「ものづくりベンチャーはDXで飛躍する」プロ経営者「サウンドファン」山地氏の視座

創業手帳

難聴者でもテレビの音が聴き取れる「ミライスピーカー」を販売する「サウンドファン」山地氏にインタビュー


「ものづくりベンチャーを起業したい」という方や、「現在進行形でものづくりベンチャーを経営しているけれども、販路拡大に苦戦している」という方も少なくないのではないでしょうか。

TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブグループのツタヤ・ディスカス株式会社や、株式会社ツタヤオンラインで代表取締役を歴任した山地浩氏は、2018年10月に二代目社長として株式会社サウンドファンの代表取締役社長に就任。2013年の創業以来赤字経営が続いていたサウンドファンの経営を立て直し、来期には売上高25億円を見据えるような優良ものづくりベンチャーに変貌させました。

経営者として実績豊富な山地氏に、サウンドファン立て直しの過程やものづくりベンチャー発展の秘訣などについて、創業手帳の大久保が聞きました。

山地 浩(やまじ ひろし)株式会社サウンドファン 代表取締役社長
株式会社レントラックジャパン取締役、株式会社ツタヤ・ディスカス代表取締役社長、株式会社ツタヤオンライン代表取締役社長を歴任。2018年10月株式会社サウンドファン代表取締役社長就任。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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難聴者でも聴き取れる「ミライスピーカー」

大久保:本日はよろしくお願いします。まずはサウンドファンが企画・販売している「ミライスピーカー」の製品についてご紹介いただければと思います。

山地:よろしくお願いします。「ミライスピーカー」は「曲面サウンド」という技術を使い、高齢者など耳の遠い方でも聴き取りやすいスピーカーです。創業者の佐藤和則が、耳が遠くなった父親をなんとかしてあげたいと考えたところから「ミライスピーカー」の開発が始まりました。佐藤が知人の大学教授から「耳の遠い高齢者の方でも蓄音機の音は聴きやすい」ということを聞き、それをヒントに開発したところ、「ミライスピーカー」ができました。

従来のスピーカーは、「コーン」と呼ばれる円すい形の振動板から音を発していることに対し、ミライスピーカーは「弧を描くように湾曲させた平板」から音を発生させます。この音が特許技術の「曲面サウンド」です。
曲面サウンド

「曲面サウンド」は距離減衰が少なく、広く遠くまで明瞭度の高い音声、特に言葉を届けることができます。じつは「曲面サウンド」がなぜ聴こえやすいのか、という原理についてはまだ解明できていません。これまでは千葉大学、早稲田大学、東京都立大学などと共同研究を行ってきました。

「なぜ難聴者に聴こえやすいのか」という原理はわかっていないものの、弊社が開催している試聴会や、実際に使っていただいている多くの方から、「ミライスピーカーの音のほうが聴こえやすい」という感想をいただいています。

例えば、ご高齢で大好きだったテレビの音が聴こえないということで、すっかり元気をなくしてしまっていたお母様を心配して、娘さんがこの「ミライスピーカー」の存在を知り購入されお母様に使っていただいたところ、「テレビの音が聴こえるようになった」ということで非常に喜ばれているそうです。大好きだったテレビが楽しめるようになり、「最近では母の目に輝きが戻り、表情も明るくなった」、とお礼のお手紙をいただきました。家庭にも明るい空気が戻ったということです。

大久保:すごいですね。音が聴こえるようになると元気になる。社会貢献性の高い事業ですね。

山地:はい、そう思っています。そこで我々はビジョンとして「サウンドドリブン人間活性業」ということを謳っています。

大久保:なるほど、「人間活性業」というのはまさに「ミライスピーカー」を開発するサウンドファンに相応しい言葉です。

山地:他にも「ミライスピーカー」を導入いただいている高齢者施設の事例があります。この高齢者施設では、懇談会を開催する際に「ミライスピーカー」を設置されるようになりました。すると、今までは懇談会で話されている内容がわからなかった高齢者の方でも、内容がわかるようになり、質問なども増えたそうです。内容がわかるということで、懇談会に出席される高齢者の方も増えた、ということでした。

