appcycle 重野由佳|青森発!「りんごのヴィーガンレザー」国内パイオニアが世界へ羽ばたく

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年05月に行われた取材時点のものです。

起業時から青森・東京・世界の3拠点で始動する「りんごを使用したヴィーガンレザー」開発会社


近年、SDGsなど環境問題がクローズアップされる機会が増えたことで、植物由来のヴィーガンレザーが注目を浴びています。

appcycleは、フードロス問題や地方創生にスポットを当て、規格外などを理由に廃棄されてしまうりんごを使い、国内初となる「りんごを使用したヴィーガンレザー」を開発。自身の出身地である青森から世界に向けて販売していくため、青森、東京、シンガポールの3拠点で事業をスタートさせました。

今回は、ヴィーガンレザー市場の現状と未来について、代表の重野さんと藤巻さんに創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

重野 由佳(しげの ゆか)
appcycle株式会社Founder/CEO
青森県出身。歯科衛生士としてキャリアをスタートし、オーストラリアでネイルアーティスト(2014年オーストラリアンネイルアワードプロ総合チャンピオン)、大阪でカフェダイニングの立ち上げに参画したのち自身のアジアンスイーツのブランドを創業。2019年よりシンガポールへ移住、日系・シンガポール企業のF&Bブランド開発や日本の食品バイヤーとして活動。ITスタートアップのPRを経て、地方創生に関わりたいと青森にappcycle株式会社を創業。
藤巻圭(ふじまき けい)
appcycle株式会社COO

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役

大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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世界規模で拡大を続けるヴィーガンレザー市場

大久保:まずは事業内容を教えていただけますか?

重野:私たちは今年5月26日に会社を立ち上げたばかりなのですが、りんごのヴィーガンレザー開発を主軸に、農家支援と新しい働き方推進の3本柱で事業を進めていく予定です。ヴィーガンレザー自体はサボテンやキノコ、コーンなど、様々な植物を原材料にして作ることができるのですが、私たち2人の出身地が青森県であることから、名産品であるりんごのフードロスを解消するため、「りんごを使って何か新しい展開ができないか」と考え、「りんごを使ったレザーで勝負しよう!」と決めました。

大久保:ヴィーガンレザー市場はどのくらいの規模なのでしょうか。

藤巻:現在、世界をリードする企業が次々と車の内装や靴など、自社製品にヴィーガンレザーを採用しており、市場は拡大を続けています。2025年には世界規模で850億ドル(約9兆円)のマーケットになると言われています。

重野:宗教的背景や動物愛護などの観点から、合皮のニーズが増えていますが、さらにカーボンニュートラルを意識し、石油由来の合皮よりもより自然に近いヴィーガンレザーのニーズが高まっています

大久保:ほかの植物を原材料としたヴィーガンレザーと、りんごのヴィーガンレザーの違いは何でしょうか?

重野:りんごのヴィーガンレザーは、質感が柔らかく加工しやすいのが特徴です。

藤巻:現在、りんごのヴィーガンレザーをリリースしている会社は海外に数社あります。それらの企業の実績としましては、有名自動車の車内レザーシートのほか、靴やバッグ、時計のベルト部分などに採用されています。弊社の場合は、東北大学が開発に参画し、メイドインジャパンクオリティのヴィーガンレザーを扱うことで、市場の10%を目指していこうと考えています。

大久保:ヴィーガンレザーはどのようにして作られるのですか?

藤巻:基本的には、合皮や人工皮革は5~6層で成り立っており、土台の繊維に接着剤やクッションになる層、樹脂、プリント層を重ね、最後に表面にコーティングを施すのが一般的です。植物100%で作ることも可能ではありますが、それではレザーとしての耐久性や素材感の面で車のシート等に使えるような素材を作ることは難しいので、剪定した際に廃棄されるりんごの枝なども含めてしっかりとりんごを織り込み、バイオ含有量を上げながら、合皮の中では環境に優しいといわれている素材を混ぜて生地を製作しています。

大久保:耐久性も維持しつつ、環境問題への配慮もされているのですね。

重野:はい。SDGsに沿った活動として、CO2の削減に取り組んでいます。本来、食品や飲み物などを作る際に出る残渣を乾燥させるには、大量のCO2が排出されるんです。しかし弊社は、プラズマ技術を利用することでCO2をほぼ出さない乾燥機械を採用しました。このように環境への配慮に取り組むことで、世界基準の課題に取り組む企業を青森から作り、IPOを目指そうと考えています。

農家支援でフードロスや後継者不足を解消

大久保:どのようなりんごを活用されているのでしょうか。

重野:傷や色むらがついていたり、サイズや形が規格外で販売することができず廃棄されてしまうりんごのほか、りんごジュースの製造会社と取引を行い、ジュースを製造する際に出る搾りカスも活用しています。加工品から出る皮や絞りカスなどを廃棄するのにもお金がかかりますから、廃棄料を抑えられるという点でも取引先への貢献ができると考えています。

大久保:農家をはじめ、取引先にメリットの多い事業ですね。

重野:そうなんです。さらに、農家支援という点では、りんごの国内生産量一位の青森に会社を置き、ヴィーガンレザーをメイドインジャパンクオリティで世界に販売していきますので、「青森りんご」が世界で注目を浴びるよう戦略を組んでまいります。また、企業向けの商品開発やシンガポールでのバイヤー経験を活かし、海外向けライブコマースなど、国内・海外の戦略的な販売に合わせたプロダクトの開発や一次産業に特化したコンサル事業も行っていきます。

大久保:具体的に教えていただけますか?

