役員報酬で節税するための方法とは?損金算入による負担軽減やテクニックを解説

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役員報酬の調整によって有効な節税対策が可能に!


会社の経営では、法人税・所得税・住民税などの様々な税金がかかります。そのため、税金が高い、節税方法を知りたいといった悩みを持つ経営者も少なくありません。
節税方法を知りたいのであれば、役員報酬に目を向けてみてください。

この記事では、役員報酬を用いた節税対策について解説します。経営者が税金の負担を減らす方法を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

役員報酬の基本


役員報酬を増やせば会社の利益が圧縮されるので、節税効果が期待できます。
しかし、絶対に節税できるとは断言できません。正しい節税方法を知るためにも、まずは役員報酬の基本をおさらいしましょう。

役員報酬とは?

役員報酬は、会社の重要なポジションに立つ役員に支払われる報酬です。
役員は、会社にとって重要な意思決定や経営を動かす人物で、該当するのは取締役・執行役・監査役・会計参与です。

会社が支払うお金としては、役員報酬のほかに従業員に支払う給与があります。
給与は会社と雇用契約を結んでいる従業員に支払われるお金なので、雇用契約のない役員に対しては報酬という形で支給されます。

また、役員報酬は節税につながる不正を防止するために、厳しいルールが設けられていることも特徴です。

  • 毎月定額で支払う
  • 会社設立後3カ月以内に役員報酬を決定する
  • 役員報酬の変更は事業年度開始から3カ月以内
  • 賞与の支給は税務署に事前確定届出給与を提出する

役員報酬の相場

役員報酬は、役員は自由に金額を決定できません。定款または株主総会の決議で決定されます。
しかし、定款が定められていない企業もあり、株主総会で決議されるケースが多くあります。

1.株主総会で役員報酬の総額を決める
2.取締役会で役員それぞれの内訳を決める

役員報酬を損金算入するためには議事録を作る必要がありますが、これは税務調査で確認される書類ため、保存しておくことが大切です。
国税庁による2020年「民間給与実態統計調査」から、役員報酬の相場は以下のとおりです。

資本金 男性 女性
2,000万円未満 667万円 375万円
2,000万円以上 972万円 493万円
5,000万円以上 1,177万円 634万円
1億円以上 1,397万円 635万円
10億円以上 1,502万円 608万円

女性役員の報酬が少ない要因としては、社長の妻として役員報酬を受け取っているケースがあるためだと考えられます。
役員報酬が高すぎてしまうと税務署から損金と認められない場合もあるので、注意してください。

役員報酬と各種税金の関係性


企業では、法人税・所得税・住民税といった様々な税金が課されます。
役員報酬の額によって負担する税金には違いが出るので、役員報酬と会社の税負担のバランスを考えた金額の設定が必要です。

役員報酬と法人税とのバランス

法人税は、税引前当期純利益×法人税率で算出されます。そのため、役員報酬が多いと法人税が少なく、役員報酬が少ないと法人税が多くなる仕組みです。
資本金1億円以下の普通法人に課せられる法人税の種類と税率は、以下のとおりです。

種類 標準税率
法人税 23.4%
地方法人税 4.4%
住民税 12.9%
事業税 9.59%

日本では法人税が高いといった声もあり、引下げのための政策が検討されています。

役員報酬と所得税・住民税とのバランス

役員報酬も所得になるので、支給されれば所得税を納税する必要があります。税率は、5%から45%の7段階に区分されています。

課税所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円以上330万円以下 10% 9万7,500円
330万円以上695万円以下 20% 42万7,500円
695万円以上900万円以下 23% 63万6,000円
900万円以上1,800万円以下 33% 153万6,000円
1,800万円以上4,000万円以下 40% 279万6,000円
4,000万円以上 45% 479万6,000円

役員報酬が低ければ所得税の負担額が減る仕組みです。

役員報酬と社会保険料とのバランス

所得税と同じように役員報酬の額が高いほど社会保険料の負担額がアップし、役員報酬を減らすことで社会保険料の負担が減ります。
また、保険料に関しては、標準報酬月額×保険料率で算出され、標準報酬月額は月額5万8,000円から139万円までの50段階に分けられています。

役員報酬は損金算入できれば税負担が軽減される!


税金の負担を減らしたい場合、役員報酬を損金算入する必要があります。しかし、役員の報酬は原則的に損金算入が認められていません。
一定の要件を満たせば算入も可能なので、負担を減らすためにもあらかじめ確認したい項目です。

損金算入とは?

