令和7年度税制改正大綱の内容をわかりやすく解説!法人税や基礎控除はどうなる?
【法人向け・個人向けともに解説】中小企業支援と個人の資産形成・子育て支援が強化される予定
令和7年(2025年)度の税制改正大綱が公表されました。税制改正大綱は、企業や個人の税金に関する新しい枠組みや今後の方針を示したものです。日本の税制に関する重要な政策文書であり、翌年度以降の税制改正の方針を示しています。
令和7年度税制改正大綱では、中小企業の法人税優遇や年収の壁の引き上げに関する事項など、さまざまな点が明記されています。
今回は、令和7年度税制改正大綱の内容を解説します。中小企業に関わる内容と個人に関わる内容に分けて解説するので、参考にしてみてください。
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この記事の目次
中小企業に関わる税制改正
日本は労働力人口の減少や生産性の停滞が問題となっています。
そこで、国や地域の活力を伸ばすために、中小企業の支援がより手厚くなる予定です。
売上高100億円超を目指す中小企業への支援
中小企業経営強化税制が2年延長され、さらに制度が拡充される予定です。売上高100億円超を目指す成長意欲の高い中小企業に対して、設備投資に関する税制上の措置が講じられます。
中小企業経営強化税制とは、業種を所轄する主務大臣の確認を受けた一定の投資計画に基づいた設備投資について、即時償却または10%の税額控除(資本金3,000万円超の場合は7%)の適用を受けられものです。
今回の改正にて、設備投資の対象として「1,000万円以上の建物・付属設備」が追加される予定です。ただし、建物・付属設備の設備投資をしたときに即時償却または税額控除の適用を受けるためには、2.5%以上の賃上げなどが求められます。
また、現行措置についてC類型(デジタル化設備)は廃止となります。
法人税の軽減税率が延長
中小企業者等の法人税の軽減税率の特例が、2年延長されます。ただし、以下のように一部では税率の引き上げや見直しが行われる予定です。
- 所得の金額が年10億円を超える事業年度について、所得の金額のうち年800万円以下の部分の税率を17%に引き上げ(現行:15%)
- 適用対象法人の範囲から通算法人を除外し本則19%を適用
こちらに関しては増税です。年間所得が10億円を超える中小企業や、通算法人を持つ中小企業は影響を受けます。
事業承継税制の要件緩和
事業承継税制は、会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度になっています。後継者がいないことによる廃業を防ぎ、経済や雇用を守ることが目的となっています。
この税制について、役員就任要件の見直しが行われます。
従来の制度では、「後継者が贈与の日まで3年以上役員であること」が求められていました。しかし、改正により「贈与の直前に役員であればよい」という条件に緩和される予定です。
株式の価値次第では、贈与税が多額になり事業承継がスムーズに進まない可能性があります。そこで、役員就任要件を緩和して贈与税の納税猶予の幅を広げ、中小企業の円滑な事業承継を支援する枠組みとなっています。
固定資産税の特例措置が2年延長
生産性向上や賃上げに資する中小企業の設備投資に係る固定資産税の課税標準の特例措置について、適用期限が2年延長されます。
ただし、特例を受けるためには賃上げが必要です。最低でも1.5%の引き上げが求められており、賃上げ要件を満たさなければ特例は適用されません。
3%以上の賃上げを行った場合、固定資産税の減免割合が最大で75%に引き上げられます(改正前は最大66%)。なお、対象となる固定資産は、賃上げの計画に基づいて取得した機械や装置などに限定されます。
企業版ふるさと納税が3年延長
企業版ふるさと納税の適用期限が3年間延長されます。企業版ふるさと納税を活用すると、寄付額の最大90%が法人関係税から控除されるため、実質的な負担は約1割に圧縮されます。
ただし、過去に不適切事案が発生したことを受けて、寄付活用事業に関するチェック機能が強化されます。寄付者が事業から利益を享受するような事例への対策も含まれており、制度そのものが本来の趣旨で活用されるように、チェックが厳しくなる予定です。
防衛特別法人税の創設
国の防衛力を強化するための財源を確保する目的で、防衛特別法人税(仮称)が創設される予定です。
課税標準となる法人税額から500万円を控除した額に対して、4%の税率を乗じて税額を計算します。令和8年(2026年)4月1日以後に開始する事業年度から適用される予定で、すべての法人が課税対象となります。
