47ホールディングス 阿久根聡|ワークプレイスの総合コンサルティングで顧客の課題を解決
オフィス仲介・内装・家具ECなどの包括サービスでワークプレイスを最適化
2002年創業の47(ヨンナナ)ホールディングスは、オフィス仲介事業を運営する47、オフィス内装事業を運営する47内装、オフィス家具EC事業を運営する47インキュベーションを傘下に持つ持株会社です。グループ全社のサービスを通じて、ワンストップで顧客のワークプレイス構築をサポートしています。
代表取締役を務める阿久根さんは、CFOとして資金調達業務を中心に手腕を振るった後、従業員承継により事業を引き継ぎました。
阿久根さんが同社に参画するまでの経緯や、より良いワークプレイスの提供を通して顧客企業と従業員を幸せにする理念とは?創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
47ホールディングス株式会社 代表取締役
九州大学卒業後、新卒で富士銀行(現 みずほ銀行)に入行。2004年に創業間もないエス・エム・エスに入社、翌年に取締役に就任。2013年に副社長として47へジョインし、2015年より同社代表取締役を務める。2019年からは47グループ4社の代表取締役を兼務している。経営や組織に関する話、オフィスづくりのポイント、ワークプレイスにまつわる情報などをnoteで発信している。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
チャレンジ精神で大手銀行からベンチャー企業へ参画
大久保:阿久根さんは起業ではなく、47(ヨンナナ)ホールディングス創業者の宇垣充浩さんから事業を引き継ぐ形で代表取締役に就任したと伺っています。まずは参画するまでの経緯についてお聞かせ願えますか。
阿久根:新卒で現みずほ銀行に入行後、医療・介護業界の人材ビジネスを手掛けるエス・エム・エスにジョインしました。
同社への参画は、大学の同級生だった創業者の諸藤に誘われたことがきっかけです。以前から「IPOを目指して起業したい」という意思を伝えられていたため、自然と「わかった。一緒にやろう」と心を動かされたんですね。
当時は銀行員4年目、しかも大手銀行からベンチャー企業へのキャリアチェンジですので、周囲には散々引き止められまして(笑)。でも、どうしてもチャレンジしたかったので、気持ちが揺らぐことはありませんでした。
加えて、まだ部下を持ったこともなかったところから、資金調達業務担当のCFOに就任。ファイナンシャルは専門分野だったとはいえ、右も左もわからない状態で必死でしたね。
おかげさまで東証一部上場を達成する組織づくりを行うことができたのですが、そのタイミングで後継に引き継ぎ、新たなチャレンジを模索することにしました。ゼロから作り上げる事業に携わるのが好きなことや、さらに違う業界を経験したいと希望する中で出会ったのが、現在47ホールディングスの子会社となっている47(ヨンナナ)です。
医療・介護領域以上の巨大市場を持つ不動産業界にも魅力を感じまして、「この会社で、もう一度ゼロイチの事業立ち上げにトライしよう」と決意し、2013年に参画しました。
創業者の指名により、従業員承継で代表取締役に就任
大久保:47ホールディングスは、「47」「47内装」「47インキュベーション」を傘下の組織とする持株会社ですよね。グループ会社の成り立ちをお教えいただけますか。
阿久根:2002年に設立した、前身の東京オフィスコンサルティングから47グループの歩みが始まりました。
現在のようにWEBで物件情報を閲覧することができない時代でしたので、「ネット上で不動産を比較検討できるサービスを構築したい」という創業者の宇垣の熱意のもと、オフィスに特化した不動産情報サイト「officee(オフィシー)」をローンチしたのが創業の経緯です。
officeeは賃貸オフィス情報・仲介サービスで、店舗などの運営コスト削減と、一部貸主からいただく手数料収入により、全物件の仲介手数料を無料化しました。
47にジョインする前、宇垣との間で「顧客のワークプレイスをより良いものにしていこう」という理念をすり合わせたのですが、その実現のためには仲介業だけでは駄目だなと。そこでofficeeを介してご契約くださった顧客向けに、オフィス空間の提案や内装工事を提供する47内装を設立しました。2020年には、オフィス内装のセミオーダーサービス「naisoo.jp」も始めています。
仲介から内装の事業まで展開した後、今度は「仲介と内装だけだと、オフィス移転時のビジネスに留まってしまう。ワークプレイスの最適化を目指すのであれば、移転以外のサービスも用意するべきだろう」という話になり、オフィス家具に特化した47インキュベーションを立ち上げました。オフィス家具通販サイト「Kagg.jp」や、月額制サブスクリプション「Kaggレンタル」を提供しています。
大久保:理念がぶれないので、事業展開の方向性が明確ですよね。阿久根さんがすべての事業を引き継いだいきさつをお聞かせください。
阿久根:私が2013年に入社してから、内装事業やオフィス家具EC事業の立ち上げなど、宇垣と二人三脚でやってきました。そんな中、2019年頃に宇垣から「新規事業をやりたい」と相談があったんですね。
非常に有意義な事業でしたので、私も取り組みたかったのですが、提示された新たなビジネスには多額の資金が必要でした。加えて、既存事業とリスク率が異なることがネックになると考えたんですね。そのため、CFOの立場から「47の新規事業として立ち上げるのは難しい」と正直に伝えました。
そこで宇垣は「じゃあ新規事業で新たに起業する。47グループは阿久根さんに継いでほしい」と。こうした経緯で、私が代表取締役に就任することになりました。
大久保:従業員承継ですね。引き継ぎはスムーズに行われたのでしょうか?
