人事労務管理のクラウドソフト運用に欠かせないマニュアル作り伝授します!【榊氏連載その4】

創業手帳

社会保険労務士の榊 裕葵氏が徹底解説!スタートアップ/リモートワークのための人事労務×テクノロジー超活用術


人事労務管理のクラウドソフトが広く活用されつつあります。リモートワークでの作業が可能となり、複数人で対応できるようになりました。作業効率が高くなるため、多くの企業での導入が進む一方で、担当者へのルールが徹底できておらず、うまく運用できていないケースがあります。ソフトの導入に伴い、ルールやマニュアルを整備することが重要になります。

今回も、”HRテクノロジー(クラウドのシステム)”に詳しい社会保険労務士の榊裕葵氏に、マニュアルの作り方をご紹介いただきます。マニュアル作成に利用できるクラウドサービスや、スムーズな運用に必要なコミュニケーションツールなど、具体的なツールの使い方についても説明します。

榊 裕葵(さかき ゆうき)ポライト社会保険労務士法人 代表
東京都立大学法学部卒業。2011年、社会保険労務士登録。上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、ベンチャー企業に対しては、忙しい経営者様が安心して本業に集中できるよう、提案型の顧問社労士としてバックオフィスの包括的なサポートを行っている。創業手帳ほか大手ウェブメディアに人気コラムの寄稿多数。「日本一わかりやすい HRテクノロジー活用の教科書」(日本法令)を2019年上梓。

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人事労務管理に必要なルール・チェックリスト項目


クラウドソフトの導入に関わらず、新しいツールを組織に導入した際には、これまでのルールやマニュアルでは対応できないことが多くなります。古くから改定されていないルールがある場合、時代の変化にあわせて見直す良い機会にもなりますので、ぜひ着手していただきたいと思います。

ルールの作り方

例えば、人事労務管理や給与計算のクラウドソフト導入した場合には、「正確な打刻管理」がポイントとなります。本シリーズ2回目「人事労務管理のクラウドシステムでの打刻漏れが心配?!対策をこっそりご紹介」でも紹介したように、打刻に関するルールとして主に次の項目について定めるとよいでしょう。

  • 1. 打刻のタイミング    :始業・終業の時間か、執務室の入退室か
  • 2. 打刻方法        :個人からの端末、カードリーダー
  • 3. 打刻漏れの申告方法   :アプリかメールか書面か、まとめるのは週次、日次か
  • 4. 出張や直帰などの例外時 :通常と同じ打刻か、打刻後報告か

他の人事労務管理業務に関するクラウドソフトを導入し、これまでの運用と変わる部分がある際も同様のことが言えます。リスク要因となる事象を特定して優先順位の高いものからルールを作るとよいでしょう。

ただし、ルールを作ることが目的ではないので、あまり細かいところまで縛る必要はありません。発生頻度の低い例外事例を想定したルールを制定して、対応する側、作成する側、双方の負担になってしまうことも多くあります。ルールは、運用をまわしていくために過不足のないものにするよう心掛けてほしいです。

マニュアル・チェックリストの作り方


新たなソフトを導入し、ルールが定まったら、次に必要となるのが人事労務管理ソフトを利用した月次給与計算業務のマニュアルとチェックリストです。マニュアルやチェックリストがあれば、新しい担当者や外部委託先がすぐに業務にあたることができます。クラウドソフトの給与計算の業務であれば、次の項目ついてマニュアルやチェックリストを作成するとよいでしょう。

  • 1. 社員情報の更新(入社、退職、昇給)
  • 2. 勤怠データ取り込み
  • 3. 自動計算のチェック・修正
  • 4. ダブルチェック(上司の承認)
  • 5. 銀行への自動振り込み予約
  • 6. WEB給与明細の公開

マニュアルの作成は、担当者が読んで実際に使うものです。担当者の異動や退職による引継ぎがあることも想定し、シンプルで分かりやすいマニュアルになるよう心がけてください。クラウドソフトが提供しているガイドブックやFAQなども参考にしながら作成すると良いでしょう。

また、クラウドソフトのユーザーインターフェースを、スクリーンショットなどで貼り付けると、わかりやすくなります。画面の映像などを含めて視覚的にわかりやすくしましょう。こうしたマニュアルやチェックリストの作成、作業の進捗を管理するために便利なツールがあるので次項で紹介しましょう。

マニュアル作成に便利なツール

マニュアルを作るとなったときに何から着手すればよいか、頭が真っ白になってしまいがちです。マニュアルといっても、特定のひな形や正解はありません。担当者がスムーズに業務をこなすことができれば、どのようなファイル形式でもよいのです。例えば、マイクロソフト社のパワーポイントでもよいですし、クラウド上で管理するのであれば、Googleドキュメントスプレッドシートでもよいでしょう。

