トリセツのトリセツ  情報親方® 東野 誠|トリセツのトリセツ!マニュアルづくりの流れとポイント

創業手帳

マニュアルの「設計」「作り方」「更新」のコツを解説

今年で10期目を迎えるトリセツのトリセツ株式会社は、製品やサービスの取扱説明書(トリセツ)制作やコンサルティングサポートを行う企業です。

同社の代表は、約25年にわたってものづくりや教育、ITなど幅広いジャンルの取り扱い説明書を作ってきた東野 誠さんです。東野さんは、一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会が主催するマニュアルのアワードで審査員もされていました。

今回は、東野さんに、マニュアル(トリセツ)づくりの流れやポイントについて解説いただきました。

東野誠(ひがしの まこと)
トリセツのトリセツ 株式会社 代表取締役
情報親方®
1975年大阪府生まれ。1998年大阪府立大学工学部機能物質科学科(無機化学)卒。同年からものづくりやIT、教育分野などあらゆる業界で200冊以上の取扱説明書を制作。武蔵野美術大学で視覚伝達デザインを学び、伝わるマニュアルについて研鑽を深める。
2002年日本マニュアルコンテスト部門優良賞(家庭電器製品第二部門)受賞。他、ビジネスモデル、アプリ、デザインについてアワード受賞複数。
2015年「トリセツで、人の心をつなぎます」の基本理念のもと、製品やサービスの使い方マニュアルなどのドキュメント制作、制作コンサルティングを行う。トリセツのトリセツ株式会社 代表取締役。株式会社プレゼン製作所 co-founder。(一財)テクニカルコミュニケーター協会 法人準会員。ジャパンマニュアルアワード実行委員。

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トリセツ(取扱説明書)は、製品やサービスアプリの取り扱い方法をまとめたもの


一言に「マニュアル」と言っても、社内の業務マニュアルから店舗などの運営マニュアルまで、さまざまなものがありますよね。その中でもトリセツは、製品やサービスアプリの取り扱い方法をまとめたものになります。

実はこのトリセツ、本当はユーザーが心地よく使えるように設計されたコンテンツだとご存じでしたか?つまりトリセツは、メーカーや発行元にとってはユーザーとのコミュニケーションツールの1つでありながら、製品の一部なんですね。

そのため、品質によってファンが増えることもあれば、誤操作につながったりすることがあれば訴訟にも繋がる恐れもあります。そこで今回は、そんな「トリセツ(マニュアル)」の作り方に焦点をあてて解説をします。

トリセツは製品の一部


実はマニュアルにも、生まれてから死ぬまでのライフサイクルがあります。例えば製品のマニュアルであれば、製品が出荷されるまでの間に企画、設計、製作され、製品とともにユーザーの手元に届きます。そして、ユーザーが商品を使ったら廃棄されるようになります。しかしそこで終わりではなく、フィードバックされたユーザーの声を元に改善した「改版」が生まれています。

その改版まで含めて、マニュアルのライフサイクルです。つまり、ブラッシュアップを繰り返すのが前提なので、最初から「完成」を目指さなくてもOKなんです。

そして、マニュアルづくりをスタートするときには「5W2H」を意識するとわかりやすくなります。その中でも、管理に必要な「What(何を作るのか)」、品質向上に影響を与える「How(どのように作るのか)」は特に重要です。

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マニュアルの品質は「設計」で決まる


マニュアルづくりには、企画、設計、制作、データ化(DTPなど)、メディア化という流れがあります。それぞれを弁当作りに例えると、弁当箱に何を入れるのか、どんなふうに食材を入れるのかを考えるのが企画・設計。そして実際にごはんやおかずを作るのが制作、綺麗に盛り付けるのがデータ化、最後に弁当箱をパッケージにまとめるのがメディア化です。

この流れの中で、マニュアルの品質が決まるのは「企画の後半から制作の途中」まで。主に設計の部分になります。ですのでここからは、「設計」を中心にお話します。

マニュアルの「設計」とは?


