令和6年度(2024年度)税制改正大綱の要点10選|中小企業・個人事業主の観点で

創業手帳

赤字企業向けの控除繰越制度、損金算入できる交際費の上限が10,000円に上がることなどがポイント!


2023年12月14日、令和6年度税制改正大綱が自民党の総務会で了承されました。賃上げおよび国内投資の促進を重点として、赤字企業も含めて中小事業者にも好影響のある改正内容となっています。

今回はそんな令和6年度税制改正大綱の概要とポイントを、中小企業・個人事業主向けに解説します。翌年以降の賃上げや投資、事業展開などを考える上で参考にしてください。


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令和6年度税制改正大綱とは【概要】


令和6年度税制改正大綱は、前年までの流れを汲んで、賃上げ・投資促進のための減税措置(主に税額控除)を複数盛り込んだ内容となっています。賃上げ促進税制には5年間の繰越控除制度も新設され、赤字の中小企業も減税および支援の対象です。

こうした減税措置の背景にある目的は、デフレおよび「安いニッポン」から脱却。日本経済の成長、国際競争力の強化を見越して、デフレマインドの払拭を中小企業と地方まで浸透させようという狙いが見られます。その象徴が、損金に算入できる交際費の上限を1人あたり5,000円から10,000円に引き上げる措置です。

一方、税制の効果を高めるための「メリハリ付け」という言葉も、今回の税制改正大綱では強調されています。賃上げや成長に消極的な企業には、減税措置の不適用、令和7年度以降は法人税の引上げも検討するという「メリハリ」です。これを踏まえると、賃上げや投資を積極的に行い、意欲的に成長を目指すのが、中小企業に今後求められる姿勢だといえます。

適用されるのは令和6年(2024年)4月以降

令和6年度税制改正大綱の内容は、令和6年2月の審議、3月の決定を経て、同年4月に施行される予定です。そのため、後述する新しい税制等が実際に適用されるのは、それ以降となります。適用時期は制度ごとに異なる場合もあるため、詳細は政府や各庁からの発表でご確認ください。

なお、税制改正大綱の内容は、審議等の過程で変更や中止となる可能性もある点にも注意が必要です。

令和6年度税制改正大綱のポイント10点【中小企業者向け】


令和6年度税制改正大綱に記載された内容のうち、中小企業や個人事業主との関連が大きいのは主に以下の10点です。

1. 賃上げ促進税制で5年間の繰越控除が可能に

賃上げをした中小企業が法人税(個人事業主は所得税)の控除を受けられる賃上げ促進税制に、繰越控除制度が新設されます。具体的には、当期に控除できなかった税額控除の額を、5年間にわたって繰り越せるという内容です。

この改正により、現在は欠損法人(赤字企業)である事業者にも、賃上げのメリットが生まれます。赤字の当期に賃上げをし、税額控除の権利を得れば、翌期以降の黒字分を控除で相殺し、法人税の減税が可能です。

加えて、雇用環境の改善に向けて以下2つの改正も行われます。

  • 教育訓練費を増加させた場合の上乗せ要件の緩和
  • 子育てと仕事の両立支援、女性活躍の推進に取り組んだ企業に控除率を上乗せ

上記の改正により、中小企業向け賃上げ促進税制の最大控除率は、現行の40%から45%に上がります。

2.交際費の損金算入は5,000円→10,000円までに

地方の活性化や「安いニッポン」からの脱却を念頭に、交際費課税の見直しも行われます。損金不算入となる交際費等の範囲が、現行の1人あたり5,000円から10,000円に引き上げられるという改正です。

そのため、2024年以降、中小企業は、接待目的の飲食のスケールを2倍にすることが可能になります。中小企業の経済活動を活発にし、地方活性化につなげることが目されています。また飲食料費に対するデフレマインドを拭い去り、「安いニッポン」から脱却することも本改正の狙いです。

接待交際費の考え方については、以下の記事で詳しく解説していますのでお読みください。
接待交際費とは?新法で経費上限5千円→1万円に!気になる仕組みを解説

3. 複数回のM&Aで投資額を最大100%損金にできる

意欲ある中小企業が中堅企業へと成長するのを後押しすべく、令和6年度税制改正では中小企業事業再編投資損失準備金制度も拡充されます。

具体的には、中堅・中小企業が複数回M&Aを行う場合、準備金の積立率が現行の70%から最大100%に引き上げられるという内容です。中堅・中小企業がいくつかの中小企業を子会社にし、グループで成長することが想定されています。

