アンドフォーアス 柴田 駿|人生をより良く生きるために「終活」をもっと前向きに

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年06月に行われた取材時点のものです。

家族だからこそ話しにくい「終活」をもっとカジュアルに!自然な流れで「死」について考えるきっかけを


ソーシャルエンディングサービス(オンラインでの終活・葬儀・相続関連事業)「&for us」を開発・運営しているのが、アンドフォーアスの柴田さんです。

普段は話しにくい終活についての話題も、身近な方の死や災害が起きたタイミングでは、自然な流れで家族と一緒に終活を考えやすくなります。このような限られたタイミングを逃さずに終活を考えられる人を増やすために、終活をよりカジュアルに始められるサービスを2022年にリリースしました。

若年層を軸に、家族と共に終活の必要性を伝える工夫や、終活を前向きに考えられる人々を増やすための取り組みついて、創業手帳編集部が聞きました。

柴田 駿(しばた しゅん)
アンドフォーアス株式会社 代表取締役
1992年生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、東急株式会社に入社し不動産売買業務に携わる。その後スタートアップに転職し事業開発やマーケティングを担当。2021年アンドフォーアス株式会社を設立。身近な友人を亡くしたことをきっかけに、故人や遺族の心残りや死にまつわる手続きの煩雑さを解消したいと考え、エンディングサービス「&for us」を立ち上げる。宅地建物取引主任者、相続診断士。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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BusiNest「アクセラレーターコース」ファイナルデモデイの創業手帳賞を受賞

ーBusiNest「アクセラレーターコース」ファイナルデモデイの創業手帳賞を受賞された事業の概要について教えていただけますでしょうか。

柴田:私たちは終活や相続という分野でサービスを作っています。

日本には「死」について考えることは「縁起でもない、不謹慎」と後ろ向きに捉えがちな文化があります。しかし、本来「死」に向き合うことは不謹慎なことではなく、前向きなこと。自分のためにも他人のためにも考えるべきだと思います。「死に向き合うことは、人生をより良く生きることである」という文化を作るために、サービスを開発・運営しています。

この考えに至ったのは、数年前に私が友人を亡くしたことがきっかけです。

その友人は20代半ばで突然亡くなり、死に対する準備は何もできていませんでした。ご両親もショックを受けた状態のまま、色々なことを進めなければいけませんでした。

そのような中で私にその友人の交友関係を洗い出してほしいと相談がご両親からありました。ここで私も間接的に遺族の方々と一緒に動く経験をしたことで、「終活」の大切さを実感し、サービスの構想に至りました。

また、社会課題としても相続争いや相続破棄により、空き家の増加も問題になっています。

終活に興味を持っている方はかなり増えていますが、実際に相続を考えたり、終活へのアクションを起こしている方は少ないのが現状です。

また遺言書を作成していたとしても、見つけられないというケースも多々あります。

このような背景から、終活をもっと手軽に始められて、当事者がまとめた情報についても関係者がアクセスしやすいサービスが必要であると考えています。

「終活」を前向きに考える文化を作るためのサービス「&for us」

そこで私たちが開発・運営しているのが「家族間エンディング共有サービス &for us」です。

&for us」では、自分の人生や死後の希望を簡単に書いて残せる「エンディングノート」や「オンライン遺言書」など、終活を便利にするサービスを提供します。

家族だからこそ言いにくいこと、伝えにくいことをデジタル上に保管し、必要な際にしっかりと共有することができるサービスで解決したいと考えています。

「&for us」のエンディングノートの使い方は簡単で、ユーザーはサイト上で一問一答形式で質問に答えると、自動的に自分に関するエンディングノートが出来上がります。

エンディングノートは以下のような内容となっています。

・医療/介護の希望
・葬儀・納骨・埋葬等の希望
・契約関係・データ・身の回りのことについて
・資産・相続・遺言・財産の希望について
・家族や大切な人へのメッセージ
・交友関係や連絡先
・生きているうちにやりたいこと
 など

このエンディングノートの公開範囲の設定もできるため、生前に家族に共有したり、入力データを元に税理士や弁護士などの専門家に気軽に相談することも可能にします。

&for us専門家が監修し、法的効力のある「オンライン遺言書」としてのドラフト(下書き)も作成できる予定です。

また、ユーザーの死後にはエンディングページが自動的に作成されることも計画をしており、親族や友人、知人がページを閲覧したり、お悔やみコメントを入力することも可能にしたいと思います。これは死後にお悔やみができるSNSのようなものです。サービス全体を通して、生前から死後まで、ユーザーの実生活におけるコミュニケーションを包括し、安心して支えるようなサービスを提供していきたいと考えています。