損金算入とは、収入を得るためにかかった費用を損金として計上することを指します。基本的には、原価・費用・損失に関係する費用は損金算入が可能です。
原価は、製品を作るために必要な金額で、材料費・労務費・経費などが当てはまります。

費用は、事業をしていく上で発生した費用となり、販売費・一般管理費・そのほかの費用が対象です。
事務用品が当てはまるケースもあります。損失は、会社の資産価値が減少した際に計上され、売掛金の不良債権や自然災害による建物や商品の滅失、施工ミスが該当します。

ただし、費用に当てはまるものでも損金不算入になるものや、制限があるものも存在します。損金不算入の対象は以下のとおりです。

  • 法人税
  • 住民税
  • 延滞税
  • 加算税
  • 減価償却超過費など

制限されているものに関しては以下のとおりです。当てはまるものがあるか、あらかじめ確認してみてください。

  • 寄附金:(資本金等の額×当期の月数/12×2.5/1,000+寄附金支出前の所得額×2.5/100)×1/4
  • 交際費:飲食費ひとりあたり5,000円までであれば損金可能、5,000円以上の場合は50%損金可能
  • 評価損:基本的に損金不算入、災害が原因であれば算入可能
  • 貸倒損失:一定の条件を満たせば算入可能

損金算入が可能な3つの役員報酬

役員報酬は原則的に損金算入の対象ではありません。理由としては、経営者が金額を設定でき、税金を減らすために金額を変えるといった操作が行われることがあるためです。
しかし、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかで支給すれば損金算入が可能です。

1.定期同額給付

1カ月以内の一定期間ごとに支払う給与を、定期同額給付といいます。
定期的に支払われる点は従業員給与と同じですが、支給される額が事業年度内において同額でないと対象にはなりません。
インセンティブや残業代、ボーナスでの金額の変動は不可なので注意してください。

役員報酬は原則的に年に1回しか金額を変更できません。金額を変更したい場合には、決算後3カ月間と定めがあるので計画的に設定する必要があります。

2.事前確定届出給与

役員に対する臨時的な報酬を役員賞与といいますが、役員賞与は損金には算入できません。そのため、課税対象となります。
役員賞与が多くなれば法人税の負担が多くなってしまうので、節税効果を得るためにも事前確定届出給与を活用してみることも有益です。

事前確定届出給与とは、前もって税務署に届け出をして支払う給与のことです。
届出書に記載されている時期や記載されている金額と同じでなければ、損金とは認められません。届出書は、株主総会で作成した議事録により記載し、届け出る必要があります。

万が一届け出た内容と違う条件で支給が行われた場合には、その年度の事前確定届出給与がすべて損金不算入となるので注意してください。
毎年支払う場合には、事業年度ごとに必ず提出する必要があります。

3.業績連動給与

会社の業績に応じて支払われる報酬を業績連動給与といいます。前述した定期同額給付や事前確定届出給与とは違い、報酬の金額が確定していない点がポイントです。
そのため、会社の業績が好調であれば報酬額がアップする仕組みです。

業績が報酬額に影響を与えるので、役員の企業業績に対する意欲をアップさせることにつながります。
しかし、業績連動給与にするためには要件をクリアする必要があります。手続きが複雑になる点もあらかじめ理解しておくことが必要です。

役員報酬で節税するためのテクニック


節税する方法を模索しても、どうすれば良いのかわからないと思い悩む方もいるかもしれません。
節税するためには様々な方法があるので、いかに手取り額を増やせるか、下記の例を参考にして実践してみてください。

1.配偶者を役員に就任させる

役員報酬を節税するための方法として、最もポピュラーなやり方が配偶者を役員に就任させる方法です。
所得税には累進課税制度があるので所得が大きければ大きいほど税率がアップする仕組みです。
そのため、経営者ひとりに高い役員報酬を支払うよりも、配偶者と所得を分散したほうが所得税を抑えられます。

例えば、経営者の社長のみに1,500万円の報酬を支払った場合、税金や保険を合わせると554万円ほどを負担する必要があります。
しかし、夫か妻かのどちらかが役員で社長900万円、その配偶者へ600万円にすることで2人合わせて320万円ほどの負担です。
その結果、約233万円の節税効果が得られるので、大きな違いがあります。
結婚している場合は、配偶者を役員に就任させることを検討してみてください。

2.親族を役員に就任させる

子どもを役員に就任させることで、さらなる節税効果が得られます。
例えば、社長ひとりに2,000万円の報酬を支払うと、税金や保険料だけで751万円ほどの費用を支払わなければいけません。