DX投資促進税制の廃止
2025年3月31日をもって、DX投資促進税制は廃止されます。企業のデジタルトランスフォーメーション化(DX化)を推進するために設けられましたが、今後の経済政策や財政状況を踏まえた見直しの結果、廃止されることになりました。
個人に関わる税制改正
年収の壁の引き上げに関するニュースを目にする機会が増えているとおり、中小企業だけでなく個人が納める税金にも影響を与える要素があります。
所得税の基礎控除の見直し
物価上昇に対応するため、令和7年分以降の所得税について、基礎控除額が10万円引き上げられ、現行の48万円から58万円になります。つまり、所得税の非課税枠が10万円増加し、手取り額の増加が見込めるでしょう。
なお、個人住民税については基礎控除の控除額(43万円)の引き上げは実施されない予定です。
基礎控除の引き上げに伴い、以下のように各所得控除を受けるための所得要件も、10万円引き上げられます。
- 同一生計配偶者及び扶養親族の合計所得金額要件を58万円以下(現行:48万円以下)に引き上げ
- ひとり親の生計を一にする子の総所得金額等の合計額の要件を58万円以下(現行:48万円以下)に引き上げ
- 勤労学生の合計所得金額要件を85万円以下(現行:75 万円以下)に引き上げ
- 家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例について、必要経費に算入する金額の最低保障額を65万円(現行:55万円)に引き上げ
給与所得控除の見直し
基礎控除に加えて、給与所得控除額の最低保証額が55万円から10万円引き上げられ、65万円となります。低所得層に対する支援を強化する観点から、給与所得が引き上げられるのは年収190万円未満の人に限られます。
基礎控除と給与所得控除の引き上げにより、現行の「103万円の壁」が「123万円の壁」に引き上げられる予定です。
ただし、国民民主党は178万円までの引き上げを要求しており、今後さらに年収の壁が引き上げられる可能性があります。
大学生年代の子に関する控除
「特定親族特別控除(仮称)」を設けて、居住者が生計を一にする19歳以上23歳未満の親族で控除対象扶養親族に該当しないものを有する場合、最大で63万円の所得控除を受けられます。
ただし、合計所得金額が123万円を超える親族に関しては控除の対象外です。これにより、大学生年代の子どもに係る新たな控除が創設され、子育て世代の税負担の軽減が見込まれています。
確定拠出年金の拡充
老後の資産形成を後押しするために、確定拠出年金制度(iDeCoおよび企業型DC)の拡充が盛り込まれました。以下のように、拠出限度額の引き上げが行われます。
改正前 | 改正後 | |
企業型DC | 5.5万円 | 6.2万円 |
iDeCo(第一号被保険者) | 6.8万円 | 7.5万円 |
iDeCo(企業年金加入者) | 2万円 | 6.2万円-他の掛金 |
iDeCo(企業年金未加入者) | 2.3万円 | 6.2万円 |
拠出限度額が引き上げられるということは、非課税で運用できる枠が広がることを意味します。
現行制度で掛金を上限まで拠出しており、まだ資産運用に回す余力がある方にとって、メリットといえるでしょう。
iDeCo(個人型確定拠出年金)の5年ルールの見直し
iDeCoの一時金と勤務先からの退職金を受け取る際に知っておくべき仕組みとして、「5年ルール」があります。
例えば60歳で先にiDeCoの一時金を受け取り、その後65歳に退職金を受け取る場合、5年以上の期間が空いているので、それぞれで退職所得控除を適用できました。
今回の改正に伴って、「5年ルール」が「10年ルール」に変更される予定です。それぞれで退職所得控除を受ける要件が厳しくなるため、iDeCoの一時金と退職金を受け取るときの手取り額に影響が出ると考えられます。
住宅ローン控除の拡充
子育て世帯の住宅ローン控除が拡充されます。具体的には、令和7年に「特例対象個人※」が認定住宅を取得して居住の用に供したとき、借入限度額の優遇を受けられます。
※特例対象個人の範囲(以下のいずれか)
- 自分の年齢が40歳未満で、かつ配偶者を有する者
- 自分の年齢が40歳以上で、かつ40歳未満の配偶者を有する者
- 年齢19歳未満の扶養親族を有する者
特例対象個人 | その他 | |
認定住宅 | 5,000万円 | 4,500万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 | 3,500万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 | 3,000万円 |