中小企業事業再編投資損失準備金制度は、買手企業がM&A投資額の70%(※現行)を、買収後のリスクに備える準備金として積み立てられる制度。準備金は損金参入が可能です。つまり、上記の改正によって買手企業は、M&Aにかかる株式等の取得価額を最大で全額経費にできます

準備金の据置期間も10年に延長

上記の改正に加えて、複数回のM&A実施時には、積み立てた準備金の据置期間も現行の5年から10年まで延長されます

同準備金制度では、現行5年間の据置期間を経た後、準備金をさらに5年かけて均等に取り崩す(益金算入する)ことになっています。この据置期間が2倍の10年になるため、買手企業の安定した成長にとってメリットです。

4. 戦略分野国内生産促進税制の創設

GX、DX、経済安全保障という戦略分野における国内の長期投資を促進させる目的で、戦略分野国内生産促進税制が新設されます。下記の対象物資について、生産・販売量に応じて法人税額が控除されるという内容です。

  • 電気自動車等(蓄電池)
  • グリーンスチール
  • グリーンケミカル
  • SAF(持続可能な航空燃料)
  • 半導体

本税制の控除上限は、当期の法人税額の40%(半導体の場合は20%)です。企業が中長期的に投資を考えられるよう、措置期間は計画認定から10年間、税額控除の繰越期間は4年間(半導体では3年間)設けられます。

なお、本税制の適用を受けるには、賃上げ・設備投資に関する一定の要件を満たすことが必要です。

5. イノベーションボックス税制の創設

民間の無形資産投資を促し、研究開発拠点としての日本の国際競争力を強化すべく、イノベーションボックス税制も新設されます。国内で研究開発された特許権やAI分野のソフトウェアに関する著作権について、所得控除が認められます

イノベーションボックス税制で控除されるのは所得の30%です。これは法人税率を約7%ほど優遇することを意味し、法人実効税率は現行の29.74%から約20%まで引き下げられることになります。

一方、本税制と目的を一部同じくする既存の研究開発税制に関しては、試験研究費が減少した時の控除率引下げが導入されます。研究開発投資を効果的に増加させるためのインセンティブないしメリハリ付けを意識した措置です。

6. プラットフォーム課税の導入

デジタルサービス市場において、国外事業者から適正に消費税を徴収するため、諸外国が採用しているプラットフォーム課税が日本でも導入されます。プラットフォーム課税とは、国外事業者から個別に消費税を徴収する代わりに、プラットフォーム事業者に納税義務を課す制度です。

例えば、スマートフォンアプリの市場では、アプリを提供する各企業ではなく、GoogleやAppleといったアプリストアが納税義務を負うようになります。これにより、海外の事業者が故意に納税を回避するという事態が是正されます。

プラットフォーム課税によって納税を適正化することは、国内外における事業者間の競争を公平にするのに有効です。納税負担の条件が同じになることで、日本国内のIT企業が競争力を高められる可能性も大いにあります。

7. 事業承継税制の特例措置を2年延長

長期化したコロナの影響を踏まえ、法人版事業承継税制における特例承継計画の提出期限が2年延長され、令和8年(2026年)3月末までとなります

事業承継税制における特例措置は、中小企業の事業承継にかかる株式等の贈与または相続について、贈与税・相続税を猶予ないし免除する制度。世代交代の円滑化による中小企業の生産性向上、その結果としての日本経済の基盤強化を狙って設けられている税制です。

注意点として、この特例措置の適用期限(令和9年12月末まで)については延長されません。事業承継を予定している事業者には、なるべくすみやかに贈与または相続の手続きを進めることをおすすめします。

8. 「法人税率の引上げ」を検討する旨が明記

(前略)
賃上げや投資に消極的な企業に大胆な改革を促し、減税措置の実効性を高める観点からも、レベニュー・ニュートラルの観点からも、今後、法人税率の引上げも視野に入れた検討が必要である

出典:自由民主党, 公明党. (4)税制措置の実効性を高める「メリハリ付け」. 令和6年度税制改正大綱, p.12

上記の通り、令和6年度税制改正大綱には、将来(令和7年度以降)「法人税率の引上げ」を検討する旨が明記されました。令和6年度中の法人増税は見送られた形です。

なお、今回の大綱における法人税率の引上げは、あくまで税制措置の効果を高めるためのメリハリ付けの一環。成長意欲のある中小企業の税負担を増やそうとするものではありません。賃上げ・投資に積極的な企業には、引き続き減税措置が適用される予定です。

