の何倍もの学びを得ることができました。本音ベースで寄り添ってくれるメンターに、じっくりと相談に乗ってもらえたことが大きかったですね。事業成長ポイントや資金調達について、たくさんアドバイスをいただきました。起業家にとって、正しい相談先を持つことの大切さを実感しました。

例えば、「ふたり会議」は基本的に使い切りのアプリだったのですが、毎週テーマに沿った質問が届く機能などを追加することによって、継続的に使えるプロダクトへと進化させることができました。

また、VCからの資金調達に関して、成長スピードを求められることや経営への干渉があるのではといった点で、以前は怖さを感じていたんです。でも、完全なる味方であるメンターがいてくれるおかげで、殻を破って40社ほど回ることができました。

――そのような学びを経て、起業家として大切にされていることは、どのようなことでしょうか。

あつた:経営においては、致命的な失敗をしないよう細心の注意を払っています。小さく負ける。小さく試す。その繰り返しです。

「ふたり会議」も、最初は診断サイトのようなWeb版からのスタートでした。アプリ開発にはお金がかかるので、まずは20万円ほどでWeb版を作ったんです。リリースして1晩でSNSで約2,000投稿、テレビ局からの取材も来て、手応えは十分ありました。コミュニケーションやリレーションシップに関するユーザーの関心の高さを実感しました。そこから少しずつ改善を重ねて、今の形になっています。

――今後の展望をお聞かせください。

あつた:海外と違い、日本にはリレーションシップに関するアプリがほとんどない状況です。この市場を開拓し、まずはたくさんの人に知ってもらいたいですね。「ふたり会議」は今のところ、ユーザーの口コミで広がっているんです。先輩夫婦に勧められた人もいれば、インフルエンサーの方々の投稿を見て、取り組んでくださる方もいます。そうした広がりを着実に加速させていきたいと考えています。

「話し合うことで」「話し合えば」、口で言うのは簡単ですが、言い出すのも実行するのも大変です。話し合いは本来ハードルが高いもの。それを、アプリでできるだけ楽しく気軽に取り組めるようにしたいんですね。

また、「ふたり会議」の質問に答えることで、普段考えていなかったことを考えるきっかけにもなります。そうやって一人ひとりの人生の解像度を上げることにも貢献できたらと思っています。

――最後に、「ふたり会議」を通じて目指すビジョンをお聞かせください。

あつた:産後クライシスや、夫婦喧嘩が子供に与える心理的虐待、離婚など、パートナーシップに関する社会課題は山積みです。「ふたり会議」の存在が、そうした課題の解決につながればうれしいですね。

もちろん、同性パートナーの方にも使っていただけます。一組一組のカップルの事情は異なりますから、その多様性を尊重しつつ、大切なパートナーとの関係に寄り添ったプロダクト設計を心がけています。お互いの考えを尊重する対話の習慣が根付き、好きだよ」と愛情があふれる社会を実現するために、一歩ずつ進んでいきます。

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(取材協力: 株式会社すきだよ 代表取締役 あつたゆか 
(編集: 創業手帳編集部)



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