ペイトナー 阪井 優|大企業からスタートアップに転職したからこそ見えた起業への道
スタートアップ勤務時に出会ったフリーランスや中小企業経営者の資金繰りの悩みを解決すべく起業
起業してまだまもない頃、多くの起業家が悩まされる課題は資金繰りにまつわるものが多いでしょう。ペイトナー株式会社代表取締役社長の阪井優氏も、学生時代のアルバイト先の町工場や、ECサイトを運営する友人などスモールビジネスを営む身近な人が資金繰りで悩まされていることを知り、その課題を解決すべく、スモールビジネス向けのファクタリングサービスなどを展開するペイトナーを創業しました。
しかし、阪井氏のキャリアはスタートアップから始まったわけではありません。新卒ではNTTドコモに入社され、そこからコイニーに転職されたことで、後の起業につながるキャリアが拓けていったのだと言います。今回は、起業を目指す方がスタートアップで働くメリットなどについて、創業手帳の大久保が聞きました。
1989年、大阪府堺市生まれ。智辯学園高等学校、大阪教育大学を卒業後、NTTドコモを経て、コイニー(現:STORES 株式会社)に入社、事業開発として地域金融機関との提携、テンセントの決済サービス「WeChat Pay」に関する業務に従事。2019年2月にペイトナーを設立、「TechCrunch Tokyo 2019」ファイナリスト、「Forbes JAPAN 100」に選出される。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
フリーランス向けファクタリングサービスなどを展開
大久保:ペイトナーが展開するサービスについて教えてください。
阪井:請求書を最短10分で現金化できるオンラインファクタリングサービス「ペイトナー ファクタリング」と、振込まで自動化する請求書受領サービス「ペイトナー 請求書」の主にこの2つのサービスを展開しています。
「ペイトナー ファクタリング」は、資金繰りに困っている多くのフリーランスや中小企業経営者の方にご利用いただいています。
大久保:「ペイトナー ファクタリング」の手数料はいくら程度なのでしょうか。
阪井:「ペイトナー ファクタリング」の手数料は一律10%です。申し込みはオンライン完結で手軽にご利用いただけます。
大久保:なるほど。支払いサイトが長いときなどに助かりますね。
阪井:そうですね。「ペイトナー ファクタリング」は資金繰りを早期改善できるサービスです。審査が早く、必要な時に必要な分だけ実施できる資金調達方法のひとつです。一時的に利用されるお客様も多くいらっしゃいます。
大久保:新たに「ペイトナー 請求書」をリリースされたかと思いますが、どのようなサービスなのでしょうか。
阪井:「ペイトナー 請求書」は、社長自らが経理業務を行っているような企業のために、経理業務負担を軽減する目的でつくったサービスです。請求書を受け取ると自動で登録され、それらの請求書のステータス管理ができます。本サービスの大きな特徴である振込を自動化する機能によって、ATMに行く時間や振込データ作成の手間を削減できます。
スタートアップに転職したからこそ起業が見えた
大久保:阪井さんはフィンテック系のサービスを起業されているわけですが、最初は金融機関などにお勤めだったのですか。
阪井:いえ、新卒ではNTTドコモに入社して、大企業向けの法人営業をしていました。
そこから当時まだ10数人程度しか社員がいなかった、カード決済スタートアップのコイニー株式会社に転職したことで、金融系のキャリアを歩み始めました。
大久保:コイニーではどういったお仕事をされていたのでしょうか。
阪井:事業開発担当として、地方銀行との提携や、WeChatやアリペイなどとのアライアンスを中心に手がけていました。
仕事を通じてフリーランスや中小企業の代表をされている方々と関わるなかで、「クレジットカードの入金サイクルを何とかしてくれないか」とご相談されることが非常に多いことに気づきました。請求書払いの支払いサイクルが遅いことにも困っているようでした。
それであれば、「請求書の支払いサイクルの課題を解決し、入金管理の煩雑さを軽減するサービスを自分で作ろう」と思い、STORES 株式会社の佐藤裕介氏などの個人投資家から資金調達し、ペイトナーの創業に至りました。それはコイニーに転職していなければ見えてこなかった課題かと思います。私は「目の前の課題を解決したい」というモチベーションで仕事をするタイプの人間なので、そういった意味ではよかったです。
大久保:NTTドコモという大企業からスタートアップに転職されたわけですが、やっぱり職場の雰囲気や仕事の進め方などは全然違いましたか。
阪井:はい。当時、まだNTTドコモでは携帯電話やメールでのコミュニケーションが中心でしたが、コイニーはすでにチャット中心で連絡し合っていたのに驚きました。メンバーも若い方が多く、スピーディーかつフラットに仕事ができた点がよかったですね。
大久保:なるほど。ほかにも、スタートアップに転職してよかった点はありますか。