日本は人口が年々減少していますが、高齢化と同時に平均寿命も伸びているため、終活に関する市場は盛り上がりを見せています。

今まで終活に関する相談をする先は弁護士や税理士などの金融機関や士業事務所などが中心でした。しかし、これらの相談先は費用が高額な場合が多く、手続きも煩雑で、気軽に終活を考えにくい環境でした。また必要に迫られてから探すことも多いので、事前に準備する必要もあると思っています。

一方で我々のようなベンチャーの参入も増えてきていますが、現状は遺族にメッセージを残せるサービスなど、遺言書として法的効力がないサービスが多い傾向にあります。

しかし、「&for us」は弁護士や税理士などと連携しながら、デジタル技術を使うことでユーザーが気軽に試せる金額で、専門家が監修する終活のサービスの提供が可能になります。

若年層にも「終活」を考える文化が必要

ー「&for us」のターゲットはどの層ですか。

柴田30〜50代の若年層の方々をターゲットにしています。ITリテラシーがあり、様々なデジタルサービスを利用している人々です。

ー若いうちから終活について考える文化を広めたいということでしょうか。

柴田:30〜50代の方々は親世代が体調を崩したり、亡くなった経験をしている方々が多く、自身の終活に関心を抱いている方々が多い傾向にあります。また親世代の高齢化により、親の健康や終活への不安なども抱えている世代です。

ー終活分野には法的効力のないサービスもあるとのことでしたが、遺言書に法的効力を持たせることは難しいことなのでしょうか。

柴田:他社ではオンラインでメッセージを残すような終活サービスを提供しているところもあります。ですがメッセージ自体には法的効力がありません。

遺言書として法的効力を持たせるためには、必要事項を網羅しなければならない上に、直筆で書かなければいけない箇所もあるなど、多くの要件が定められています。

もし遺言書を書いたとしても、定められた要件を1つでも満たしていない場合は、法的効力がなくなる可能性もあります。

「&for us」の遺言書の雛形は専門家が監修するので、要件を網羅できます。ユーザーが作成した遺言書の下書きを専門家に相談できるサービスも提供し、法的効力のある「オンライン遺言書」を作成できるようにします。

また、家族や友人などに文章や動画でメッセージを残すというようなサービスも「&for us」にも実装しています。故人の思いをしっかりと届け、安心してもらえるようなサービスにしたいと思います。

オンライン完結で「手間・時間・コスト」を削減

ー金融機関や士業事務所に依頼するのと「&for us」ではコスト面でも大きな差がありますか。

柴田:終活を考えたり遺言書を書いたりする時には、金融機関や士業事務所に相談に行くのが今までは一般的でした。その際には担当者と面談をし、資料作成を先方担当者がサポートしてくれるという利便性はありますが、その分費用が安くても数十万円以上かかるケースが多いです。

終活を考える方がまだ少ないのにも関わらず、費用が数十万円もかかってしまっては、実際にアクションを起こす方が減ってしまうと思います。

さらに我々がターゲットとしている30〜50代の方々は仕事や育児や子育てで忙しい年代です。終活を考えようと思いついたタイミングでも、現状はインターネットで情報収集をするまでに止まっており、実際にアクションを起こす方はまだ多くありません。

そこでオンライン完結できる終活サービスがあれば、思いついたタイミングでエンディングノートを作れたり、遺言書の下書きを作成することも可能です。

また法的効力のある遺言書を作成することも、要件さえ満たせば自分で無料もしくは安価で作成できます。

そのため「&for us」では、気軽に短時間でオンライン完結できる上に、遺言書の作成までは無料で試せるという意味でも、終活をよりカジュアルにするサービスを提供できると思います。

「終活のデジタル化」によりカジュアルな終活を実現

ー終活に関するデジタルサービスの登場により、終活にどのような変化が起きましたか。

柴田:「終活」という言葉が使われ始めたのが2010年前後だと言われています。

当時は終活に関心を持っている方々の大半は高齢者の方々で、終活に関するデジタルサービスはあまり普及しませんでした。

また地震や大雨などの災害や新型コロナウイルスの感染拡大で、若年層の方々でも「死」について考える機会が増えてきています。

このような背景から「終活」についても、考える人々が増えているという変化があると思います。

自然な流れで終活を始めるために

ー「&for us」のサービス開発にあたり想定されるユーザーにヒアリングを行ったとのことですが、ユーザーとして「&for us」に求める機能や使い方はどのような意見が多かったでしょうか。