大久保:確かに、個人だけでなく施設に導入しても良さそうですね。

山地:はい。多くの高齢者施設でご利用いただいています。

難聴者が増えている背景

大久保:高齢化で難聴者はこれからも増えていくのでしょうか。

山地:おっしゃる通りです。日本の難聴者数は1,400万人です。難聴までいかないけれどテレビの音が聴こえづらいという人がいる世帯数は、2,800万世帯以上と見積もっています。

大久保:ものすごい数ですね。

山地:ご指摘の通り、高齢化で難聴者が増えています。また、最近では若い方のなかでも難聴者が増えているんです。

大久保:それはなぜでしょうか。

山地:多くの方がスマホを使うようになり、スマホで音楽を聴く際などに大音量で聴く方も増えました。その結果として、若い方々であっても難聴の症状が出てしまう方も増えてきているということです。

大久保:なるほど。これからもそうした経緯で難聴者になる方は増えていきそうです。

山地:世界の難聴者数は5億人で、2050年までにはさらに倍増するとも言われています。現時点で65歳以上の方の三分の一が難聴者だそうです。

大久保:大きな社会課題ですね。

山地:はい。高齢で耳が遠くなると具体的に直面する困難としては、大きくは三つあるかと思います。一つ目は、周囲とのコミュニケーションが困難ということです。二つ目は、災害時の緊急連絡が不安であるということ。三つ目は、難聴になることで、認知症にもなりやすくなるという研究結果も出ています。

先ほども申し上げましたが、テレビの音が聴こえなくなるというのも非常に大きな課題です。テレビの音が聴こえないので、テレビの音量を大音量にしてテレビを視聴している高齢者も多いですよね。高齢者の方は息子さんや娘さんと同居されている場合も多く、そうした場合、テレビの音量が大きすぎて普通の会話ができないといった問題に直面している家庭も多いです。

大久保:確かに、耳が遠い高齢の方がいらっしゃる家庭でのテレビの音量問題は非常に大きい課題です。

山地:はい。ただ、日本における補聴器所有率は約14%と意外に低いです。

大久保:そうですね。割合が低いのはなぜでしょうか。

山地:補聴器ユーザーの方によると、つけるとすべての音が大きく聴こえてしまうことがあるようです。例えば、外出しているときに工事現場の音が爆音で聴こえてしまったり、仕事をしているときにキーボードを叩く音が爆音で聴こえたりと、聴きたくない音まで大きく聴こえてしまうことがあるんですね。それが嫌で補聴器をつけない方も多い、ということです。

大久保:なるほど。あらゆる音が聴こえてしまうと確かに大変ですね。

山地:はい。補聴器をつけている方であっても、「家にいるときくらいは補聴器をはずしていたい」という方も多いです。

二代目社長として会社を立て直した過程

2代目社長として会社を立て直す過程
大久保:サウンドファンを創業されたのは佐藤さんということですが、2018年に山地さんが経営を引き継がれました。

山地:そうです。経営チームも新しいメンバーとなりました。

大久保:事業を引き継ぐ際に、「今日からはこのやり方でやっていこう」ということで引き継がれたと思うんですが、実際にはどのようなプロセスで会社を引き継がれたのでしょうか。「事業承継は大変だ」という話は知人の経営者などからよく聞いています。

山地:「今日からはこのやり方でやっていこう」とは一度も言っていないのですが(笑)、売上が頭打ちになり、低迷期がずっと続いていた会社だったので、「何を変えなければいけないのか」という議論から始めて、その流れで「こうしよう」、「ああしよう」と提案・実行しつつ引き継いでいきました。

大久保:なるほど。

山地:私が社長になった当時のサウンドファンは、B to Bの営業ばかりしていました。営業マンがいっぱいいて、営業代理店もたくさんあって。「汗をかいて足を使ってなんぼ」という売り方をしていた。しかし、そのスタイルでやり続けて3年近く低迷の日々が続いていたこともあり、「何かをドラスティックに変えないと、結果も変わらない」と考えました。

そこで「おそらくこのミライスピーカーは、to Bよりもto Cのほうが売れるのではないか」という仮説を立てました。

というのも、先ほども申し上げたのですが、テレビの大音量問題に悩んでいる家庭は多く、そのような家庭は切実に困っているだろう、と考えたからです。テレビの大音量問題を解決するための策として、消費者にミライスピーカーを売っていけばいいのではないか、と考えたのです。