マニュアルの設計で行うのは、スケジュールを立てて定期的に管理をしたり、構成や台割を作ったり、きちんとした文章にするための執筆ルールを作ったりという作業です。台割という言葉は聞きなれないかもしれませんが、「何をどの階層、ストーリーで表現するのか」という「構成」を指します。台割の管理には、そのままリスト化やタスク化ができる「課題管理ツール」を使うと便利ですね。

目次構成で大事なこと


この台割は、最終的には「目次構成」になります。目次構成で押えたい大事なポイントは3つです。
1つ目は、家を建てる際の「骨組み」になるよう意識すること。
2つ目は、ユーザーが「全体」と「自分の位置」を把握できるものにすること。
3つ目は、ユーザーがしたいことを最短でできる方法を提示しながら、深い階層になる項目は、「実はこういうこともできるんですよ」という選択肢のように見せることです。

続いて目次構成の例です。例えば家電の取扱説明書を見ると、目次項目の要素は大きく4つに分けられます。

1つ目はメーカーが管理するために掲載しているもの。
2つ目はユーザーが初めて家電を触るときに使うもの。
3つ目はユーザーが一通り家電を触った後、さらに活用したいとき使うもの。
最後は廃棄の仕方など「もしも」のときに使うものです。

最近は「マニュアルを動画にした方がいいですか」という質問もいただくそうです。紙か動画かの境目は、実際に使われる場で求められる形をイメージするとわかりやすいと思います。

制作進行は「コンセプト」から


制作進行では、最初に「どういうマニュアルを作るか」というコンセプトを決めなければなりません。「こんなマニュアルがほしい」とイメージしてから、作り方や進め方を決める流れになります。

制作で時間がかかるのは、文をつくるところ。ここをスムーズに進めるためには、執筆ルールを決めることが重要ですね。
例えば、文字サイズやフォント、ですます調で書くのか、である調で書くのかといった文体や、操作の末尾は丸を打つのか打たないのか、といった部分です。
構成単位の大きいものから「大タイトル」「中タイトル」「小タイトル」を決めることも多いですが、それぞれの文字数や、送りの設定を決めておくだけで、見やすくもなりますね。

ターゲットユーザーに目線をあわせる


わかりやすいマニュアルをつくるコツは、ターゲットユーザーに目線をあわせることです。

ユーザーに目線をあわせるためには、まず「新人のころ何に困ったか」を思い出してみてください。一番困ったのは、それまでなじみのなかった業界用語ではないでしょうか。用語を覚えて、次に業務全体の流れを学び、その後ようやく細かい業務が頭に入るようになりましたよね。ベテランは「トラブル対応」「日常業務」など、新人にやってほしい業務から教えようとしがちですが、「用語」や「業務の体系」がわからないと新人も覚えられません。

マニュアルも同じです。制作する側が伝えたい順ではなく、ユーザー側が「理解しやすい順番」に置き換えることで、わかりやすいものが出来上がります。

さらに、ノイズを極限までそぎ落とすことも大切です。伝えたいことを書けるだけ書くのではなく、「本当に必要なこと」を先に書き、あとは参考程度におさめるのがわかりやすいマニュアルづくりのポイントです。

マニュアルの工程管理


マニュアルの工程管理では、スケジュールと工程の可視化をします。実は、最終的に目次構成となる台割は、スケジュールと密接に関係をしています。ですから「データ確認・差分比較はこの期間でやります」と工程の可視化をすることが、見やすい台割にも繋がるんです。

工程管理の秘訣は、毎日5分でも進行具合を確認することと、「自分がマニュアルづくりの担当者だと自信を持つ」ことですね。

マニュアルづくりに欠かせないツール

台割の管理の部分で、「課題管理ツール」について少しお話しました。
課題管理ツールにはいろいろありますが、具体的にはbacklogやAsana、Trello、Teamsなどが挙げられます。自分に合うものを見つけるためには、お試し期間を活用して実際に触ってみるのがいいと思います。
その他、課題管理ツールの型にはまらないことを書きたいときにはホワイトボードツールが便利です。私が個人的に一番使ってるのは「miro」ですね。