藤巻:私たちは、できるだけ開かれた経営をすることを目標にしています。現状の問題点の一つとして、農産物が加工されて販売されているところを実際に見たことがない農家の方がとても多いんです。そのため、私たちは、どのような製品がどのように売られているかを実際にVRで見ていただく機会を設けたいと考えています。また、このVRの手法は、実際に購入していただくコンシューマーの方々にとっても有効で、どこでどのように作られたものが商品のベースになっているのか、原料や農家の方との付き合いを見える化します。

さらに、一次産業全体の課題として、後継者の育成が挙げられます。そこで、農業を学びたい海外の方をコーディネートして来日をサポートしたり、逆に日本の技術者を海外誘致したりすることで、農業の活性化を図っていきたいと考えています。

新しい働き方としてダイバーシティを推進


大久保:青森県に会社を置かれているのですよね。

藤巻:はい。ベンチャーとしては珍しいと思うのですが、ダイバーシティなチーム構成として、起業時からいきなりシンガポールと東京、そして青森という3拠点で事業をスタートさせました。シンガポールをハブ拠点とし、始動時から世界展開をしていくところが私たちの強みです。具体的には、デザインやマーケティング全般はシンガポール、生産や製造は青森、そして運営を東京と青森で行っています。事業計画も海外に多く広めていくための戦略を採っていますので、市場的には海外がメインとなってまいります。海外で売ることで経済性を担保し、給料体系をシンガポールや東京主導にすることで、現在問題となっている地方の低賃金問題も解消できると考えています。

大久保:雇用の創出という意味でも青森県への貢献ができるのですね。

藤巻:はい。スキルはあるけれども、時間の制限など何らかの事情があって就業できない方も非常に多いので、自分に合った仕事やライフスタイルに合う働き方を選べる体制を整えていきます。また、シニア層や障害を持つ方の支援にも力を入れていきたいと考えています。さらに、子育て中の方やシニア層、障害者、学生インターン、プロボノ(※)、行政、世界中のクライアント、ユーザーが交流し、新しい繋がりが生まれる環境を作っていきたいと思います。

大久保:様々な職種の人が関わり合いながら働いていく環境なのですね。

藤巻:そうですね。生地を研究開発する大学研究者、社会経験豊富なプロボノ、デザイナー、フォトグラファー、ビデオグラファー、デジタルマーケ、VRアーティストなど様々な方に協力いただきながら、原料の開発からヴィーガンレザーを用いたプロダクトの開発、世界戦略の販売まで、ワンストップで展開していけるのが私どもの強みの一つだと感じています。
※プロボノ:社会貢献のためのボランティア活動を行う専門家のこと。

青森から世界へ!魅力を発信


大久保:海外をメイン市場とされていく中で、どのように会社を成長させようと考えられていますか?

重野:まずは、海外チームが中心となって海外で2,000社ピックアップし、5年ほどかけてその10%となる200社の契約を目指します。各企業への採用のほか、ヴィーガンレザーを用いたスマホカバーやカードケースなどto C向けのプロダクトも開発していきます。

大久保:規模が大きいだけに、資金調達も大変だったのではないでしょうか。

重野:そうですね。資金に関しては、日本金融公庫と地方銀行に加え、エンジェル、VC(ベンチャーキャピタル)から出資していただくことで、最終的には自社工場を構えることを視野に入れています。インターンの教育や地方創生に繋がる事業を柱の一つとしてやっていきたいと思っておりますので、マネーゲームだけではない投資家や投資会社に支援していただきたいと考えております。

大久保:それでは最後に、今後の目標を教えてください。

藤巻:現在、商社や上場会社からアプローチしていただいている段階です。採用の実現度が高いものとしては、東北新幹線や自動車、飛行機のシート、家具メーカーやアパレルブランドでの採用を見込んでいます。特にアパレルブランドはボリュームゾーンになると考えており、世界一の生地展といわれるフランスのプルミエールヴィジョンへのローンチを目指しています。飛行機のシートなどに採用していただくことでブランディングを行いながら、世界規模でのto B、to C向けのビジネスを展開していきたいと考えています。

マーケティングのセカンドステップとしては、青森市長がベンチャー企業を後押ししてくださる方で、私たちの取り組みにも注目してくださっているので、日本酒の包装にヴィーガンレザーを使うなど、青森から海外に向けてPRできる特産品の開発も進めていきたいと考えています。

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