和える 矢島里佳 | 中小企業を蘇らせるリブランディングの方法!
起業と継承の経験を活かし、中小企業の本質を見極め発展に貢献
日本では全国に特徴と伝統のある企業や商店が多数あります。
しかし後継者不足や時代に合わなくなってきているなどの課題を抱えている事業者も多いのです。こうした問題に対応する武器の一つが、伝統的にやってきたことを改めて見直し再定義、再生するリブランディング。
例えば魅力が伝わっていない事業で、後継者がいないので、一生懸命後継者探しをしても上手くいかないのは当然です。しかし、今の時代の文脈や表現、温度感、意味に合わせた形でその事業を定義・表現しなおせたらどうでしょうか?
途端にそれは「古くなってしまった事業」から「今にあった新鮮さと、本物の伝統の厚みとマネのできないストーリーを持った唯一無二の事業」に様変わりします。
事業の魅力が出てくれば、その事業をやってみたい、引き継ぎたいと思う若者も出てくるかもしれません。なぜなら伝統が蓄積した時間と物語は急には作れないからです。
「伝統産業のリブランディング」は伝統的な産業を復活させる可能性を秘めていますが、その事業を手掛けるのが「和える」の矢島里佳さん。
そうした事業を手掛けるのはコンサル会社やブランディング専門の会社、広告代理店などが多いですが、ユニークなのは矢島さん自身が事業を自分で立ち上げて成功した起業家であり、かつ同時に家業の事業承継者でもある、ということです。
自分自身が事業承継の当事者であり、同時に起業家として今の時代に合った伝統的な商品を提供した「当事者」という部分が強みとなります。
そんな矢島さんに「中小企業のリブランディング」の方法を聞きました。
1988年東京都生まれ。
職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。
「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時の2011年3月、株式会社和えるを創業。
2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す。
事業承継・企業やブランドの原点を整え、魅力化をお手伝いする「伴走型リブランディング事業」を行い、地域の大切な地場産業を次世代につなぐ仕事に従事。
自社で実践してきた、「日本の伝統を通じて、ご機嫌(ウェルビーイング)に生きると働くを実現する」講演会やワークショップも展開。
その他、日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を創造。事業拠点は東京「aeru meguro」、京都「aeru gojo」、秋田「aeru satoyama」の3拠点。「ガイアの夜明け」(テレビ東京)にて特集。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
地域の伝統を次世代につなぐには中小企業が不可欠
大久保:起業してどんな事業を手掛けられて来ましたか?
矢島:「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時の2011年3月に創業しました。
職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り、伝統をつなぐ職人を取材していました。そのとき、「日本にはこんなにも宝物がある。それなのに、なぜ日本の伝統産業は衰退しているといわれるのだろう」とふと思ったんですね。
そして、「そもそも日本の伝統を知る機会がない」ということに気が付きました。
現代社会では伝統産業に触れる機会が少なく、子どもたちは大人になっても「知らない」ために出逢うことができません。
「知らない」からこそ、選ぶこともできないという状態があるのです。
そこで、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と一緒に、赤ちゃんから使える器やコップなどの、オリジナル商品を作りました。
また、最近は企業やブランドの原点を整え、魅力化をお手伝いする「伴走型リブランディング事業」に力を入れています。
日本全国の中小企業の多くは、地域の伝統を担ってきているので、企業が心豊かに存続・発展していくことはとても重要だからです。事業承継後の企業を支援することもあります。
大久保:ご自身も家業の承継に直面したとか?
矢島:はい、母がリトピュアという、幼児向けのリトミックのフランチャイズを経営しており、
その事業を承継しました。
大久保:日本の中小企業はどんな問題を抱えていますか?
矢島:まず一つ目に、承継者問題があります。
中小企業の経営者は、平均年齢が約70歳ともいわれており、事業承継問題は待ったなしの状況です。
二つ目に、良いものを持っていても、時代の変化にうまく合わせられていなかったり、企業やブランドの哲学が言語化されておらず属人的で、うまく引き継がれていない場合もあります。
大久保:リブランディングはなぜ重要なのですか?