一方、十分な余力があるにもかかわらず賃上げ・投資に消極的な企業には、法人税率の引上げが検討されています。賃上げ・投資の動機付けをすること、減税措置の原資を確保すること(レベニューニュートラル※)などが目的です。実際、自民党税制調査会の宮沢会長も「未来への投資をする企業にしっかり減税をする。その原資は投資をしない企業に法人税として払っていただく」べきだと発言しています。

※レベニューニュートラル:減税によって減収するが、他方増税によって増収することで結果的に税収が変化しないこと。「増減税同額」ともいう。

9. 個人事業主の記帳水準向上のための制度変更を検討

​​個人事業主の約7割が簡易簿記で記帳している現状を踏まえ、同事業者の記帳水準を向上させるための取り組みも検討されます。具体的には、正規の複式簿記を普及させるため、青色申告制度の見直しを含めた対応が考えられる予定です。

複式簿記を用いた申告が簡易化される可能性があるので、それを機に青色申告へと移行するのもよいでしょう。特別控除が受けられたり、融資や給付金を迅速に得やすくなったりと、記帳水準を向上させることには一定のメリットがあります。

複式簿記の詳細については、下記の記事で詳しく紹介しています。こちらもぜひご覧ください。

複式簿記とは?単式簿記との違いからメリット・デメリットまで解説

10. スタートアップ・エコシステム強化のための措置を追加

スタートアップ・エコシステムの抜本的強化を目的とした税制措置は、令和5年度税制改正から複数始まっていますが、令和6年度ではさらに追加の措置が講じられます。

スタートアップ・エコシステムとは、日本国内で優秀なスタートアップが自然に次々と生まれるような仕組みづくりのこと。オープンイノベーションやエンジェル投資、M&Aなどを促進し、スタートアップの入口・事業展開・出口を支援する税制措置が取られています。

令和6年度には、そうしたスタートアップ・エコシステムに関して、以下のような措置が追加される予定です。

  • ストックオプション税制における保管委託要件に、スタートアップ自身が管理する方法を追加
  • ストックオプション税制における年間の権利行使上限価額を3,600万円(現行の最大3倍)まで引上げ
  • オープンイノベーション促進税制は現在の形を変えずに適用期限を2年延長(令和6年度税制改正に限定した特例的対応)
  • 親法人のスピンオフを適格株式分配にする制度について、認定計画の公表時期および認定要件を見直し、その上で適用期限を4年延長
  • 発行者以外の第三者が継続的に保有する暗号資産は、所定の要件で期末時価評価課税の対象外とする

なお、スタートアップについては、下記の記事で詳しく解説しています。こちらもぜひご覧ください。

スタートアップ育成5か年計画とは?概要やポイント、起業家のメリットなどを解説

スタートアップの出口戦略(イグジット)とは?種類ごとのメリット・デメリットを紹介

まとめ

令和6年度税制改正大綱の中で、とくに中小企業との関連が大きいのは、賃上げ促進税制に盛り込まれた5年間の控除繰越制度です。加えて、損金に算入できる交際費の上限が1人あたり1万円に引上げられることも、大きなポイントといえます。

今後日本の税制において、優遇されるのは賃上げ・投資に積極的で、成長意欲の高い企業です。そのため、中小企業や個人事業主においても、賃上げ・投資・成長の3点を意識し、事業経営を考えるのがよいでしょう。

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大久保写真創業手帳・代表 大久保の解説

創業手帳の代表の大久保です。

経産省の取材などを通じて政府のスタートアップ政策を長年追ってきましたが、今回の改正で感じるのは一貫してスタートアップの育成、M&A事業承継、デジタル化、賃上げを促進しようという政府の意思です。

プラットフォーム課税はただでさえ規模で勝るGAFAMなど世界のIT大手に対して、日本のIT企業が不利な立場に置かれがちだったので、対等な競争環境になったのは前進と言えます。

身近なところでは交際費損金が1万円に引き上がったことから、地味に飲食店の活性化などに効く可能性があり、今後の効果に期待したいところです。

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(編集:創業手帳編集部)

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