シコメルフードテック 西原 直良|仕込みの外部化サービス「シコメル」で飲食業界の働く環境を改善する
戦後から変わらない飲⾷業界の「仕込み」作業と「受発注」のアナログな⼿法を、デジタル技術を使って解決する
飲食業界が抱える課題として、「拘束時間が長い」「給料が低い」「デジタル化が進まない」などが挙げられますが、なかなか改善が進まず今でも多くの飲食店が頭を抱えています。
20歳で学生の時に飲食業界に参入してから、飲食店向けの買い物代行事業からスタートし、その後食品卸売業や食品製造事業に20年に渡り食品・飲食業界に携わってきた西原さんだからこそできる解決策として、飲食店の仕込みを外部化するサービス「シコメル」で飲食業界の課題解決に挑戦しています。
そこで今回は、飲食業界の現状や課題、シコメルが提供する解決策について創業手帳の大久保が聞きました。
株式会社シコメルフードテック 代表取締役CEO
⼤学在学中に⾷品卸・加⼯業の株式会社⻄友フーズを創業。20年に渡り⾷品・飲⾷業界にてビジネスを展開する中、戦後から変わらない飲⾷業界の「仕込み」作業と「受発注」のアナログな⼿法に疑問をもち、2019年に現COO川本傑とともにシコメルフードテックを創業。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
20歳の学生起業で飲食業界に参入した後に「シコメルフードテック」を創業
大久保:起業までの流れを教えてください。
西原:実はシコメルフードテックは、2社目の創業です。
1社目は、20歳で学生の時に「飲食店向けの買い物代行」のビジネスを立ち上げました。
市場で食材を仕入れて、小分けにし、飲食店へ納品するというビジネスモデルで、仲買人と飲食店の間の様な立ち位置です。
その後、食品の卸売事業、製造事業に参入し、創業20年が見えてきた段階で、新たなビジネスに挑戦したいと考え、今から約3年前、シコメルのビジネスモデルを考え、創業しました。
大久保:3年前ということは、コロナ禍の直前でしょうか?
西原:はい。創業したのはコロナ禍に入る直前ですが、「シコメル」のサービススタートが2020年10月でした。つまり、コロナ禍において日本中の飲食店が低迷している時です。
大久保:最近はいかがでしょうか?
西原:飲食店に客足は戻っているものの、新型コロナの影響を受けてライフスタイルの変化などもあり、コロナ禍前の水準までにはまだ戻っていない状況です。
なので、これから人々の動きがより活発化することを望んでいます。
「仕込み」を外部化することで飲食店が抱える多くの課題を解決できる
大久保:シコメルフードテックの事業内容を伺えますでしょうか?
西原:飲食業界の解決すべき課題として、「長期間労働」「給料が低い」「デジタル化が進まない」などがあります。
私が飲食業界に関わり20年になるのですが、その間これらの課題はずっと問題視し続けられているにも関わらず、ほとんど進展していません。誰もしないのであれば、自分がその課題を解決しようと思い、「仕込み」を通じた飲食事業者と工場をつなぐプラットフォームと、受発注アプリの開発をしました。
飲食店は、仕込みと発注作業があるために、8時間労働では収まらず、長時間労働を強いられるという構図がずっと変わらずありました。
逆にそこをうまく外部化している会社は、店舗を増やすことができるのですが、そうでなく内部で行なっているところは疲弊してしまうのです。
それだけではなく、仕込みが忙しくて、ランチ営業もできない店舗もあるほどです。
大久保:シコメルの事業は他の食品加工会社にはできないことですか?
西原:従来の食品加工会社は、大ロットでの注文しか請けていないところが多く、小規模の飲食店はどこに頼めば良いかわからず外注化ができず、最終的に内部で行うことにより何も変わっていない、という状況でした。
そこで、シコメルは中小の飲食店用に小ロットでも仕込みを請け負うことができる仕組みを考案し、アプリを通じて発注から納品までを一元管理できるサービスを提供することにしました。
- ココ重要!シコメルの強みとは?