なお、建築確認を受けた認定住宅等の新築等について、合計所得金額1,000万円以下の人に限り床面積の要件が40㎡以上に緩和されています(通常は50㎡以上)。この床面積要件の緩和は、令和7年12月31 日以前に建築確認を受けた家屋について適用できることとなる予定です。
住宅リフォーム税制の延長
住宅リフォーム税制が延長されます。「特例対象個人」が、居住している家に一定の子育て対応の改修工事をした場合、標準的な工事費用相当額の10%が税額控除されます(250万円が限度)。
生命保険料控除の拡充
子育て世帯に対する生命保険料控除の拡充措置が、令和8年から実施される予定です。23歳未満の扶養親族を有する場合、新契約に基づく生命保険料に係る一般生命保険料控除が以下のように拡充されます。
【改正前】
年間の支払保険料等 | 控除額 |
20,000円超40,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
20,000円超40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+10,000円 |
40,000円超80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
【改正後】
年間の支払保険料等 | 控除額 |
30,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
30,000円超60,000円以下 | 支払保険料×1/2+15,000円 |
60,000円超120,000円以下 | 支払保険料等×1/4+30,000円 |
120,000円超 | 一律60,000円 |
一般生命保険料控除の上限が現行の4万円から6万円に引き上げられ、税負担が軽減されます。
なお、一般生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の合計適用限度額は、現行の120,000円から変更されず維持されます。
確定申告の簡略化
確定申告において、小規模企業共済等掛金控除・生命保険料控除・地震保険料控除の適用を受ける場合、控除証明書の添付または提示に代えて、明細書の添付が可能となる予定です。
これにより、個人が確定申告を行う事務的負担が軽減されます。なお、令和8年分以後の確定申告書を、令和9年1月1日以後に提出するときから適用となる見込みです。
通勤手当の非課税限度額
エネルギー価格の上昇を踏まえ、自動車通勤を行う者への通勤手当について非課税限度額が見直される可能性があります。
現在の非課税限度額は、客観的な指標として人事院勧告の前提となる民間企業の通勤手当の支給実態に関する調査の結果などを踏まえて定められています。
今後、人事院による新たな調査が行われる際には、その結果に基づいて通勤手当の非課税限度額について迅速に見直しを行う旨が記載されました。
記帳水準の向上
小規模事業者の約4割が帳簿を手書きで作成している状況を受け、個人事業主の記帳水準向上のため、複式簿記の普及・一般化に向けた検討が行われます。売上や資産・負債などの状況が適切に記録されていれば、中小・小規模事業者による迅速な給付金の支給や融資を行えます。
そこで、納税者側の事務負担や対応可能性を踏まえつつ、所得税の青色申告制度の見直しを含めて個人事業主の記帳水準の向上に向けた検討を行うことが記載されました。
詳細は明らかになっていないものの、複式簿記を採用して記帳を行っている個人事業主に関しては、青色申告特別控除額が引き上げられる可能性が考えられるかもしれません。
まとめ
令和7年度税制改正大綱では、中小企業の生産性や賃上げのサポート、事業承継をスムーズに進めるための制度改正が行われます。
個人向けの内容を見ると、子育て世帯の税負担を軽減するための措置を中心に、基礎控除と給与所得控除の引き上げが記載されました。また、確定拠出年金制度を拡充も盛り込まれており、自助努力による資産形成を行う重要性が高まっているといえるでしょう。
事業主の方は、自社の経営に関することだけでなく、個人に関係する税制改正にも注目しましょう。社会保険手続きや年末調整に関係するのはもちろん、従業員が希望している働き方にも影響が出る可能性があります。
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(編集:創業手帳編集部)