大久保:確かに、「テレビの大音量問題を解決する」、という訴求の仕方はユーザーも価値を感じやすいと思います。

山地:他にもピボットを後押しするような背景がありました。2018年にテレビ番組『ガイアの夜明け』でミライスピーカーの特集が組まれたことがありました。この時点ではまだ消費者向けの商品は開発されておらず、to B向けに作られた高価格帯の商品の紹介でした。しかし『ガイアの夜明け』放送後に「もっと小さいものを作ってほしい」、「もっと安かったら買いたい」といった視聴者の声が多数寄せられました。それも、「消費者向けのミライスピーカーを作ったらイケる」と考えた根拠の一つですね。

大久保:元々データマーケティングやソフトウェアに強いカルチュア・コンビニエンス・クラブグループから、まったく違う分野のハードウェアを作るサウンドファンに移籍してきて、以前の経験が生きたことはありましたか。

山地:申し上げました通り、B to BからB to Cにピボットした際に、販売を全部インターネットでやることになりました。Webマーケティングをやる際には当然データを見てやりますから、そこでデータマーケティングの経験が生きました。

大久保:ピボットによって経営の立て直しも軌道に乗った、ということですかね。

山地:そうです。B to BからB to Cにピボットし、販売を手売りの営業からすべてWebマーケティングに切り替えたことで、売上も伸びていきました。

より具体的にご説明します。2020年5月に消費者向けの商品である「ミライスピーカーホーム」を販売開始したところ、販売初月からなんと300台以上も売り上げました。そして約1年後の2021年6月には、3,000台以上をも売り上げる大ヒット商品となったのです。また、2020年7月21日時点の「Amazonほしい物ランキング」でオーディオスピーカー部門約2万点中第5位にもなりました。

大久保:「Amazonほしい物ランキング」で5位はすごいですね。驚きました。

山地:消費者に望まれていたということですね。ピボットは大成功でした。

大久保:元々、「消費者向け」、「Webマーケティング」という方向性に舵を切っていく方向性は見えていたのかもしれませんが、山地さんが社長になったタイミングで新しい経営チームができたことも、ピボットがしやすかった要因かもしれませんね。

山地:そうかもしれません。

リモートワークが年代間ギャップをなくす

大久保:サウンドファンは若い社員の方と経験豊富なミドル社員の方との混成チームで年齢分布が非常に珍しい形のベンチャー企業だと思います。仕事をする中でジェネレーションギャップを感じることもあるのではないでしょうか。

山地:今まではそう思うこともありました。しかしコロナ禍でリモートワーク化が進んだことによって、「仕事に年齢は関係ないな」と思うようになりました。

大久保:それは意外ですね。

山地:若手社員は、威厳のあるミドル社員・シニア社員に気を使う必要がなくなり、非常にやりやすくなったのではないかと思います。また、インターネット関連の仕事は若手社員やインターンの大学生のほうがよくできるので、実力という面でも若い方は頼もしいです。

大久保:確かにインターネット関連はそうかもしれませんね。

山地:ミドル社員・シニア社員のほうも、無駄に若手社員に気を使う必要がなくなって、「ウザがられる」ことがなくなって良かったのではないかと(笑)。私自身は仕事のリモートワーク化が進んだことによって、非常に快適に仕事ができるようになりました。

大久保:確かに、若手に「ウザがられる」のはありますね(笑)。

山地:逆にミドル社員やシニア社員も、実力だけで見られるようになるので、人によっては市場価値が上がるのかもしれません。より実力主義の社会になっていくのだと思います。実力がある方であれば、ビジネスパーソンとしての寿命が伸びていく可能性もありそうです。

ものづくりベンチャーはDXで飛躍する

ものづくりベンチャーはDXで飛躍する

大久保:山地さんはソフトウェア業界の出身で、ハードウェアベンチャーを立て直されました。経営に苦しんでいるものづくり業界のベンチャー企業も少なくありませんが、そういった企業に対して何かアドバイスはありますでしょうか。