阿久根:もともと宇垣は新規事業に注力し、それ以外の事業をすべて私に移管してくれていましたので、非常に円滑でしたね。私のやり方に一切口出しをしない方針だったこともあり、あらゆる意味でやりやすかったです。
新規事業は「何がやりたいのか?」を固めるところからスタート
大久保:多くの新規事業立ち上げに関わってきた阿久根さんだからこそ、新たなビジネスを模索する上で見定めるポイントを熟知されていると思います。コツなどがありましたらお聞かせいただけますか。
阿久根:事業は「手法」であると捉えています。そのため、まずは「何がやりたいのか?」をしっかりと固めるところからスタートすることが大切です。
弊社の場合は、「よりよいワークプレイスの構築」が社会課題の解決につながると信じていますので、「ワークプレイスを良くしていく」とはどういうことか?その目的に対し、現状で足りていない要素はなんだろう?と突き詰めながら事業を作っているんですね。
それから、「その事業は収益を生むことができるか?継続できそうか?」という点もよく見極める必要があります。
顧客の課題を解決しながら、自社の収益を上げて継続していくことができる。この2つを掛け合わせた領域を探っていくことが、新たな事業を検討する時のコツではないでしょうか。
大久保:伸びるベンチャー企業の共通点はありますか?
阿久根:まず大前提として、ビジネス展開する市場規模を見誤っていないことですね。マーケットが大きくないと事業を伸ばすのが難しいからです。
その上で、競合他社の位置づけを確認しながら、戦う領域をきちんと見定めて勝負しているベンチャー企業は伸びると思います。
個人的な考えなのですが、今の世の中に新規事業は存在しないのではないかなと。誰も手掛けていないのであれば、市場も生まれていないはずですから。だからこそ、自社が戦うことができる領域の見極めが重要になってくるんですね。競合が少ない分野であれば、後追いで事業を興しても成立します。
大久保:なるほど。「新規事業を見つけられないのはリサーチ不足」と定義づける方が多いですが、阿久根さんの視点はハッとさせられますね。
新規事業の成功には、強固な参入障壁の構築が不可欠
大久保:新たに事業を始める際のポイントがあればお教えください。
阿久根:強固な参入障壁を作ることですね。他社が真似できない仕組みづくりが重要です。
弊社の場合は、圧倒的なデータベースを強みとして事業運営しています。
たとえば賃貸オフィス情報サイトといっても様々で、ビルの外観写真をWEBクローラーで収集する程度であれば、恐らく誰でもサービスを作れるんですね。一方、ビル内部の物件写真を用意するとなると、現地に足を運んで1件ずつ撮影する必要があります。
弊社のofficeeでは約5万棟の物件情報を管理していますが、大半の物件の写真およびコメントを挿入して公開しています。途方も無い労力をかけた結果です。
では、同じクオリティを他社が提供できているか?というと、いまだに存在しません。
Kagg.jpでも同様のスタイルを徹底しており、70万ほどのオフィス家具を集めたデータベースを用意しています。各オフィス家具メーカーより多く、家具のカテゴリーだけでいうならAmazonよりもずっと豊富です。メーカーが用意している写真が1種類の張り地のみという家具でも、画像加工で他生地のデータを作成し、全生地の完成品イメージを閲覧できるようにしました。
一生空室が出ないビルかもしれないし、注文が入らない家具かもしれません。それでも、そこまで愚直に徹底することで初めて他社との差別化がはかれるんですね。
膨大な情報の作成・整理・公開までの一貫体制が私たちの強みになっており、参入障壁を構築できたことで他社が入り込めない基盤となりました。
大久保:素晴らしいですね。覚悟がないとできません。
阿久根:はい。長い時間をかけた勝負ができるかどうか?がポイントです。これだけの労力をかけた結果、明日は無理だけれど1年後にリターンがあるのなら、そこに賭ける信念を持つ。長期スパンでの勝負が企業の未来を握っています。
そのためにも、市場規模が大きいことや、競合他社が少ない分野を見極めること、強固な参入障壁を作ることが重要です。こうした視点で進めていけば、新規事業を成功させることができるのではないでしょうか。
現代に合わせて、サービスを少し変革していく意識が大切
大久保:不動産業界は独自のスタイルで、失礼ながらIT系とは遠い世界という印象があります。阿久根さんは一貫して、ITやスタートアップ、ファイナンシャルの観点で事業を進めていますが、だからこそ成功した側面もあるのではないでしょうか?