矢島:日本全国の中小企業の多くは、地域の伝統・無形文化を担ってきています。
例えば、地域の無形文化であるお祭り。
神輿の担ぎ手になる若者、お祭りを執り行うための費用、これらは地域想いの中小企業があってこそ。
このような伝統をつなげていくには、若者の働き口になる魅力的な中小企業が必要なのです。
中小企業がなくなるということは、各地の文化が消えることに直結するのです。
だからこそ私たちは、日本の伝統を次世代につなぐために、中小企業が心豊かに存続・発展していくことはとても重要だと考えています。
社会的なニーズとして、中小企業の再興は待ったなしだと思っており、事業承継される前に廃業する企業が増えそうだなという危機感があります。
日本でも起業が一般的になりつつありますが、そこに事業承継という選択肢があってもいいのではとも感じています。
お金では買えない資産と文化を受け継ぐことの価値が、大いにあると思います。
気づきの種を育むリブランディング、その成果は数値にも
大久保:リブランディングの進め方で最初どんなところからまず着手するとよいか教えてください。
矢島:まず、企業やブランドを擬人化するところから始めます。
法人格は唯一、人間以外に人格を持つことができる存在なんですよね。
特に中小企業や代々受け継がれた老舗企業は、その人格が曖昧になっていたり、社長と一体化していたりします。
なので、企業やブランドをひとつの人格として捉え、言語化していき、原点を見直します。
思想哲学が明確になることで、それと一番乖離しているところが課題となりますし、その軸に沿って考えていくことにより、さまざまな施策に一貫性が出ます。
大久保:さらにリブランディングを進めていくにはどうしたら良いですか?
矢島:必要としている方に届けきれていないことは、課題に感じています。リブランディングという言葉になじみのない方が多い。
伴走型だからこその課題でもありますが、例えば「ロゴをつくる」など、最初から明確なアウトプットを設定しているというわけではありません。
リブランディングセッションにて、対話を進めていくと「それなら何かをデザインするよりも、まずはコンセプトを固めて、採用の仕組みを見直した方が良い」などと、着手すべき課題が見えてきます。
社長が始めに「リブランディングでこれをやってほしい」と考えていたことと、最終的なアウトプットが変わるということは大いにあり得ます。こちらとしても、正直やってみないとわからないのです。
そのため、まずひとつに、ご相談いただいたときに、セッションに近い形で問いかけをさせていただいています。
すると、小1時間のお話でも、小さな気づきを得ていただけることも多いんですね。
もちろん、そのまま伴走させていただければ一番良いのですが、その場で話したことから、小さな気付きの種を得ていただけて、企業を魅力的に育んでいただければ、私たちの叶えたい日本全国の魅力的な中小企業を元気にすることにつながっていくと考えております。そのため、日本全国で中小企業の経営者様向けの講演会のご依頼もお受けしております。
もうひとつ重要になると考えているのは、行政のバックアップです。
中小企業の場合、リブランディングをしたくても、当初から明確な成果物が確約されていないものに投資できるほど、体力のある企業ばかりではありません。
さらに、地域全体を盛り上げることを考えると、一企業ではなく、いかに地域の企業同士が横の連携を取れるかが重要となってきます。
ただ、それを事業者だけでやるのは現実的ではないため、行政機関が取りまとめ、全体のディレクションや資金的なバックアップをすることが、地域の企業を活性化し、地域の伝統をつなぐ要になるのではと考えています。
実際、昨年度(2022年)に奈良市さん・奈良商工会議所さんの工芸作家支援事業「Nara Crafts’ Cross Project」にて、「リブランディング支援パートナー」として携わりました。