また、制作で使うツールは、WordやPowerPointが多いと思います。ちなみにExcelは制作には不向きです。表や図を正しく書くには良いのですが、マニュアル向けに最終の判型に合わせたり、コンテンツの管理が難しいからです。一斉に作業をしにくい点も、制作で使いにくい理由の1つですね。だから私が制作の際に一番使うのはPowerPointです。

さらに凝ったり精度を高めたりしたいときには、Adobe IllustratorやInDesignもおすすめです。それらはプロ向けのツールだと思われている方もいるかもしれませんが、触ってみると意外に難しくないので、ぜひ試してみてください。

制作(かく)ときのポイント

制作(かく)段階で、伝わりやすいものにするポイントは「テクニカルライティング」を活用することです。

テクニカルライティングにはいろいろなルールが存在します。その1つが「用語統一」です。例えば「モニター」を指す用語は、モニターの他にも、モニタ、ディスプレイ、ディスプレー、CRTなどがありますよね。これを統一して、完成品をすっきりさせるのが「用語統一」になります。

さらに制作では、文章だけでなく「手順や操作をかく」ことも該当しますよね。実はその書き方には、さまざまな型があります。
例えば、手順の中でも「操作と結果」は紐づけるとわかりやすくなります。紐づける方法には、「組み」で書いたり、番号をつけたり、イラストを生かすなどがありますね。

チェックは要素別に実施


1回かいた文章は、どこかの段階でチェックをしなければなりません。よくあるチェック法に「前から順番にチェックをする」というものがあります。しかし、この方法では前のページは精度が上がるものの、後ろの方の精度が落ちがちです。回数を重ねてチェックしても精度が上がりにくく、抜け漏れが発生しやすくなります。

そこで、文体はどうか、色はどうかといった要素別のチェックを実施してみてください。要素別のチェックを何回か繰り返すと、精度も上がります。

マニュアル更新のタイミング


そしてマニュアルが完成した後も、定期的に更新していく必要があります。コンテンツ更新では、保管する場所やフォルダ、担当者などを決めておくことがスムーズに進めるポイントです。

ただ、更新自体は、変更があるたびにしなくても問題ありません。例えば1ヶ月に1回でも半年に1回でも、重要な変更がでてきたらでもいいんです。頻度よりも、改訂までに管理ツールを活用して、更新したい箇所のコメントをためたり共有したりしておく方が重要です。

マニュアルづくりでの生成AIの使い方


最後に最近の流れを補足します。ChatGPTなどの生成AIも増えてきましたが、まだ丸ごと任せることができる段階ではありません。
ただそれぞれの工程で部分的に活用することはできます。例えば要件定義をするとき、「このマニュアルにはどういうコンテンツを載せればいいか」というChatGPTに質問を投げて、その答えを参考にするといった活用ですね。
ぜひ様々なツールを、マニュアルづくりに活用してみてください。

質疑応答

Q:マニュアル更新が継続できるコツはありますか?

A:課題管理ツールを活用するというポイントはお伝えしました。
ただ改訂の時期を通知されても、実施できるかできないかは人によりますよね。
きちんとリーダーシップが取れる人を担当にして強制的に実施するか、みんなで解決する方法を模索するか、どのようなやり方を取るかは組織次第です。

Q:業務マニュアルを作成する際、どんな意見を採用すればいいのか、どの時点で完成にすればいいのか悩んでいます。

A:例えば、1つの業務でも「絶対しないといけないこと」ってありますよね。それをまず洗い出します。その業務とそれに対しての意見は採用すべきです。
その他の業務や意見については、マストな業務に比べての重要度順に分類をしていき、その順番に採用するかを決めていきます。
マニュアルはこれで完成と決めずに、常日頃更新していくものと考えていきましょう。

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(監修: トリセツのトリセツ株式会社 情報親方® 東野 誠(ひがしの まこと)
(編集: 創業手帳編集部)

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