阪井:創業時に出資していただいた個人投資家の皆さんとはコイニーを通じて知り合ったので、その点は大きかったですね。
起業してからしばらくはフルタイムで働く人間は私だけだったのですが、ずっと一人で仕事をしていると「これで本当に大丈夫なのか」と不安になる瞬間もしばしばありました。しかしそこで、出資していただいた個人投資家の方々やインキュベイトファンドの方への相談することで不安を取り除けたり、課題解決のヒントをいただけたりもしました。
- 起業のネタが見つかりやすい
- 創業時の出資者が見つかりやすい
- スピーディーに仕事ができて成長しやすい
インフルエンサーマーケティングで業績拡大
大久保:フリーランス向けファクタリングサービスを提供する各社の手数料は、それぞれ違うのでしょうか。
阪井:各社それぞれですが、手数料に大きな差はないと感じています。なので、競合に勝つためにも、ユーザー体験を磨き込んでいます。支払いのスムーズさや、アプリの使いやすさなどですね。
大久保:フリーランスなどにはニーズが大きそうなサービスですよね。マーケティングはどのような点に力を入れていらっしゃるのでしょうか。
阪井:そうですね。サービス開始してすぐにそれなりの数のユーザーに登録していただいていたのですが、本格的に伸び始めたのは2022年にインフルエンサーマーケティングを始めてからですね。YouTubeやTikTokのインフルエンサーと交渉して動画を作ってもらうことで、彼らの動画を見たフリーランスのユーザーからご登録いただくことが増えました。そこでようやく、「やっぱり、ニーズがあるサービスなんだな」と実感できました。じつはサービス開始当初はまだ「なぜ使ってくれているのだろう」と半信半疑だったのですが。
大久保:インフルエンサーマーケティングが有効だった要因は何でしょう。
阪井:フリーランス向けのサービスだからですかね。フリーランスの方々はそうしたインフルエンサーの動画をよく見ているようで、相性がよかったのだと思います。
大久保:インフルエンサーに交渉するときはどのようなルートを使ったのですか。
阪井:直接SNSアカウントにDMしていましたね。価格交渉なども、直接やっていました。地道に続けていくことで社内にそうしたノウハウが溜まってきて、「大体これくらいの価格感ならいける」ということもわかってきています。
スタートアップが資金繰りで困らないためには?
大久保:ペイトナーは一般社団法人Fintech協会にも所属されていますね。
阪井:はい。Fintech協会の分科会活動を通じて知り合った企業同士で、新興ファクタリングサービス提供事業者を集め、認知を高めるための活動をしています。金融庁にロビイングしたりもしています。
大久保:ロビイングする目的はどのような点にあるのでしょうか。
阪井:ファクタリングのスタートアップはなかなか信用を得にくいところもあり、上場企業なども所属しているFintech協会と一緒に活動することで、より金融庁などの官公庁の方々からも信用していただけるのかなと考えています。定期的にコミュニケーションをさせていただいています。
大久保:資金繰りに困っているスタートアップは多いのではないかと思います。そうしたスタートアップに何かアドバイスはありますでしょうか。
阪井: 弊社の場合は、サービス価格を下げることはせずに、しっかりと儲かる事業を作ることでそれ相応の対価をもらうことが重要だと考えています。利益が確保できれば、事業も回っていくので。
大久保:資金繰りの前段階で、ちゃんと利益を確保するのが重要ということですね。
阪井:そうですね、それが、自社のキャッシュフローを健全な状態に保つことにつながるはずです。
フリーランス・中小企業経営者が与信を得るには?
大久保:ファクタリングを利用したフリーランスや中小企業経営者の方がやっておくといいことって何かありますか。
阪井:フリーランスの方であれば、自分のやった仕事(ポートフォリオ)をコーポレートサイトなどにまとめておくことをおすすめしたいです。例えば、大きな事業者と継続的に取引をしていることなどがわかれば、信用になりますよね。
それだけでも、受注する案件の単価も変わってきますし、ファクタリングサービスを利用する際にもファクタリング事業者側が参考にできるので。
TwitterやFacebookなどのSNSの活用も有効だと思います。SNSは今後、より与信を得るという点でも重要になってくるはずです。そのため、SNSを運用することもおすすめしたいです。
大久保:最後に、起業家へのメッセージをお願いします。
阪井:私は2019年に起業して、その後コロナ禍で大変になりましたが、結果的によかったと思っています。これ以上大変な時期はないと思うので(笑)。何かチャレンジしたいと思うことがあれば、ぜひ挑戦してほしいです。
- ホームページやSNSなどで実績をアピールする
- SNSの継続運用も与信につながる
(取材協力:
ペイトナー株式会社 代表取締役社長 阪井 優)
(編集: 創業手帳編集部)