しかし、仮に社長には1,100万円、配偶者と子ども2人に300万円ずつ報酬を支給した場合、負担が506万円ほどになります。
結果、約245万円もの節税効果が得られる仕組みです。親族であれば可能なので、子どもではなく兄弟や親戚も当てはまります。

3.役員報酬とは別に通勤手当を支給する

節税対策の中でも簡単な方法として、通勤手当があります。自宅から会社まで距離があるのであれば、電車・バス・新幹線といった交通機関を利用するのではないでしょうか。
それ以外にも、自家用車やバイクでの出勤も当てはまります。役員であっても、従業員と同様に通勤手当は支給できるので節税が可能です。
例えば、役員報酬50万円から通勤手当2万円分を引いた48万円に変更した場合、総支給額には変動がありませんが、所得税と住民税を減らせます。
公共交通機関や自家用車で通勤をしている場合は取り入れてみてください。

4.住居の契約を会社名義に変更する

節税対策として役員社宅制度を活用するのも、おすすめの方法です。
役員が住むマンションを会社名義に変更すれば、毎月発生する賃料相当額を役員報酬から差し引けるので節税できる仕組みです。

賃料相当額は、住宅の面積で算出されます。小規模であれば問題ありませんが、大きさによっては節税効果が得られないケースもあるので注意してください。

5.倒産防止共済(経営セーフティ共済)を利用する

経営難といった万が一の際に備える倒産防止共済は、年間240万円を上限として損金に算入可能です。
掛金は5,000円から20万円の範囲で自由に設定でき、総額800万円まで積み立てられます。
会社が倒産した際には、無担保・無保証で融資を受けられ、一時貸付金での借入れも可能です。

共済金の掛金と同じ額を報酬から減額するだけで、税金や保険料の負担額を減らせます。万が一に備えるためにも加入を検討してみることをおすすめします。

ただし、事業をスタートしてから1年未満は加入できません。そのほかにも加入資格があるので、あらかじめ公式ホームページからチェックしてみてください。

6.小規模企業共済を利用する

小規模企業を経営する役員や個人事業主のための退職金制度が、小規模企業共済です。年間84万円を上限に、掛金を所得控除にして節税する仕組みです。

月々の掛金は、1,000円から7万円までの間で自由に設定できます。加入した後にも増額や減額ができるので、業績に応じて変更が可能です。

共済金は、退職もしくは廃業時に受け取れます。掛金の範囲内で貸付制度も利用できる点が便利です。

役員報酬を設定する際に気をつけたいポイント


役員報酬を決める際に、注意すべきポイントがあります。以下3つのポイントに注意しながら、役員報酬をどれくらいに設定するのかを決めてみてください。

1.法人・個人における税負担のバランスを考慮する

前述したように、役員報酬では税負担のバランスに注意することが必要です。会社としての税金には法人税・法人事業税・法人住民税などがあります。
個人では所得税・住民税があり、それぞれのバランスを加味して決めなければ税負担が大きくなってしまいます。

役員報酬を増やせば法人としての税負担は減りますが、個人で納める所得税は負担が大きくなる仕組みです。
会社としての負担と個人としての負担のバランスを考慮して、報酬を決定してください。

2.急激な売上増加で税金が増える可能性も

売上げが急激に伸びると納税額が増えてしまいます。節税のために役員報酬を変更しようと考えても、年度途中では金額の変更はできません。

事業年度のスタートから3カ月以内のみ役員の報酬は決定できるので、不測の事態を避けるためにも正確な資金計画を立てる必要があります。

3.高く設定しすぎると経費として認められない可能性がある

報酬については、不相当に高額ではないかを形式基準・実質基準の2つから判断されます。役員報酬を高く設定しすぎれば損金算入できないことがあります。

算入できなければ税金の負担額が多くなってしまいかねません。節税効果が得られないだけではなく、さらに出費がかさむ原因にもなるので注意が必要です。

まとめ

何も対策をせずに役員報酬を決定すれば、税金負担が重くのしかかります。
報酬を決める際には各種税金とのバランスを考慮するだけではなく、配偶者や親族を役員に就任させるなどして節税してみましょう。

しかし、万が一損金算入ができなければ税負担が多くなり、生活に支障が出る恐れもあります。適正な水準で設定する必要があり、正しい知識を持つことが大切です。

創業手帳(冊子版)では、節税対策における有益な情報を多数掲載しています。役立つ情報を発信しているので、ぜひお役立てください。

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(編集:創業手帳編集部)

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