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- 「仕込みの外部化」と「受発注のデジタル化」を実現
- 小ロットでの仕込み依頼が可能
他店の人気メニューの仕込み済み商品を仕入れられる「シコメルストア」とは
大久保:現代の人手不足問題や、働き方改革等の流れは、シコメルフードテックの追い風になったのではないでしょうか?
西原:人手不足の問題は飲食業界で特に深刻でして、この問題解決もシコメルで解決したいと思っております。
また、ライフスタイルのチェンジにより外食をしなくなっているという傾向はあるのではないかと考えます。
大久保:飲食店のどの様な事業者が利用されているのでしょうか?
西原:一番利用いただいているのは、フードデリバリーなど店舗を持たない飲食店です。特にコロナ禍においてデリバリー需要の高まりから、客席を持たずデリバリーのみで料理を提供するゴースト・レストランと呼ばれる業態の飲食店が急激に増えました。
今後はシコメルストア内の商品を購入されるレストランも増えると考えております。
「シコメルストア」では、和食、洋食などの全17ジャンルの中から、有名レストランやシェフが監修したメニューアイテム、手間がかかるカット野菜、ソースやタレなどの仕込み済み商品を発注することができます。
1店舗展開しているようなところは、アプリ内のシコメルストアで、他店の仕込み済み商品を購入していただいているところが多いです。メインのメニューは自分たちで仕込みと調理をして、季節のメニューやデザートだけシコメルストアから仕入れるというイメージです。
- ココ重要!シコメルストアとは?
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- 有名レストランやシェフが監修したメニューアイテムなどの仕込み済み商品を購入できるサービス。
- メニューを開発する時間やノウハウがない飲食店でも、店舗で提供するメニューを簡単に増やすことができる。
シコメルがあれば「厨房がなくても」飲食店ができる
大久保:サービスの成功事例など伺えますでしょうか?
西原:渋谷のカウンター7席しかないバーの跡地で経営しているマグロ丼のお店がありまして、その店舗には炊飯器も包丁もありません。
どのように運営しているのかと言いますと、シコメルの提携工場で炊いたシャリと、同じ提携工場で切り身にしたマグロをアプリで発注し、それぞれ納品された仕込み済み商品を使用することにより、店舗で行う工程を「盛り付けだけ」に絞っております。
つまり店舗の方も、オープン30分前に出勤して、店舗内の掃除だけすればすぐに開店できるのです。
人件費を削ることができるだけでなく、シンクだけあれば店舗運営できるため、キッチンがなくても始めることができます。
大久保:他の飲食店の利用の仕方がいかがでしょうか?
西原:利用の仕方はそれぞれで、1品だけ仕込み済み商品を発注されるところもあれば、ほぼ全品仕込み済み商品を発注される店舗もあります。
毎日の方もいれば、1ヶ月に1回のところもあります。
これから、店舗を増やそうとしている方は、仕込みを外部化するために、依頼をしていただくところが多いですね。
大久保:どういうジャンルのメニューが多いですか?
西原:どんなジャンルのどんなメニューにも対応しています。
同じジャンルの仕込み済み商品であっても店舗からの要望によってさまざまです。
例えば、麻婆豆腐で言うと、麻婆豆腐の元だけを作ることもあれば、豆腐やひき肉が全部入って完成させるところまで作ることもあります。
完成した麻婆豆腐を納品する場合は、各店舗でラー油、山椒などを追加して、オリジナルメニューとして提供していただいています。
手間のかかるメニューの仕込みをシコメルに外部化して店舗業務を効率化
大久保:これまで経験されてきたことを元に、今後、飲食店開業される方に向けて、シコメルの使い方のコツやオススメなど伺えますでしょうか?