阿久根:はい。他の業界だと当たり前のことをやっているだけでも、不動産業界内では特殊だと思われるところがあります。ずっとユニークな存在でいられるんですね。
ただし、従来の不動産業界の在り方を否定しているわけではありません。この業界には様々なオーナーの方がいますので、一人ひとりのもとに足繁く通い、丁寧な提案をしながら協力を得ていく業務も重視しています。
集客などの手段はITを駆使する。それ以外の不動産サービスについては、オーナーや客先に訪問して密なコミュニケーションを大事にする。デジタルとアナログのどちらも欠かせません。
不動産仲介業は歴史が長く、遠い昔から受け継がれてきた意義のある事業です。大切なのは、現代に合わせてサービスを少し変革していく意識ではないか?と考えているんですね。
根本から変えようとして新規事業を始めるのは、ゲームチェンジを目指す行為です。この感覚で取り組む方も多いでしょうが、市場はゲームチェンジを求めているわけではありません。多くの顧客は「今より少し良いサービス」を探しています。この「少し良くする」を、なんらかの技術を用いて実現すれば、成熟したマーケットでも成功するのではないでしょうか。
大久保:理念として王道ですね。ど真ん中を走っているイメージです。
阿久根:ど真ん中を極めることが大事だと思っています。そしてこのど真ん中というのは、業界ではなく市場のど真ん中です。
古い業界ゆえに一般常識からずれている側面があり、「顧客が求めているところから、真ん中の軸が離れているのでは?」と感じることが少なくありません。そこで、中心軸を顧客が求めている真ん中に調整する。これが弊社の手法です。
今後の展望として掲げる、データを活用した高度なコンサルティング
大久保:47グループの今後の展開をお聞かせください。
阿久根:ワークプレイスの多様化により、オフィスだけではなく自宅やコワーキングスペース、シェアオフィスといったように、働く場所の選択肢は多彩な広がりを見せています。最近だと、オフィスとリモートのハイブリッド型を選択している企業が多いですよね。ただ、恐らくほとんどの企業が「どの程度の比率が適切か?」という明確な答えを見いだせていません。
弊社は膨大なデータベースの収集から分析が得意な企業ですので、ワークプレイスの活用が従業員のエンゲージメントとどう紐づくのか?を解析して提案するなど、より高度なワークプレイスのコンサルティングを手掛けていきたいと考えています。
少子化の影響もあり、採用には膨大な費用がかかるようになりました。今後はさらに人材が減っていきますので、費用は上がっていく一方だと思います。
そうなると現在所属している従業員が活躍しやすい環境づくりや、離職率の改善が、企業の重要なテーマになってくるんですね。その改善策のひとつが、ワークプレイスの最適化ではないかなと。
私たちはワークプレイスを、「働く場所」というより「働く環境」と捉えています。物理的なスペースとしてだけではなく、Zoomなどのデジタル活用も含めてあらゆる要素を組み合わせながら、企業が成果をあげる方法を導き出して提供していきたいです。
このフィールドの第一人者はほぼ存在しませんので、47グループが先駆者として成功したいですね。
大事なのは、得意領域を伸ばすことと、動く勇気を持つこと
大久保:最後に、起業家に向けてのメッセージをいただけますか。
阿久根:「こんな私でも社長をやれていますよ」ということを伝えたいです(笑)。
もちろん自虐ではなくて、人にはそれぞれ得意な領域があります。そこを伸ばしていけば、企業のトップにもなれると信じているからなんですね。
それから私はメガバンクからベンチャーへ転身した人間ですので、もし大手企業の中で悩みながら「でも起業は勇気がいる」と躊躇している方には、まずはベンチャー企業のナンバー2を目指すのもひとつの手だ、ということをお伝えしたいです。
私自身、チャレンジが非常に糧になりましたし、この先、世の中がどう変化しようとも順応する能力を身につけることができました。
決してマイナスにはなりません。たとえうまくいかなくてもゼロになるだけです。まずは動いてみてほしいですね。
(編集:創業手帳編集部)
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