テンプレートを活用したいところや、パソコンやタブレットなど複数の端末でマニュアルを利用する可能性がある場合は、スタディス社の「Teachme Biz」というマニュアル作成ソフトを導入するのもひとつの手段です。ただし、初期費用と月額利用料がかかるので注意が必要です。

なお、動画によるマニュアル作成という方法もあります。YouTubeであれば限定公開に設定すると、URLを知っている人だけが閲覧可能になります。この機能を活用し、クラウドソフトで作業する様子を画面や音声をいれながら撮影したのち、YouTubeに投稿します。そして、対象となるURLを共有し、マニュアルの整備が完了します。文字や画像の貼り付けよりもわかりやすくなる場合もありますので、是非検討してみてください。あるいは、zoomで画面共有をしながら録画をすることでも動画マニュアルを作成することができるでしょう。

コミュニケーションツールの導入とルール・マニュアルへの問い合わせ先の整備

ルールやマニュアルを整備したら「完了」というわけではありません。運用している担当者が判断に迷ったときの問い合わせ先を明確にしておくことが必要です。ビジネスチャットツールがあると気軽に問い合わせることができ、同じような疑問を持つ人へのノウハウの共有が可能になります。今はコロナの影響でテレワークの実施を機に、ビジネスチャットツールを導入している企業も増えているようです。

これまでは、マニュアルなどで不明なことがあった場合、メールなどの直接的な問い合わせが主流だったでしょう。ただ、メールでは1対1のコミュニケーションに留まり、同じような問い合わせが重複したり、ノウハウのシェアにはなりませんでした。ビジネスチャットであれば、関係するメンバーが所属するグループ内での会話を閲覧できます。やりとりをオープンにすることで、重複した問い合わせを受けることはなくなります。

ビジネスチャットは、ChatworkSlackラインワークスが主に利用されているようです。それぞれのインターフェース動作において特徴があるので、自社の文化に合いそうなものを選択するとよいでしょう。

ビジネスチャットでの質疑応答がある程度の量になったら、項目ごとにGoogle Docsやスプレッドシート整理をして、FAQ形式にまとめるのもおすすめです。

クラウドストレージの活用を進めよう


クラウドソフトの導入が進んでも、就業規則や賃金規程、住民税の通知書が紙のままでは、情報をクラウドソフトのシステムに転記する必要があり、給与計算の業務が効率化しません。例えば、リモートでの作業が出来るにもかかわらず、住民税の登録だけのためにわざわざ出社しなくてはいけないことになります。

どうしても紙ベースの資料があるのが、人事労務管理業務での特徴でもあります。こうした紙の資料はできるだけPDF化し、クラウドのストレージなどに保管して、どこでもいつでも閲覧できるようにしてくとよいでしょう。

クラウドのストレージとして有名なものには、GoogleドライブDropboxOneDriveなどがあります。なお、社内文書をクラウドのストレージにアップする場合、セキュリティリスクがありますので、業務効率のバランスを勘案し、会社ごとの判断が必要になるでしょう。

メッセージ

人事労務管理に関する規程や規則は数多くあるため、人事労務管理のクラウドソフトを導入することで、あらゆる規程や規則を見直さなければならない可能性があります。特に、法定の就業規則などでは、細部での修正が必要になる可能性もあり、負担に思われるかもしれません。

ただ、こうした規則の詳細な部分(例外事項など)が、これまでどれだけ運用されていたかを見直す良い機会になります。規則は、作ったあとに見直すことはあまり行われないので、実態と乖離していることが多々あります。クラウドソフトを利用することを前提に、新たに就業規則などを見直して時流に即したものにしていきましょう。

また、就業規則は労働者代表の意見聴取や所轄労基署への届出など、変更時の法律上の手順が煩雑です。従業員の権利義務に直接かかわることでは無い、事務処理の細かいルールなどは就業規則上に定めるのではなく、別冊に切り分けて、内規(会社の判断で随時改定可能)扱いにすると、変更がスムーズになります。

自社のルールにピッタリと合致するようなクラウドソフトやツールはあまりないでしょう。効率や生産性を高めるために、クラウドソフトが必要なのは明らかなので、規則やルールをクラウドソフトに合わせて変更する必要があるという場面も少なくありません。その際に、規則やルールを柔軟に改定できるよう、社内における規程改訂の稟議や意思決定のプロセスが煩雑すぎる場合は、改定ポリシーも見直すとよいかもしれません。

(次回につづきます)

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(取材協力: ポライト社会保険労務士法人代表 榊 裕葵
(編集: 創業手帳編集部)

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