柴田:ターゲットとなる30〜50代の方々にヒアリングを実施したのですが、大きく分けて2つの意見が多くありました。

30〜50代の方々は子どもが生まれたり、子育てにお金がかかったり、資産の変化が大きかったりするタイミングで、もしコストや時間をかけて遺言書を作成しても、数年後には相続させたい相手や資産の内容がガラッと変わっているということが想定されます。

そこで1つ目の意見として、無料でドラフトを作成できるならやってみよう、10分で終わるならやってみようと、思い立った時にすぐ無料でできるサービスであれば一度試してみたいという声が多くありました。

2つ目に、自分の両親や祖父母の終活を始めるきっかけにしたいと言う声も多くありました。

改めて家族と死について話す機会を設けることは難しいですが、実際に親戚や知人が亡くなったタイミングなどに、自然な流れで「自分も終活をやってみたから一緒にやってみない?」と家族に気軽に試せるのは良いという意見も多くありました。

逆風を乗り越え「アンドフォーアス」を起業

ーどのような経緯で「&for us」のメンバーを集めましたか。

柴田:まず最初の立ち上げは、終活についての雑談から始まったのがきっかけです。お互い終活に関心があったこともあり、終活のサービスの骨子を話し合いました。

こんな新しいサービスがあったら、世の中の死に対する考え方が変わるのでは?令和の新しいエンディングサービスができるのでは?と思い、サービスを作るにあたって必要なエンジニアの方々などにも声をかけ、同じ思いを持つメンバーや提携する弁護士をはじめとした士業事務所(税理士・司法書士・行政書士・会計士等)の方々を集めていきました。また参加したピッチイベントで知り合った方が参入してくれたり、少しづつ&for usのメンバーが増えています。

ーメンバーは柴田さんと同世代の方が中心ですか。

柴田20代から50代までと年代はバラバラです。サービスに対する思いは共通していると思います。年代が違うからこそ幅広い視点で開発ができると思っています。

ー「&for us」を起業して大変だった点を教えていただけますか。

柴田:「&for us」はコロナ禍での立ち上げでしたので、最初の顔合わせもリモート会議で行いました。メンバー全員が最初に集まったのは、組織を立ち上げて4ヶ月後でした。

この点は大変ではありましたが、どのメンバーもオンラインでの業務に慣れていたので、何とかコミュニケーションを取ることはできました。

また、メンバーの中には起業経験者もいるため、色々な部分を相談しながら進められています。

ー「死」について考えることが後ろめたいという文化が日本にはあるとお聞きしましたが、この日本で「終活」に関するサービスを立ち上げることは苦労したのではないでしょうか。

柴田:同世代の友人や知人に話をした際には、このようなサービスがあったらぜひ使ってみたいというポジティブな意見が多くありました。

しかし、私の親にこのようなサービスを立ち上げると話した際には、少しネガティブな反応でした。ただし私の親世代の方々は死について考えることをまだ前向きに考えられていない方々も多いため、そのような文化に変化をもたらすことも「&for us」の役割だと思っています。

「どう死ぬか?」ではなく「どう生きるか?」と考えるための「終活」

ー終活を前向きに考えられる人を増やすためには、どのような工夫が考えられますか。

柴田:今後「&for us」では「死ぬまでにやりたいことリスト」のような機能を実装させる計画をしています。

人生を通じて成し遂げたいことをリスト化することで、「どう死ぬか?」という考え方ではなく「どう生きるか?」と考えるきっかけになると考えています。

&for usのインスタグラムではユーザーさんの死生観に関するインタビューを掲載しているのですが、人それぞれが思う「死について」の考え方は、共有することも読むことも興味深いです。「死ぬまでにやりたいことリスト」を家族間で共有することで「どう生きるか」を前向きに話し合えたり、自分はどうだろう、と考えるようになると良いなと思います。

ー今後の展望について教えていただけますか。



柴田:まず2022年は「&for us」のβ版をリリースして、ユーザー自身やその家族の終活のサポートができる体制を整える準備を進めています。

そして、2023年には「&for us」を正式リリースして、実際に起きた死や相続に対してのタスクの可視化・スケジュール管理ができる機能を実装する計画です。

創業手帳web版だけでなく、冊子版創業手帳でも色々な社会課題の解決に取り組む起業家のインタビューを掲載しています。無料で届きますので、ぜひお問い合わせください。
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(取材協力: アンドフォーアス株式会社 代表取締役 柴田 駿
(編集: 創業手帳編集部)



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