山地:良い技術を持っていても、売上を上げられていないものづくりベンチャーも多いかと思います。当然最初は量産できないので、製造費が高くなり、製品価格も高くなります。そのような状況下に置かれたものづくり企業は「価格が高いため消費者には売れない。だから最初は法人向けに売っていこう」と考えがちです。消極的な理由で法人向けの営業を始めるんですね。しかし今の時代は、手売りで売れる時代でもなく、なかなか商品が売れなくて苦しむ。これが経営に苦しむものづくりベンチャーの典型的なパターンなのではないでしょうか。

そういったものづくりベンチャーは、まずインターネットで販売する可能性を考えてみるといいかと思います。消費者向け製品を作ることを考えるのもいいでしょう。サウンドファンはこの二つの方向性でピボットを実行したことによって経営改善できましたが、他のベンチャーも同じ方向性で立て直すことができるかもしれません。

大久保:確かに、技術資本の会社は販売戦略の変更が経営改善のポイントになるかもしれませんね。

山地:実際に法人営業からインターネット販売に切り替えるとなると、代理店任せではなかなか上手くいかないと思います。

社内にWebマーケティングのことをわかる人材が必要です。そのような人材を社内に入れて、Webマーケティングの仕組みを組み立てていけば、経営改善できる会社も多いのではないかと最近は考えています。

大久保:なるほど。DX(※)のための人材が必要になると。

山地:ソフトウェア会社からハードウェア会社に転職するという事例はまだそこまで聞かないですが、これからそのような人材交流の形が普及していけば、日本のものづくりベンチャーもより盛り上がっていくのではないかと思います。

大久保:Webで販売することを始めるだけで、いきなり売上が拡大するようなものづくり企業も多いかもしれませんね。

山地:そう思います。まずは気軽に始めてみればいいのではないでしょうか。

(※)DXとは…デジタルトランスフォーメーションの略称。デジタル技術を用いてビジネスを変革することを意味する。Webマーケティングを用いて販売網を拡大する以外にも、さまざまな方法がある。

ユーザー100万人を目指す

ユーザー100万人を目指す
大久保:サウンドファンの今後のビジョンをお聞かせください。

山地これから5年でユーザー100万人を持つ「No.1のテレビ聴こえ問題ソリューションプロバイダー」として認知されることを目指します。

大久保:今時点で2万台程度を販売されているということですが、まだ認知度が低いので、100万台も難しくなさそうです。

山地:はい。おっしゃる通り認知度が低いので、これからは積極的にテレビCMを打っていくことで認知拡大を目指します。

65歳以上人口は日本で3,500万人以上いて、多かれ少なかれ皆耳が遠くなるものですよね。うち150万人は毎年入れ替わるマーケットです。また、40代・50代でも聴こえにお困りの方は増えているので、マーケット規模は非常に大きいです。

それを考えれば、100万台という目標は現実的に目指せる数字だと思います。

大久保:なるほど。

山地これからの成長の柱として、「海外」と「B to B」という二つの柱を掲げています。現在は、海外向けに「ミライスピーカー・ホーム」の販売を計画している最中です。また、B to Bのほうは、既存の製品に組み込んでもらう方向で販売していこう、と考えています。

大久保:海外にはどのように販売していく予定ですか。

山地:まずはAmazonで販売を開始しようと考えています。倉庫もAmazonのものを使います。

大久保:海外販売もECで気軽に始められる時代になったということですね。

山地:そうです。

大久保:研究開発も進めていくのでしょうか。

山地:はい。さらに聴こえやすくなるように引き続き「曲面サウンド」を改善していきます。小型化、防水化なども追求し、顧客により喜んでいただける商品開発をしていきます。

それとは別に、「なぜ曲面サウンドのほうが聴こえやすいのか」という方向性での研究も続けます。

大久保:本日は経営者としての経験が豊富な山地さんに、他のものづくりベンチャーの経営者の方々にも役立つような貴重なお話を伺いました。これからのサウンドファン、「ミライスピーカー」の普及にも期待です。山地さん、本当にありがとうございました。

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(取材協力: 株式会社サウンドファン 代表取締役社長 山地浩
(編集: 創業手帳編集部)

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