参加いただいた職人さんの中には、はじめは半信半疑の方もいらっしゃったのですが(笑)、約半年のセッションを終え、その工芸品の定義やご自身の想いを整理することで、大切にしたいものが明確になり、新ブランド立ち上げの大きな足がかりになったと仰ってくださいました。
大久保:他には、どんな事例がありましたか?エピソードなどあれば教えてください。
矢島:伴走型リブランディング事業を一番始めにご一緒したのは、眼鏡メーカーのマコト眼鏡(福井県鯖江市)様でした。
これまでは大手眼鏡販売会社から受注を受けて、その指示通りに作るOEM(相手先ブランド)生産をされていました。社長が、自社の哲学を反映した自社製品を開発したいと考え立ち上げられた、歩(AYUMI)というブランドの15周年のタイミングで、弊社にご相談いただき伴走型リブランディング事業がスタートしました。
まずは企業の「原点」を見直し、一番大切にしたいブランド哲学は「眼鏡は毎日使うからこそ、かけやすさにこだわりたい」となりました。
そのブランド哲学を一つずつ整理し、同社内で共通認識となるよう言語化した結果、社内の誰もが自社ブランドの構築について意見を出せるようになっていきました。
実際に、2022年の新型モデルは、最年少の職人さんが中心となってプロジェクトが進められました。ブランドの軸に沿ったアイデア出しや、社内での意見交換がスムーズになり、製品化のスタイルも変化していきました。
このように、ブランド哲学の共通認識を通して、自社ブランドの軸からブレないアイデアが育まれやすくなり、生産性の高い循環が生まれました。
さらに社内だけでなく、社外への広報活動の方向性が明確になり、暮し手や社会に、ブランドに込めた想いが明確に伝わるようになりました。
数値的な成果にも表れ、売上高が1.27倍、同社製品の取扱店舗が1.33倍と増えた一方で、経費を75%も削減できました。
伴走型リブランディングでビジョンと課題を明確化
大久保:ご自身のリブランディング事業について教えてください。また他に無い強みや特徴はありますか?
矢島:私たちが正解を示すのではなく、経営層との対話を通して企業やブランドの原点に立ち戻り、ブレない軸を整えた上で、ビジネスモデルや実際の業務の見直しを行います。
それにより、企業が自分たちの存在意義と実際の事業内容に矛盾なく、存在意義を見失わずに、原点を大切に発展していくお手伝いをしています。
私たちは、事業計画書を作成したり、個別具体的なソリューションを提供するのではなく、伴走型のリブランディングをしていくことに特長があると考えています。
中小企業の経営層は、壁打ち相手がいないということが多いので、その壁打ち相手として、さまざまな問いを投げかけさせていただきます。
そこから、一番の想いや哲学ビジョンを引き出して、企業はどういう方向性に進むべきなのか、そのための具体的な着手すべき本質的な課題は何なのか、というところを含めて社長がふわっと見ている・感じている未来を、共に考えています。
そうすると、徐々にビジネスモデルや商品との在り方がリンクしているかが見えてきますし、その乖離が一番大きい部分が着手すべき課題となります。
問題や課題はたくさんありますが、どこからアプローチすると連鎖的に解決していけるのかに焦点を絞ります。
経営者の方は企業にどっぷり入りすぎていることも多く、また中小企業だと、ひとりや二人でずっとやってこられているような場合も多々あります。
そうすると、さまざまな問題が目の前に散見されているがゆえに、あれもこれもと、着手すべき課題に絞ることができない場合が多い。そこを第三者として冷静に壁打ちしながら、解決していきます。
また、自社も同じ中小企業として様々な事業を展開していますので、その実態感やノウハウを持っていること、さらに中小企業の方の気持ちに寄り添えることが、ひとつの強み・特長といえるかと思います。
自身の起業と継承から感じた、魅力と挑戦
大久保:起業と承継を経験してみて、それぞれどんな特徴や魅力がありましたか?