西原:お店を開業して、仕込みを全て自分たちで作う体制のまま、繁盛していくと疲弊していきます。
なので、人気メニューの仕込みを外部化、もしくは一部メニューをシコメルストアで販売している仕込み済み商品に切り替えることで、負担が大きく軽減されます。
また、スイーツやお酒の肴を同ストアで購入していただき、メニューに追加することで客単価のアップに繋げることもでき、様々な使い方が可能です。
大久保:シコメルがあることによって、日本にどの様な影響が与えられるのでしょうか?
西原:「仕込みの外部化」がスタンダードになり、飲食業界のインフラの一部になりたいと考えております。
そうすることで、飲食業界の働く環境を整え、イメージを改善することで、飲食業界に人が集まり、一人でも多く飲食業界で働きたいと思えるようにしたいです。
シコメルフードテックを創業するために35歳でプログラミングを学んだ理由
大久保:現場感の強い1社目の創業から、2社目でテック系の創業と変わりましたが、その点を踏まえてこれから創業されていく起業家へのメッセージを伺えますでしょうか?
西原:「創業」とは楽しさや喜びの3倍ほどの苦労が待ち構えています。
追い風、向かい風、両方を楽しみながら、頑張っていただければと思います。
また、新しい事業を立ち上げる時、失敗しないために勉強をすることが大切です。
私の場合、2社目の創業前の半年間、プログラミングの仕組みについて勉強しました。
大久保:社長自らプログラミングを勉強するとはすごいですね。何歳の時ですか?
西原:35歳の時でした。
私がエンジニアとしてサービス開発をするわけではありませんが、Webサービスの構造を理解しておくことで、5年、10年後の構想をテックチームに伝えることができました。
さらに、Webサービスの理想形についても、解像度を高く伝えることができるため、より理想的なサービス開発ができたと思っています。
大久保:最短距離で開発ができるのはメリットが大きいですね。
西原:経営者とテックチームの認識に相違がある場合は、Webサービスの改修を繰り返さなくてはいけなくなり、ツギハギだらけになります。すると、必然的に改修費が高くなるんです。
シコメルでは最短距離でサービス開発をすることができたので、大幅に改修費を抑えることができたと思います。
- ココ重要!新事業成功の鍵は「事前に徹底的に勉強すること」
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- 新規事業としてIT分野に乗り出すため35歳でプログラミング学習を開始
- コードを覚えることではなくプログラミングの仕組みを学ことが重要
- アプリ開発の際にテックチームとの密な連携が可能に
今後は飲食業界だけでなく飲食を取り扱う様々な分野にも展開したい
大久保:組織作りのコツについても教えていただけますか?
西原:組織作りのコツとしては、自分の足りないことをしっかりと認識しておくことです。
私は企業に勤めた経験がないため、組織の運営は苦手です。
そのため、私の苦手分野はスタッフに任せて、チーム全体で補い合いながら企業を成長させることで、強い組織になったと思います。
大久保:逆に、西原社長の得意分野は何になるのでしょうか?
西原:商品開発ですね。
今でも、様々な事業者と意見を交わし、スキルとしては右肩上がりのプロと自負しております。
また、私自身、様々な形態の飲食店を経営してきました。飲食業界については幅広い知識があるので、この知識と経験を生かして、最適な提案ができることが強みだと思っています。
大久保:最後に今後の展開も伺えますでしょうか?
西原:シコメルストアのジャンルに、飲食店だけでなく、介護・病院向けのメニューなども追加し、幅広い事業者にサービス展開していきます。
すでに大阪にある介護老人福祉施設で提供を開始しており、食事に対する興味があまりなく、普段は促さなければご自身から食べることがない方が、自らハンバーガーに手を伸ばして口にされたり、サービス導入後、喫食率が最大13ポイント上がったという結果も出ております。さらに、約50〜60%も食べ残しの廃棄量が減ったことで、フードロスへの寄与も証明できております。
シコメルとしては、「美味しい料理を食べていただきたい」という思いが根底にあり、その思いを反映したメニュー展開が喫食率の向上や廃棄量の削減にも繋がったと考えております。
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(取材協力:
株式会社シコメルフードテック 代表取締役CEO 西原直良)
(編集: 創業手帳編集部)