矢島:起業と承継は、それぞれに特有の魅力と挑戦があると感じています。
起業は、自分の経験から「こんな世界があったらいいな」という新しいアイデアを形にする醍醐味があります。
私自身、起業家になりたかったわけではなく、「赤ちゃんや子どもの時から自国の伝統に出逢える社会を実現するには?」という思考から、仕事を考えてみて、就職先を探したらなかったので生み出したという経緯があります。
しがらみも何もなく、0から自由に創造できるのはとても面白いですし、自身で会社の文化作りをできるのも魅力です。
しかしながら、何もない学生起業でしたので、様々な苦労もしました。このような会社があれば、就職して一緒に歩んだ方が成長は早かっただろうなと思います。
それだけ0から立ち上げるのは根気が入ります。
一方で、事業承継は、既存のビジネスモデルと顧客基盤を引き継ぎ、それをさらに発展させる機会があります。
母の会社を事業承継中ですが、まずはなぜ始めたのか、社会のどんな役に立っている会社なのかのヒアリングから始めました。自分なりにこの会社の存在意義を感じることができた時に、真に引き継ぎたいと思うようになりました。
0から立ち上げるのとは、また違った苦労もありますが、先人の想いを引き継ぎつつ、時代に合わせていくというリブランディング的な要素がとても楽しいです。
既存のブランドやリソースを活用し、新たな価値を生み出すことも可能です。しかし、それは同時に古いシステムや考え方の枠組みを超える必要があります。
結局、両方やってみて思うのは、どちらもそれぞれに苦労がありますし、面白さもあります。自身の性格次第だと思います。
大久保:事業承継者が生まれる、あるいは承継が成功するにはどんなことが重要だと思いますか?
矢島:まず第一に、創業者の思想哲学を深く理解することが重要です。
創業者が築いたビジョンや価値観を理解し、それを承継者自身、一度自分の中に受け入れ咀嚼し、会社の本質は守りながら、自分らしく発展させることが大切です。
次に、事業承継者の若い感性を信じることも重要です。新しい世代がもたらす視点やアイデアは、事業の進化と成長に不可欠です。
若い承継者の持つ情熱と創造性を尊重し、彼ら彼女らが持つ可能性を見守ることが重要です。
また、世代ごとの人々の考え方の違いを理解することも必要です。社会や市場の環境は変化し続けており、それに応じて事業も進化していく必要があります。
承継者は、異なる世代の人々の価値観やニーズを理解し、柔軟に対応することが求められます。
最後に、何のために存在する会社なのか、一言で伝えられることがとても大切です。
事業の目的や存在意義を明確にし、それを承継者自身が一言で言語化することで、従業員や顧客、パートナーとの共感を生み出すことができます。
一言で表現される明確なビジョンは、会社の羅針盤となり、進むべき方向を示す重要な要素となります。
これらの要素を考慮しながら、事業の持続的な成功と成長を追求することが、事業承継者にとって重要だと感じます。
大久保:中小企業の経営層や、後継者や承継型の起業を検討している若者にメッセージをお願いします!
矢島:先人が生み出してきた歴史や伝統は、知恵となり引き継がれてきています。
それらを尊重し、学び、引き継ぎつつ、自分自身のビジョンを和えることで、新たな価値を創造することができると感じます。
承継は過去を維持することだけではなく、新たな未来を創り出す可能性も含んでいます。伝統を承継しつつ、現代の感性を和えることで、自分らしさも大切にしながら挑戦してみてください。
また、何となく特に社会に役立ちたいから、起業を考えているけれど、何をしていいのか迷っている若い方には、私は事業承継をお勧めしたいです。
なぜなら、地域の伝統を引き継ぐことは、その地域の活動や文化を次世代につなぐことに直結しています。
それはまさに地域社会への多大なる貢献そのものです。
地域に魅力的な企業があるからこそ、若い人たちが集まってくる。活気ある地域を生み出すことは、地域の有形無形、様々な文化を次世代につなぐことになります。
新しいものを生み出すことだけが価値ある行為ではありません。
既存の価値を承継し、それを発展させることもまた、重要な貢献となります。
ぜひ、事業承継起業家という道を目指してみてください!
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(取材協力:
株式会社和える 代表取締役 矢島 里佳)
(編集: 創業手帳編集部)